−−SS「なごりづき」−− |
赤い色をした満月の夜 姉さんが亡くなったのはこんな夜 そうみんなから聞かされた。 叱られるかもしれないけれど 私は鍵をかけられた机の引き出しを開けてみる。 私の部屋なのに…私のものじゃない場所。 そこは私が来るずっと前から その部屋の持ち主によって 鍵をかけられた場所。 そう、ここは姉さんの場所。 知らせを受けて郷里に帰った時には 既にお葬式も済んだ後だった。 姉さんが最後に住んでいた場所も 訪れた時には片づけられた後だった。 だけど… その場所だけはどうにもならなかった…らしい。 運よく、というより仕方なくそのままにされていたのでしょうね。 その後 偶然…? いや私自身が志望して 姉さんがいた職場で働くことになった。 部屋も同じ場所を使わせてもらえることになった。 荷物を入れるため、掃除をしていたら 押し入れの扉の片隅から鍵が出てきた。 そういえば、姉さんはよく こんなところに隠していたわね。 大切なものを… きっとこれがあの開かずの引き出しの鍵 そう思いさっそく試してみる。 カチャリ 開いたその場にあったもの… でもこれだけは私だけの秘密。 何が入っていたかばらしちゃうと叱られるもの。 部屋はすっかり私の好みに変えちゃったけれど ここだけはさわらなかった。 だからあの時のまま ずっと、変えずに残してある。 もう帰ってはこないと 分かってはいるのだけれど 姉さん… 貴女が生きていた証として この場所はこのままにしておきます。 私が来るまでは 誰にも触れられなかった場所なのだから。 これからもずっと 赤い色をした満月の夜 こんな静かな夜は 姉さん… せめて、貴女のことを思って…泣かせて下さい。 今夜一晩、精一杯泣けば 明日からはまた いつもの私に戻りますから |
−1999年11月27日 サクラBBSにて発表− |