「一日目」−2







「ごちそうさまぁ〜〜」


あ〜〜〜おいしかった。


「そうそう、ごはんは当番制にしようね。
という訳で明日の朝はよろしく♪」

「え〜〜〜〜。」

「はい、そこで文句は言わない。
で、今日はね。
せっかくだからこのあたり散歩しておいで。」


・・・


「も〜〜何をぼっ〜〜としてるの。」


「散歩・・・ってこんな山ん中?」

「そうだよ。山の中。
小さい時はよく『ちょっと行ってきまぁす』って
出かけてたじゃない。」


う〜〜ん、そうだったっけ?


「じゃ、そういうことで。
はい、これ御弁当。
暗くならないうちには帰っておいで。」


「あのぅ、喫茶の方は・・・。」

「あ、それは今日はいいよ。」

「って、おばさん、大変なんでしょ。
だから・・・」


「でもね。
この辺りのこと、分からないようじゃ
残念だけどこの店の仕事は務まらないね。
だから・・・さ。
行っておいで。」


「う・・・ん」


なんか納得できなかったけど
ま、おばさんがそうまで言うなら。
それに今日は天気もいいし
ピクニック日和。

うん、お出かけしてみよう。


そんなこんなで
大した装備もなく
気軽に山に入ろうとして
私はびっくりしてしまった。

慌てて再度家に帰ってやり直し。
登山用とまではいかないけれど
ちゃんとした靴を履いて
うん、帽子も持ったし。
鞄には応急処置用のちょっとした薬。
後はなんか入用なものを
つめこんで・・・



お、重い!



で、ちょっと減らして。
うん、こんなもんかな。
で再度、しゅっぱぁ〜つ!




うわぁ

上から見た風景も奇麗だったけれど
近くで見る木の葉の色も奇麗よね。
太陽の光によって少し透けたように見える木の葉。
ただ緑って言ってしまうにはなんだか物足りないようなそんな・・・



きゃあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜










ドサッ


いったぁ。

あ、失敗しっぱい。
あまり上ばっかり見て歩いていたからこけちゃった。


〜くすくすくす〜


え?


「誰?
 誰かいるの?」


私の問いに返事はなかった。
でも・・・
目の前にある物体が一つ見えた。


「うわぁ、かわい〜〜〜い」


リス、よね。

そうだ、と答えた風にも見えたけど。
まさかね、返事なんてする訳ないし。
第一私の言葉ってりすに分かるはずないじゃない。

ちょこんと立って私の方を見ていたそのリス。
ちょっと首をかしげたように見えた。
まるで
<ホントに分からないって思う?>
そう言っているみたいに。

さらにじっとリスを見つめる私。
あっちも私のこと見てるのかな。

あ!
目が合っちゃった。

って、え?
あのリス
目が緑色だった???


毛の色はたぶん私が一般的なりすはそうだって理解している
色だと思うんだけれど。
あの目の色。
あんな色のリスって・・・いるのかな?



あ、逃げた!


ちょ、ちょ・・・っと。
待ってぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜









はぁはぁはぁ。
あ〜あ、見失っちゃった。


って、ここどこよ〜〜〜〜〜〜〜。



どこよ〜〜〜〜〜〜



どこよ〜〜



響くのは私の声のこだまだけ。
あ〜あ、こんな山の中で迷子?
どうしよう・・・・・・・










悩んでもしょうがないや。
とりあえず、この辺でお昼食べられそうな場所見つけてっと。

あ、あの辺がいいかな。



そこは、ちょっとした岩場になっていた。
その中の一つ
座りごこちの良さそうな岩を一つ選んで
よいしょっと腰を降ろす。


う〜〜ん。
思ってたよりお尻が痛いなぁ。
ま、そんなこと言ってられないよね。
こういうところだもんね。


ぺたっとその場に座り込んだ私。
おばさんが渡してくれた包みを開く。


「うわぁ、大きなおにぎり。」

そのおにぎり。
なんてことないごくごくふつうのものなのに
疲れてお腹がすいていたからかな?
それとも・・・。


とぉっってもおいしかったの。



「ああ〜〜、お腹一杯。」


それで安心しちゃったせいだろうか。


「ちょっと・・・ひと・・・やすみ。」



そう、困った状態のはずなのに
眠ってしまっちゃったのです、私。












〜くすくすくす〜


え?


〜そんなことしてて、ほんとにだいじょうぶなの〜




え・・・・と。

あ、あれ。
気づいた時には少し日が傾きかけ
辺りは少し影がさし始めていた。

改めて自分の周りの様子を確認しようとした時


あ!

また居た。
あいつだ。


そう、あのへんてこなリス。
またこっち見てる。



あ!




「待ってぇ〜〜〜〜〜〜。」

リスってすばしっこいから
いくら私が頑張って走っても追いつきっこないはず
だけどそんなことその時は考えてなかった。
追いかけなきゃ。
そう思ってあいつの後を追う。






だけど・・・・



「あ〜あ、また見失っちゃった。」


ど〜しよ。
さらに迷子のレベルを上げちゃったよ。
と悩みを深くしようとした私に見えたのは


「あ!家だ。」


そう、いつのまにか戻ってきてたんです。
喫茶「みどりのいえ」に。





「あら、お帰り。
早かったね。
どうだった?
久しぶりの山は。」

ニコニコと笑ってカウンターで出迎えてくれたおばさん。


そんな楽しい散歩じゃなかったんだけどな。
でも・・・


「うん、楽しかった。」
なんだかそう思えた。


こうして一日は終わった。
なんだか疲れたなぁ。
ベッドにばたんと横になった私は即夢の中へ。


〜くすくすくす〜

山の中で聞いたあの笑い声が
なぜか聞こえたような気がした。





(つづく・・・かもしれない)