PIONEER F−120
FM/AM DIGITAL SYNTHESIZED TUNER ¥45,000
1982年発売のデジタルシンセサイザー式チューナー。シンセサイザーチューナーが主流となりFMチューナーが
あまり話題にならなくなったこの頃,デジタルの新回路を投入したことなどにより話題を呼び人気だったチューナー
です。その価格から想像するよりもはるかに性能も音も良く使いやすいチューナーでした。アナログ式チューナーに
あった一種の重厚さや貫禄はありませんが,実用的なチューナーでした。このF−120の最大の特徴は,D.D.デコーダーという新しい復調方式を採用していたことでした。D.D.というの
は,デジタル・ダイレクトの略で,検波,復調をすべてデジタルのまま行う方式でした。それまでのチューナーは,パ
ルスカウント方式など,FM波をパルスに変換しデジタル化して扱う技術が進められていきましたが,それを一歩進
めた形になった方式です。従来のチューナーは,アナログ信号であるFM信号にパルス波の一種,矩形波であるサ
ブキャリアを掛算して復調していました。D.D.デコーダーでは,発想を転換し,FM信号をパルス波にし,サブキャ
リアを正弦波にして掛算するという方式でした。これにより,検波,復調という2つの行程を一気にやってしまうシン
プルな回路となり,また,サブキャリアがなめらかな正弦波であるためオーディオ信号への悪影響も抑えられ,さら
に53kHz以上のノイズをカットするためのアンチバーディーフィルターも必要としないという巧妙な方式でした。ある
意味で逆転の発想が生み出したともいえる方式でした。これ以降,チューナの復調過程のデジタル化は一般的にな
ったように記憶しています。そして,チューナーの方式論争もあまり聞かれなくなりました。現在のFMチューナーは
どんな復調方式なのかあまり話題になりませんね。フロントエンド部は,相互変調特性を高める(隣接局の妨害を防ぐ)ために,同調素子にバリキャップを2つ使ったツイ
ンバリキャップを採用していました。また,FET採用のバランスドミキサーを搭載して高安定度,各種妨害排除能力を
高めていました。また,トラッキングオシレーター回路という,アンテナ同調段とローカル発振部の周波数の関係を常
にリニアに保つ回路を採用し,歪みの発生を抑えていました。IF部(高周波である受信波を復調部へ送るための中間周波数を扱う部分)は,初段アンプにMOSFETをパラレルで
採用し,高利得と高SNを実現していました。IF部は受信状態に応じて選択度を変えられるWIDE,NARROW切換
が搭載されていました。ローカル発振周波数をロックするPLL回路の基準周波数は,それまで通常12.5kHzでし
たが,可聴帯域内に残留ノイズが残る恐れがあるため,基準周波数を25kHzに高めたパルス・スワロー方式を採
用してSN比を高めていました。パーツの厳選も行われ,デコーダー以降,LCフィルターを排除し,最終段のローパスフィルターには,通常使用され
ているコイル使用のパッシブフィルターに変え,急峻な特性を持つアクティブフィルターを採用してコイルによる音質
劣化を防いでいました。高周波部には,無酸素銅リード半導体コンデンサーを採用し,主な配線材にも無酸素銅線
を使用して,音質向上を図っていました。また,選局動作などのデジタルコントロール信号の伝送にフルスタティック
コントロール方式(1本の信号線に1つのデータしかのせないので信号を重ね合わせないためノイズが発生しにくい
対する方式として,複数の情報を1本の信号線にのせて送るダイナミックコントロール方式がある。)を採用し,ノイズ
の発生を抑えていました。このように,F−120は普及価格帯ながら,思い切った新技術を投入し,当時久々に話題になったチューナーでした。
恐らく現在のチューナーも,内部回路はこのF−120とあまり変わっていないのではないかと想像されます。残念な
がら,現在では,FMチューナーは話題にも上りません。このF−120が話題になったFMチューナーの最後の1台だ
ったのかもしれません。F−120は,F−120Dとしてモデルチェンジを受け,チューナーとしてはロングランを続けま
した。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
D.D.(デジタル・ダイレクト) |
デコーダー搭載。 |
放送局の送り出し時の |
リアリティを伝えます。 |
◎RF相互変調特性を高めるとともに
歪みをとりさったフロントエンド部。 |
◎リニアな増幅と高SN比を実現したIF部。 |
◎クォーツシンセサイザーのメリットを
より高めたパルススワロー方式。 |
◎オーバーオールな音質向上を目指し
磨き上げたパーツ |
◎SN比の劣化がない
デジタルコントロール信号伝送, フルスタティックコントロール方式。 |
◎FM/AMランダムイーチプリセット。 |
◎ループアンテナの採用をはじめ充実のAM部。 |
●主な仕様●
(FM部)
SN比50dB感度 | 1.8μV 新IHF16.2dBf(モノ) 21.0μV 新IHF37.7dBf(ステレオ) |
実用感度(NARROW 75Ω) | 0.95μV 新IHF10.8dBf(モノ) |
SN比 | 96dB(モノ,80dBf入力時) 88dB(ステレオ,80dBf入力時) |
高調波歪率 | (WIDE) モノ :0.0095%(100Hz),0.0095%(1kHz),0.01%(10kHz)
ステレオ:0.015%(100Hz),0.015%(1kHz),0.05%(10kHz) (NARROW)モノ :0.09%(1kHz) ステレオ:0.5%(1kHz) |
キャプチュアレシオ | (WIDE)0.8dB (NARROW)2.5dB |
実効選択度 | (WIDE)30dB(400kHz) (NARROW)60dB(300kHz) |
ステレオセパレーション | (WIDE) 65dB(1kHz),50dB(20Hz〜10kHz)
(NARROW)40dB(1kHz),40dB(20Hz〜10kHz) |
周波数特性 | 20Hz〜15kHz +0.2,−0.8dB |
イメージ妨害比 | 80dB |
IF妨害比 | 100dB |
スプリアス妨害比 | 90dB |
AM抑圧比 | 70dB |
サブキャリア抑圧比 | 60dB |
ミューティング動作レベル | 5μV(25.2dBf) |
アンテナ入力インピーダンス | 300Ω平衡型,75Ω不平衡型 |
(AM部)
実用感度 | 55dBμ/m(ループアンテナ) 15μV(外部アンテナ) |
選択度 | 30dB |
SN比 | 50dB |
イメージ妨害比 | 40dB |
IF妨害比 | 65dB |
(出力部,電源部その他)
出力端子
(出力レベル/インピーダンス) |
FM(100%変調):650mV/900Ω
AM(30%変調):150mV/900Ω |
電源電圧 | AC100V,50/60Hz |
消費電力 | 14W |
外形寸法 | 420(W)×61(H)×317(D)mm |
重量 | 4.0kg |
※本ページに掲載したF−120の写真,仕様表等は1983年3月のPIONEER
のカタログより抜粋したもので,パイオニア株式会社に著作権があります。
したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じら
れていますのでご注意ください。
現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。