「じゃあ、いただきます」
『碇くん……死なないで……死なないで……死なないで……
死なないで…… 〃 〃 〃 ……』
『神様、奇跡を起こして下さい……。生贄がいるのならミサトの命を
持ってって結構です。どうかミサトの作った……物体を……人が
口にしても平気な物に変えて下さい……』
シンジが食べる事を決めたため、二人は祈る事しかできなかった。
……ぱく
「う」
スプーンを口に入れたままの姿勢で、シンジは固まってしまう。
「……やっぱりこうなったわね」
「碇くん?! 早く吐き出して!!」
「ちょっとシンジどうしたの?! 早く吐いて!!」
しかしシンジはピクリとも動かず、顔から滝のような汗を出し、赤、青、黄と
顔色をくるくると変えるだけだった。そして、口、鼻、耳などからプシュ〜〜と煙を
出し、その場に倒れてしまう。
「碇くん!! 死なないで!!」
「シンジ! しっかりしなさい!!」
「あ、あれ〜〜〜 おっかしいな……」
「おかしいのはあなたの味覚よ!! いつもに増して酷いじゃない
のよ!! 一体何を入れたのよ!?」
「え〜と……確かビタミン剤や各栄養ドリンクを適当に放り込んで……ニラ、
ニンニク、生レバでしょ。それに料理長秘蔵のスッポンエキスと赤マムシエキス、
その他もろもろ、元気の出そうな物は全て入れたおいたから、絶対元気が出ると
思ったのに……どうしてこうなるのかしら??」
「……味見したって言ったわよね?」
「ええ、結構美味しかったわよ」
「……ミサトの舌と胃袋は使徒やエヴァ以上に謎の物体ね。早速料理器具の洗浄
……いえ、バイオハザードの危険性もあるわね。食堂を立入禁止にして、
料理器具全ての破棄、食堂の徹底的な消毒などが必要ね」
「そんな事より碇くんを早く病室へ」
「分かってるわ。こうなるだろうと思って集中治療室にスタッフを待機させてるから
すぐに連れて行くわよ」
「はい」
レイとアスカがシンジの両脇から体を支えようとすると、シンジが蘇生した。
「ぐあぁぁっっ!! か、辛いっっっ!! み、水、水ぅ〜!!」
「碇くん、お水」
「ありがとう!」
ごく ごく ごく ごく ごく
「おかわり」
「え? も、もう無い……どうしよう……」
「シンジ君、私のコーヒーがあるわ。熱くないからこれを飲みなさい」
「すいません」
リツコの手からコーヒーを受け取ると、かなり残っていたコーヒーを一気に飲み
干してしまう。
「ふーーー」
ようやく一息つく事ができたようである。
「碇くん、ジュース買って来ようか?」
「ありがとう綾波、でももう大丈夫だから」
「良かった」
「でも、何でこんなに喉がヒリヒリするんだろ?」
「だから言ったじゃないの、ミサトのカレーなんか食べるからよ」
「え? 僕が!? 何言ってんだよアスカ、僕がミサトさんのカレーなんて食べる
わけないじゃないか」
「ううう、シンちゃんまでそんな事を……」
「あ……す、すいませんミサトさん……つい……その……」
「……碇くん……今……私の事……綾波って呼んだよね」
「あ、そう言えば私の事もアスカって呼んだ。シンジ、記憶が戻ったの?」
「え? 記憶? え、あれ……僕は……あれ? 一体今まで何を……? ? ?」
「シンジ君、私たちの事分かるの? 自分が誰だか分かるの?」
「え、ええ」
「まぁ、ミサトのカレーの正体を知ってるんだから、記憶は戻ってるようね」
「失礼ね!!」
「でも、何だか碇くん、混乱してるみたい……。大丈夫碇くん?」
「う、うん、大丈夫だよ」
「記憶の混乱ね。一時的なものだと思うからすぐに良くなるわよ。でも、記憶が
戻って、記憶を無くしてた時の記憶は消えてるかも知れないわね」
「ま、いいんじゃない。何にしても、やっと元のシンジ君に戻ったんだしね」
「碇くん、私の事、私の事分かるよね? 覚えててくれてるよね? 元の……私の
好きな碇くんだよね?」
「うん。綾波、ちゃんと覚えてるよ」
「碇くん!!」 抱きっ ぎゅ〜〜〜
「うわっ!? ちょ、ちょっと綾波……あ、あの……」
「碇くん! 碇くん! 碇くん! 〃 〃 〃 」 ぎゅ〜〜〜
「あ、あう〜〜〜」 真っ赤
「ああー!! こらレイ! 何て事を!!」
「アスカも行けばいいじゃないの」
「そうそう、さっきの勢いはどうしたのかしら?」
ドン!
