「そのかわり……条件があるの……今夜は私と一緒にいて欲しいの」
綾波さんは僕の目の前にアスカの家の電話番号が記されているであろうメモを差し出した。
このメモを手に取れば……明日には北海道へ……でも……
綾波さんの言わんとしている事が分からない程僕は子供でも無かった。
いつ運行を再開するか分からないフェリー…… 明日をも知れぬわが運命……
僕はそれらを天秤にかけ、
悩んだ末に…… 僕は綾波さんの手からメモを受け取った。
アスカを訪ねて三千里
第20話「風雨」
僕は受け取ったメモを震える手で折り畳んで財布に入れた。
綾波さんはそんな僕を微笑みながら見ていた。
財布に入れた後 僕は何と言っていいか分からず、綾波さんの紅い瞳に魅入られていた。
「シンズ君 しょっつるできたけん 降りて来なよ」
その時、天の助けか旅館の主人がドアをノックしながら言った。
「あ、はい 今行きます」
僕はそう答えてちらっと綾波さんの方を見ると僅かに微笑んでいた。
「急だったけど私の分もあるみたいね」
綾波さんはそう言いながら立ち上がった。
「じゃ……案内するよ」 僕はドアノブを開けながら言った。
「さ、シンズ君どんどん食べなよ」
旅館の主人自らが鍋料理を作るのも珍しい
だが、彼の作る秋田料理はどれも美味しかった。
「美味しいです しょっつる鍋って初めて食べたんですが やみつきになりそうです
ハタハタもいい味出してるし 秋田の料理っていいですね この間のキリタンポも美味しかったですし」
僕は箸の手を休めながら答えた。
「そう言ってくれると嬉しいなぁ んだけど、ほんどは秋田で作った米と地鶏でねえと本当のキリタンポは
出来ないんだけど……こんな時代だしな」 水没した秋田県の出身だと言う事は前に聞いてはいたが、
故郷を失うと言う事は辛いものだと僕は再認識し、孤児院でアスカや皆と最後に夕食を取った日の事を思い出した。
ふと綾波さんを見ると食べるのに夢中になっていた。
あの綾波家ではこんな料理出ないからだろうと僕は納得して、一心不乱に食べてる綾波さんが微笑ましかった。
「あんたが秋田料理作る度に思い出すねぇ」
おかみが追加の材料を入れたボウルを手にして入って来た。
「そだなぁ……あれから15年かや……」
断片的に聞いた処によると、もともとこの旅館に雇われていた料理人だった彼が、
帰郷の為秋田県に帰った時、セカンドインパクトが起こり秋田県が水没し始めた時
おかみの事を好いていた彼は命からがらここに戻って来たそうだ……
その後 婿養子となってこの旅館を継いだとの事だった。
「そういやぁシンズ君も北海道まで旅するんだってな……大事な人が……いるのかい?」
思い出にひたっていた彼はふと僕の方を振り向いて言った。
僕は隣に綾波さんがいるのでどう答えるか迷っていた。
「シンジったら家の事情で遠くへ行ってしまった幼なじみを家出してまで追いかけようとしてたんです
ようやく私が追いついたから、北海道に行く人の飛行機に同乗させて貰える事になったんですけど……」
綾波さんはさらっと半分ぐらいが作り話なのに答えてみせた
「じゃシンジ君 もう行っちゃうのか……寂しくなるな」
出会った時、助手席に座っていた人が僕の方を向いて言った。
「ところで、他の方はどうしたんです? 姿が見えないんですが」
「今日は漁の方が入れ食いらしくて、近海漁業の船に助っ人で行ってるんだよ
もともと沈んだ故郷では漁師やってた連中だし……俺は風邪引いちまって行けなかったんだよ」
「なるほど……それで漁協の車を借りる事が出来るんですね……」
「そっかぁ おやごさんに反対されてたんだな……ま、こればっかりは親に止められようが
好きなモンは好きなんだよな……」 旅館の主人はずっと考え事をしていたがおかみをちらっと見て言った。
「やだよあんた……こんな処で惚気ないでよ」 おかみは少し顔を赤らませていた。
「ごちそうさまでした」 綾波も食べおえていたので僕はそう言って立ち上がっていた。
闇に惚気ている二人への言葉でもあったが……
「あ、シンズ君 風呂が沸いてるから入るといいよ 女風呂も久しぶりに掃除したそうだから
お姉さんも入ればいいよ」
「あ、シーツ交換で後で部屋に入らせて貰うよ」 おかみさんが僕らの方を向いて言った
「分かりました それじゃ」
僕は二人に挨拶してその場を立ち去った。
僕たちは取り敢えず部屋に戻った 僕は着替えも無いので部屋に戻る必要無いのだが、
綾波さんはそういう訳にはいかないだろうから……
「これ……多分サイズ合ってると思うけど」
綾波さんは鞄の中からまだパッケージされている下着と肌着を僕に手渡した。
「ありがとう……」 僕は綾波さんの心くばりに感謝した。
おかみさんに言えば洗濯して貰えるものの、乾くまでは下着無しとかの状況だったので、
僕は内心ほっとした。
「じゃ行きましょうか」 綾波さんも自分の分を用意し終わり立ち上がった。
僕は綾波さんと別れて男湯に入っていた。
「一人で入るのも久しぶりだな……」
いつもは下の階の皆が一緒なので賑やかなのだが今日は漁に出ており明日にならないと戻らないし
