「凄いわね……原稿料も印税も全部基金にしちゃうなんて……どんな女性(ひと)
なのかしらね……けど、原稿料も印税も基金にしてるって事は他に本業でもあるか
主婦なのかしらね」 リツコは水桜由紀と言う作家の事について考えていた。
だが、心の底に意図的に沈めていた言葉が浮かび上がって来た……
「ユイ基金……」元ゲヒルン時代からの職員で碇ユイの名を知らぬ者はいない……
だが、その二つを重ねる事に理由など無かったが、リツコはなぜだか落ち着きを無くしていた。
数分後リツコが携帯端末でメールチェックした時……
冬月からのメールが一通まぎれ込んでいた。
そのサブジェクトには……
ユイ
と記されていた。
「恋愛小説家・ゲンドウ」
この作品は、映画”恋愛小説家”とエヴァのリミックスFF(ファンフィクション)です。
最終話「偽りの仮面(後編)」
作 尾崎貞夫
「もう9時か……」 ゲンドウは時計を見てため息をついて呟いた。
三日間の休暇の間に溜まった決済すべき書類や様々な報告書……
それらの全てに目を通ししかるべき処置をする事で
今日一日はあっと言う間に過ぎ去っていった。
ゲンドウは無言で立ち上がり 床を鳴らす靴音も寒々しい司令室から出ていった。
待つ者もいない家に帰る事などとうに慣れたと思っていたが、
この感情は現在の境遇が変わらない以上一生ついてまわるものかとゲンドウはうなだれた。
夕食を摂っていなかったがゲンドウはNERVの食堂に行って食べる気がしなかった。
無遠慮な視線に苛まれる事などもう無いが、
人の集まる所に行くと自分が孤独だと言う事を思い知らされる事が堪えがたいのだ。
ゲンドウは食堂へ行く事の出来る別れ道で一度足を止めたが、再び自室へと歩きはじめた。
ゲンドウは薄暗い廊下を一人歩きながら前世紀の流行歌を思い出していた。
・
クリスタルキングの大都会を聞きながら読んでね(笑)
・
角を曲がり自室に近づいて行くとドアの前に見覚えのある猫が横になっているのに気づいた。
「ニャキエル……」 ゲンドウが小声で呟くと横になっていた猫が頭をもたげた。
ゲンドウにニャキエルと命名された猫はゲンドウを認めるや素早く起き上がり
ゲンドウの足元まで歩いて行き、ゲンドウの足に頭をすりつけた。
「どうしたんだ? リツコ君はまだ帰って無いのかね? 腹が減ってるのか?」
ゲンドウはニャキエルの頭を撫でながら問いかけた。
「おまえの好きなチーカマだ 食うか?」
ゲンドウのチーカマを盗み食いしてからはチーカマを好んで食べるようになっていた
ニャキエルはゲンドウが差し出したチーカマを目を細めながら食べていた。
「またリツコ君が心配するかも知れんな……電話を入れておくか……」
玄関先でチーカマを食べるニャキエルを見ながらゲンドウは呟いた。
久しぶりにニャキエルに会ったのだからもっと可愛がってあげたかったのだが、
それをすると別れがまた辛くなる……ゲンドウはその事を誰よりも理解していた。
ゲンドウは懐に入れている携帯電話を取り出してプッシュしようとした。
「その必要はありませんわ 碇指令」
その時 リツコが曲がり廊下の角から姿を現した。
「リツコ君……」 ゲンドウは事態が理解出来ずに混乱していた。
ニャキエルはどうしたの? とでも言いたそうにゲンドウの足にまとわりついていた。
ゲンドウがかまってくれないのでニャキエルは半開きになったドアからゲンドウの部屋の
中に入っていった。
「私に話でもあるのかね……じゃ中で話を聞かせて貰うよ」
ゲンドウはリツコを室内に招き入れた。
第三新東京市を牛耳っているNERVの司令としてはゲンドウの部屋はあまりにも質素であった。
必要な機能以外は求めないゲンドウの性格のせいではあるが……
4部屋あるが2部屋しか使って無い事からも一人暮らしの寂しさが滲んでいた。
