不思議な人里の植物

実験1.

イネは田んぼに、コムギは畑に植えるのはなぜ?

 この質問の答えは簡単なようで、結構難しい。いろんな説明の仕方があるからです。ここでは、種子の発芽と芽の伸長の点から考えます。仮説として、イネは水の中でも発芽し、芽が伸びるが、コムギは水の中では芽が出てこないのではないのか、と考えます。植物学の教科書には、一般に種子の芽生えには光と空気と水が必要であると書かれています。もしコムギが水の中で芽を出さないとすれば、酸素が少ないためかもしれません。

 これらのことを実証するために簡単な実験を工夫します。最低二つのことを確かめる必要があります。一つは、コムギが水中では芽が伸びないこと、二つ目は、水中であっても酸素を与えてやればコムギの芽は伸長することです。この2点を確かめるために、3, 50, 80mmの水深のタッパーを用意してイネとコムギの種子(下の写真では5粒)を置きます。酸素の影響は水深50mmのタッパーに金魚用のポンプで空気をおくってやります。同様に、イネとコムギの種子をおきます。水は煮沸して、空気を飛ばしたものを使います。

 結果は予想どおりでした。イネは水の量の多少に関係なく発芽し、芽を伸ばしていましたが、コムギは水中では発芽しにくく、芽はほとんど伸びていませんでした。ところが、酸素をおくってやると、水中でもコムギの芽はよく伸びていました。これがコムギを田んぼには植えない理由の一つです。コムギは人間と同じく呼吸によって酸素を消費してエネルギーを取りだす訳ですが、イネは嫌気呼吸と呼ばれる方法をもち、これによって低酸素条件でもエネルギーを取りだすことができるといいます。こうした特長は水辺の植物によくみられます。

 この実験では、イネを畑に植えない理由は明らかになりませんが、元来水辺の植物であるイネを旺盛に生育させるには水が必要であることが田んぼに植えられる理由です。ただし、陸稲と呼ばれるイネは畑でもよく生育し、畑に植えられますが、田んぼのイネほどの収量にはなりません。

 

イネ(それぞれ左)とコムギ(それぞれ右)の種子を水深が3,50,80mmの3種類のタッパーに置く。10日後、上の写真のように、水中にあるコムギの芽は伸びていないが、イネの芽は伸びている。(下の写真参照)      

 

 

 

 

イネ(左)は水中でもよく発芽し、芽が伸びている。コムギは水深が50,80mmになると発芽していない。

 

 

 

 

水深が50mmのタッパーでは、金魚用のポンプで酸素を水中におくると、コムギ(右)の芽も伸びてきた。(下の写真参照)

 

 

 

 

ところが、ポンプで空気を送ってやると、コムギもよく発芽し、芽が伸びてくる。

 

 

 

(注)この実験は、私の娘が夏休みの課題研究でやってくれたものです。