残った一人も風邪では風呂には入らないだろう……普段は毎日湯を焚かないのに、
その事を知っていながらおかみが僕だけの為に沸かしてくれた事が僕は嬉しかった。
「ふぅ……」 少しのぼせかけたので窓を開けて顔を出して外の空気を吸い込んだ
「碇君……」 声のした方に振り向くと隣の女湯の窓から綾波さんも同じように窓を開けていた。
窓の枠から覗く綾波さんの白い首もとが美しかった。
「オリオン座が見える……第三新東京市じゃ星なんか見えなかったから久しぶりに見たわ」
「あ、ほんとだ……」
「奇麗ね……」
「うん」
僕たちは夜空を見上げて星を見ていた。
だが、段々と雲が山の方から流れこんで来て、星が覆い隠されていった。
「あ……雨だ」 雨がぱらぱらと降り始めたので、僕は窓を閉めた。
少し身体が冷えかけていたので、熱めのお湯に身体をひたした。
綾波さんが用意してくれた下着に着替えていつもの服を着て 僕は男風呂を出た。
待っていたのか、綾波さんが風呂場の前のソファーに座っていた。
白いワンピース状の夜着に身を包んだ綾波さんが眩しかった。
「待った?」
「ううん」
「じゃ、行こうか」
どこへだ
僕たちは歩いて10歩の自室に戻った。
「あれ……」 中に入ると部屋の様子は一変していた。
まん中の通路を挟んで離れていた筈の二つのベッドが、
僕が使ってた窓側のベッドがもう一つのベッドにくっつけられていたのだ。
「どうして……」 僕は室内に入っていった
カラン
僕は何かにけつまずいた。
下を向くと金属製の小さいたらいであった。
「冷たっ」
底の方に僅かに水が溜まっているのに僕は不審がっていると、背中に水滴が天井から流れ落ちた。
「雨漏り対策みたいね」 綾波さんが小さい声で囁いた。
「なるほど……ここ二階だから……」 僕はたらいを元の位置に戻して言った。
「昼までに仙台空港に行かなきゃいけないから、早く寝ましょ」
綾波さんは壁側のベッドに入りながら言った。
「う……うん」
僕は電気を消して服を脱ぎ、寝間着など持っていないので下着のまま通路側のベッドに入った。
数分後 風雨は強くなって来て、窓は激しい風と雨に叩かれていた。
僕は窓の方を向いて横になっていた…… 次の瞬間 閃光が僕の目を射貫いた。
そして少し遅れて遠くの方から雷の音が響いて来た。
「恐いの
その時、綾波さんがそっと僕の手を掴んだ。
「雷が恐いの?」 僕は綾波さんの方に向き直って言った。
「いえ……碇君がアスカさんの処に行って戻って来ないんじゃ無いかと思うと恐くて……」
その時、僕は綾波さんのあの言葉の真意を知った
「寒い……」 綾波さんが僕の手を握ったまま囁いた
僕もそう感じはじめていたので、窓の方を見ると、いつの間にか雨は雪に変わって来ていた。
「寒いの……」 綾波さんが涙を流しながら呟くのを見て、僕は綾波さんを抱き寄せた。
「碇君……暖かい……」 綾波さんも僕の背に手を回して僕を抱きしめた。
「アスカと出会って無かったらきっと……」
だがこれ以上の事は出来ないので僕は綾波さんを抱きしめたまま話しはじめた。
「わかってるわ……今はこれでいいの……こうしているだけで……
素直に渡すのがしゃくだから碇君を困らせようと思ってあんな事言ったの……
碇君の温もりを……私……忘れない……」
涙を流しながら途切れ途切れに独白する綾波さんを見て僕は心の奥底から沸き上がって来る衝動を
押さえるので精一杯であった。
今夜は眠れぬ長い夜になりそうだ……
だが僕は綾波さんを抱きしめたまま、いつしか眠りについていた。
そして翌朝……
僕が目を覚ますとすでに綾波さんはベッドを出ていた。
部屋にもいないので、どうやら顔でも洗いに行っているのだろう……
僕はベッドから出て服を着終わった頃、綾波さんが中に入って来た。
「下の階の人たちの乗る船が昨夜の嵐で座礁したらしいわ」
綾波さんは入って来るなり僕に向かって話しはじめた。
「まだ救助はされて無いんですか?」
「座礁する直前に無線で救難信号が出たらしいけど、今は無線で呼びかけても返事しないそうよ」
「今はもう晴れてるけど、救助船とかは出てないんですか?」
「座礁しそうな地域が多すぎて、どこに船を出していいか分からないそうよ」
「じゃ……飛行機で上空から探せば……」
「一機しか無い飛行機も今日は予約されているわ……私にね」
綾波さんはどうするの?とでも言いたげに僕を見つめて言った。
「飛行機の事なら今日は私の一存でどうにでもなるけど、
北海道に行く? 救助活動に使う? どうするの? 碇君」
綾波さんは僕の眼を見て言った。
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究極の二者択一だな
よくやったな・・シンジ
問題無い・・・
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どうもありがとうございました!
第20話 終わり
第21話
に続く!
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