「お姉様ー!」
今日で11歳になるミミナは、故郷のクイーンアースで誕生日を過ごしていた。
「見て見てお姉様、こんなに花がいっぱい。」
数ヶ月前まで不毛の荒野と化していた大地を、緑が覆っている。久しぶりに姉と一緒に草原に出たミミナは、群生している花を見つけて、大はしゃぎしている。
2年前、突然のダークジョーカーの攻撃によって、クイーンアースは壊滅的な被害を受けた。兵士達は抵抗する術もなく倒れ、役に立つ者以外は全員殺された。そして役に立つ者は、彼らダークジョーカーのエネルギー元である黒のワクチンによって洗脳され、新たなダークジョーカーの戦士となって行った。
一方的な戦いであった。ダークジョーカーの攻撃は熾烈を極め、大地には黒い雨が降り注ぎ、草原は見る間に不毛の荒野と化していった。
「あの時の荒野が、今ではこんなに…。」
緑生い茂る草原で楽しそうにはしゃぐ妹の姿を見ながら、ヘレナは側に控えているカノンに語った。
「命の花が、この星を浄化してくれたのですね、ヘレナ王女。」
「ええ、カノン。」
ヘレナは、ダークジョーカーとの戦いの日々に思いを馳せた。
戦いが始まってから半年後、もはやクイーンアースは死滅寸前の状態になっていた。生き残った人々は王宮に集められ、ヘレナ王女の力で張られる結界に守られることになった。しかし、結界を維持するためには、大量のエネルギーを消耗する。ヘレナ王女は日毎にやつれていった。その状況を見かねて、第二王女のミミナは、地球へ命の花を探しに行った。ナースエンジェルばかりに任せてはいられないと。
その翌日、結界の外に一人の少年が現れた。少年は傷ついていた。黒い雨に打たれ、体力も限界まで消耗しているようだ。何らかの理由で、王宮内に避難し遅れたのだろうか。
「結界を解きます。」
衛兵から報告を受けたヘレナは、一度結界を解いて、少年を中へ入れようとした。
「なりません、一度結界を解いてしまえば、再び張り直すには、大量のエネルギーを消耗してしまいます。そんなことになれば、王女様のお体にさわります。」
「かまいません。」
結界が一時的に解かれ、少年は中へ入ることが出来た。少年が入った後、再び結界が張られた。
少年の名はファルシオン。彼は、ヘレナ王女のはからいで自分が王宮へ避難できたことを知ると、ぜひ直接礼を言いたいと願い出た。願いが聞き届けられ、ヘレナとの面会が叶った彼は、彼女のやつれ果てた姿を見て驚いた。彼女はまさに身を削って、王宮内に避難した人々をダークジョーカーの魔手から守っていたのだ。さらに彼は、結界を張る時は、結界を長時間維持し続けるよりさらに多くのエネルギーを消耗する事を知って、強い衝撃を受けた。一星の王女が、既に消耗しきっている体にさらなる無理を強いて、自分を結界の中へ入れてくれたのだ。それを知った時、彼はいてもたってもいられなくなった。
「王女様!どうか私に何なりとお言いつけください!王女様のためなら、どんなことでもいたします!」
「何を言い出すか、狼藉者!」
彼を謁見室からつまみ出そうとする衛兵を、ヘレナは手を降って制止した。
「あなたのその心遣いが何よりです、ファルシオン。この宮殿の中に多くの人達が避難しています。彼等を助けてさしあげなさい。」
「はい、王女様!」
この日のことを決して忘れることはないだろうとファルシオンは思った。彼はヘレナに言われた通り、避難民達のため精力的に働いた。
ある日、ファルシオンは、いつもヘレナ王女の側に控えている若者の姿に気づいた。ミミナ王女が地球へ赴く前、ヘレナ王女の使いで地球に行っていたらしい。彼は地球で伝説のナースエンジェルを覚醒させることはできたが、この星を救える命の花を見つけることがかなわぬまま、不名誉にもダークジョーカーの配下に下り、ナースエンジェルによって救われ、任務を果たさぬまま帰って来た。
「何故、あのような男が王女様のお側に?」
ファルシオンは疑問に思ったが、すぐに答えを知ることになった。あの男・カノンとヘレナ王女は、恋仲であるらしい。
