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ファーストインパクト
Episode 15 -時の巡りよ、再び-
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<西の国>
全てはこの国から始まり、この国で終わろうとしている。
アスカは一睡もできないまま、運命の日を迎えた。
必ずアタシがキールを倒す。
そして、シンジと・・・。
あんな女なんかにっ!
アスカは、シンジがいるであろう東の空を眺める。
「シンジ……あなたの事が好きです……私の立場ではこれしか言えません」
これから始まる戦い。熾烈な戦いになることは目に見えており、シンジと話をできると
は限らない。自分の想いをその空に向かい言葉で表す。
アスカは、まるで何事もない嵐の前の静けさを思わせる西の国を歩いて回る。民は既に
労働はしておらず、外敵に備え全員で警備を固めている様だ。
「ジオ・フロント・・・。」
マユミに教えられたその名前。民を苦しめ続けた石作りの球状の城が、赤くぼんやりと
光っている。
この赤い光さえなければ・・・。
これ迄も何度か、ジオ・フロントを壊そうと試みたことがあったが、この赤い光に遮ら
れ、術も刃物も一切受け付けない。
これから何が起こるというの?
わからない・・・でも。
必ずアイツは現れる。
その時が最後の機会。
<付近の山>
運命の日の昼下がりになり、ようやくシンジ達は、西の国が見える近隣の山迄辿り着い
ていた。
「あれは・・・。」
反対の山にかなりの数の人の群が見える。シンジには、その集団に見覚えがあった。
レイ・・・。
やっぱり来てるんだ・・・。
既に西の国でも、事態に気付いているのだろう。城壁の周りにありったけの兵を詰め寄
せ守りを固めている。
あれが、ジオ・フロント。
久しく見る西の国の中央に、巨大な球状の石作りの城がある。間違いなくゲンドウの言
っていたジオ・フロントであろう。
「ミサトさん。あれを壊しに行けばいいんじゃないんですか?」
「それができれば苦労しないわ。」
「無理なんですか?」
「完成したジオ・フロントには、心の壁という物が漲っているらしいわ。壊せないわね。」
「そうなんですか・・・。」
「じゃ、今攻め込んであの周りを固めれば。」
「キールの居場所がわからないのよ。」
「でも、あれに近付けさせなきゃいいんでしょ?」
「今日は良くても、未来永劫満月の夜に?」
「・・・・・・。」
「キールを倒さなければ、未来はないわ。」
「そうですね。」
もうすぐ夕暮れ。必ずキールはなんらかの動きを見せることは間違い無い。西,東,北
の軍勢は、嵐の前の静けさとばかりに、じっと時を伺う奇妙な沈黙の中にいた。
<西の国>
世界を闇が多い始めた。
満月が地上を照らし、ジオ・フロントが、赤く光り輝く。
「何っ!?」
ジオ・フロントの周りで警戒していたアスカが、最も強い光を放つ球の頂点を見上げる。
「時は満ちたっ! アダムよっ! 我が魂を受け取れっ! フハハハハハハハハっ!」
「キールっ!!!!」
そこに現れたのは、ここ数日の間探し続けて見つからなかったキールだった。わずか目
と鼻の先、このジオ・フロントの中で赤い光に守られていたのだ。
ズドーーーーーンっ!!!!
目の前に現れた天敵に、髪を逆立ての炎を叩き付ける。
「無駄だ。」
「こんちくしょーーーーーーっ!」
ズドーーーーーーーンっ!
ズドーーーーーーーンっ!
ズドーーーーーーーンっ!
「フハハハハハハハハハハっ!」
むやみやたらと炎を叩き付けるが、全て赤い光に遮られキールまで届かない。
パキーーーーーーン。
氷の矢が数十本、キール目掛けて飛んで来た。レイが城壁を打ち破りキールに迫る。こ
の機会を逃がして、アダムの復活は阻止できない。
パキン。パキン。パキン。
それでも赤い壁に遮られ、ことごとく破壊される氷の矢。城壁の周りでは、いつしか3
国の兵が乱戦となっている。そんな中、ミサト率いる一軍が西の国に雪崩れ込んで来た。
ズドーーーーン!