使っているのは書斎と寝室 使わないのは台所を含むリビングと応接間である。
その滅多に使わない応接間にゲンドウはリツコを招き入れた。
「意外に……こざっぱりしてますわね」
一番濃いゲンドウの執筆部屋を見てないせいか、
普段使われていない応接間をリツコはしげしげと見回していた。
「公務以外で私を訪れる者などいなかったからな……」
ゲンドウはソファーに座りながら呟いた。
「冬月副司令もここにはいらっしゃらないんですの?」 少しは進歩したのかゲンドウが
差し出した缶入りのお茶の栓を開けながらリツコは問いかけた。
「仕事でいつも私の側にいるから、プライベートぐらい私の顔を見たく無いんだろう」
ゲンドウは自虐的な笑みを浮かべて言い放った。
ゲンドウは何故リツコが訪れたのか、その理由を考えながらお茶を飲んでいたので
リツコが鞄から本を二冊取り出すのに気づかなかった。
「で、今日はどういった……」 ゲンドウは顔を上げリツコを見ようとして机の上に
置かれた二冊の本に気づいて言葉を失った。
「MAGI内の司令の為の領域に保存されているものを見させて貰いました……」
リツコは表情も変えずに言い放った。
「個人領域のパスワードはいくら管理者の君でもわからない筈だが……」
ゲンドウは平静を装って問いただした。 だがお茶の缶を持つ手が僅かに震えていた。
「二週間程前にパスワードが変更になった事がわかりましたので……試しに思いつく単語
を入れてみたらヒットしましたわ…… ニャキエル……あなたが私の猫に付けた名を……」
ニャキエルは自分の名をリツコに呼ばれたので、リツコを見て嬉しそうに鳴き声をあげた。
「ブルートフォースアタックかね…… 学生時代は天才ハッカーと呼ばれていた君にしては
あまりにもおそまつな手法だね……もっとも猫の名を付けた私が愚かだったのかも知れんが」
ゲンドウが作業中の文書や過去の作品を保存している個人領域を見られたと言うのに
その事にたいして踏み込んで来ないと言う事は中に入っただけで満足したのかと
ゲンドウは思っていた。
「私はあなたを誤解していた事に気づきました。 とある方から司令の個人領域を見てみろ
と書かれたメールが届いたのです……豊中出版の車が月に数度職員用駐車場に止まっている
事に気づかなければ信じられない内容でしたわ……水桜由紀先生」
リツコのその言葉にゲンドウは表情を変えた。
ゲンドウは何と答えていいかわからず、リツコもそれ以上何も言わなかったので
応接室は不自然な沈黙に満ちていた。
「伊吹二尉にこの事を教えたら引きつけをおこして倒れそうですわね」
少ししてリツコは対峙していた緊張を緩めてお茶を手に取って言った。
「伊吹二尉?」
「彼女 あなたの大ファンなんですよ……正確にはあなたの作品のね……」
「冬月か……冬月なんだな……」 ゲンドウは小声で呟いた。
「冬月副司令がどうかいたしまして?」
リツコは見え透いたような事実をさも知らないような顔をして言った。
「あなたを誤解していたと先程言いましたよね……その誤解に母との関係の事があります」
「ナオコ君の事かね……」
「この小説を読んでわかりました……あなたは母を母の能力故に尊敬していた協力者として
見ていた事がわかりました……まだ学生気分が抜けてなかったあの頃……あなたが母と
密談しているのを見て私は完全に誤解していました……そしてその後の母の死に関しても」
「誤解か……私は見た通りの人間だからね……どこまで誤解かどうかはわからんよ」
ゲンドウはすっくと立ち上がりリツコを見下した。
「口封じですか? あなたが? そんな度胸なんか本当は無いんでしょう?」
リツコも笑みを浮かべながら立ち上がった。
「…………」 らぶ米まがいなシロモノを書いた事もあるゲンドウは、
それを知られているリツコにこれまでのような態度を取る事が出来ない事に
