マヤ保健医の午後のひととき
第3話 【THE XDAY】
作:尾崎@マナリアン
今を去る事半年前・・・
「あ、おはようございます!碇先生」
廊下を歩いている、碇ユイの背後から声が響いた。
「マヤちゃん、いつも早いわね」
「もう、来年には、卒業ですからねぇ・・感慨深いです」
「あなたは、成績優秀だったから、卒業なんてハンコ突くだけのようなもんじゃない」
「いえ、そんな」
「私としては、研究室に来てほしかったんだけど、保健医になりたいんですって?」
「ええ、そうなんです」
「あ、そうだ、あなたバイト探してるって言ってたわよね」
「あ、ハイ」
「どう?家庭教師してみない?」
「私に勤まるでしょうか・・」
「私の息子なんだけどね・・今中1なんだけど・・成績が落ち込んでるの」
「確か、シンジ君でしたっけ」
「そうなのよお願い出来るかしら? 時給は1000円一日二時間で、
月6万円前後だけど、テスト前は時間増やすから8万円ぐらい、保証出来るわよ」
「私は嬉しいですけど、そんなにいい条件じゃ無くとも」
「ふふ教え子に只同然で息子の家庭教師させてるとなったら、私クビになっちゃうわよ・・それにね」
「それに?」
「あなた、純粋培養タイプだから、異性と接する事にも慣れないと駄目よ!保健医になるなら、尚更ね」
「そ、そうかも知れないですね・・」
「いきなり、ゴツイの相手に話出来ないでしょうし、うちの息子ぐらいなら、恐く無いわよ」
「そこまで、気を使って下さって、ありがとうございます!やらせてもらいます」マヤは頭を下げた。
「じゃ、明日からお願いね!場所はどうしようかしら・・シンジの部屋でもいいけど・・」
「友達が遊びに来たら、勉強になりませんよね・・良かったら、私のマンションでやりましょうか?」
「そうね・・じゃ、シンジには今晩話しておくから」
「わかりました!」
そして、翌日の夕方
ピンポーン
マヤはレンズを覗いた。
レンズの向こうには、少しおどおどした、以前に会った事のある、碇シンジが立っていた。
ガチャ
「さーどうぞ」マヤは室内に、シンジを招き入れた。
「あ、よろしくお願いします」シンジは、緊張しているのか、深々と頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくね!シンジ君」
「こっちよ」居間に用意した、折り畳みテーブルに、シンジを招いた。
「筆記用具とか教科書は持って来てるわよね」
「ハイ」
「じゃ、最初にいろいろ聞いておこうかな・・あ、座ってね」
「得意な科目は何かな?」
「うーん・・音楽と、社会です」
「じゃ、苦手なのは?」
「英語と理科と数学です」
「じゃ、数学で、今やってるのどの辺り?」
「えーとここです」シンジは教科書を開いた。
「この、数式理解出来る?」
「わかりません・・来週小テストがあるんですけど・・困ってるんです」
「じゃ、わかりやすく、この数式を分解していくわね」
30分後
「どう、理解出来た?」
「ハイ!」
「じゃ、応用問題をやってみましょうね」
「あ、参考書持ってるの?」
マヤは、シンジの鞄に手を伸ばした。
だが、シンジもその言葉を聞いて、取り出そうとした所だった。
触れ合う、手と手
「あっごめんなさい」
「す、すみません」
二人とも、真っ赤になって口篭もってしまった。
(初めて、男の人の手・・触っちゃった・・)マヤは、心を平静に保とうとしていた。
「あ、これに応用問題載ってます」シンジが参考書を開いた。
「じゃ、それやってみてね!私お茶入れて来るから」マヤは立ち上がって、キッチンに向かった。
マヤは、父を幼い内に無くしてしまっていたので、男性とまともに接した事が無いのであった。
運動会のフォークダンスも、恥かしいやらで、参加した事が無かった。
