「アスカ……これを受け取って貰えないか? 僕が身に付けるのもあれだし……僕たちが
こうしているのをミサトさんも……喜んでくれてると思うんだ」
シンジはそう言って、白木で作られた十字架のペンダントをアスカに差し出した。
「ミサトの……十字架…… ありがとう シンジ」
こうして、白木で作られた十字架状のペンダントは三度所有者を変える事になった。
「似合うかな……」 アスカは早速十字架のペンダントを身に付けて言った。
「ああ……」 シンジはようやく正統な後継者に手渡せたような気になっていた。
三人の思いを伝えた十字架は陽の光を受けて輝いていた




第11話 「仇敵」


二人が半同棲生活を初めて二週間程経ったある日の日曜日……
アスカはシンジを荷物持ちの名目で街に連れ出していた。

デパートの立ち並ぶ一角は旧ジオフロントの一部では無かった為復旧も早く、
この地で行われた死闘など無かったかのように客で溢れていた。

もう少しで12月になると言うのに暖かな日差しが二人を包んでいた。

「まだ買うのか? アスカ いい加減にしとかないと寝る場所無くなるぞ」
左手に持ったブティックの袋が手の平に食い込んで痛いので持ち替えたかったが、
右手には靴の入った箱をかかえており、買い物が始まって二時間でシンジは弱音を吐いた。

「シンジの部屋があるから大丈夫よ」 
上機嫌で街を歩いていたアスカは笑みを浮かべたまま振り向いて答えた。

「じゃアスカの部屋はワードロープなのか……」
肉体労働的なバイトをしていたとは言え、コクピットで座っているだけの仕事なので、
足の裏は鍛えられておらずシンジは一歩踏み出すごとに顔をしかめていた。

「ドイツから最小限の手荷物で帰国したから着る物一巡するの速いのよね
 いつも同じ服ばかり着る訳にはいかないし……季節にも合わせないといけないし、
 嫌でも服が溜まる一方なのよ」 アスカは少し真面目な顔をして反論した。

「確かにそうだろうね 四季が戻ってから着る物の種類が増えたから……」
ガフの部屋が開いた後の騒動の際 恐らくは秋を愛したユイの思惑もあってか、
再びポールシフトが起こり、日本には四季が蘇っていたのだ。

更に30分程買い物を続けた後、ようやく二人は遅めの昼食を取る事にしていた。

オムレツとロールパンとスパゲッティとフレッシュジュースのセットを二人は頼み、
シンジは靴を半分脱いで足の裏を解放していた。

ドアについている鐘の音がしたかと思うと、恐らくは短大生らしき若い女性が連れだって
中に入って来て騒がしくなっていた。

奥の少し広めの六人用の席に一行が向かっていった時、一人の女性が足を止めた。
少し癖気の栗色の髪にクリッとした瞳の女性はシンジの顔を見つめ続けていた。
アスカはてっきりNERV第一大学の生徒に見つかったかと思ったが、そうでは無かった。

「碇シンジっ あんたまだのうのうと生きてるの? 信じられないっ」
次の瞬間 先程の女性がヒステリックな声を上げたのだ。

アスカはその女性が何を言っているのか一瞬理解出来なかったが、
シンジの存在すらをも否定するようなその物言いに気づくと、
往年の瞬間湯沸かし器が黙ってはいなかった。

「一体何なのよ あんたっ シンジに何の恨みがあるって言うのよ
もし、恨みがあるにしても あなたにシンジを否定なんか出来ないわっ」

NERV第一大学では少々猫をかぶってはいたものの、アスカの激しい気性は今も健在であった。

いきなり横から反撃されたので、先程の女性はアスカをしげしげと見ていた。

「あんた何よ? もしかしてこいつの恋人? はっ のうのうと生きてるばかりか、
恋人まで作って青春を謳歌してるわけ? 死んだ父さんが見たら何て思うかしら」

そして再びアスカが言い返そうとした時、ようやく店長らしき男が間に入って来た。
「ちょっとお客さーん 他のお客様の迷惑になるので止めて下さい」

「もういいわっ シンジ 出ましょう」 アスカはレシートを掴みレジに向かった。
アスカが支払いを終えると、シンジがようやく両手に荷物をかかえた所だった。

アスカは怒りのあまりドアを蹴り開けたかったが、思いとどまって手で押し開けた。

数分後 二人は公園でアイスクリームを食していた。

「さっきの女一体何だったの? もしかして高校時代に捨てたの?
 私は……別にシンジの昔の事には興味無いんだけど…………」

「松代の高校に行ってから少しして、僕がエヴァの元パイロットだって事が分かったんだ
 NERVの後ろ楯も無かったから、生徒ばかりか教師にまで睨まれてたんだ……
 その中でも彼女はいつもヒステリックに僕を責めたててたんだよ……
 ある時、死んだレイの事までも侮辱したから……殴ったんだ……
 彼女の父親は……戦略自衛隊のコマンドで、NERV本部の襲撃の際に戦死したって聞いたよ」

ようやくアスカは再会した頃のシンジがすさんでいた訳に気づいた。

「その線で言うなら、私はもっと恨み買ってるかもね……戦自のヘリを叩き落としたり
戦艦を叩き割って戦車に投げつけたりしたんだものね……けど、あれは戦争だったのよ
それに戦自の奴らは無抵抗の一般職員まで殺したそうじゃ無いの……それに真偽も分からぬ
ままゼーレに躍らされた政府の命令の前に疑問も抱かずNERVに攻めて来たんじゃ無いの……
自分のした事を正当化するつもりは無いけど、どちらか一方だけに責任をかぶせればすむ
って問題じゃ無いのよ。」 アスカはあまり思い出したく無いであろうあの時の事を
思い出しながら、ぽつりぽつりと語った。

「確かにそうだね……アスカの言う通りだよ……少し気が楽になったよ
僕たちは罪の十字架を背負っているのかも知れない……だけど……いや だからこそ
僕はこの街の再興に力を貸したかった……だからネルファの開発に協力したんだ。」

「シンジ…… 帰りましょ」
アスカは紙屑をゴミ箱に放り込んで言った.
[うん……僕たちの家にね」
靴の箱をアスカが持ってくれたので、シンジはアスカと手を繋いで帰路についた。

この事はこのまま忘却の彼方に忘れ去られるかと思っていたが、
12月に入ってすぐに二人の目の前に大きな壁として立ち塞がる事となった。

大学から二人が帰ると、家の前にマヤがプリントアウトした用紙を手に突っ立っていたのだ。

マヤは無言で数十枚に渡る用紙を二人に手渡して、
「気にしない方がいいわよ」と言って去っていった。

その用紙には、匿名が前提の巨大な掲示板に最近出来たらしい、あの事件のA級戦犯を裁く
といったスレッドのその時点までの全ての書き込みが印刷されていたのだ。

NERVの主要人物は勿論、チルドレン……特にサードインパクトを起こした張本人として、
碇シンジの名が記されており、現在NERV第一大学に在学中である事も記されていた。




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どうもありがとうございました!


第11話 終わり

第12話 に続く!


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