フィッシュアイタクマーである。むにゅっと歪んで写るあれである。いま「ほにゃらの視点」に
掲載してある写真がその作例である。これは高松の常磐町は伊藤カメラを覗いたときにす
みっこに転がっていた。いつものようにショーケースにサラっと目線を走らせたら、目がこれ
に引っかかった。薄っぺらいぺったんこのレンズである。恐らく1960年代に作られた所謂対
角魚眼の草分けであろう。全周魚眼はニコンの独壇場であった。7mmや8mmなど、何種
類かのレンズが目も飛び出るような高額で出されていた。これらは、気象台で全天の雲量
を計るものであったり、オーロラや星など、そう言った学術的な目的で開発されたものであ
った。対角魚眼というレンズは、それらの歪んだ世界を手軽に味わえるコンシュマー向け商
品として開発された。普通、魚眼レンズと言うと大きな前玉がデン!とあって、こけおどしに
はまったく威力を発揮するのではあるが、これはそうはいかない。一時期、パンケーキレン
ズと言う薄っぺらいレンズが各社から発売されたが(これらは不人気でほとんど営業的に
は失敗であったが、それだけに市場に出てくる中古としての玉の稀少さ故、バブルの頃は
高値で取引されていた)それら以上に薄い。これはピント固定の絞りが11〜32で、しかも
ターレット式のもの。早い話がミノルタTC-1のあれである。だからと言って「完全円形絞り」
って自慢されても困るしかないが、絞り開放の8で古いペンタックスのファインダーはかろう
じてピーカンの野外で見える。32になんて絞ろうものなら、ファインダーはまったく役に立た
ない。しかし、32にまで絞らないと妙に怪しい像を結んで楽しませてくれる。32だと手前数
十cmから無限まで、なんとか使える。おまけにレンズ前玉にこすり傷があって、これが超
広角の宿命で、逆行だと写る。EOSの方が多少はファインダーが明るいかもと試してみた
が、ミラーアップの瞬間にミラーが当るから、これはやめたほうが良い。結局ライカに付け
るのが無難であると言う結論に至る。ファインダーはコシナの15mmが使えるから問題は
ない。一眼レフにつけると、レンズを装着していないように見えて、なかなかチャーミングで
はあるが、ベッサのLにも似合っている。委託販売で置かれていた物であった。目出度し。