火柱が上がる。
パキーーーーン!
ジオ・フロントの周りが凍り付く。
くっ!
あれが、ロンギヌスの槍が無いと破れないという、心の壁・・・。
レイは、シンジの到着を祈りながら、それでもなんとか突破口を開こうと攻撃を続ける。
ミサトの兵がジオ・フロントを取り囲み、無数の矢をキール目掛けて放つ。
リョウジ率いる兵,北の国の兵が、西の国の兵をうち破り攻撃を始める。
「フハハハハハっ! 無駄だっ! 生まれ出よっ! アダムっ!」
キールが、高笑いを浮かべた。
その時。
風が吹き荒れた。
幾本もの雷が天空から、何千本と落ちてくる。
「うぉーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
風に乗ったシンジが、空からロンギヌスの槍を構えて、真っ逆さまに突撃して来た。
ズバーーーーーーーーーーーーーン!
ロンギヌスの槍が赤い壁を切り裂き、ジオ・フロントの頂点に突き刺さる。
「シンジっ!」
「シンジ君っ!」
「今だっ! アスカっ! レイっ!」
勢い余って、体を地面に叩き付けられながらも叫ぶシンジ。
「ええっ!」
レイが懇親の力を込めて、ダイヤモンドダストを撃ち放つ。
「うりゃーーーーーーーーーーっ!」
ズドドドドドドドっ!
アスカがシンジが切り裂いた赤い壁の亀裂目掛け、炎の玉を連射する。
「矢を射るのよっ!」
「「「「おーーーーーーーーーーーーーっ!!!」」」」
ミサトの掛け声を切っ掛けとして、全軍が持てる矢全てを射掛ける。
ズバッ! ズバッ! ズバッ! ズバッ!
体中に矢を突き刺され、氷でズタズタに切り裂かれ、炎に包まれるキール。しかし、彼
は笑っていた。
「フハハハハハハ。手遅れなのだよ。」
バタリ。
キールは倒れた。だが、その体から抜け出たドス黒い影が、ジオ・フロントの中へ吸い
込まれて行く。
「何が起こったんだっ!?」
ロンギヌスの槍が突き刺さったジオ・フロントを見上げながらシンジが立ち上がると、
ジオ・フロントが宙に浮き始めていた。
「くそっ!」
ズドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン! バリバリバリバリバリバリ!!!
閃光を放たれた。
雷が天目掛けて舞い上がる。
それは、紫黒の龍だった。
シンジが、ジオ・フロントを追い天に昇って行く。
「なっ! なにっ? 倒したんじゃないのっ!?」
目の前で起こっていることがわからず、唖然とジオ・フロントを見上げるアスカ。そこ
へミサトが近付いて来た。
「お久しゅうございます。お元気そうでなによりです。巫女様。」
「あっ、ミサトっ! マユミから聞いてるわ。無事で良かったわね。」
「はっ! キールを倒し損なった時は、兵を守る為、引かねばなりならないとの命です。
後は・・・。」
「ええ。任せて。」
「はい。お怪我の無き様。」
禄に話もできない状況だったが、世話になったキョウコの忘れ形見であるアスカの手を
ぎゅっと握ったミサトは、リョウジと連携してジオ・フロントの周りから兵を引き、一
刻も早く安全な場所へ兵を退却させることに全力を尽くし始める。
その間も巨大に膨らみ続けるジオ・フロント。紫黒の龍が、ようやくそれに届こうかと
言う時、真っ赤に光った底からぬめりと白い物が出て来た。
あれがっ!
あれが、アダム!
まさに白く光る、光の巨人と言うに相応しい物。それがジオ・フロントから生まれ、ゆ
っくりと落下し始める。シンジはそのまま巨大化したロンギヌスの槍目掛けて、上昇を
続けている。
ズドーーーーーーーーン。
アダムが、地上に降り立った。
レイとアスカが踊り出る。
バキバキバキバキ!
