![]()
YAMAHA T-8
NATURAL SOUND AM/FM STEREO TUNER
¥59,800ヤマハが1981年に発売したシンセサイザーチューナー。ヤマハのシンセサイザーチューナとしては,T-6に次いで
第2弾といったチューナーでしたが,後のヤマハチューナーの基礎的技術がここで完成されたともいえる1台でした。T-8の最大の特徴は,CSLデジタルシンセサイザ方式にありました,CSLは,Computr Servo Lockedの略で
CSLデジタルシンセサイザ方式は,基本的には,0.01MHzの桁まで制御する高分解能PLLシンセサイザと,高忠
実度・高妨害排除特性を両立したFMアナログサーボチューニングシステムとを,受信状態に応じて,コンピュータが
コントロールする方式でした。CSLシステムでは,ステップ選局とプリセット選局時の呼び出し時にはPLL動作で非常
に正確な呼び出しが行われ,また,わずかでも入力信号があればアナログサーボ動作に切換り,IF帯域の中心点に
ロックされるようになっていました。そして,そのときには,PLL動作が停止するので低周波数部・高周波部への妨害は
ほとんどゼロになるというもので,アナログチューニング方式とデジタル方式の良い点を組み合わせようとした方式でし
た。前作のT-6で開発されたSSLシンセサイザ方式をさらにリファインさせ完成度を高めたシステムで,後のヤマハチュ
ーナーの基本を成すシステムとなりました。
機能的には,シンセサイザ方式としてAM/FMにかかわらずランダムに10局メモリーできるプリセット機能や高速オート
チューニング,バックアップ電源が無くてもアクセスメモリーが消えない不揮発性メモリーなど便利な操作性を実現してい
ました。フロントエンドは,4連ツインバラクターダイオードとデュアルMOS FETを採用し,アンテナ回路をシングルチューンに,
そして段間をダブルチューンにして妨害排除特性の向上を図ったRFアンプ,FETバッファ付ローカルオシレータ,バイポ
ーラミキサー回路より構成されていました。さらに,高感度・高妨害排除特性の実現のため,新開発の「RFサーボゲイン
コントローラ」を採用していました。この回路は,RFアンプに対してゲインの制御を行うもので,妨害のないときにはRFゲ
インを最大にして高感度受信を可能にし,妨害があるときには,その妨害に応じてRFゲインを自動的に制御して,高妨
害排除特性を実現するというものでした。IF段には,高妨害排除特性とオーディオ特性の両立をハイレベルで実現する低損失のユニレゾナンスセラミックフィルタ
とリミッタ特性に優れた差動IFアンプによって構成されていました。IF帯域は「AUTO-DX回路」により,受信状態に応じ
てLOCAL-IFとDX-IFの自動切換が行われるようになっていました。LOCAL-IF段では,ユニレゾナンスセラミックフィル
タ2素子が入り,25dBの選択度に対し,0.04%という低歪率を実現していました。また,DX-IF段では,ユニレゾナン
スフィルタ5素子が入り,実効選択度85dBを実現していました。また,Auto DX回路と連動して自動的にコントロールさ
れるAUTO-BLEND回路を搭載し,ステレオ受信のサービスエリアを従来機に比べて大幅に拡大していました。検波回路には,ヤマハ自慢の「ウルトラリニアダイレクトディテクタ」を搭載していました。これは,10.7MHzのIF信号を
ダイレクトに広帯域レシオトランスに入力して検波する,T-9以前のヤマハのチューナー「Tシリーズ」に登載されていた
「ワイドレンジ・リニアフェイズディテクタ」をよりワイドレンジ化,高SN化,低歪率化し,さらにDCスタビライザを装備した
ものでした。ヤマハによると,ダイレクトに検波することで,パルスカウント検波に比べて情報の伝送能力は5〜10倍,復
調周波数特性はDC〜1400kHzと10倍の広帯域を誇るとうたわれていました。ステレオ復調を行うMPX段には,「リアルタイムC MOS・デコーダー」が搭載されていました。これは,T-9以前の「Tシ
リーズ」でも採用されていた完全DC化が特長のDC・NFB・PLL・MPXステレオデコーダーにC MOS・DC・NFBスイッ
チング回路を搭載してより高性能化したもので,ヤマハの基本特許であるNFBスイッチング平均値復調方式を,スイッチ
ング速度がきわめて速いC MOS(コンプリメンタリィMOS)双方向アナログスイッチとハイスルーレイトDCアンプICを組み
合わせたものでした。ここでもトリオなどが採用していた「サンプリングホールド方式」に対して優れた過渡特性を持つなど
優位性がうたわれていました。19kHzのパイロット信号を同振幅逆相のサイン波でスイッチング回路の入力でキャンセルするための「トラッキングサーボ