あの戦いから1年。黒い雨を吸って荒野と化した大地は、今や緑の草原と化している。町の復興も進んでいる。全てが元通りにはならないものの、クイーンアースは生気を取り戻していた。
「ヘレナ王女、宮殿へお戻りになる時間です。」
「あら…、つい時間の経つのを忘れていたわ。ありがとう、ファルシオン。」
戦いが終わった後、人々は町へと戻って行ったが、幾人かは王宮で働き続けることを望んだ。ファルシオンもその一人である。彼のことを憶えていたヘレナは、彼を近衛に抜擢した。そのことによって、彼の信仰にも似たヘレナ崇拝は、さらに深くなっていた。
「それではお姉様、また地球へ行って来ます。学校の友達と誕生パーティをするの。」
ミミナは再び地球へ行ってしまった。
「ミミナ王女、久々に帰って来られたのですから、もう少しゆっくりとなさればよろしいのに。」
「あの子は、地球で良い友人が沢山できたのですね。」
ファルシオンは、何気無く手を差し出し、王宮へ戻ろうとするヘレナをエスコートしようとした。しかし、ヘレナは彼の手の前を通り過ぎ、差し出されたもう一人の手を取った。ヘレナに付き添い、共にこの場所に来ていた男、カノンである。手を取りあって王宮へと向かう二人の後に、ファルシオンは一介の従者らしくついて歩いた。そう、彼は一介の従者なのだ。一瞬たりとも恐れ多いことを考えてしまったことを、彼は恥じた。
それから2年。地球での生活がよほど気に入ったのか、ミミナは姉か自分の誕生日にしかクイーンアースに戻って来なくなっていた。早々に活力を取り戻した草木にやや遅れをとったものの、町の復興はほぼ完了していた。2年の間、ファルシオンはよく働いた。そして幾度もヘレナから「じかにお褒めの言葉をいただいた」。ファルシオンにとって、それは何にも替えられない喜びであった。
今やファルシオンは、近衛兵の一師団を統括する立場になっていた。彼の年齢からすれば異例であるが、ヘレナ王女から厚い信頼を受けていること、そして3年前の戦いで、近衛兵の主だった者達が戦死して、彼以上の実力者がいないことからして、妥当だという評価を受けていた。
その日、ファルシオンは士官達を講堂に集め、演習の予定を立てる会議を開こうとしていた。
講堂へ続く廊下を急ぐファルシオンは、廊下で雑談に花を咲かせている女官達の立ち話を小耳に挿んだ。
「ヘレナ様は、またカノン様と御一緒なの?」
「まあ、仲が睦まじいこと。」
「でも私、あのお二人こそお似合いだと思いますわ。」
ファルシオンは足を早めて通り過ぎた。この手の噂は以前からよく聞いていたが、最近ことに多くなったような気がする。
「…私には関係の無いことだ。私はただ、ヘレナ様のお側に仕えることができれば、それでいい。」
ふいに不気味な気配に気付き、ファルシオンは頭上を見上げた。彼の頭上で、黒い霧が渦を巻いていた。
「お前…そこのお前…。」
黒い霧から声が聞こえる。ファルシオンは剣の柄に手をかけた。
「側に仕えて、それで満足か…そこのお前…。」
「貴様は何者だ!何が言いたい!」
「お前は無理に想いを封じ込めている…違うか…。」
「く…、おのれ!」
剣を抜き放とうとするファルシオンに、黒い霧はさらに語りかけた。
「そうか、図星であったか…ならば、そこのお前…想いを果たしたくはないか…そこのお前…。」
「想いを果たす…?」
「案ずるでない…もうお前は何者にも縛られない…お前の愛する者を、想いのままにできるのだ…。」
「愛する者を…ヘレナ様を…想いのままに…。」
ファルシオンは、抜きかけた剣を鞘に納めた。黒い霧が降りて来て、彼の周囲に渦巻く。
いつも時間を厳粛に守っているファルシオンが、今日はだいぶ遅れて講堂に現れた。講堂には、若く優秀な士官達が、既に顔をそろえていた。
「今日私が遅れてしまったのは、他でもない。君達のために少々寄り道して、ある物を用意したんだ。」
「え?何かくれるんですか、師団長。」
士官達の中で紅一点のショーテルが、期待を込めて問いかけた。