レイが、水と氷を纏う蒼白の龍となり、天に昇る。
ズドドドドドドド!
アスカが、炎を纏う紅の龍となり、空を舞う。
「フハハハハハハ。我アダムと融合せり。世界は我が手に落ちたっ!」
高笑いを浮かべながら迫り来る光の巨人。真っ先に攻撃を仕掛けたのはアスカ。巨大な
火柱が、アダムを襲うが赤い壁に阻まれる。
「シンジ君っ! 槍をっ!」
巨大化するロンギヌスの槍を取りに行ったシンジを見上げながら、レイが無数の雹をア
ダムに叩き付ける。
しかし、その雹を全て飲み込む様な光の固まりがアダムの前面に浮かび上がると、シン
ジ目掛けて放たれた。
「ぐわーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
ロンギヌスの槍を手にした瞬間だった。強大な光の固まりが、紫黒の龍となったシンジ
を包み込んだかと思うと、槍ごと近隣の山まで弾き飛ばす。
「ぐぐぐぐぐ・・・。」
あまりの衝撃に、もんどり打って倒れ苦しむ紫黒の龍。
「シンジッ!!! このーーーーーーーーーーーっ!!!」
逆上したアスカが、体中に炎を纒わせアダムに突撃。
ドガーーーーーーン。
しかし、全ての力は赤い壁に遮られ、その場で地面に殴り倒される紅の龍。
「シンジ君っ! 槍をっ!」
倒れたシンジの所へ、槍を取りに行こうとしたレイも、背後から光の巨人に龍の尾を捕
まれ、その場で何度も地面に叩き付けられる。
「くぅぅっ!」
口から血を流す蒼白の龍。
「レイっ!」
ロンギヌスの槍を手にし、傷だらけの体で起き上がった紫黒の龍は、レイを助けるべく
アダムに突撃する。それと同時に、背後からアスカが強大な火柱を撃ち放つ。
「でやーっ!!!!」
ズドーーーーン!
アスカの攻撃は、赤い壁に阻まれたものの、一瞬アダムの注意がアスカに向いたことが
シンジに幸いした。
「うぉぉぉーーーっ!!!!」
ズバーーーーーーーーーーーン!!
突撃した勢いのまま、ロンギヌスの槍を突き立てるシンジ。槍は赤い壁を貫き、光の巨
人の胸にぐさりと突き刺さる。
「ぐわーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
苦しみ雄叫びを上げるアダム。しかし致命傷ではなく、暴れ狂いながらシンジに迫る。
それでも、アダムの体を覆っていた赤い壁は、槍の周りだけぽっかりと穴が開いていた。
「そこよっ!」
ズドーーーンっ! ズドーーーンっ!
穴を目掛けて、炎を放つアスカ。
「ダイヤモンドダストっ!」
レイも同時に壁の亀裂目掛け、持てる限りの力を使いダイヤモンドダストを放つ。
ズドーーーーーン!
ズドーーーーーン!
ズドーーーーーン!
アスカの炎がアダムを襲う。
バキバキバキっ!!!!
レイのダイヤモンドダストが、アダムを氷らせる。
だが、互いの力で互いを弱めるだけだった。
アタシが先に倒すのよっ!
あンな女なんかにっ!
ズドドドドドドドドドドドドド!
それでも、炎の玉を止めどなく撃ち放つアスカ。
シンジ君は渡さない・・・。
バキバキバキバキバキ!
反対側からは、レイが力の限りダイヤモンドダストを放つ。
「フハハハハハハハっ! 死ねっ!!!!!」
全くダメージを受けた様子の無いアダムから、キールが高笑いする声が聞こえたかと思
うと、再びアダムの前に巨大な光の玉が出現した。
「逃げろっ!!!」
なんとか起き上がりながら、シンジが2人に叫ぶが、アスカもレイも引こうとしなかっ
た。
「アタシがコイツを倒すのよっ!」
「私が倒すわ・・・。」
膨れ上がる光球。
「アスカーーーーっ! レイーーーーっ!」
攻撃を止めない2人を庇おうと、シンジは飛び出したが間に合わなかった。
ズバーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!