遅まきながら気づいた。
「出来るものなら……早く口封じしてみて下さいよ……碇司令」
リツコがうっすらと差している口紅が天井の照明によって照らされていた。
「………………」 ゲンドウはすでにパニック状態に陥っていた。
「そんなあなただから……好きなんです」
リツコはそう言ってゲンドウを抱き寄せ自らの唇をゲンドウの唇に押しつけた。
「リツコ君……」
少ししてお互いの唇が離れた時、ゲンドウは荒い息使いのままリツコの少し恥ずかしげな
微笑みに見入っていた。
「前から司令の事が気にはなっていたんです……あんな性格破綻者が……失礼……どうして
こんなに気になるんだろうって……近づけば近づく程あなたが遠く見えたんです……
あなたにこれほどまでに愛されたユイさん……母の嫉妬も今ならわかるような気もします」
「やっぱり……あなたから口封じして下さい……もう一度……」
「リツコ君……」 ゲンドウはリツコを抱きしめて口づけを交わした。
どちらからとも無く舌が差し込まれ二人はお互いの口内を味わっていた。
ゲンドウはソファーにリツコを横たえようとしたが、リツコは黙って首を横に振った。
「…………ああ」 ゲンドウはリツコを両手で担ぎ上げて寝室に向かった。
翌日の午後4時……
「今日はシンクロテストの日じゃ無かったのかね?」
ゲンドウは地下の実験施設に現れ、一人キーを叩いていたマヤに問いかけた。
「何でもテストプログラムにバグが見つかったそうで、今日は中止だって先輩……
いえ、赤木博士が言ってましたが……」
「そうか……」 朝目ざめるとすでにリツコの姿は無く、
今日は委員会がらみの用件で忙しくリツコの姿を見て無かった為
ゲンドウは夕方になってからリツコの姿を求めてうろうろしていた。
一時間後 規定の帰宅時間になった為、ゲンドウは重い足取りで自室に向かった。
ドアを開くと玄関でニャキエルが寝転がっており、ゲンドウは驚いた。
「どうしておまえがここにいるんだ……確かに朝いなかったからリツコ君が連れ帰った
と思ってたんだが……」 ゲンドウはニャキエルを抱えて呟いた。
「あ、リツコさん それは不燃物扱いになりますからこっちの袋に入れて下さい」
「あら、そうなの? はいシンジ君」
台所の方で赤木リツコと息子 シンジの声がしたので、ゲンドウはニャキエルを放り出して
早足で台所に向かった。
台所では空きビンや空き缶やレトルトの食材や出前の丼が散乱していたのを
シンジとリツコが手分けして掃除していた。
「あ、父さん」 シンジはゲンドウの足音を聞きつけて振り向いた。
「リツコ君……シンジ……これは一体何事かね」
ゲンドウは訳がわからず二人を問いただした。
「このキッチンこそ何事かって程汚れてましたわよ 司令」
「そうだよ父さん 冷蔵庫なんて練りワサビとキムコと二ヶ月前の納豆しか入って無かった
し……これじゃミサトさんレベルだよ」
以前会った時は自分に対してびくびくしていた息子がいつしか成長しているのを見て
ゲンドウは驚いていた。
「碇司令補完計画ですわ その要となるシンジ君を連れて来ましたの」
「あ、大丈夫 書斎にはまだ手をつけて無いから……
どれが必要でどれが不要かわからなかったから」
どうやらシンジにも真実を教えたようで、シンジはにこっと笑って答えた。
「二人で料理でも作ろうかと材料買って来たのに、このありさまだったのでまだ出来ない
んです 司令も手伝って下さい」 リツコは自分の部屋から持って来たのか猫のアップリケ
付きのエプロンをつけていた。
「あ……ああ」 ゲンドウは二人の指示にしたがい分別したゴミを袋に入れ、
指定された場所に運んでいった。
一時間後……
すっかり奇麗になったダイニングキッチンではシンジとリツコが作った
寄せ鍋を三人が食べていた。
「けど、父さんもどうして僕にリツコさんの事言ってくれなかったの?
