昼休みの終わりを告げるベルの音が鳴り響いた時、ようやく綾波さんは僕から離れた。
僕たちはそっと屋上を離れ、教室に向かって階段を降りていった。
「勇気か……今の僕に……綾波さんと同じ事が出来るだろうか……」
僕は惣流さんが僕に笑顔を向けてくれる今の状況が作られたものである事を知りはした……
だけど、その泡沫の夢から目覚める事が出来るのだろうか……」
【窓に映るは明日の影】
最終話「
イコン(聖画像)
」
午後の授業はあっと言う間に終わり、ホームルームを終え 僕は席から立ち上がった。
アスカは僕の事が気になるのか、そわそわと僕の様子を探っていた。
だが、真実を知った今となっては、素直にその感情を受け入れる事は……
僕は出来るだけアスカを意識しないようにして教室を出た。
校門を出て、ため息をついた瞬間 僕はアスカにつかまった。
「何か約束を忘れてな〜い?」 アスカが後ろから僕の肩を押さえて言った。
「アスカ……」 僕はどう説明したものか迷ってはいたが、
このまま去る事が出来ないのは明確なので、アスカの方を向いて言った。
「な、何よ」 いきなり名前を呼ばれたアスカは少し動揺していた。
アスカに状況を説明するべきか……それとも……
真実を隠してアスカと今の関係を続ける事は僕には出来ない……
だけど……アスカにどう説明していいものやら……
悩む僕の頭の中で一つの回答が閃いた。
「いつかは……話さないといけなかったんだ……話すよ……」
僕は暗にここでは話せないと言う事を身振りでアスカに伝えた。
数分後 僕はアスカと共に近くの公園に足を踏み入れていた。
「どういう事だったの? あの子と何を話したの?」
アスカは砂を払ったベンチに座り僕にも腰をかけるように勧めてくれた。
「アスカは……何かおかしいと思った事無い? 僕たちが出会ってから……
いや、正確には僕が今の家に引っ越してからの事だけど……
暴走トラックの時、僕の名前すら知らなかったよね?
なのに、親同士が軽い気持ちで決めた婚約者だった事が発覚したり、
その、デートする事になったり、いろいろあって、君に……告白する事になった事……
あまりにも急で、不自然だとは思わないかい?」
僕は胸の高まりを必至に押さえ、冷静に話していった。
「確かに、言われてみればそうかも知れないけど……
その、そういう時はそういうものじゃ無いの?」
アスカは恥ずかしいのか少し視線を逸らして答えた。
「仮の話だよ……あくまでも仮の話として聞いてくれる?」
「いいけど……」 アスカは首を捻りながらも同意した。
「僕とアスカが 親同士が決めた婚約者で無く、第一幼なじみでも無かったなら……
アスカは……その、僕を受け入れてくれたかい?」
僕は涙を堪えながらも、アスカにもっとも聞きたかった問いを発した。
「馬鹿……自分に自信を持ちなさいって言ったでしょ!
あんた、自分の気持ちがそんなに分からないの? 自分をまず信じられないのに、
他人の事信じられる訳無いじゃ無い」
アスカは悲しそうな目で僕を見つめて言った。
「僕はっ 僕はアスカが好きだ その事には疑いを持って無いよ」
「なら、何で私の事も信じてくれないの? 暴走トラックに跳ねられそうになった時……
あんたの名前を知らないふりしてたけど……本当は知っていたのよ……
ずっと忘れて無かったんだから」 アスカはそう言って鞄に手を突っ込んだ。
「それ、本当なの?」
「これ……ずっとこうして持ってるのよ」
アスカは涙を流しながら手のひらにミニカーを載せて差し出した。
「これは……約束の……本当にあったんだ!」
僕はこれまで抱いていた不安を一気に払拭する事が出来た。
「本当にって、どういう事?」 アスカはしゃくりながら問いかけて来た。
「長くなるけど……これから話をするよ……これは仮の話じゃ無い……」
僕はアスカに 今の家に引っ越して来てからの事を説明し始めた。
夕焼けが街を染め、あでやかな紫色に染められた雲を窓は映していた。
「僕はてっきり……片思いをしていたアスカと急接近出来た事が、
君の仕業だとばかり思っていた……
だけど、本当は……僕の記憶からアスカの記憶を消したのが君に仕業だったんだね」
夕焼けにより刻一刻と色を変える雲を映している窓に僕は語りかけた。
「それは、半分当たっていて、半分間違っているよ シンジ君」
窓から見える風景が一瞬揺らぐと共に、カヲルと呼ばれた存在がうっすらと姿を見せた。
「どういう事?」
「君は僕の事を悪魔か何か邪な存在だと思っているようだが、それは正解では無い……
綾波レイの場合は彼女が自分の欲求を押え込む事が出来なかった為、
結果としてあのような形で彼女の心の問いに答える事になり、
彼女の強い念により、事実は歪められた……
君を彼女に振り向かせる為には、君のアスカ君との思い出は邪魔だったので、
結果として僕は君のアスカ君との記憶を消してしまったんだ。
その後、僕はようやく彼女の呪縛から離れる事が出来た……
そして、徐々に君の失われた記憶と、アスカ君への因果律を正す事が出来たんだ」
綾波レイ……霊能者の素質のある彼女の強い思いこみで僕は産まれた……
「そうだったのか……」 僕は想像以上の出来事に少し混乱しつつも、それを受け入れた。
「君がここに住む事になり、僕は君を試したんだ……僕の試練に負けるような人間なら、
ここから追い出すつもりでね……」
「アスカとの約束の品はどこにあるの? アスカは持ってたんだ」
僕は最後の疑念を解く為、語りかけた。
「その記憶を戻すのを忘れていたね……アスカ君と別れてすぐ、君は父親にねだって
人形を入れるケースを買って貰ったんだよ……隣の部屋に整理されずに残っているよ」
その言葉を最後にカヲルと名づけられた存在は気配を残さず消滅した。
日の暮れかけた公園で僕は一人佇んでいた。
「ママ、あのお兄ちゃん お人形さん持ってるよ? おっきいのにおかしいのっ」
「これ、みづき 指差しちゃいけません」
僕は苦笑しながら、右手に持ったアスカとの約束の品を眺めていた。
いろいろあったが、僕はもう惑わされたりしない…… そう決意した直後、
聞き慣れた足音が背後から近づいて来たので僕は笑みを浮かべて振り向いた。
あなたが今 窓の向こうに見ている風景……今日のものだと……言い切れますか?
あなたが見ているこの窓(WINDOWS)はあなたの心を映します……心しましょう。
(注釈) イコン(聖画像)とは東方教会の信仰の対象で、天国への窓と呼ばれています
また、パソコン用語のアイコンはイコン(聖画像)に由来します。
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今世紀中に完結出来たか
元ネタはギャラリーフェイクきゃ?
よくやったな・・シンジ
問題無い・・・
おまえには失望した
ここに、何か一言書いて下さいね(^^;
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後書き
最終話の内容は二転三転し、結果この内容に落ち着きました。
当初は分岐形式でマルチエンディングを考えていましたが、
多数の答えを用意するのは私にとっての”逃げ”だと思いましたのでこの形になりました。
選択によって分岐させるのが面倒だからと言うのもありますが(笑)
ようやく完結させる事が出来、安堵しています どうもありがとうございました!
どうもありがとうございました!
最終話 終わり
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