放たれる光球。
「「キャーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」
アスカとレイの悲鳴が同時に響き渡り、紅の龍と蒼白の龍は鱗をボロボロと剥がし、血
を撒き散らしてその場に倒れる。
「アスカっ! レイっ! このーーーーーっ!!!」
2人を守るべく、シンジは持てる力を込めて雷を放つが、アダムはびくともしない。
なんでだ・・・。
伝説の戦士はアダムを倒せるんじゃないのか?
ダメージらしきダメージと言えば、ロンギヌスの槍の一撃だけしかない。いくら攻撃し
ても、びくともしないアダム。
「ぐぐぐぐぐ・・・倒すのはアタシよっ!!!」
痛む体を引きずりつつ、紅の龍が再び舞い上がり炎を放つ。
「アスカっ!」
それと同時に、シンジも竜巻をアダムにぶつける。
ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!
風と炎が1つになった。
それは、火炎龍のごときの炎の竜巻となり、赤い壁の亀裂に直撃する。
「ぐわっ!!!!!」
悲鳴を上げるアダム。
今のはっ!?
闇に向かって矢を放つ様な、手応えの無かった戦いに、わずかな光が見えた。
「ダイヤモンドダストっ!」
「雷よっ!」
ズバババババババババババババっ!!!!!!
レイもふらふらしながら起き上がり、ダイヤモンドダストを放つ。それに併せて、シン
ジが雷を放つ。
雷と氷が1つになる。
強烈な閃光がアダムに襲い掛かった。
「ぐわーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
再び悲鳴をあげるアダム。
「おのれっ! 許さぬわっ!」
怒り狂ったアダムは、これまで以上の巨大な光球を頭上に作り始める。一撃で3匹の龍
を一気に仕留めるつもりだろう。
「アスカっ! レイっ! 3人一緒に攻撃するんだっ!」
「アタシとシンジだけで十分よっ!」
「私とシンジ君の方が効果があるわっ!」
「なっ! 何言ってんだよっ! 2人ともっ!」
「シンジ行くわよっ!」
「私が倒すわっ!」
アスカもレイも、アダムを挟んで反対側から攻撃を開始する。これでは、3体同時の攻
撃が叶わない。
「でやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
炎を連発するアスカ。
「シンジっ! 風を、早くっ!」
「はっ!」
逆から水流で剃刀の様な刃を作り、アダムに斬り付けるレイ。
「シンジ君っ! こっちにっ!」
「駄目だっ! 2人ともっ! それじゃっ!」
ズガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!
その時、アダムが光球の力を解放した。
「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
3度目の光球は、巨大で強烈だった。3匹の龍は、近隣の山に叩き付けられ地面にめり
込む。
「ぐぐぐぐぐ・・・。」
もう限界に近かった。しかし、アスカとレイのことが気になり、ボロボロになった体を
起こすと左の山にレイ、そして前方の山に最も怪我の酷いアスカの姿が見えた。
「アスカっ!!!」
痛む体を起こし、アスカを助けに行こうとするシンジ。そこへ、とどめとばかりに更に
大きな光の玉を作り、アダムが近づいて来る。
「シンジ君っ! 先にアダムをっ!」
レイがよろよろとシンジに近寄り、最後の力を振り絞って攻撃しようとする。
「レイっ! アスカがっ! 酷い怪我をっ!」
「アダムを、私と一緒にっ! 早くっ!」
「何言ってんだよっ! アスカがっ!」
「それより、アダムを・・・。」
「レイっ! 姉さんや妹を想っていたレイは何処へ行ったんだよっ!」
「!」
一瞬沈黙するレイ。
「いらないっ!」
「アスカ?」