「そう、素晴らしい物だよ。さあ、受け取ってくれたまえ。」
ファルシオンは脇に抱えていた小箱を開けた。箱の中から黒い霧がもくもくと沸き上がり、あっという間に士官達の全てを飲み込んだ。
ヘレナとカノンは、王宮のテラスから庭の花々を眺めていた。
「お二人とも、お茶の用意ができましたです。」
王家には、昔からいろいろな妖精や精霊が仕えている。二人にハーブティーを煎れたリープもその一人だ。
「お二人はとても仲がよろしくて、まるで恋人みたいです。あ、私ってば何を。ごめんなさい、ごめんなさいです。」
テーブルに着いた二人は、リープの言葉を聞いて、一瞬顔を見合わせた後、どちらからともなく笑った。
「リープ、あなたの声って、ミミナに似ているのね。」
「そうなんですか?何だか照れくさいです。」
ふいに部屋の外から、兵士の叫び声が上がった。
「おや、みなさんお揃いで何の御用で…な、うわぁーーっ!!」
ドアが開け放たれ、部屋に血まみれの兵士の死体が投げ込まれた。続いて血濡れた剣を携えた士官達が、次々と部屋に入ってきた。彼らは部屋の奥へ、テラスの方へ向かって歩いてきた。
カノンは剣を抜き、ヘレナの前に立ち塞がった。
「お前達、一体何のつもりだ!」
「見ればおわかりでしょう、カノン様。謀反ですよ。」
士官達の後から姿を表したファルシオンを見て、カノンは目を疑った。
「ファルシオン…まさか、まさかお前の仕業なのか!?」
「さすがはカノン様、その通りです。この星は、これより我ら茨十字団の支配下に置かれます。その前に、現在の支配者がおられては邪魔ですから、退場していただきに参りました。」
「くっ…ヘレナ王女、お逃げください!」
カノンはファルシオンに切りかかる。しかし、黒いオーラに阻まれ、剣は相手に届かなかった。
「この黒いオーラは…黒のワクチンを使ったのか!?」
いい終わらぬうちに、カノンの体は石像に変わっていた。士官の一人、マンゴーシュの石化光線を浴びてしまったのだ。
「あなたは殺してしまうより、その姿で永遠に恥をかいていただく方がおあつらえ向きですね。さて…。」
ファルシオンはヘレナの方へ向き直った。ヘレナは、逃げる気力も抵抗する気力も無くしてしまっていた。ファルシオンを抜擢し、彼を信頼して大任を与えたのは、他ならぬ彼女自身なのだ。
テラスの外へ飛び出して、手すりの影に隠れて難を逃れたリープには、ただ呆然と連れ去られるヘレナ王女を見ていることしかできなかった。
部屋の外へ連れ出されたヘレナは、廊下の惨状を見て息を飲んだ。血まみれの兵士や女官が転がっている。その光景は、まるで3年前の再現であった。
王宮の離れにある塔の上の部屋に、ヘレナは連れ込まれた。
「ファルシオン…。」
「そんなに悲しい目をしないでください、ヘレナ王女。いや、ヘレナ。あなただけは危害を加えません。」
ファルシオンはヘレナの肩に手を乗せ、彼女のうつむきかけた顔を覗き込んだ。
「こんなことをしても、私の心は動きません。」
「ふふ、お強いですね。しかし、ご自分の立場をもう少し考えた方がよろしいですよ。」
ファルシオンは向きを変えると、部屋から出て行った。ドアが閉められ、外から鍵がかけられる。
「あなたには今夜から、私の妻になっていただきます。楽しみにお待ちください。」
ファルシオンの靴音が遠ざかって行く。ヘレナは力が抜けたように床に座り込んでしまった。ファルシオンにこんな事をさせてしまう程、自分は彼を苦しめていたのだろうか。彼のような者が実権を握ったところで、到底この星を統治できるはずもない。いずれこの星に大きな災いをもたらす結果になるかもしれない。そして何よりも、彼女も一人の少女である。決してファルシオンを嫌っていたわけでは無かったが、このような形で辱めを受けることには耐えられなかった。ヘレナは、決して人前では見せない涙を流した。
「ヘレナ王女、ヘレナ王女。」
窓の外から、誰かがヘレナを呼んだ。まさか、ここは地上数十メートルの塔の上だというのに?
