SONY APM-66ES
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥59,800
1985年に,ソニーが発売した3ウェイスピーカーシステム。
APM-8から始まったソニー独自の
平面形ユニットAPMの歩みの中で生まれた1台で,当時各社が強力な3ウェイシステムを投入し
て激しい競争を演じた598戦争のまっただ中に存在した個性派スピーカーでした。おそらく当時
の598モデルとしては最もコストがかかっていたと言われていたのがこのAPM-66ESでした。
APM-66ESの最大の特徴は,そ の名の通り,APMユニットの搭載にありました。APM(Accurate
Pistonic Motion)ユニットはその名の通りソニーが正確な振動をする振動板を目指して開発した
平面形ユニットで,四角い個性的な外観から想像されるとおり独創的な構造で高性能を誇るユニット
でした。
このAPMユニットは,特定の周波数で振動板の各部が一様な振動をしなくなる現象・「分割振動」の
追放を徹底的に追及したものでした。分割振動をなくすためにAPMユニットでは,軽量で高剛性ハニ
カム構造の平面振動板を採用していました。さらに,振動板の形を正方形にすることで,分割振動の
節目が一定の位置に発生するようにし,その分割振動の節目をボイスコイルで多点駆動して分割振
動の発生を抑え,ダイレクトな駆動を実現していました。ソニーらしく非常に理詰めのアプローチがな
された独特のユニットでした。

ウーファーは,面積242cm2のアルミスキンによるハニカムサンドイッチ振動板を,ボイスコイルに直
結した8本のアーマチュアで多点駆動し,高次モードまで分割振動を効果的にキャンセルする仕組み
になっていました。同等のコーン型ウーファーの約5倍のピストニックモーション帯域が確保され,4kHz
までフラットな再生帯域を実現し,歪みも大幅に低減されていました。また,駆動系として,磁束の対称
性に優れたT型ポールピース,振動板の背圧を減少させる穴開きヨークなどによる低歪み設計の強力
な磁気回路と,高耐熱・高剛性のアラミド系ボビン採用の高効率な無酸素銅エッジワイズ・ボイスコイル
が採用されていました。さらに,ユニットを支えるフレームも堅牢なダイキャストフレームが採用されてい
ました。
ミッドレンジは,面積48cm2のAPMユニットで,アルミをベースにした3層構造強化アルミスキン材が使
用されていました。これは,内部に細かな空洞を持つ強化アルミ材の表面に制振処理を施したもので,
剛性を高めるとともに内部損失を大きくとることが可能となっていました。この振動板前後のスキン材の
スイートスポットを両面駆動し,音の立ち上がり,伸びやかさを高めていました。磁気回路は,T型ポール
ピース,穴開きヨーク,銅キャップなどで低歪み化が図られ,クラス最大級のストロンチウムフェライトマグ
ネット,無酸素銅被覆アルミエッジワイズ・ボイスコイルにより高効率で駆動されるようになっていました。
また,大型のバックチェンバーにより,最低共振周波数が低く設定され,スムーズな低域とのつながりも
確保されていました。
トゥイーターは,面積9cm2のAPMユニットで,アルミスキン材 の表面にアモルファスダイヤモンドが蒸着
されていました。このアモルファスダイヤモンドは,ダイヤモンドにきわめて近い物理特性をもつ炭素材で
特に,音速はダイヤモンドに匹敵する18,300cm/secに達するというものでした。このアモルファスダ
イヤモンドの高い音速値と剛性の高さ,アルミハニカム構造の相乗効果により,優れたトランジェント特性
を持つ振動板を形作っていました。磁気回路には,クラス最大級の強力なストロンチウムフェライトマグネ
ットが搭載されるとともに,放熱効果及びダンピング効果の高い磁性流体がボイスコイルギャップに注入
され,優れた高域再生特性を実現していました。
エンクロージャーは北米産の針葉樹チップによるパーティクルボード製のバスレフ型で,前後ともコーナー
にRが付けられたラウンドバッフルで,「A.R.E(アコースティカリー・ラウンデッド・エンクロージャー)」と
称されていました。バッフルは25mm厚で,補強桟は,バッフル,天板に各1,両側板にZ字に3本ずつ付
けられ,裏板にはウーファーの底板を,底板にはミッドレンジの底板を張り付け,6面の接合部12本の稜
線にはすべて細めの角材が入り,裏板は周囲に溝を切って共振を分散させるといった,強靱で,共振対
策がしっかり施されたエンクロージャーでした。バスレフのダクトも,共振を避けるため,薄手の塩ビパイプ
や紙パイプではなく,厚手の合板による角形ダクトで,内側に傾けて取り付けてあるなど凝った構造となっ
ていました。吸音材も,フェルト,エステルウール,グラスウール,ミクロン・グラスウールの4種類が使い分
けられ,5面をカバーするという手の込んだ構造がとられていました。
また,専用台として,しっかりした作りのWS-660(別売¥20,000)が用意されていました。

ネットワークには,低歪みで,低損失で,聴感的にも厳選されたパーツが投入されていました。大電流が
流れるウーファー用コイルには,線径1.5mmの太い線材が使用され,抵抗分による音質劣化が防がれ,
各コイルは,各々に適した空芯構造,硅素鋼板コアが採用され,音の濁りが抑えられていました。さらに,
ウーファー用とトゥイーター用,そしてミッドレンジ用の2個のコイルはそれぞれ互いに直交する形で2枚の
基板にまとめられ,基板同士も最も干渉の少ない位置に分散配置されていました。
ミッドレンジ,トゥイーターには,それぞれ0dB〜−50dBのレベルコントロールが付いていました。
以上のように,APM-66ESは,当時の598モデルの中でも,またAPMスピーカーシステムの中でもおそ
らく最もコストパフォーマンスの高い1台でした。その凝った作り,高性能なユニットは,印象的でした。そし
て,アンプの性能を要求しがちで低音を出すのに苦労する傾向のあった,当時の598強力モデルの中で
最も低音の量感のあるバランスの取れた音のスピーカーでもありました。