僕が父さんの再婚に反対するとでも思ってたの?」
かなり拡大解釈しているらしいシンジがゲンドウに問いかけた。
「いや……その……そういう訳じゃ無かったんだが」
まさか昨日関係を結んだばかりとは言えずゲンドウは口ごもっていた。
話は二時間前にさかのぼる。
シンクロテストが中止になったので、シンジはミサトの家で本を読んでいた。
その時電話が鳴り響いた。
「はい もしもし?」 シンジは起き上がって電話をとった。
「そのまま聞いて 今ガードを解いたからそこから出られるわよ」
電話の声は赤木リツコのものだった。
「リツコさん」 シンジは訳がわからず声の主の名を読んだ。
ピッピッピッピッ
人通りのほとんど無いゲンドウの部屋の前でリツコが小型パソコンと接続した
カードをゲンドウの部屋のカードロックにあてがい、パソコンのキーを叩いていた。
「そんな事して、本当にいいんですか?」
シンジは小心故かリツコのその行動をそわそわしながら見つめていた。
「大丈夫よ……それにシンジ君……君も真実を知る必要があるわ」
リツコはそう言ってカードをスライドさせた。
「ここが父さんの部屋……」 一緒に連れて来ていたニャキエルが真っ先に部屋に入った。
そしてリツコはゲンドウの秘密を話ながらゲンドウの部屋をシンジと共に歩いていった。
「うわっ 何ですかこれ」 シンジは台所の惨状を見て声をあげた。
「(昨日はその部屋は見なかったから気づかなかったわ……)凄いわね」
「取り敢えず片づけましょう」
「そうね」
このような事があったのであった……
話は再び鍋を囲んでいる三人に戻る……
「満腹だ……こんなまともな料理を食べたのは久しぶりだ……」
ゲンドウはシンジとリツコが作った寄せ鍋を食べおえくつろいでいた。
「よかった……」 シンジは初めて父に料理を食べて貰えて感動すらしていた。
「けど、父さん……3人で住むにはこの部屋狭いよね」
「何だと?」 ゲンドウはシンジの爆弾発言に驚いた。
「え……そういう話なんじゃ無いの? 父さんとリツコさんが再婚するから、
その説得の為にリツコさんが僕を連れて来たんじゃ無いの? 違ってたの?」
シンジはびくびくしながらリツコがロックを解除して入って来たのを思い出した。
「え……いや……その……」 ゲンドウは僅かに赤面して答えに窮していた。
「私はその気なんだけど……あなたのお父さんが煮えきらなくてね」
リツコはにこっと笑って言った。
「リツコ君……」 反対にゲンドウは脂汗を流していた。
「僕……反対なんかしないよ 父さん……何なら最初は邪魔にならないように
ミサトさんの所に僕はいてもいいし……」
「もし……再婚するのなら……シンジ おまえも一緒に三人で暮らしたい……
そう思っている……これまで親らしい事の一つもしなかった私にはおまえに
それを強制するつもりは無いがな」
「シンジ君がいてくれないと困るわよ 私は……」
「父さん! リツコさん……いや、お母さん ありがとう」
シンジは満面の笑みを浮かべて言った。
その翌日 ゲンドウが司令室に行くと、すでに冬月が待ち構えていた。
「リツコ君から聞いたが……どうやらうまくいったようだね……」
冬月は微笑をたたえたまま呟いた。
「…………」 ゲンドウは言葉も無く、恩師の心づかいに心の底から感謝していた。
「碇……ユイ君の残したシンジ君の幸せの為にも、その方がいいと思ったんだ……
おまえもいつまでもユイ君の事を引きずって生きる訳にはいかないしな……
おまえにはシンジ君やリツコ君と明るい未来を手にする必要があるんだ……
それこそがユイ君の望みでもあると思う。」 冬月は淡々と語った。
「冬月先生……仲人を頼めますか?」
ゲンドウはサングラスを外し、精一杯の笑顔を作って手を差し伸べた。
冬月は黙ってゲンドウの手を取り握り締めた。
数ヶ月後
ゲンドウとリツコのささやかな結婚式は大勢のネルフ関係者によって祝福された。
その披露宴ではゲンドウとリツコ……そしてシンジが手を取り微笑んでいた。
エピローグ
結婚式のあった日の翌週の朝7時……
「父さん 校正のチェックは終わったよ」 シンジは眼をしょぼしょぼさせながら
分厚い校正用紙を手に書斎に現れた。
「すまんなシンジ」 ゲンドウは読み切り分の執筆に追われていた。
「じゃ私は校正の変更分の修正をしますわ」
リツコはシンジから受け取った校正用紙を手にして、
眼を通すや画面に向かい素早いタッチでゲンドウが書いた原稿の修正をしていた。
「父さん 僕学校に行くから、後よろしくね」 シンジは朝食の準備をして自分だけ
先に食べて家を出ていった。
玄関先ではレイがシンジが出てくるのを待っていた。
二人は手を繋ぎ連れ立って学校に向かって歩いていった。
「ほんの数ヶ月前にはこんな事……想像すら出来なかったよ」
ゲンドウはキーボードを叩く手を止めて呟いた。
「ふふっ お茶でも入れましょうか? シンジが作ってくれた朝食たべましょ」
「そうだな……」
窓から漏れる朝日がゲンドウの頬をさしていた。
眩しそうに眼を細めるゲンドウの顔は安らぎに包まれていた。
恋愛小説家・ゲンドウ
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まさかこんな終わり方だとは予想外
どっちかと言うとアスカの口封じがしたいな
よくやったな・・シンジ
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ここに、何か一言書いて下さいね(^^;
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