「心配無いでクル、私でクル。」
「その声は…、クルルなの?」
ヘレナは窓を開けた。窓の外には、王家に仕える妖精の一族、クルルが飛んでいた。
「ヘレナ王女、気を落とさないで欲しいクル。町の人達に呼びかければ、みんなヘレナ王女の味方クル。」
「ファルシオン達は黒のワクチンで、かつてのダークジョーカーの様になっています。町の人達では歯が立たないでしょう。いたずらに犠牲を増やすだけです。」
「でも、それではヘレナ王女が…。」
ヘレナは、指にはめている、透明な宝石の付いている指輪に念を集中した。指輪の宝石が透明から緑に変わっていく。
「…クルル、この指輪を…外して…。」
クルルは、言われるままにヘレナの指から指輪を外した。途端に、糸の切れた人形のように、ヘレナは倒れ伏した。
「わーっ、ヘレナ王女!」
「心配しないで、クルル。精神をこの指輪に移しかえたのです。」
指輪が直接、クルルの精神に語り掛けてきた。
「そ、それでは、今はこの指輪がヘレナ王女クル?」
「この指輪を、地球のミミナの元へ届けてください…。」
「はいっ、絶対にお届けしますクルっ!」
クルルが指輪を持って飛び去った直後、再びファルシオンが部屋に入って来た。
「さて、私の妻になる決心はできましたか?」
しかし、床に倒れ伏しているヘレナを見て、彼は肝を冷やした。
呼吸はしている。死んではいない。しかし、呼べども叩けども、何一つ反応は無かった。
「そんな…、心を閉ざしてまで私を拒絶するのですか?」
地球でのミミナの屋敷に辿り着いたクルルは、ミミナに事の経緯を話した。ミミナはクルルの話よりも、彼が持って来た指輪によって、ヘレナと直接会話して、事の経緯を理解した。
「あのファルシオンがそんな事を…。お姉様、私、どうすればいいの?ナースエンジェルはもう変身できないのよ。」
「とにかく、ここから逃げるのです。誰にも行き先を告げてはいけません。彼等はきっと、あなたにも追手を差し向けているはずです。あとのことは、マルルが知っています。」
「え?マルル、何か知っているの?」
「実は、ダークジョーカーとの戦いが終わった後でわかったマル。地球上に、伝説のナースエンジェルの力を受け継いだ者が、もう一人いるマル。」
これでやるべき事は決まった。早々に屋敷を出て、もう一人のナースエンジェルを見つけ出し、彼女の力を借りなければならない。
「せっかく中等部に進学して、新しいお友達もできたのに。さよならも言えないなんて…。」
「ミミナ王女、いつまでもこの屋敷にいては、危ないマル。」
ミミナは、後ろ髪を引かれる思いで、三年間暮らした屋敷を後にした。
「それでは、私はクイーンアースに戻るクル。ヘレナ王女の体を見張っているクル。」
「しっかり見張るマル。ミミナ王女のことは、それがしに任せるマル。」
「お姉様…。」
+ + + + + + +
「……ナ王女、ミミナ王女!!」
「…う…。」
マルルの呼びかけで、ミミナは目を覚ました。ミミナの顔を、マルルとせりなが覗き込んでいる。
「ミミナ、気がついたのね!」
「せりな…、私、どうしてたの…?」
「良かったマル、テルビーチュの攻撃を受けてお倒れになった時は、どうなるかと思ったマル。」
「そう…、私、気絶して、夢を見ていたのね…。」
ここは工事現場だろうか、周囲はパイプや角材が山積みされていた。茨十字の戦士・テルビーチュのショックビームを受けて気絶したミミナを、せりなとマルルがここへ運んで来たらしい。
