第三新東京市の地下に広がるジオフロント

その地に建てられたピラミッド型の建築物 NERV本部

そしてその最上階の不必要に広い司令室の住人 碇ゲンドウ……

彼の生態について我々はあまりにも知らなすぎる。

誰もがあえて死地に赴いてまで彼を知ろうとはしなかった為、

彼の真の姿を知っているのは14年前に死んだ妻のユイと師でもあった冬月ぐらいだろう……



「恋愛小説家・ゲンドウ」

この作品は、映画”恋愛小説家”とエヴァのリミックスFF(ファンフィクション)です。

第1話 「命名:ニャキエル

作 尾崎貞夫



NERV最上階の司令室でキーボードを打つ音が断続的に響いていた。
時折紙をめくる音と電子承認機が作動する音が響くだけでそこには人の気配と言うものが感じられなかった。

時間は11時45分 一般職員は何を食べるか思案し始めている時間である。

断続的に続いていたキーボードの音が咳払いと共にようやく止んだ……

「ふん 11時45分か 予定通りだ……」
ゲンドウは承認作業を経た書類をまとめて袋に入れ、酷使し続けて来た肩の筋をほぐした。

「碇 今日は冷麺にでもするかね」
音も無くドアが開き、冬月副司令が現れた。

「いや、今日はこれで上がりだ 飯は何か買って帰ってから食う」
ゲンドウは荷物を手に立ち上がりながら答えるとも無しに呟いた。

「そうか……それで今日はそんなに勤勉だったのか……」
冬月は訳あり気に笑みを浮かべた。

「何かあったら連絡してくれ」
ゲンドウは憮然とした表情のままドアへと歩きはじめた。

「半休を取らざるを得ないって事は計画に遅延でも出たのかね?」
決済事項が全て完了しているか袋に入った書類を確認しながら冬月は呟いた。

「……そんな処だ」
ゲンドウは振り向かずに答え、司令室を出て行った。

司令室の扉が閉ざされ、薄暗闇に戻った頃 冬月は確認を終えた書類を手にして呟いた。

「可愛い人なんですよ……か……」


10分後、NERVの大食堂には交代で食事を摂りに来た職員で溢れかえっていた。

窓際の席で伊吹マヤが本を片手にしながらサンドイッチとボンゴレスパゲティを食べていた。
マヤは食事もそこそこに本を読む事に集中していた。

「あら、マヤちゃん 必死になって何読んでるの?」
カレーライス大盛りと水が乗ったトレイを手にした葛城ミサトがマヤの前の席に座った。

「あ、これですか? 水桜由紀の新刊です 夕べ終わり近くまで読んでたんですけど、
一番いい処で眠くなっちゃって、続きが気になって持って来てたんです」
マヤは少し恥ずかしそうに笑みを浮かべて答えた。

「ああ、水桜由紀ね 私も数冊読んだ事があるわよ 小説なんだけど時折主人公の心情を
描く為にポエムみたいな表現する作家でしょ?」
ミサトはカレーライスをスプーンでかき混ぜながら言った。

「私全巻持ってるんです 代表作のマディソン郡の恥なんか10回以上読みましたよ
読む度に、こんな素敵な小説を書く由紀さんってどんな女性(ひと)なんだろうなって
思うんです。」 マヤはフォークにスパゲッティをからめながら言った。

「そういえば、さっき司令がムッとした顔で歩いてたわよ……
ここに来るかも知れないから、その本しまっといた方がいいわ……
絶対ネチネチ言われると思うから」

「ほんとですかぁ? うーんいい処なのになぁ
どうせ理解出来ない司令には由紀さんの本を見せたく無いし……」
マヤは本をポーチに入れながら言った。

「それは言えるわね おっと盗聴器なんかついて無いわよね」
ミサトは笑いながらテーブルの裏側を手でさすった。

「もしついてたら二人ともNERVアラスカ支部に左遷ですね」
笑いながら言ったマヤの顔が凍りついた。

「ん…… どしたの?」 ミサトはようやくマヤの異変に気づいたのか、
振り向き、マヤの視線の先を凝視した。

「げっ 噂をすれば影ね……ほんとに盗聴されてるんじゃ……
やなもの見ちゃった カレーがまずくなるわね」
ミサトはゲンドウがこっちに来ないように祈っていた。


「うな重の上をテイクアウトで」
ゲンドウは食堂のおばちゃんに食券を渡しながら言った。

「テイクアウト? そんなのやってませんよ ここで食べて下さい」
だが食堂のおばちゃんは無下にも断った。 勇気のある行動と呼ばなければなるまい。
ゲンドウを相手にNOと言える職員など冬月ぐらいのものだからだ。

「何ぃ? 前いた人はテイクアウトさせてくれたぞ
それに私はNERVの司令 つまりここの全施設の長だ その私のちょっとしたお願い
を聞いてはくれんのかね 私には時間があまり無いんだよ」
その言葉にカチンと来たゲンドウは大人げなくムキになった。

「特例は作らない事 全員に公平で平等に職務にあたるような指導をしたのは、
ここの所長さんじゃ無かったんですか?」
だが、食堂のおばちゃんは手ごわかった オバタリアンはヒゲより強し?

