SS-L8Sの写真
Aurex SS-L8S
SPEAKER SYSTEM ¥110,000

1978年に,オーレックス(東芝)が発売したスピーカーシステム。価格からは想像できないほど各部に
コストのかかったスピーカーシステムで,作れば作るほど赤字ではなかったかといわれる,オーレックス
らしい名機でした。生産数も少なく,幻の1台だともいわれています。

SS-L8Sの大きな特徴は,その独特の形をしたキャビネットでした。通常,直方体の形をしたキャビネッ
トのもつ問題点(バッフル部と側板角における回折現象・キャビネット内部の定在波など)を解消するため
に,バッフル面全体を550Rの曲率で丸くしたラウンドバッフルを採用していました。通常は角を丸くする
程度のものが多いのに対し,専用の加工が必要な曲面構造で,背面も同じく曲面で,(つまり上から見る
と楕円形に近い形!)しかも突板仕上げとなっていました。さらに,バッフル面には,中高域の反射防止,
拡散の効果を上げるために,中高域拡散用の桟が縦方向に取り付けられていました。また,キャビネット
内部の定在波を抑え,3つのスピーカーユニットの位相を適度にコントロールするために,バッフル面全体
が垂直面に対して1.5°後方に傾斜した傾斜バッフルとなっており(つまりキャビネット全体が上部に向
かってテーパー状になっていた)全体として,後のESPRITの超高級機APM-6に負けず劣らず非常に凝
った形のキャビネットとなっていました。

SS-L8Sのウーファー

ウーファーは,30cmのフリーエッジコーン形で,曲面バッフルに合わせた専用のアルミダイカストフレーム
を採用していました。従来のフレームの2.2倍の重量を誇る強力な専用フレームは,曲面バッフルとの一
体化を実現し,しっかりした低音再生につながっていました。
コーン紙は,オーレックスと東芝総合研究所が協力して完成させた新しいもので,コーン紙専用のカナダ産
針葉樹パルプを用い,繊維長を損なうことなく時間をかけて叩解するエアドライ法によって抄造された軽量で
強靱なコーン紙となっていました。
磁気回路も贅沢な構成で,70φ×40mmのアルニコ鍛造マグネットを採用し,ボイスコイルも0.55×0.11
mm角リボン線によるエッジワイズ巻を,超耐熱性接着剤を使用して作り上げたものでした。

スコーカーは,12cmのフリーエッジコーン形で,振動板には,ウーファーと同じくエアードライ方式の抄造コー
ンが使用されていました。磁気回路には,希土類のサマリウムコバルトマグネットが採用されていました。こ
のマグネットは,東芝総合研究所の金属材料事業部が”TOSREX”ブランドで開発したもので,温度特性,
熱的安定性にすぐれ,同一磁束密度をもつフェライトの1/10の体積という強力で小型なマグネットでした。
(このため通常は,超小型のスピーカーやカートリッジなどに使用される場合が多い)小型で強力であるため,
過渡特性の向上と逆起電力による歪みの低減が実現していました。ボイスコイルは,0.25mm×0.09mm
のリボン線エッジワイズ巻ボイスコイルで,92dBの高能率を実現していました。さらに,中域の共振防止のた
めに,ポリプロピレンと高比重の無機質材を数種類混合したヤング率が高く充分な内部損失を持った新素材
で成形したバックチェンバーが搭載されていました。

SS-L8SのバックチェンバーSS-L8SのトゥイーターSS-L8Sのトゥイーター振動板

トゥーイーターは,2.5cm口径のハードドーム型で,チタン振動板を採用していました。この振動板は,チタン箔
のタンジェンシャルエッジを一体成形したもので,フリーエッジやフラットエッジに比べてパワーリニアリティに優れ
ているというものでした。磁気回路には,スコーカー同様に,サマリウムコバルトマグネットを採用し,エッジワイズ
ボイスコイルとともに,高能率ですぐれた過渡特性を確保していました。

ネットワークも低歪化,低損失化をめざした贅尽な内容を持っていました。ネットワークコイルには,すべて線径2mm
のウレタン線を使用して低い抵抗値を実現し,コアにはフェライトコアを使用していました。コイルは特殊粘弾性樹脂
で制動され,さらに全体を熱効果性樹脂でデッドニングされていました。また,コイルの取り付けは,相互干渉を防ぐ
配置となっていました。コンデンサーは音をくもらせるといわれる電解コンデンサーを一切使わず,メタライズドフィル
ムコンデンサーを採用し,しかも,要所要所には,Λコンデンサーをはじめ,改良型,新開発の高級品を多用し,これ
らすべてをコイルと同様に,特殊粘性体と硬質熱硬化性樹脂で制動して取り付けて,音質の向上を図っていました。

以上のように,SS-L8Sは,その価格が信じられないほどの内容をもつ高性能スピーカーでした。2倍の価格で売っ
てもおかしくないほどのその中身は,今見ても驚くほどのもので,赤字となるためそれほどの台数が出なかったとい
われるのもうなずけるものと思います。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
 
 


回析現象を克服した
550Rのラウンドバッフル。
アルニコマグネット・強力磁気回路の
30cmウーハー3ウェイ。
アンプの設計ポリシーを実践。
低歪率・低損失の回路素子。
●構造の再検討,新しいキャビネット
 ■550Rの曲率,ラウンドバッフル
 ■中高域拡散用桟と傾斜バッフル
●腰のある重低音,30cmウーハー
 ■大形,重量級ダイカストフレーム
 ■優れたダンピング特性,強力磁気回路
 ■軽量で強じん,エアードライ法コーン紙
●つやと輝き,12cmスコーカー
 ■希土類マグネットと強力磁気回路
 ■中域の共振防止,大形バックチェンバー
●優れた歪特性,2.5cmツィーター
 ■希土類マグネットと強力磁気回路
 ■タンジェンシャルエッジチタン振動板
●低歪率,低損失設計の回路素子
 ■ネットワークコイル
 ■メタライズドフィルムコンデンサー

●SS-L8Sの規格●


 
キャビネットの形式 位相反転(バスレフ)方式
音響効果を考えたラウンド(曲面)バッフルと拡散用桟付
内容積 約50リットル
ネット板取外し可能
使用スピーカー 低音用:30cmフリーエッジコーン形,アルミダイカストフレーム
     アルニコ系鍛造マグネット
中音用:12cmフリーエッジコーン形,アルミダイカストフレーム
     希土類(サマリウムコバルト)マグネット
高音用:2.5cmハードドーム形,アルミダイカストフレーム
     希土類(サマリウムコバルト)マグネット
再生周波数範囲 30Hz〜22.000Hz(SPL−10dB)
クロスオーバー周波数 低−中音ユニット 800Hz
中−高音ユニット   5kHz
インピーダンス 6Ω
許容入力 定格  60W
最大 120W
出力音圧レベル 92dB/W/m
レベル調整 中音,高音 各5ステップ
外形寸法 420W×760H×485Dmm(寸法はネット板取付状態)
重量 36kg
※本ページに掲載したSS-L8Sの写真,仕様表等は1978年10月の
 Aurexのカタログより抜粋したもので,東芝株式会社に著作権があり
 ます。したがってこれらの写真等を無断で転載,引用等をすることは
 法律で禁じられていますのでご注意ください。
                        
 

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