ズタズタに切り裂かれた体で、紅の龍も近づいてくる。もう、アスカは飛ぶだけで精一
杯の様だ。
「こ、こんな・・・女の助けなんか・・・。」
「アスカ、みんなで力を合わそうよっ!」
「アタシ・・・とシンジだけで・・・。誰が・・・、こんな女の・・・。」
「アスカも何言ってんだよっ!」
「シンジは、アタシと・・・。」
「アスカっ! 民のことを必死で考えてたアスカは、何処行ったんだよっ!」
「それは・・・。」
「どうしたんだよっ! 2人ともっ! なんか、違うよっ! ぼくの知ってる、アスカや
レイじゃないよっ!」
アダムの光の玉が膨れ上がっていく。次にあの力が放たれれば、もう耐えることはでき
ないだろう。
「そう・・・。ママの敵。民の敵。アイツだけは許せない奴。」
「あの人のことは認めたくない。でも今は、アダムを倒さなければならないのね。」
「アンタなんかに認めて貰わなくて結構よっ! でも、今は・・・。」
「そう今は・・・。」
「3人で攻撃したら必ず倒せるよっ!」
「3人で・・・。」
「そう、3人で・・・。」
「皆が力を合わせれば・・・。」
リリンの力は、愛の力。そして、和の力。
人を想う力。
協力する力。
紫黒の龍が、雷を全身に漲らせアダムと向き合う。
蒼白の龍が、水を纏いアダムを見据える。
紅の龍が、炎を放出させアダムを睨みつける。
光球を巨大に膨らませ、アダムが3匹の龍に狙いを定めた。
最後のチャンス。シンジは、キッと目を吊り上げ持てる限りの力全てを使い、雷を放出
させてアダムに突撃する。
間髪入れず、水龍となりアダムに突撃するレイ。
「シンジ君・・・。」
「レイ・・・。」
シンジとレイが1つになった。
水の龍と1つになり、膨大な力を解放して雷の龍がアダムに迫る。
バババババババ!
閃光が輝く。
しかし、その光はアダムまで届かなかった。
レイと共にATフィールドの内部まで進入したのだが、一瞬にして全ての力が失われた。
気付くと、シンジとレイはアダムの周りを漂っている自分に気付く。
強大な力を自らの体に感じながらも、シンジとレイは理解できない浮遊感にその身を委
ねている。
優しい想いがシンジの心を満たす。
包み込む様な暖かさをレイの心を満たす。
さぁ、おいでアスカ。
来て。私の所へ・・・。
ぼくは、ここだよ。
私はここ。
1つになろう。
1つになりましょ。
さぁ、来てごらん。
アダムは全くの無傷。
光球を限界まで巨大化させ、放とうとしている。
その時。
膨大な熱量と共に最後の力を振り絞り、火炎の龍の突撃してくる。
アダム目掛けて突撃するアスカの目に、両手を広げて自分を迎え入れ様としているシン
ジとレイの姿が見えた。
アタシもそこへ・・・。
1つになりましょ。
3人が1つになりましょ。
さぁ、おいでアスカ。
シンジは、アスカを迎え入れる。
今は、一緒にアダムを倒しましょ。
レイも、アスカを迎え入れる。
「うりゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
紅の龍となったアスカが、アダム目掛けて突撃する。
「フハハハハ。何度やっても同じだっ!」
これまで、何度もアスカの力を受け止めてきたアダムは、余裕の笑みを浮かべ光球の解
放に集中した。
「こんちくしょーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
アスカは怯まず、シンジとレイが消えた赤い壁の亀裂に突撃した。
アスカを感じるシンジ。
アスカを感じるレイ。
そしてアスカは、シンジとレイを感じて1つになった。
ズガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!!!
ドカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!