パイロットピュアキャンセル回路」を備えていました。これは,通常のパイロットキャンセル回路に強力なサーボをかけたもの
で,放送局によってパイロットレベルが異なる場合にも強力にレベル追従してパイロット信号をデコーダーにはいる前にキャ
ンセルすることができ,キャリアリークが極めて少なく,デコーダーにはコンポジット信号のみが入力され,混変調歪が抑え
られていました。また,19kHzのパイロット信号から,コンポジット信号を復調するために38kHzのサブキャリを発生するた
めのPLL回路には入力に同調型の妨害除去フィルターを付加し,ステレオ信号によるサブキャリア信号の乱れが極めて少
ないAuto Interference PLL Systemを採用していました。AM部は,2連バリコン相当非同調高周波カスコード増幅回路,差動ミキサ,トリプルチューンIFTなどよって高感度,高ダイ
ナミックレンジを確保していました。さらに,RXモードスイッチを切り換えることにより,27dBの高選択度を誇るDXポジション
と高ダイナミックレンジで17dBの選択度のLOCALポジションを選べるようになっていました。
![]()
以上のように,T-8は,ヤマハ最後のアナログ式高級チューナーともいうべきT-9の技術を受け継ぎ,さらにシンセサイザー
チューナーとして理想を追求したチューナーでした。後のヤマハのシンセサイザーチューナーの原型を作ったともいうべき名
機だと思います。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
デジタルとアナログを見事に融合した
高精度CSLデジタルシンセサイザ
高妨害排除RFサーボゲインコントロールと
リアルタイムC MOSデコーダ
高周波特性とオーディオ特性の両立を
実現した新時代のデジタルチューナー
●T-8の主な定格●
■FMチューナー部■
受信周波数 | 76〜90MHz |
50dB SN感度 | MONO 3.0μV(14.7dBf)
STEREO 32μV(35.3dBf) |
実用感度
(MONO) |
300Ω 1.8μV(10.3dBf)
75Ω 0.9μV(10.3dBf) |
イメージ妨害比 | 80dB |
IF妨害比 | 100dB |
スプリアス妨害比 | 100dB |
AM抑圧比 | 65dB |
実効選択度 | LOCAL/DX 25dB/85dB |
SN比 | MONO 90dB
STEREO 84dB |
全高調波歪率 | (LOCAL) (DX)
MONO 100Hz 0.02% 0.05% 1kHz 0.03% 0.3% 6kHz 0.05% 0.8% STEREO 100Hz 0.04% 0.6% 1kHz 0.04% 0.6% 6kHz 0.06% 1.2% |
混変調歪率 | (LOCAL) (DX)
MONO 0.03% 0.3% STEREO 0.04% 0.6% |
ステレオセパレーション | (LOCAL) (DX)
50Hz 60dB 28dB 1kHz 60dB 28dB 10kHz 50dB 25dB |
周波数特性 | 50Hz〜10kHz±0.3dB
30Hz〜15kHz+0.3dB,−0.5dB |
サブキャリア抑圧比 | 65dB |
AUTO-DX切換レベル | 40μV(37.3dBf) |
■AMチューナー部■
受信周波数 | 518〜1615kHz |
実用感度 | 10μV |
選択度 LOCAL/DX | 17dB/27dB |
SN比 | 50dB |
イメージ妨害比 | 45dB |
スプリアス妨害比 | 50dB以上 |
全高調波歪率 | 0.3%(1kHz) |
■オーディオ部■
出力レベル/インピーダンス |
|
FM100%変調 1kHz | 0.5V/2.2kΩ |
AM30%変調 1kHz | 0.15V/2.2kΩ |
REC CAL信号 333Hz | 0.25V/4.7kΩ |
■総合■
定格電源電圧・周波数 | 100V・50Hz/60Hz |
定格消費電力 | 12W |
ACアウトレット | Unswitched×1 300Wmax |
寸法・重量 | 435W×72H×320.5Dmm・4.0kg |
※本ページに掲載したT-8の写真,仕様表等は1981年5月のYAMAHA
のカタログより抜粋したもので,日本楽器製造株式会社に著作権があります。
したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられ
ていますのでご注意ください。
現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。