マヤ保健医の午後のひととき
最終話【幼年期との訣別】
作:尾崎@マナリアン
「じゃいって来るね・・マナちゃん」マユミは弁当箱を二つ持って、教室を出て行った。
少しして、浅利ケイタも後を追うように教室を出て行くのを、マナは見ていた。
最近、マユミがケイタの分も弁当を作って持って来ているようである。
おおかた、今ごろ屋上で二人して弁当を広げているだろうと、マナは無気力なまま想った。
「お弁当・・食べなきゃ・・」
10分後・・弁当を食べ終えたマナは、女子トイレに向かっていた。
そして、手を洗っている時、すぐ横で手を洗う音がしていたが、
マナはぼーっとしたまま、自分の手を洗っていた。
「マナちゃん・・お話があるの・・ちょっと時間いいかしら」
横で手を洗っていたのは、伊吹保健医であった。
「何ですか?」マナは無表情なまま答えた。
「まぁいいから・・」
マナはマヤに連れられて、保健室まで歩いて行った。
「あなたが、そんなにまで想っていたのも知らず・・私はひどい事をしてしまったと想うの・・
そんなんじゃ、保健医失格よね・・私、学校辞めようかと想ってるの・・シンジ君とも離れて・・
一応教員免許も持ってるし、北海道の小学校に、行こうかとも想ってるの・・」
「な、何故北海道なんですか?」マナがようやく口を開いた。
「理由はどうあれ、教え子と関係を続けてしまった私の罪は大きいし・・
北海道ならシンジ君もおいそれと後を追ってこれないだろうしね・・」
「碇君の事・・嫌いになったんですか? なんでそんな事するんですか」
「嫌いになれたら・・こんなに辛く無いんだけど・・私が唯一心を許した男の人だし・・」
「その事・・碇君は知ってるんですか?」
「知らせて無いわ・・週末に辞表を提出して、来月一杯で辞めるつもりなの・・」
「辞めないで下さい・・」マナはマヤの手を握り締めた。
「マナちゃん・・私の事・・許してくれるの?」
「先生の気持ちもわかるんです・・初めて好きになった人と・・ずうっと一緒にいたいって気持ち・・」
「私はいいんだけど・・このままじゃシンジ君も駄目になっちゃいそうで・・
お互い、甘えてるようなものだしね・・どうせ、許されないだろうし・・」
「碇君の両親はこの事・・知らないんですか?」
「・・・・」
「そうですか・・」
「私・・伊吹先生と離れ離れになって、哀しい表情の碇君を見たくありません・・・
いつも、いきいきとして明るくて、優しい碇君・・きっと伊吹先生はその一部なんです・・
伊吹先生と出会って無い碇君を、私は好きにならなかったかもしれません。」
「初恋は実らないって言いますよね・・私はそうでもいい・・けど碇君と伊吹先生には・・」
マナはスカートの上に大粒の涙を落とした。
「ありがとう・・けどいつまでも、この関係を続ける事が出来ないって事はわかるの・・
いつかは、シンジ君と別れないといけないのよ・・それが早いか遅いかって事だけなの・・
シンジ君に抱かれてる時はその事を忘れていられるんだけど・・いつも悩んでいたの・・」
「今のままじゃ、お互いにとってプラスにはならないわ・・
今別れたら、シンジ君にとってはいい思い出として残ると想うの・・」
「それで・・本当に・・それでいいんですか?」
「・・・・」マヤは涙を堪えて、手を握り締めていた。
午後の授業中マナは昼休みの事を思い出して、思考が渦のようになっていた。
伊吹先生がいなくなれば、碇君と結ばれるかもしれない・・けど伊吹先生はいて欲しい
伊吹先生がいなければ、寂しい・・哀しい・・碇君と結ばれたい
伊吹先生がいなくなれば、碇君と結ばれるかもしれない・・けど伊吹先生はいて欲しい
伊吹先生がいなければ、寂しい・・哀しい・・碇君と結ばれたい
伊吹先生がいなくなれば、碇君と結ばれるかもしれない・・けど伊吹先生はいて欲しい
伊吹先生がいなければ、寂しい・・哀しい・・碇君と結ばれたい
「霧島!」
「ハイ!」マナは数学教師に声をかけられた。
