![]()
Aurex SS-F90
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥135,0001982年にオーレックス(東芝)が発売した3ウェイスピーカーシステム。CDが初めて発売されたこの年,デジ
タルオーディオ時代に到来に向けて,オーレックスが発売した平面型ユニット搭載のスピーカーシステムで,
それまでのオーレックスのスピーカーとはイメージを変えたモニタースピーカーを思わせるフォルムをもつ1台
でした。SS-F90に搭載された平面型ユニットは,「C.R.Polymer平面振動板」というもので,高分子系素材を使用し
て高剛性,軽量,内部損失という特性を満たそうとしたものでした。この「C.R.Polymer」は,(Cell Rigid
Polymer)という新構造の特殊硬質発泡体で,内部は柔らかい高発泡体,表面はエボナイト化された硬いス
キン層の完全一体サンドイッチ構造となっており,紙と同等の内部損失,そして高剛性,かつ軽量という特性
を有していました。この特性を生かして広帯域再生可能の振動板とするために,振動板を中央部が厚く周辺
部が薄くなっている,平面に近い凸レンズ状の「ネビュラー(星雲)状」の振動板として応力の大きい中央部の
強度を高めていました。
そして,平面振動板を駆動する際に発生する全く振動しない部分(節)を作らないために,平面振動板中央部
を駆動するボイスコイルボビンと,振動板最外周部をサブコーンで固定した三角形状のトラス構造として,振動
板の内外周を同時駆動するデュアルドライブ方式を採用し,ピストン領域を大幅に拡大していました。
ウーファーは,32cm口径のC.R.Polymer平面型で,中央部と外周部を同時に駆動するデュアルドライブ方式
を採用し,さらに,伝達ロスを少なくするため,ボイスコイルボビンの強度を上げるセンター補強リングが設けら
れていました。不要共振を排除するために,重量級のアルミダイカストフレームを採用し,25mm厚のバッフル
板にアルミダイカスト製の大型フィクサーでしっかりと固定されていました。磁気回路は,新たに開発した直径
160mmの大形ストロンチウムマグネットが搭載され,T形ポールとして磁気空隙における磁束のアンバランス
による非対称歪みを抑えていました。ボイスコイルは,直径75mmの大口径のもので,単位面積あたりの密度
を高められるエッジワイズ線を使用していました。
スコーカーは,12cm口径のC.R.Polymer平面型で,中央部と外周部を同時に駆動するデュアルドライブ方式
を採用していました。振動板裏面には分割振動を抑えるため,補強リブが設けられ,不要共振を抑えるために
アルミダイカストフレームは肉厚のものが使用されていました。
磁気回路は,強力なストロンチウムタイプの直径133mmの大形マグネットが採用され,ボイスコイルには,アル
ミエッジワイズ線が使用されていました。また,ウーファー同様にT形ポールが採用され,非対称磁気歪みを抑え
ていました。トゥイーターは,3cm口径のC.R.Polymer平面型で,特殊サンドイッチ構造により8kHz〜30kHzという優れた
高域再生を実現していました。フレームはフレームの鳴きを抑えた高剛性アルミダイカスト製で,音の濁りを防い
ていました。磁気回路はマグネットとボイスコイルの間に磁性流体を入れた構造で,放熱効果を高め,耐入力を
大幅に高めていました。さらに,耐熱性に優れヤング率の大きなポリイミド積層フィルムが採用され,高い耐入力
とハイスピードな応答性を実現していました。また,磁気歪み低減のため,アルミショートリング,アルミエッジワイ
ズ線のボイスコイルが採用されていました。ネットワークは,それぞれの使用帯域に応じた磁性材料を厳選し,空芯コイル,フェライトコイル,ラミネートコアなど
を適材適所に使用した,高性能なディバイディングネットワークを搭載していました。また,ネットワーク素子はコイ
ルどうしの誘導による悪影響が起きないように配置されていました。さらに,トゥイーター,スコーカーの配線には
無酸素銅線が使用されていました。
アッテネーターは,4ステップのスイッチ式のレベルコントローラーで,巻き線タイプよりも音質的によいといわれる
酸化金属皮膜抵抗を使った減衰形で,低損失,低歪みを実現したコントローラーとなっていました。キャビネットの形状にモーダル解析技術を導入し,振動板から放射される音が干渉や回析効果によって乱される
ことがないように,テーパードバッフル板が採用されていました。テーパードバッフルは25mm厚の針葉樹パーチ
クルボード製で,モーダル解析により補強材の位置,形状も最適に決定されたものでした。キャビネット材料には
バッフル面と同じ針葉樹パーチクルボードが使用され,優れた振動減衰特性を実現していました。スピーカーユニ
ットの配置は左右対称レイアウトがとられ,平面振動板とあいまって,すぐれた音場感,定位を実現していました。以上のように,SS-F90は,デジタル時代に向けたオーレックスの意欲作で,ワイドレンジで歪みの少ない優れた
性能を持っていました。そして残念ながら,オーレックスブランドのスピーカーとして最後の高級機となってしまいま
した。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
◎ネビュラー形状のC.R.Polymer平面 振動板
◎トラス構造による内外周同時駆動によるピストン運動
◎適度な内部損失により,歪の少ない再生音を実現
◎フラットな周波数特性と,優れた定位感を得ています
◎モーダル解析による音質改善対策を導入しています
◎32cmC.R.Polymer平面ウーハー
◎12cmC.R.Polymer平面スコーカー
◎3cmC.R.Polymer平面ツィーター
◎高音質で,強力なネットワークと,アッテネーター
◎音の拡がりを重視した,テーパードバッフルを採用
●SS-F90の主な仕様●
キャビネットの形式 | 位相反転(バスレフ)方式(内容積約70リットル) |
使用スピーカー | 低音用:30cmC.R.ポリマー平面形
中音用:12cmC.R.ポリマー平面形 高音用:3cmC.R.ポリマー平面形 |
再生周波数範囲 | 30Hz〜30,000Hz(SPL−10dB) |
クロスオーバー周波数 | 800Hz 8,000Hz |
インピーダンス | 8Ω |
許容入力 | 定格 75W
最大 150W |
出力音圧レベル | 90dB/W・1m |
レベル調整 | 中音用,高音用 各4段ステップ |
外形寸法 | 430W×720H×344.5Dmm(寸法はネット板取付状態) |
重量 | 33kg(1台) |
※本ページに掲載したSS-F90の写真,仕様表等は1982年9月の
Aurexのカタログより抜粋したもので,東芝株式会社に著作権があり
ます。したがってこれらの写真等を無断で転載,引用等をすることは
法律で禁じられていますのでご注意ください。
現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。