マヤは、レモンティーの入った、カップを二つ乗せて、シンジの元に歩いて行った。
かちゃり
「あ、すみません」シンジが恐縮しているようだ。
「さ、どうぞ」
「あ、応用問題、やってみました」シンジはノートをマヤに手渡した。
「じゃ、見てみましょうか」マヤはレモンティーを時々すすりながら、ノートを見た。
「全部合ってるわね!シンジ君・・成績落ちてるそうだけど、
ゆっくり説明して貰ってたら、そんな事無いんじゃ無いかな・・」
「そ、そうですか」
「だから、遅れそうになった所は、私に言えば説明してあげるからねっ」
「ありがとうございます!」
「もう、家庭教師なんだから、当然の仕事じゃ無い!そんなお礼言わなくても・・」
「仕事・・ですか・・」シンジの顔が少し下を向いた。
「私だって・・生徒は選ぶのよ・・シンジ君は私が初めてとった生徒なんだから・・」
「ホントですか?」シンジの顔がぱぁっと明るくなった。
「じゃ、これ飲んじゃったら、理科やりましょうか」
「ハイ!」
そして、次の週
ピンポーン
「どうぞ!」マヤは扉を開けた。
いつもの場所に座った途端、シンジが鞄からテスト用紙を取り出した。
「マヤ先生!一昨日の小テストの結果が戻って来たんです・・見て下さい・・」
シンジは、マヤにテスト用紙を差し出した。
「どれどれ・・あっ100点じゃない!」マヤの顔が輝いた。
「マヤ先生のおかげです・・僕・・中学校に入ってから・・100点取ったの・・初めてなんです」
「シンジ君の努力の成果よ・・毎日二時間きっちりと通って勉強したじゃない!
もっと、自分に自信を持たなきゃ駄目よ」マヤはそういって微笑んだ。
「はい、ユイ先生に見せてあげたら、喜ぶと想うわよ」マヤはテスト用紙を返した。
「なにか、ご褒美がいるかなぁ・・100点取った事だし・・」
「いえ、そんな・・」
「あ、そうだ!これこれ!」マヤは引き出しの中から箱を取り出した。
「前、ゼミのボーリング大会で優勝した時に貰ったの」封を切っていない箱をシンジに差し出した。
「何ですか?」
「開けてみて」
「あ、ハイ」シンジが箱を開けると、中にはS○NY製のSDATが入っていた。
「こ、こんな高いものいいんですか?」シンジは驚いていた。
「いいのよもらい物だし、同じやつ買ってたから・・ホラ」マヤは同じデザインのSDATをシンジに見せた。
「買った次の週に貰ったのよ・・これにね、英語の単語を吹き込んで、それをいつも聞いてたら、単語覚え易いわよ」
「ありがとうございます」
「二個も持ってても仕方ないしね、あちょっと待ってね・・この参考書の小テストやっててくれる?」
「ハイ」
マヤは自分のSDATとディスクを持って、奥に入って行った。
30分後
「出来たっと・・マヤ先生遅いな」シンジは足を崩してリラックスしていた。
「マヤ先生から・・プレゼントして貰うなんて・・しかも・・お揃いのを・・」
シンジはSDATを、撫でていた。
「お待たせ!シンジ君」奥から、マヤが出て来た。
「ハイ!これ」マヤはシンジにディスクを手渡した。
「何です?」
「英単語よ私が吹き込んだの」
「ほ、本当に・・ありがとうございます」シンジは喜びのあまり、涙を流していた。
「もう、大袈裟なんだから・・」だが、マヤも悪い気はしなかった。
1時間後
「それじゃ、失礼します」
「気をつけて帰ってね」
「あ、そうだ!来週から中間試験よね・・明日の土曜日は昼からいるから、
良かったら、いらっしゃいよ」
「ハイ!」
「そうだ・・シンジ君・今学年で何位だったかしら」
「78位です・・」
「じゃ、今度の中間試験で50位に入るのを目標にがんばりましょうね」
「がんばります!」
「それじゃ、また明日!」
「マヤ先生・・」シンジはSDATから流れる、マヤの声を聞きながら呟いた。