「この数式を解いてみろ!」
マナは端末に目をやった。
「えーと・・」マナはキーボードを押した。
「さっきの説明聞いとらんかったのか? 間違いだ」
「・・・・」マナはすっかり落ち込んでしまっていた。
そして、翌月の月末には、伊吹保健医退職の話が伝わって来ていた。
そして、伊吹保健医退職の二日前
「赤木先生・・ありがとうございました」マナは頭を下げて理科準備室を出ていった。
「なんで、あんな事聞きに来たのかしらね・・」赤木リツコは首を傾げた。
そして、退職の日・・校庭で行われた全体朝礼で、伊吹保健医が別れの挨拶を述べる間・・
碇シンジは右手を握り締めていた。
「シンジ君・・ありがとう・・引越し・・手伝ってくれて・・こんな私の為に・」
「・・・・」
この事について、マヤとシンジは一月かけて話をして来たのだが、
いつかは終わらないといけない と言うマヤの説得に、しぶしぶ同意したのだ。
実際に辞表を出されてしまった以上止めようが無かったのも事実だ。
「それじゃ、どうも」引越し業者のトラックがマンションを離れて行った。
「駅まで・・送るよ・・」
「・・・うん・・」
駅のホームにて
ピーー 新箱根湯元駅発北海道行き 高速リニア”北陸”が二番ホームに到着します。
「ごめんね・・シンジ君・・」
「マヤ・・どうして行っちゃうんだ・・」
「ごめんなさい・・けどいつかは・・」
その時!
「シンジ!マヤちゃん」碇ユイと、霧島マナが走って来た。
「母さん・・何故ここが・・」
「私が教えたの・・」
「霧島さん・・」
「マナちゃん」
「事情は聞いたわ・・」ユイの厳しい視線がマヤとシンジを見据えた。
「シンジ・・あなた伊吹マヤさんが・・好きなの?」
「・・・好きだよ・・本当は別れたく無いんだ・」
「マヤちゃん・・いや、伊吹マヤさん・・あなたシンジの事・・好きなの?」
「ええ・・けど・・許されない事ですし・・・家庭教師の大任を預かりながら・・」
「誰が許さないと言ったのよ」ユイが微笑んだ。
「えっ?」二人がユイの顔を見た。
「許すも許さないも、お互いの事好きなんでしょ・・誰にはばかる事も無いわよ
それに・・私も主人もマナちゃんから話を聞いた時は驚いたけど・・
あなた達の事・・祝福したいと想ってるのよ・・まだシンジは早いけどね・・
だから・・婚約すればいいのよ・・シンジが大学を卒業したら、晴れて結婚出来るわ」
「碇先生・・本当にいいんですか?」
「母さん・・」
「わかったよ・・母さん・・」
そしてシンジはマヤの肩を掴んで言った。
「きっと・・きっと迎えに行くから・・その時は・・・結婚してくれるかな・・ マヤ」
「ウン」マヤは涙を流しながらシンジに抱き着いた。
「向こうの任期は何年なの?」
「2年の約束です・・」
「じゃ、任期が終わったらまた戻って来なさい・・シンジの大学受験の為の家庭教師もいるしね・・」
ユイが微笑んだ。
「母さん・・ありがとう・・」
「さ、もう時間よ・・」
「ありがとうございます・・」マヤはユイと手を取り合った。
「じゃ、気をつけてね・・」
「マヤ!帰って来る日を待ってるから!」
ドアガラスを挟んでマヤとシンジは向き合っていた。
白線までお下がり下さい 危険ですので白線までお下がり下さい。
そして、マヤの乗るリニアは、新箱根湯元駅を離れていった。
「霧島さん・・ありがとう・・」シンジはマナの手を取った。
「お礼なんか言ってほしく無いわ・・本当は二人を別れさせて、私が碇君を一人占めする為に、言いつけたんだもん・・」
そう言いながらも、マナの流す涙が、その言葉に偽りのある事を現していた。
そして、幼年期は終わりを告げた。
8年後
「さぁ・・行こうマヤ」
「・・・あなた」
二人は手と手を取って、控え室を出ていった。
二人の船出に幸多からん事を
マヤ保健医の午後のひととき
完
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