天をも焦がす様な大爆発が、赤い壁の中で起こった。
その爆炎は、天空高く上がったジオ・フロントまでも届き貫く。
世界の大地が、大きく揺れた。
途方も無く巨大化したジオ・フロント。爆発で貫かれた所から、オレンジ色の液体が赤
い光をキラキラと輝かせ、止めど無く溢れ出て来る。
「みんなーっ! 木に掴まってーーーっ!」
濁流に飲み込まれながらも、兵達に号令を掛けるミサト。
野も山も全てがその濁流に飲まれていく。
液体を世界中に放出しながら、地平線の彼方へ落下して行くジオ・フロント。
その流れに世界の全てが飲み込まれていく。
全世界を飲み込む程の大洪水。
しかし、なぜかその水は息をすることができる水だった。それが、世界の生ける物の全
滅を防いだ。
これが、後にノアの箱船として語り継がれることとなる大洪水であり、ファーストイン
パクトと言われる大災害である。
:
:
:
戦いは終わった。
アダムを倒した力。それは人々は、3人の戦士が心を1つにした力だと伝えて伝説とな
る。
しかし、後にあのからくり師リツコが遥か未来で転生した時、ある仮説を唱えている。
彼女の仮説によれば、ATフィールドという閉鎖した空間に送りこまれた水が、膨大な
エネルギーの電気により電気分解され水素と酸素となって充満していた。そこへ巨大な
熱量が加われば、アダムを倒すだけの爆発エネルギーが発生しても当然であると。
<緑の砦>
人々は、大洪水の災害から立ち直り、再び文明を築き始めていた。
この緑の砦も、1度は濁流に飲み込まれたが、絶え間ない人々の努力により復旧を遂げ、
以前と変わらない生活をようやく送れる様になり始めた。
ただ、1つだけ変わったことがある。
「やっぱり駄目なの?」
「あぁ。もうあかんみたいやわ。」
トウジが土蜘蛛やゴーレムを召還することができなくなったのだ。それはトウジだけで
はなかった。世界のありとあらゆる術師や召還師,巫女,祈祷師など神に心を開いてい
た全ての人がその能力を失っていた。
LCLと共に流れ出たATフィールドが、人々の心に宿ってしまった結果であった。
人・・・リリンは心に壁を作り、神との交わりを・・・心を閉ざしてしまったのだ。
それでも、人は子を産み文明を自分達の力だけで築き歴史を歩み続ける。
「ねぇ、シンジ?」
「ん?」
「今度生まれ変わったら、今度こそ一緒になれるわよね。」
「私が、一緒になるのよ。」
「アダムを倒したのはアタシでしょうがっ。」
「私が先に水を送り込んだから・・・。」
ここは混沌とした世界。地上の人々の歴史の発展を見ながら、あの時アダムと共に消え
た3人の伝説の戦士は、長い長い時間の中で魂を漂わせる。
「3人で協力したから倒せたんだよ。」
「アンタはそうやってっ! いっつも当たり障りのないこと言ってっ!」
「だって・・・。」
「シンジ君は、私とこの人。どっちが好きなの?」
アスカとレイの魂が、シンジを見つめる。
「・・・・・・。」
2人を目の前にしてシンジが明確な答えを出せようはずもない。
そんな痴話喧嘩が、長く長く数千年も続いたある日・・・。
「アスカ。レイ。呼ばれてるみたいだ。」
シンジの魂が、大いなる力に引かれている。
「そう、行くのね。また・・・。」
「うん。行かなくちゃ。」
リリンの宿命がシンジを呼び寄せる。
「じゃ、アタシももうすぐ呼ばれるのはずよねっ!」
「うん。先に行って待ってるよ。」
「シンジ君。私も・・。」
「もちろんだよ。レイも待ってるよ。」
「きっとまた会えるわよね。」
「当たり前じゃないか。また前みたいに、14歳になったら巡り会えるさ。
例え、記憶が無くなってても。ぼく達は・・・。」
その言葉を最後に残して、混沌の世界からシンジの魂は消えた。
<某病院>
「おぎゃーーーーーっ!!!」
新たな命の誕生。
その少年は、シンジと名付けられる。
「セカンドインパクトの後に生きていくのか。この子は・・・この地獄に。」
「あら、生きていこうと思えば、どこだって天国になるわよ。」
少年は生を受け、生きていく。
新たな運命の終着へ向かって。
時は再び。
6月6日。
NEON GENESIS。
fin.
作者"ターム"さんへのメール/小説の感想はこちら。
tarm@mail1.big.or.jp
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