「う〜〜〜。ミサト〜〜おなかすいた〜〜〜」
「ん〜〜〜。冷蔵庫の中に何かあるでしょ?」
「そんなもん、とっくに食べ尽くしたわよ」
「じゃあ、カップラーメンなんかは?」
「それももう無いわよ」
「じゃあ、近くのコンビニで何か買ってくる?」
「またぁ? もう飽きちゃったわよ」
「それじゃあ、アスカ何か作ってくれる? シンジ君が買い置きしてるお米ならまだ
あるでしょ?」
「私に料理ができるわけないじゃないの」
「いばって言う事じゃないでしょ。……それにしても、シンジ君の作る美味しい
料理に慣れちゃったせいか、自分の作る料理が食べられなくなってるとは、意外
だったわね」
「ミサトが作る物は料理なんて言えるもんじゃないわよ。何よあれは、死にかけた
わよ」
「う〜ん……ま、確かにシンジ君の作るもんと比べられちゃあね〜〜〜」
「そういう事は人間が食べれる物を作ってから言ってもらいたいわね。誰と比べ
たってあれは料理と言えるもんじゃなかったわよ」
「あのねアスカ、シンジ君が出てって十日、イライラしてんのは分かるけど、私に
八つ当たりしないでよね。……それにしても……荒れ果てたわね……この部屋……」
そう言って、ミサトは周りを見渡してみる。
キッチンの流しには食器が山と積まれ、テーブルの上にはコンビニ弁当の容器や、
インスタントラーメンのドンブリ等があふれている。また、冷蔵庫の中にはミサトの
ビールしか入っていないという有り様だった。そして、洗濯機の横には洗濯物が
山積みされており、部屋の中も散らかり放題だった。はっきり言って、足の踏み場も
無いほど散らかっている。とても女性二人が暮らしているとは思えないほどだった。
シンジが出て行った後、僅か十日で葛城家は廃虚と化していた。
ちなみに、ペンペンは冷蔵庫の中で毎日泣いていた。
「……シンジ君がいなくなるだけでこんなになるとはね……私たち、シンジ君に頼り
っぱなしだったのね。反省しなきゃね……」
「今さらもう遅いわよ」
「そーねー。でもこれというのも、みーんなアスカが悪いのよ」
「なんでそうなるのよ?」
「だってそうでしょ、一緒に暮らしてる間にアスカがシンジ君をモノにしておかない
から出てっちゃうんじゃないの」
「な、な、何言ってんのよ!?」
「だって、私は夜遅くまで仕事してたし、その間あなた達は二人っきりだったん
だし。いくらでもそのチャンスはあったじゃない。もし二人の間で色々あったなら
シンジ君だって出ていかなかったわよ。『男なら責任取るべきだ』って
言えば、シンジ君の事だからちゃんと責任とってくれたはずなのにね〜」
「な、なによその色々ってのは?」
「だから色々よ。ね〜アスカ、ほんっっっとにシンジ君と何も無かったわけ?」
「あ、当たり前じゃないのよ」
「そっか〜、シンジ君にとってアスカよりレイの方が良かったって事か〜〜〜。
アスカに魅力を感じなかったって事ね」
「何よ、その言い方は!? シンジは単に両親と暮らしたいから出てったん
でしょ。別に私よりファーストを選んだわけじゃないじゃないの!!」
「でも、そのレイは、今シンジ君と一緒に暮らしてんのよね〜」
「うっ」
「ふふ〜〜〜ん? 気になる〜〜〜?」
「べ、別に気になるわけないじゃないの。そもそもバカシンジは一度も私に手ぇ
出した事もないのよ、チャンスなんていくらでもあったのに。こんなに度胸のない
シンジが今度は両親と一緒に暮らしてんのよ。そんな状況でファーストに手ぇなんか
出すわけないじゃないの。ミサトの考え過ぎよ。ファーストだってそんな事に興味
ないだろうし……」
「なるほど、そうやって自分を納得させてるわけね。でもねアスカ、ユイさんが
サルページされた時から、レイの性格がかなり変わってるはアスカも知ってるで
しょ? ネルフで毎日会ってるんだから」
「う、それは……」
「どう見たって、レイはシンジ君と一緒に暮らす事を喜んでるわよ。見てて分かる
でしょ?」
「…………」
「それに、あの眼差し……間違いなくレイはシンジ君の事が好きね」
「…………」
「いいのアスカ? このままじゃシンジ君取られちゃうんじゃないの? もう戻って
きてくれなくてもいいの? もっと素直になったらどうなの?」
