「キューガーデンのセントポーリア」

1997年11月21日にイギリスのキューガーデンを訪問してきました。 今回の目的はキューガーデンに保存されているセントポーリアの原種をみること でした。これまでセントポーリアについてはアメリカでの人気が高い事もあり、 原種の研究もアメリカが進んでいると思われていましたが、以前よりキューガー デンにも原種が保存されていると聞いていたため、思い切って訪問することに しました。  キューガーデンには世界最大といわれる4万種類の植物が収集されており、 地球上で花をつける植物の10%は収集されているといわれておりそれらの植物 の一部は、テンプレートハウス、パームハウス、プリンセスオブウェールズコン サーバトリーといった巨大な温室で一般に公開されています。また、キューガー デンでは植物に関するありとあらゆる研究を行うため、標本や種子なども多数 保存されています。 セントポーリアは熱帯雨林の中で咲く植物として分類され、プリンセスオブウェ ールズコンサーバートリーの中に展示されています。ここの展示室の特徴は、 すべての植物について原種が展示されていることです。もちろん、セントポーリ アについても交配種はなく原種のみが地植えにされています。 原種についてはここで展示されている他、ナーセリーと呼ばれる育成用の栽培 温室で保存されています。ナーセリーは一般には公開されていませんが、今回は 熱帯職部担当のロバートウッドマン氏の案内により見ることができました。 ウッドマン氏は大学で植物学を専攻し、キューガーデンに就職後は高山植物を 担当していましたが、昨年から熱帯植物を担当することになったそうです。 ナーセリーにはセントポーリアだけでなく他のゲスネリアや、サボテンなどが 所狭しと並べられていました。キューガーデンに保存されている原種は39種類 ありました。これらはタンザニアなどの原生地で採集されたものとアフリカの セントポーリア収集家、故メーサー夫人のコレクションから寄付されたものです。 私は、今までアメリカから原種を集めたり、色々なところで原種を見てきたのです が、39種類のうち、今まで見たことのないものが少なくとも20種類位はあり、 非常に驚いてしまいました。しかもこの20種類の中にはトレイラーやミニ、葉の 形状が変わったものがあり、興味深いものでした。花は従来の原種と変わらず 青やうす紫の一重のものばかりでした。これらが将来交配に使われることにより、 今までに無かった新しい花ができる可能性を考えると楽しくなってしまいます。 収集されている原種についてはまだ十分な研究がされていなく、整理ができていな いとのことで、同じ名前のついた違う原種が5種類あったりします。ただ、今の所 これらがすべて原種として認定されているわけではなく、原種からの変種、あるい は野生交配種の可能性もあり、今後の研究が期待されます。 キューガーデンは1800年代から世界中に調査隊を送り、植物の収集を続け、 現在でも毎年アフリカをはじめとする色々な国に調査隊を送り、植物の採集を続け ています。採集された植物はすべてその採集者、採集年月日と採取地の状況等の 記録とともに保存されています。 原生地では絶滅したといわれていたプシラが一昨年イギリスで保存されているの が見つかった聞いていたので、キューガーデンで見ることを期待していたのですが 、残念ながらプシラはなく、実物を見ることはできませんでした。 原生地のセントポーリアは現在、絶滅の危機に瀕しており、近々、ワシントン 条例にも原生地からの国外持ち出し禁止植物として追加されるそうです。キュー ガーデンではアフリカ各国に植物園を作り、将来的には各国でも独自に研究が 行えるようにし、保存活動も行えるようにするための指導や協力もおこなって います。アメリカでも原生地の伐採された森林を元の状態に戻すため植林活動を 行うための募金活動がおこなわれていますが、いずれにしても、一度破壊した 自然を元に戻すのは大変な事です。  今回の訪問は単に見た事の無い原種を見たと言うだけでなく色々な事を考え させられるものとなりました。