お古カメラ

 

 

「フォクトレンデル ベッサII」


お洒落な6X9判蛇腹カメラ

ドイツはフォクトレンデルのベッサIIである。フォクトレンデルは世界で最古の

カメラメーカーの1つであると言われている。創業は1756年と言うから249

年も大昔のことで、これはかのモーツァルト生誕の年でもあるから驚きである。

そして永年にわたって優秀なレンズを持った多種多彩でユニークなカメラを創り

続けてきた。これもその中の代表格の1つで、サイズは6X9であるからそれなり

に大きい。巾がおよそ17cmぐらいか。このカメラの美点はなんと言ってもその

姿形であろう。フォクトレンデルのカメラは後半に入ってシンメトリックなデザ

インを基本とするようになった。中判のベッサシリーズはフォクトレンデルを代

表する蛇腹カメラで1929年頃から50年代後半まで製造されたと言うが、こ

れはその最終型である。一眼式レンジファインダーを持ち、ピントはカメラを構

えて左親指と人指し指で左肩のダイアルを回して調節する。右肩のダイアルはフ

ィルム巻き上げノブであるが、これも中をよく見ると左右対称のデザインにする

ためにわざわざギヤを一枚かませてダイアルの位置を内側に持って来ると言う凝

り様である。カメラ底部のボタンを押すと静かにゆっくりと蛇腹の蓋が起き上が

る。そしてその蓋をゆっくりと開ききってやるとカチッと心地よい感触と共にレ

ンズ部が定位置に治まる。その動きはあくまでもスムースでなんのストレスも無

い。蛇腹の蓋を開けると同時にその付け根の所にシャッターのレリーズレバーが

あらわれる仕掛けもなかなかに凄い。両手でしっかりとホールドし、ゆっくりと

ピントを合わせてからそのレバーを左人指し指で静かにレリーズすればよい。バ

シャバシャと撮るカメラではない。ブローニーフィルムをゆっくりと巻き上げな

がらのんびりと撮影そのものを楽しむカメラであろう。この個体はカラースコパ

ーと言う大変に抜けの良いレンズが付いている。他にもカラーへリア、アポラン

ター等と言うレンズの付いたものもあったが、取り分けアポランター付はその中

古価格がとんでもなく高騰し手が出せるものではないが、だからと言ってその写

りに変わりがそれ程あるものでもない。ただ中古市場の原理に基づいて玉数が少

ない結果コレクターズ価格が付いているだけの事である。ずっしりとしたこの個

体を持ち歩く時は写真の左に見える手提げの皮製の取っ手を持てば良い。最近の

スィッチを押せば写るというカメラではなくその取り回しは不便ではあるが、使

用にあたってはなんのストレスも感じないから不思議である。これはひと昔以上

前に職場で北海道旅行をした際、夕方の僅かな自由時間に札幌を散策し探し当て

たカメラであった。以後何本ものブローニー判リバーサルフィルムを通してきた

からもう既にこの蓋を開けても北海道の空気は出ては来ない。勿論買ったその夜

はサッポロビールで大ジョッキを傾けながら焼肉を食し、モノクロームフィルム

で撮りまくったものである。北海道は札幌の思い出深いカメラのひとつである。






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