「あの子は大丈夫なの?」
 アスカはラミエルだった少女の安否が気になるのか、立ち上がって問いかけた。
「それも良いニュースかしらね……あの少女からは毒物は検出されなかったわ……それと、
意識を完全に取り戻し、普通に話す事が出来るようになったそうよ……葛城三左によく懐
いているそうよ」
「そうですか……ミサトさんに……」
「お母さんって言ってたものね……ミサトは複雑な気持ちかも知れないけど」
「俺はその少女の根本的な危険性は消えていないと思う。可愛そうだけど、何らかの処置
をするべきだと思う…………」
 吉田が逡巡しながら紡いだ言葉は、シンジとアスカの顔色を失わせるには充分であった。


7周年記念作品
【明日を覗けば闇の中】〜続・窓に映るは明日の影〜
作:尾崎貞夫
第23話「処断」


「そんな……いくら危険だからって……殺す理由には……」
 シンジは身体を震わせながら吉田に抗弁した。
「そうよっ! あんたは直接あの子を見てもないのに!」
「殺す理由ね……テロリストにより操られていたとはいえ……警備員が何人死んだんだっ
け……」
「死者14名……重軽傷者12名……放置しておくのは確かに無理があるわね」
 蒼い髪の少女は淡々と事実を口にした。
「恐らく何らかのマインドコントロールも受けている筈だし、本当の意味で正気に戻るの
は難しいのならいっそ……殺した方が……」
「あんた、何言ってるのよ!」
 吉田は激昂したアスカに頬を張られたが、顔色一つ変えなかった。
「これは……俺達だけの問題じゃないだろう……温情からその子を放置しておいて、もっ
と大勢の人が死んでもいいと言うのか? 感情的になるのもほどほどにしろ」
「う……だけど……ミサトさんに懐いてるのよ? お母さんと言ってるような子をあんた
は本当に殺せるの?」
「最終的には碇司令が判断する事ではあるが、殺す必要があるなら手を血で染める覚悟は
あるつもりだ……向こうの世界で……渚カヲルを殺した時のように……」
 吉田は右手を握りしめながら断言した。
「そこまでにしておいた方がいいわよ……貴方も充分感情的になっているし」
 蒼い髪の少女が吉田とシンジ達の中に入った為、緊張状態はやや収まりを見せた。
「…………」
「アスカ……行こう……」
 シンジはアスカの手首を掴んで病室を出て行った。

「友達になれるかも知れなかったんだ……俺も……彼と似たような存在だったのに。俺に
は彼を殺す資格なんかなかった……だけど、シンジを苦しめるぐらいなら……」
 吉田はかつて銃のトリガーを引いた右手の人差し指を凝視しながらつぶやき続けていた。
「あの子達が心配なのは分かるけど……全部貴方がかぶっていては、あの子達が本当の意
味で成長する事はないわよ……分かってるんでしょ?」
 蒼い髪の少女は溜息を一つついて吉田のベッドに腰を降ろした。
「わかってはいるんだが……どうしても……くっ……」
「焦っても駄目よ……とにかく身体を治す事を優先させなさい……じゃ」
蒼い髪の少女は吉田をちらりと一瞥して病室を出て行った。

 翌日…………。

「失礼します!」
 葛城ミサトはやや緊張の色を表情に出しながら会議室の扉を開いた。
「座ってくれ……」
 会議室には碇司令と碇リツコとアスカの母親が待ち受けており、少し離れた場所にアド
バイザーとして蒼い髪の少女が座っていた。
「はい…………」
「君を呼ばずに決定を下そうかとも思ったが……それでは最終的に理解して貰えないので
はないかとの意見があってね……」
「あの子の事ですね……敵に利用されては危険だと言う事は承知していますが……」
「危機管理の常識的に考えれば即処断すべきなのだが……なにせATフィールドを生身で
展開可能な相手だ……下手に敵に回すよりは君のコントロール下に……と言う意見もあっ
てね」
 碇司令は落ち着いた口調で葛城ミサトに説明を始めた。
「アンプルの解析はまだ終わってませんが……あのアンプル無しでも危険な事には違いあ
りません……こちらのチルドレンを危険に晒す可能性は消しておきたいと言うのが正直な
気持ちです……」
 リツコは調査レポートの束を眺めながらミサトを見据えた。
「本人に害意があったとも言い切れないので、私は処分に反対してはいますが、ここ、ネ
ルフに置いておくと言うのは危険ですし、外に出しても奪回される可能性が高いともなる
と……」
 アスカの母親はやや処分に否定はしているが、組織の幹部としての判断が顔を覗かせて
しまっているようであった。
「今のあの子は……私を母親と勘違いしてひたすらに甘えているような状態です。あの子
を守る為なら世界を危機に晒すとは言いませんが、出来うる限りの抵抗をするつもりで
す……」
 ミサトは握りしめた拳を振るわせながら宣言した。

「一言宜しいでしょうか?」
「どうぞ……」
 碇司令はアドバイザーの蒼い髪の少女の発言を許した。
「あの存在を……ネルフの持ち駒にするのは難しいと思いますし、NERV侵入を果たす
程の敵が存在するとなると、再び敵に奪回される可能性は大です。そこで、このようなプ
ランを用意してみました……」
 蒼い髪の少女は端末を操作して、作戦概要を全員の端末画面に表示させた。

「これは……本当に成功するのかね……」
「無茶だわ……」
 碇夫妻は端末を見てかなり動揺してしまっていた。
「葛城さん……貴方はどう思うの?」
 アスカの母親がミサトの顔色を窺いながら問いかけた。
「少しでも……あの子が生きていられる可能性があるなら……やらせて下さい」
 ミサトは立ち上がり、深々と頭を下げた。
「すぐに準備にかかるとして……いつ頃作戦を開始出来るかね?」
「現在動ける二名のチルドレンだけではやや不安なので、吉田繁智の回復を待って行うの
が宜しいかと思います……」
 蒼い髪の少女は、やや不敵な笑みを浮かべて言い放った。




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第23話 終わり

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