「うわっ!」
ミサトとリツコに突き飛ばされ、アスカもレイと同じようにシンジの胸に飛び込む
形となってしまう。
「ほらほらシンちゃん何してるの。早く抱きしめてあげなさい」
「あ、は、はい」
ミサトにそう言われ、慌ててレイとアスカを抱きしめる。それに伴い、アスカも
シンジの背に手を回す。もちろん、レイはとっくにそうしている。
『……ま、まぁいいか。レイだってしてるし……』
自分にそう言い訳すると、そっと目を閉じ、身体中でシンジを存在を感じる。
そうする事で、今までの不安が嘘のように消えていくのが自分でもはっきりと
分かった。
『……確かに結構いいわね、こういうのも……変に意地張る事もないか……。
それに……ここ(シンジの胸)って思ったよりずっと居心地いいし……。失敗した
な……もっと早くこうしてれば良かった……。レイにばっかりいい思いさせてた
のか……。これから取り返さないとね』
『二人の温もり……恥ずかしいけど……何だか落ち着けるな……。二度となくしたく
ない……二度と……」
「これも、私の料理のお蔭よね〜〜〜ん」
「そうね、余程衝撃が強かったのね。いわゆるショック療法というやつね。
データとっておこうかしら」
「うっさいわね!!」
「でも、ショックで治るんだったら、レイやアスカがキスしてれば治ったかも知れ
ないわね」
「あ〜駄目よそれじゃあ」
「どうして?」
「だ〜〜〜って、キスくらいしょっちゅうしてるだろうし、今さら刺激にはなんない
わよ」
「してないわよ!!」
「そ、そ、そうですよ。何言ってんですかミサトさん」
「あら、そうなの? 遠慮なんかしないでしてればいいのに。そんな風に抱き合うん
仲なんだから」 にや〜〜〜
「うう……」 かぁ〜〜〜
『……あら、赤くなるだけで離れようとしないわね。一歩前進かしら?』
「ミサト、ここは三人だけにしてあげるのが親心ってもんよ」
「そうね。じゃあ私達は席外すけど、感動の再会も程々にしときなさいよ。知っての
通り、ここにはカメラがそこら中にあるんだから、見られて困るような事は控える事
ね。ま、せいぜいキスくらいにしときなさいね」
「だからしないって言ってるでしょ!!」
「私はしたい。碇くん、キスしよ」
「ほええっ!?」
「こ、こらレイ、さっきのミサトの話聞いてなかったの。ここにはカメラがたくさん
あるのよ」
「だから?」
「だ、だからって……人が見てる所でする事じゃないでしょ」
「じゃあ碇くん、誰も見ない所に行こ」
「え、え〜〜〜と……」
「ダ、ダメ!!ダメに決まってるでしょ!!」
「フフ、レイは相変わらずね。アスカも遠慮してたら損よ。もっと自分に正直に
なればいいのよ」
「そうそう、シンジ君との再会を祝してとか何とか、言い訳は幾らでも作れる
でしょ」
「う、うるさいわね〜! さっさと出てけ!!」
「お〜こわ」
「ミサト、これ以上からかうと本気で怒りだすわよ」
「そうね。じゃ私達は席外すけど、早く部屋から出てきなさいよ」
「え?」
「シンちゃんの記憶が戻ったお祝いをぱぁーーーっとやるんだから、あんまり
待たせないでね。じゃ、程々にねん」
そう言ってミサトはウィンクをしてリツコと二人で部屋から出て行った。残された
シンジ達は抱き合ったまま見つめ合う。
「…………」
「…………」
「…………」
「……お帰りなさい、碇くん」
「お帰り、シンジ」
「ただいま。ごめんね二人に心配掛けたみたいで……」
「全くよ。一時はどうなるかと思ったわよ。二度と記憶を無くすなんて事ないように
してもらわないとね」
「うん、気を付けるよ」
「でも本当に碇くんが元に戻ってくれて良かった……。それと、ごめんなさい。
私のせいで……」
「え? あぁ、綾波が謝る事ないよ。綾波こそ無事で良かったよ」
「ありがとう。でも碇くん、無理はしないでね」
「そうよシンジ、レイの言う通りよ。私たちを守ってくれるのは嬉しいんだけど、
それでシンジに何かあったら私たちがどれだけ悲しむと思ってるのよ。もっと自分を
大事にしなさいよね」
「う〜ん……でも、綾波やアスカが危ない目に遭いそうになったら身体が勝手に
動いちゃうから……これは治らないと思うよ」
「でも……もし私たちを守ろうとして碇くんが……死んじゃったら……私は……
私は……生きていられない……」
「大丈夫だよ綾波、僕は死ぬつもりはないよ。だって、死んじゃったらもう会えなく
なってしまうだろ。そんなの嫌だからね。でも、綾波とアスカは何があっても守り
たいから、そのためなら死なない程度の無理はするさ。大丈夫、僕は死んだりしない
から。いなくなったりしないから。心配しないで」 にっこり
「碇……くん……」
その笑顔を見ると、レイは嬉しくて嬉しくて何も言えず、ただシンジの身体をきつく
抱きしめた……。
<つづく>