「ぐっ……わかった ここで食えばいいんだろうっ」
ゲンドウは食券をカウンターに叩きつけて言った。


ゲンドウはうな重が出来上がるまで爪でコツコツとカウンターを叩きながら、
何かを呟いていた。

ようやくうな重の上が出来上がり、ゲンドウはトレイにうな重とセルフサービスなので
自ら用意したお茶を乗せて、空いた席を探して周りを見渡した。

マヤ達が座っている窓際の席が空いているのを見つけたゲンドウはトレイを手にして
二人の元に歩いていった。

二人は先程の事もあり、ゲンドウが接近して来るのを見て震えていた。

「ここ……いいかね」
ゲンドウはトレイを置いてから、一言断った。
そういうのを事後承諾と言うのでは無いだろうか……このヒゲ……もとい司令に
こう言われてNOと言える人は……少しくどいか

「ふぁい」 動揺のあまり口にスプーンを突っ込んだままミサトは答えた。
マヤは息が詰まったのか、苦しげに頷いた。

ゲンドウは二人に問いかけはしたものの、まさか断られるとは思ってもいないので
返事を待たずもう箸を割っていた。

ようやくミサトとマヤも正気に帰ったが、
ゲンドウが横で食べている間は何を食べても砂を噛むような思いだったに違いない。

「お先に失礼する」 ゲンドウは懐から出したハンカチで口元を拭って立ち上がり、
出口に向かって歩きはじめた。

だが、セルフサービスであるからトレイと容器を自分で持っていかないといけないのだが、
ゲンドウはその事を知らないのか、そのまま出ようとしていた。

マヤとミサトもその事に気づいていたが、ゲンドウを呼び止める訳にもいかず
自分達で片づけようと思っていた。
二人がもう少し興味を示せば、トレイの上に箸袋を折って創った王冠状の箸置きが
ある事に気づいたかも知れない……


「ちょっとあんた ここはセルフサービスですよ? 自分で食べたものの後片づけ
は自分でしなさいな」 先程のオバタリアンに指摘され、ゲンドウは血相を変えて
自分の席に戻りトレイをひっさげて洗浄する係員の目の前に叩きつけた。

「まったく不愉快だ……」 ゲンドウはぶつぶつ言いながら食堂を出ていった。

ピラミッド状のNERV本部の建物内にある自分の部屋に戻って来たゲンドウは
四重にかけられた電子ロックをNERVのカードと指紋と音声識別と眼の光彩による
チェックを終え、ようやく開かれた。 よっぽど他人に見られたく無い部屋なのだろうか

上着を脱ぎながら部屋に入ると、足元に何かが飛びついて来た。

「タマだったか……いや ミケだったかな」
ゲンドウはじゃれついて来た小猫を抱き上げた。

「何 腹が減ってるのか?」 ゲンドウは紙袋から猫缶を取り出して缶切りで開け始めた。

TRRRR その時 電話の音が鳴り響いた。
だがその電話はNERV内で使われている回線の呼び出し音では無かった。

ゲンドウは外部に繋がる秘守回線の受話器をあげた。

「私だ……」
「先生! やけにのんびりしてますけど、〆切は今夜なんですよ? 本当に大丈夫
なんでしょうねぇ 前回みたいに輪転機止める訳にはいかないんですよ
第参新日本印刷がヘソを曲げちゃってるんですよ 待たせたあげく落ちたんですから」

「いや……それは……予定外の使徒が来たからで、原稿は八分通り出来てたんだが……」

「先生の表の仕事の事は知ってますけど、先生を待ってる大勢の読者がいる事を
忘れないで下さいね で、今晩でOKなんですね? じゃっ」
編集者は一方的に確認を終えると電話を切った。

「ふぅ……ん?」
受話器を置いたゲンドウの横に先程の小猫が愛おしげに近づいて来たのだった。

「……まったく私の仕事の邪魔をしてくれおって…… 赤木博士から聞いたおまえの名前を
忘れてしまったし…… 名前を付けてやろう…… 「ニャキエル」でどうだ?
私の仕事の邪魔をすると言う点では使徒と同じだからな」
と言いつつもゲンドウは猫の顎を中指で撫でていた。

話は二週間前に遡る。
NERV技術部E計画担当 赤木リツコを密かに一方的に慕っているゲンドウは、
リツコがドイツにあるNERVの支部に一ヶ月の出張に行く間、誰かに猫を預かって欲しい
と触れを出した直後に猫を預かると自ら名乗りを上げたのであった。

ゲンドウに一方的に慕われているものの、リツコはゲンドウをただの性格が破綻している
ヒゲの上司としか見ていない為、ゲンドウの申し出に眉を潜めたが、
他に受入先が見つからなかったので、嫌々ゲンドウに預ける事にし、一ヶ月分の猫缶と
砂の入った箱を渡してドイツに行ったのだ。

実はゲンドウは猫など飼った事など無く、最初はあまり興味を抱かなかったが、
小猫はこんな性格が破綻しているヒゲでもエサを与えてくれる人なので、
なついてしまい、そのせいでゲンドウの執筆速度が落ちてしまったのが、
前回の休載の原因であったのだ。

「あと400行か……何とかなるな」
ゲンドウはコンピューターの前に座り電源を入れ、ワープロソフトを起動した。

「えーとピエールとシモンがエリーゼに同時に求愛した処からだったな……」
展開を思い出すや否やゲンドウは両手で見事なタッチタイピングで
キーボードを叩きはじめた。」

「おおエリーゼ あなたを愛しています あなたの為なら例えこの身が……
いや、この分を文頭に回すべきか……」
ゲンドウは時折台詞を口ずさみながらキーを叩きつづけた。

「にゃー」 小猫はそんなゲンドウを見て、遊んでくれないの?と呼びかけた。

「ええいニャキエル 仕事が終わったら何でもしてやるから」

あんたの仕事は日本を守るのが仕事じゃ無かったのか?

………………………………
………………………………
さて、ゲンドウの真の姿を垣間見る事になりましたが……
え?もう充分? こんなヒゲの話なぞどうでもいい?
ごもっともな話ですね

それでは皆様さようなら(笑)

希望があれば続きを書かせて貰います。




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どうもありがとうございました!


第1話 終わり

第2話 に続く(かも)


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