SS〜エアメール プロム パリ〜 |
第六夜 〜for you・・・〜 |
コツ コツ コツ 今晩も時計の針の音が静かに響く。 ああ、また今日もかぁ。 今日こそは 今日こそは 逸る気持ちはあれどなかなか片付かない仕事。 しょうがないや。 入稿前はいつもこうなのだから。 やったぁ、出来たぁ。 そう思って持っていくと、見つかる誤植の山。 その繰り返しが何日も続く。 入稿直前まで。 はぁ〜〜〜〜〜 僕ってこの仕事、向いてないのかなぁ。 そう考えたら なんだかやる気がなくなった。 あ〜あ。 隣りのデスクじゃ、氷水のヤツ 気持ちよさそ〜に寝てるし。 なんで僕だけ、こんなことやってなきゃいけないんだろ。 も〜やめた。 今日はここまで。 そう思って、とりあえず寝る空間を作ろうと机の上を片づけようとしたとき。 あ、これ。 そう、先日貰ったエリカさんからの手紙だ。 長について巴里・花組の取材に行った日 初めての舞台で緊張している彼女と同様に僕もまた緊張していた。 目の前の彼女達の可愛らしさ、美しさだけじゃない。 僕もまた、彼女達と同じようにあの日が記者として初めての取材だったから。 テキパキと取材をする長の影でおろおろしている様子を見てか 「お互い、頑張りましょうね。」 そう言って握手を求めてきた彼女。 そんな彼女からの手紙は決して僕だけのものじゃない。 巴里・花組の代表として、この帝都新聞社への先日の取材に対する お礼の内容が綴られたものだった。 ただ・・・最後にこんな文が添えられていた。 〜あの日、私と同様に初めての舞台だった新米記者さんへ 毎日お仕事、頑張ってますか? 私は・・・いろいろ大変だけれどなんとか前に向いて 歩いているようです。 初めての公演まであとわずか。 そう思うと1日1日がとても貴重に感じます。〜 この手紙を見せてもらったときは本当に嬉しかった。 その場ではすぐにでもエリカさんへ手紙を書きたいと思った。 だけど、いざ書こうと便箋を広げたとき どう返事を書いていいのか分からなくなった。 僕は本当に彼女に手紙を書けるような人間なのだろうか? 彼女に「お疲れ様」と言ってもらえるくらい頑張っているのだろうか? そう考えはじめたら決して偉そうに言えない自分がいることに気づいた。 だから・・・書けなかった。 でも 今日はもうちょっとだけ頑張ってみよう。 遠いパリの空の下、エリカさんもきっと、辛いレッスンに耐えているのだろうから。 コツ コツ コツ 時計の針の音が響く。 あともう少しでこの仕事も終わる。 そうしたら、今度こそ彼女に手紙が書けそうな気がする。 エリカさん 遠い日本の大地の上で 僕もまた 前に向いて 一歩一歩進んでいます・・・と。 |
2000.9.24 サクラ大戦BBSのとあるツリーにこっそり追加 |
製作裏話 |
![]() |