「わ、私は……」
「アスカ、ここに電話があるわ」
「え、電話?」
「そ。シンジ君に電話して、『戻ってきて欲しい』って泣きついてみたら? それで
シンジ君が戻ってきてくれるんなら安いもんでしょ?」
アスカは、じ〜っと電話を見つめていた。
「……ミサト……。シンジ、本当に戻ってきてくれるのかな……」
「それはアスカ次第ね」
『ふ〜ん……アスカ、やっぱり寂しいんだ……近頃元気なかったし。シンジ君と
レイが同じ方向に帰るのを寂しそうに見てたもんね……。私としても、シンジ君が
いてくれないと何もできないし……戻ってきて欲しいし……。アスカ、頑張るの
よ、素直になって』
ミサトが見守る中、アスカはようやく電話を手にする。
と、その時、チャイムが鳴った。
ぴんぽ〜ん♪
「ん? 誰かしら……」
「あ、ひょっとして、シンジが帰ってきたんじゃあ?」
アスカは一気に明るくなり、玄関まで走って行った。
「ふふ、ちょっとは素直になってきたのかな……」
そう思いながら、ミサトも玄関に向かう。
「シンジ、お帰りっ!」
そう言ってアスカは玄関を開ける。しかし、そこにいたのは、トウジ、ケンスケ、
ヒカリだった。シンジではなかったので少しがっかりしたが、疎開していたヒカリが
戻ってきたので、アスカの顔は久し振りに笑顔が浮んでいた。
「ヒカリー! 帰ってきたんだ!」
「ええ、今日戻ってきたところなのよ。それでアスカに挨拶しようと思ってね。
そしたら途中で鈴原と相田君に会ったから一緒に来たの」
「そうだったの。あ、あがって、ヒカリ」
「お邪魔します」
「……ワシらは無視かい」
「あ、そうか、あんたらもいたんだ」
「なんやてー!?」
「それにしても、惣流が玄関まで出てくるとはなー。いつもならシンジが出てくる
のに……シンジのやつ、どうかしたの?」
「う。ま、まぁ入んなさいよ」
「ほな、お邪魔するわ」
「そうさせてもらうよ」
「あら、あなた達も帰って来てたの。お久しぶりね、元気してた?」
「はい、ミサトさんも元気そうで何よりです」
「ふふ、ありがと。ちょっち散らかってるけど、ま、遠慮なく入って」
そう言って、ミサトとアスカは三人を招き入れる。
「う……こ、これは……」
「いったい、なにが……」
「アスカ、碇君、病気かケガでもしてるの? こんなになるなんて……」
「い……いや……その……だから……ね」
アスカが言いにくそうにしていると、ペンペンが駆け寄って来て、ヒカリの足に抱き
着いた。
「ん、ペンペンどうしたの? 涙なんか流しちゃって……」
『ペンペンの裏切り者ぉ〜。私ん家より洞木さん家がいいって言うわけ〜〜〜?』
(ま、ペンペンの気持ちも分かるが……)
「それがね、シンジ君は今ご両親と一緒に暮らしてて、ここにはいないのよ」
「え? でもシンジ、母親いないって言ってたはずじゃあ……」
「ま、まぁ色々あってね……。あ、そうだ、今からみんなでシンジ君の家に遊びに
行かない? 私もまだ正式に挨拶に行ってないし……」
「そ、そうねミサト、すぐ行きましょう」
「シンジ君の両親、どんな人やろ?」
「ほんと、楽しみだね。お父さんが再婚でもしたのかな?」
「どこなんですか、碇君の家?」
「そんなに遠くないから心配しないでいいわよ。あ、そうだ。あなた達、ちょっと
お願い聞いて欲しいんだけど、いいかな? ご馳走するから」
「はい、なんでっしゃろ?」
「もちろん、ミサトさんのお願いなら何でも聞きますよ」
「実は……恥ずかしい話なんだけど……掃除して欲しいの……」
「はぁ?」×3
「ヒカリ、お願い! このままじゃあ私たち、命に関わるのよ、
お願いっ!」
「……なるほどね、碇君がいなくなった途端これという事は、今までアスカ、何も
してなかったのね」
「う……。そ、その通りです……」
「ふう、仕方ないか。それじゃあまず、下着とかの洗濯は私がやるから、鈴原たちは
ゴミを捨てたり食器の方を頼むわね。アスカはとりあえず私の手伝い。ミサトさんは
捨てていい物といけない物を分けて下さい」
「は〜〜〜い」
こうして、ヒカリの指揮のもと、なんとか人間の住める環境にまで戻ったので、
全員で(ペンペンもヒカリが抱いたまま)シンジの家へと遊びに行く事になった。
<つづく>