DENON SC-A7
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥65,000
1982年にデンオン(現デノン)が発売したスピーカーシステム。デンオンはアナログプレーヤーや
アンプなどのイメージが強く,スピーカーではブランドイメージがどちらかというと弱く,オーソドックス
ながらいいスピーカーを作っていましたが,人気があるとはいえませんでした。そんな中,それまで
非常にオーソドックスなデザインのスピーカーが多かったデンオンが,CDがスタートした1982年
がらりとイメージを変えて出してきた主力モデルがSC-Aシリーズで,1982年6月に先行発売され
たSC-A3(¥37,000)に続いて,同年11月に,3ウェイの中核モデルとしてSC-A7が発売され
ました。
SC-A7の最大の特徴は,スコーカーとトゥイーターの振動板素材としてαボロンを採用していたこ
とでした。ボロンはホウ素のことで,単体で使用されることは少なく,化合物や合金の形で様々に利
用されています。αボロン(α-B12)、βボロン(β-B105)などが単体安定構造として存在し,非常に
硬く、単体元素としてはダイヤモンドに次ぐ硬度をもつといわれています。そして,振動板素材として
見た場合,ヤング率が高く,軽量で,ある意味理想的であるともいわれています。反面,技術的に
加工が難しく,1980年代以前にはオーディオ分野では使われていませんでした。
SC-A7のαボロンダイアフラムは,アルミニウムの基材に,プラズマジェット法によりボロン化合物
とアルミナの粒子が振動板表面にポーラス(多孔性)状に融着したもので,従来の金属振動板に比
べ約10倍の内部損失を有するとともに,基材にクサビ状に強固に融着することから,その剛性は
チタンの約3倍にも達するというものでした。このように,アルミ材に比べて内部損失と剛性を大きく
たかめたことにより,ハイスピードな応答性と鋭いピークの少ないスムーズな特性を実現していまし
た。
トゥイーターは,2.5cm口径のドーム型で,振動板にはαボロンダイアフラムが使用されていました。
全厚50ミクロンという薄さによって非常に軽量でありながら,剛性はチタンの3倍,内部損失は従来
の金属振動板に比べやく10倍といったすぐれた特性を確保していました。この振動板は,ストロンチ
ウム・フェライトマグネットによる強力磁気回路によって駆動され,アルミダイカストフレームに組み立
てられ,超高音域50kHzまでの歪みの少ないシャープな再生を実現していました。
スコーカーは,6cm口径のドーム型で,振動板にはトゥイーターと同様にαボロンダイアフラムが使
用されていました。ストロンチウム・フェライトマグネットによる強力磁気回路によって駆動され,ボイ
スコイルのローリング現象を解消し,すぐれた位相特性とリニアリティを確保するために,ダブルサス
ペンション方式の支持系が搭載されていました。これらが大型の一体構造アルミダイカストフレーム
に精密に組み立てられ,ハイスピードな再生を実現していました。
ウーファーは,32cmの大口径のユニットが搭載されていました。振動板には,高剛性,軽量,適度
な内部損失をもち,紙の約2.5倍の音の伝達速度を持つポリプロピレン系高分子素材が使用され
ていました。そして,振動解析を元に設計された一体構造の同心円状コルゲーションリブが採用され
剛性がさらに高められていました。高耐熱処理のロングボイスコイルの採用,大型フラットダンパーの
搭載,そして,堅牢なアルミダイカストフレームなど各部にしっかりと物量が投入され,すぐれたリニア
リティとレスポンスを実現し,システムトータルの瞬間最大許容入力は400Wが達成されていました。
キャビネットは内容量71リットルのバスレフ型で,振動解析による効果的な補強が施されていました。
ウーファーは8個所で堅固にマウントされ,スコーカー,トゥイーターはユニットをバッフル板の中心線
からずらした配置にされ,左右システムの配置は左右対称とされていました。キャビネットの仕上げ
はハードなイメージのブラック仕上げで,バッフルの上半分はチェックパターンによりさらに精悍なイ
メージにデザインされ,それまでのデンオンのスピーカーシステムとはイメージが大きく変わったもの
となっていました。
DENON SC-A3
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥37,000
以上のように,SC-A7は,2ウェイモデルのSC-A3とともに,デンオンがCDとともに始まったデジタ
ルオーディオ時代を想定して発売した意欲作で,各ユニットに新しい技術を投入して作り上げていま
した。ハードな外観のイメージとは異なり,伝統的なデンオンサウンドを残した,ソフトさも持った音が
特徴でした。