テルビーチュは、工事現場のどこかに隠れたせりな達を探して歩き回っている。
「ミミナ、ここで待っていて。今あいつをやっつけて来るから。」
「せりな、無理しないでね。」
「くそったれ、あいつらどこへ隠れやがった。」
「ここよ!」
背後からの声に、テルビーチュは振り返った。角材の山の上に、せりながさっそうと立っている。
「わざわざ殺られに出てくるとは、ご苦労なこった。」
「そうはいくかしら。」
せりなはエンジェルキャップをかざした。
「裁きの力、癒しの心、今!」
せりなの体が光に包まれ、青いナースエンジェルへと変化した。
「闇を貫く一条の光、その名は希望、ナースエンジェル!希望の光の名の元に!」
テルビーチュは両手を組んだ。ミミナを気絶させたショックピームを放つつもりだ。
「エンジェル・セット・アーップ!」
せりなの右腕にエンジェルバックラーが装着された。
「ディメンションシールドを使うつもりか?残念だが、俺自身にショックビームは効かないぜ。」
テルビーチュは不気味な笑いを浮かべた。
「それに、こんな狭い場所で使えば、お前もただじゃ済まないだろうよ。」
そして、せりなめがけてショックピームを放つ。
「エンジェル・ビィィィム!」
「何っ、エンジェルビームだと!?」
エンジェルビームとショックビームが空中でぶつかり合う。激しく火花を散らした後、両方のビームを合わせたエネルギーの固まりが、テルビーチュに向かって飛んで来た。テルビーチュは慌てて飛びすさり、背後の角材の山に激突した。立て掛けてあった鉄パイプの束が振動で倒れる。
「パワーはエンジェルビームの方が上だったみたいね。おあいにくさま。」
「くそったれ、なめやがって!」
テルビーチュはノコギリ状の刃のついた短剣を取り出すと、せりなに飛びかかった。せりなは後方へジャンプしてかわすと、ライドルを取り出して、左手に構えた。
「エンジェル・ウィーップ!」
ライドルから光の帯が放たれ、鞭の形になった。テルビーチュは短剣を振り上げ、せりなに襲いかかる。せりなは短剣をかわしつつ、鞭を振るった。テルビーチュは余裕で鞭をかわす。かわされた鞭は、立て掛けてあった鉄パイプの束に絡まり、それを引き倒した。間合いに飛び込んで攻撃しようとするテルビーチュだが、背後から倒れてくる鉄パイプの束に気付き、一旦飛びすさる。そしてまた襲いかかる。そしてせりなは、また別の鉄パイプの束を引き倒す。何度かくり返している間に、テルビーチュは、周囲をまるでクモの巣のように鉄パイプで塞がれていた。
「こ、これは!?」
「やっと気付いた?でも、もう手遅れよ。エンジェル・ボウガン!」
せりなは右腕を伸ばし、テルビーチュに狙いを定めた。
「キュアー・クリティカル・ウゥゥゥーンズ!」
光の矢がテルビーチュを貫いた。せりなは左手の親指を立て、それを下に向けた。
「お手当て、完了!」
テルビーチュの体が地面に崩れ落ちた。
「ミミナ、立てる?」
「うん、大丈夫…痛っ!」
「無理しないで、ほら、肩につかまって。」
せりなに肩を借りてようやく立ち上がったミミナは、自分の無力さを痛感していた。3年前も、そして今も、自分は守られてばかりいる。自分はお荷物にしかなっていないのではないだろうか。
「(せめて、私にお姉様のような力があれば…。)」
せりなは自分を足手まといに思っていないだろうか。ミミナはせりなの心を読もうとして、やめた。
「ミミナ、気絶している間、どんな夢を見ていたの?」
「うん…、ちょっとね、昔のことを思い出していたの。」
第3話:終