Aurex
SS-930s
SPEAKER SYSTEM ¥220,000(1台)
1977年にオーレックスが発売したフロア型スピーカーシステム。オーレックスは1973年より
東芝がオーディオブランドとして呼称していたもので,家電メーカーながら,本格的なオーディオ
研究所も設け,力作を発売していきました。このSS-930sもそういった中の1台で,スピーカー
の分野でメジャーではなかった同社の熱意が感じられる堂々たるフロア型モデルでした。
SS-930sは,当時プロ用モニタースピーカーの分野でメジャーな形であったホーン型2ウェイ
システムで,大口径のウーファーと高能率のホーン型トゥイーター,大型のバスレフキャビネット
を組み合わせていました。
ウーファーは38cm口径のコーン型で,ダイアフラムとして内部損失と腰の強さを併せ持った
アメリカ・ホーレー社製のコーンを採用していました。ちなみにホーレー社は,アメリカのコーン紙
メーカーで,そのすぐれた性能によりJBL,ALTEC,エレクトロボイスなどがこぞって採用してい
たことがありました。日本メーカーでも,ビクター等がよく採用していました。ホーレー社は現在は
廃業していてありませんが,独自のノウハウ等のあるコーン紙の生産は難しく,現在でもホーレー
社と同じコーン紙は作れないといわれ,ホーレー社がもし存在していたなら採用したいメーカーは
数多いだろうといわれています。
磁気回路は,鋳造の内磁型で強力なアルニコ製マグネットを搭載していました。ボイスコイルは
エッジワイズ巻で能率を高めた直径105mmのショートストロークタイプで,肉厚なアルミダイカス
トフレームで共振を抑えた設計と相まって,クリアな低域再生を実現していました。
トゥイーターは,過渡特性のすぐれたホーン型で,アルミダイカスト製のショートカットホーンを搭載
していました。ダイアフラムとしてタンジェンシャルエッジ一体成型のチタン振動板を採用し,アルミ
リボン線をエッジワイズ巻にしたボイスコイルにより高い能率(104dB/W-1m)と耐入力特性(60
W)を高めていました。マグネットには,ウーファーと同様に鋳造の内磁型・アルニコリング型マグネ
ットを搭載し,低歪を実現していました。
トゥイーターのダイアフラムの前面には,位相特性と指向特性を改善するためのマルチパスイコライ
ザーが設けられ,ホーンの前面には,スラントプレート型の音響レンズが搭載されていました。
ネットワークは,フェライトコア入りコイル,特殊メタライズドフィルムコンデンサー等を用いた贅沢な
ものとなっていました。トゥイーターは−∞〜+3dBの連続可変のレベルコントロールが装備され
ていました。
キャビネットは,高密度針葉樹のパーティクルボード製の大型重量級のものでした。側板20mm厚
バッフル板は28mm厚で,内部に十分な補強がとられていました。表面は楡(にれ)の本木ツキ板
仕上げで,モニタータイプでありながら,落ち着いた高級感ある外観となっていました。
以上のように,SS-930sは,オーレックスのオーディオにかける熱意が感じられるしっかりと物量
が投入されたオーソドックスなモニタータイプのフロア型モデルで,明るくしっかりとした音をもち,比
較的アンプを選ばずによく鳴ってくれるスピーカーシステムでもありました。当時,オーディオ評論家
の斉藤宏嗣氏が自身のリファレンスとしても使っていたことでも知られていました。
Aurex
SS-730s
SPEAKER SYSTEM ¥115,000(1台)
SS-930sには,弟機としてSS-730sが発売されていました。価格は約半分ですが,SS-930s
と同じく,ホーン型2ウェイシステムで,大口径のウーファーと高能率のホーン型トゥイーター,大型
のバスレフキャビネットを組み合わせとなっていました。特に,トゥイーターユニットは同一のものを
搭載していました。デザイン的にもスケールダウンしただけでよく似ており,まさに弟機という感じで
した。
ウーファーは,ひとまわり小型の30cm口径のものが搭載されていました。コーン紙はホーレー社
製のものが使用され,磁気回路として直径140mmのフェライトマグネットが搭載されていました。
キャビネットは,高密度パーティクルボード製のしっかりしたもので,内部にはスリット状の仕切り板
が設けられ,低音の締まりを確保していました。また,キャビネット表面はビオラメープル木目調で
仕上げられていました。
以上のように,SS-730sは,全体のスケール感,ユニット,キャビネットの仕上げなど,その差は
あるものの,弟機としてしっかりした内容を持った1台でした。