「春を迎えに・・・」







「みどりさ〜〜〜〜ん


みどりさ〜〜〜〜〜〜〜ん」




って、もうどうしちゃったんだろうねぇ。
あの子って。
最近ずっとこんな感じなんだから。
もう何処で時間を潰しているんだろうか。


まぁ、この店
あたし一人でもなんとかなりそうだから
まぁいいけどね。



そんな瀬戸さんの声を聞く日が多くなった。


あ、ちなみにボク???
そうですね。
時たま
緑さんの部屋に勝手に入りこんで
というか
この
「みどりのいえ」
の先住民
いや
人じゃないから
「民」
じゃあないですよね。


そう。
ときたま四本足で走る
そして
ときたま二本足で歩く
このぷりてぃな姿と毛並みと
愛らしいつぶらな瞳と
ふさふさのしっぽで
誰からも愛されている


な〜んて
これはボクが勝手に思いこんでいるだけですよぉ。


でも
先住民であることはホント
勝手に
緑さんの部屋に入りこんで
ノートをひっくり返しています。
でも緑さん
全然気づいてないみたいです。


「あら、こんなことやっていた・・・ような気もするな〜。」
ってその場は終わってますからね。
もう、緑さんってずぼらというか
どっかずれてるというか。

でもちょっとくらい気づいてくれてもいいような気もするんだけどなぁ。





しまったぁ。
また、前置きが長くなってしまった。


すみません。
ボクの名はみどりす。
名前のとおりリスです。
でも、他のリスと違って
冬眠はしません。
だって
冬はあったかい
この
「みどりのいえ」
の中にいるだけで
食べ物は十分間に合いますし
全然寒くないですし


って
これって十分冬眠してるっていうことになるのかな。



さてと。
そろそろ緑さん、探しに行こうっと。




って
ほんとはね。
ボク、知っているんです。
緑さんのいる場所。



ほら
あそこ。



最近のお気に入り。
ちょっと木の陰にはなっちゃうんだけど
ちょうど切り株が机くらいの高さになってて
そのすぐ近くに
平たい石があるんです。
緑さん
そこにしっかりと
座布団やら膝掛けやら
お茶、お菓子
いろいろ持っていってるんです。
そして
何やら
しこしこと書いているみたい・・・なんです。



どうやら、ノートめくっているの
ばれちゃったのかな。
こうして自分の部屋じゃなくて
こんな外で物書きしてるのって。




ボクくらいの歩いた音くらいでは
緑さんには気づかれません。

というか


緑さん。
また・・・寝てる・・・・



あ〜あ。
またかぁ。
最近、ずっとこれだもんなぁ。
もう、こんな場所で寝ると
風邪ひきますよぉ。




さて、そろそろ起こさないと
瀬戸さんも心配するだろうし


よいしょっと。
と両手でうまく
近くにあった小さな木の実を持ち上げて


えぃ
っと投げる



こつん
と音がする。
確実に頭に当たっているはず・・・なのに



ううっ
やっぱり起きません。

こうなった実力行使ですね。
体当たりでもして


と更に近づくと


むにゃむにゃむにゃ
と何やら喋り声が


って緑さんの寝言かぁ。


あ、でも
○○がこうなってとか
××がああなってとか
まぁ頭の中でストーリーだけは作っちゃってるみたいですね。
これがちゃんと文字にできれば
悩むことなんてないんでしょうにね。


ノートを広げると
ああ
やっぱりまだ真っ白だぁ。
一言も書けてない文章。


最近
「あたしは物書き失格よぉ。」
なんて瀬戸さんと話してたもんなぁ。



そんなに簡単に書ければ
誰だって悩まないよ。
って思うのはボクだけ????



さてと。
起こそうかなぁ。
としっぽを顔の部分に近づけようとすると



ひらひらひら
跳んでくる一匹の白い蝶
そして
辺り一面の黄色い菜の花。
柔らかい風
ほんのり暖かくなった空気


もう少し眠らせておくか。
寒くなったら起きるだろうし。


風邪ひいたら
自業自得だ。


そう思って
ボクはその場を離れる。

むにゃむ〜〜〜〜〜
と緑さんの独り言
(完全に寝言だよ)
はまだ続いているみたいだった。


せめて
夢の中でも


叶えられるものが掴めますように。
そう願いつつ



しばし
ボクはこの春の暖かさを
楽しむことにしようか。
こんな日はのんびりするに限る。


ね、そうでしょ。