シンジは、テスト期間中、マヤのマンションに入り浸って、個人教授して貰っていた。
そして、中間試験結果発表の日・・
マヤは、買い物袋を下げて、スーパーの中を歩いていた。
「あら、マヤちゃんじゃない」
「碇先生」
マヤとユイは喫茶店で話をしていた。
「最近ね、寝る前にも復習してるみたいなのよ」
「そうですかぁ」
「それに、テストも、結構いい線いけそうって言ってたわよ」
「発表が楽しみですね」
「マヤちゃん・・あなたがここまでやってくれるとは思わなかったわ・・
本当に、ありがとう・・」
「そんな!、なにせ、碇先生の愛弟子ですから・・当然の事ですよ」
「あらら、逆に切り替えして来たわね」
「あ、そうそう少しは男性と言うものに慣れた?」
「そ、そうですね・・シンジ君と接してると、
なんか自分の殻に閉じこもってたのが馬鹿らしく思います」
「男の人にもシンジ君みたいに、純粋で、可愛い子がいただなんて・・」
「あなた・・本当に純粋培養の箱入り娘ね」
「そんな・・恐かっただけですよ」
「お父さんでも生きてたら、ここまで臆病にならなかったかも知れませんけど・・」
「それじゃ、今後もよろしくね」
「ハイ!」
マヤはユイと別れて、町をぶらついていた。
「そうだ・・参考書買わなきゃ」マヤは専門書のおいてある、書店に入って行った。
30分後
「選ぶのに時間かかっちゃったわね・・」
マヤは、マンションの階段を登っていた。
「もう、1時か」マヤは腕時計を見た。
「シンジ君?」部屋の前でシンジが座っていた。
「マヤ先生!」シンジは慌てて立ち上がった。
「あ、今日は半日だったのね!まぁどうぞ」
室内に入り、座るやいなや、シンジはマヤに頭を下げた。
「マヤ先生・・ありがとうございます・・僕・・僕」
「結果・・どうだったの?」
「はい・・学年で12位でした」
「まぁ!本当に良く頑張ったのねシンジ君」
「これ、テスト用紙です・・」返却されたテスト用紙をマヤに手渡した。
「すごいじゃない・97点 85点 92点 87点 あ、英語は100点じゃないの」
シンジは、マヤの声聞きたさに、SDATのマヤの声を、暇さえあれば聞いていたのだ。
「シンジ君・・おめでとう!」マヤは思わず、シンジの手を両手で包んだ。
「マヤ先生・・ありがとうございます」
「もう・・泣く事ないじゃない・・けど・・私も嬉しいのよ・・あれっ私もなんだか」
マヤの視界も涙で歪んでいた。
「マヤさん・・泣いてるんですか?」
「嬉しいのよ・・教えるのなんか、初めてで・・すごく不安だったの・・
それに男の人とろくに話した事も無かったから・・本当に教える事が出来るのかなって
保健医になっても、やっていけるのかなって想ってたの・・けど・・
シンジ君のおかげで、私も自信がついたのよ・・」
「マヤさん・・」
「そうだ・・シンジ君にごほうびをあげなきゃ・・」
「僕・・何もいりません・・マヤさんさえいてくれたら・・僕・・僕・・マヤさんが好きです!
マヤさんがいてくれたから、頑張れたんです」シンジは意を決してそう言った。
「シンジ君・・嬉しい・・」マヤはそっと目を閉じた。
「マヤさん・・」
二人とも、初めてのキスであった。
「ありがと・・シンジ君・・」
「そんな・・」
「今日はゆっくりしていってね」
「ハイ!」
(この後二人に何があったのかは読者の皆さんの想像にお任せします。)
「ねぇ・・シンジ君・・」
「何ですか?」
「私と付き合ってくれる?私・・シンジ君より10も年上だけど・・」
「僕・・なんかでいいんですか・・」
「私には・・シンジ君しかいないもん・・」
「マヤさん・・いや・・マヤ」
「シンジ君・・」
幸せだったら・・年の差なんて・・ねぇ
第3話 終
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