召喚師達 〜 裏庭亭外伝 〜


 作 Ophnim


 「うーん・・・これは私には無理ですぅ・・・。」

 レイは今、机に向かって呪文の勉強をしている。

 「はぁ・・・。ルアイズキは強い魔法だけど必ず青魔法になるとは
 限らないですぅ・・・。」

 山のようなパンフレットを見ながら、覚える魔法を見繕っているらしい。

 「うぅ・・・こんなの着れませんー・・・ほとんど下着ですぅ・・・。」

 ???

 「きゃみそーるなんて恥ずかしい・・・ぽっ。で、でもでも、
 シンジ君にだけ見せるなら・・・あーん、いやですわぁん・・・。」

 ・・・ん???

 「あれ?あ、いけないいけない・・・お勉強しないと・・・。」

 レイはいつのまにか手に取っていたファッション雑誌を置いた。

 「んー・・・これは便利ですの・・・他に萌えるものも無いしぃ・・・。」

 レイはまたぼそぼそと勉強を続けた。

 「わぁ・・・。ひろ虫は和服にもよくついているんだぁ・・・。
 やぁん・・・今週のSGってHぃ・・・。」

 ???

 「あれ???変っ!変ですのっ!」

 レイはいつのまにか手に取っていた女性週刊誌を放り投げた。

 「うーん・・・。お勉強お勉強・・・。」

 ぶつぶつぶつぶつ・・・。

 ぶーん・・・。

 「ARENAってとっても綺麗なページなのねぇ・・・。あ、こっちの
 あ〜るさんの絵もなかなか・・・。」

 ???

 「って違いますぅっ!お勉強するんですぅっ!!」

 ぶつぶつぶつ・・・。

 ぶーん・・・。

 「グラデもじぃっていいなぁ・・・。あ、HPDもなかなか・・・
 ・・・・ってだめぇ!お勉強しないと・・・。」

 ぶーん・・・。

 こんにちわぁ。

 「あははは、変な連想している人がいるぅ・・・ってあれぇ?どうして?」

 「ぷぷぷぷぷ。面白ぉいっ!」

 物陰に隠れていたアスカが堪えきれずに笑いころげた。

 「ああっ!アスカちゃんですぅ?悪戯してたの・・・?」

 レイはぷくーっと頬を膨らませた。

 こんにちわぁ・・・。

 アスカの周りを、ぶーん、という羽音が回っている。

 「ふふふ。その通りよっ!レイ・・・。あんたをからかうのは
 シンジをからかうのよりも楽しいのよっ!馬鹿シンジは浮気すると
 そのまんまだから・・・。」

 身も蓋もない・・・。

 「もうっ!シンジ君の悪口まで言ったらだめですぅっ!!」

 レイはアスカに向かってちょこちょこと突進した。

 ぶーん・・・。

 「えーと、今日の夕飯は何にしようかなぁ?昨日は和食だったから
 今日は洋風に・・・。」

 え?和食??いいのか?仮にもファンタジーで・・・って作者まで
 浮気してどうする・・・。

 「・・・じゃなくてぇ・・・。」

 レイは自分が怒っていた事を思い出した。

 「あははははっ!便利だわぁ・・・これ・・・。」

 アスカはくいくい、っとひろ虫を繋いでいる紐を引っ張った。

 召喚師は倒したモンスターのうち、一部の種類のモンスターに関しては
 その後自由に召喚することができる。ひろ虫はアスカがスクロールとは
 いえ”自分の発した”召喚魔法で倒したモンスターなので条件を
 満たし、かつひろ虫が一部の種類(地域?)に含まれていたので
 召喚可能になったのだ。

 それを使ってアスカはレイの勉強の邪魔をしていた、というわけだ。

 「えーん・・・アスカちゃんがいじめるよぉ・・・。

 レイは半泣きでアスカから逃げて行った・・・。



 「むぅー・・・私も召喚モンスターが欲しいですの・・・。」

 レイはぷりぷりと怒りながら歩いていた。

 ずるっ・・・。
 ごちっ!
 きゅー・・・。

 ただでさえのんびり屋のレイが慣れない事をしたのでレイは何もない
 ところで転んでしまった・・・。

 むくっ。

 「・・・痛いですの・・・。」

 レイは鼻を押さえて起き上がった。
 額を撫でる。が、不思議と血は出ていない・・・。

 「???なんですの???」

 レイの目の前に丸い物体がある。

 それがクッションのようになってダメージが少なくて済んだのだ。

 「?・・・?」

 レイはとりあえず観察する事にした。おそるおそるつついてみる。

 「!・・・動きますの・・・。」

 丸い物体・・・いや、生物は、レイにつつかれてもぞもぞと動きだした。

 「・・・?」

 その生き物はレイに甘えるように膝に乗ってきた。

 「可愛いですの・・・。」

 レイはにこにこ笑いながらその生物を撫でてあげた。

 「あれれ?」

 ピンク色をしていたその生き物は、レイに撫でられるにつれて
 黄色に変色していった。

 「面白いですぅ・・・。」

 レイは調子に乗って激しく撫で始めた。

 びびびびびびびび・・・。

 「ひぃやぁあ・・・。」

 レイは目を回して倒れてしまった。



 「全くあの子は何やってんのかしら・・・。」

 ヒカリはいらいらとしながら集合時間になっても姿を見せないレイに
 ぶつぶつと文句を呟いた。

 「ま。ええから先進めようや。」

 トウジはヒカリを促した。

 「そうね。えーと、マナ、いる?」

 「はぁい・・・。」

 マナはしずしずと前に出た。

 「ボードを持ってきた?はい、ありがと。」

 ヒカリは一同の前にボードを立てると、今回の作戦について話し始めた。

 「今回の第壱目的は・・・。」

 「なぁんかさぁ・・・。」

 ヒカリが作戦を話し出すと、アスカがシンジに話しかけた。

 「ああやって説明しているヒカリって昔のタイム○カンの悪役
 って感じよねぇ・・・。」

 ぷっ・・・。

 アスカの的確な表現にシンジは思わず吹きだした。ケンスケやトウジも
 笑いを堪えている。

 「確かにね。リーダーの両隣にトウジとケンスケをおいておいたら
 ぴったりかもね。」

 「続けていいかしらぁ???」

 指示棒まで用意して気合いを入れていたヒカリはすっかり気を悪く
 していた。

 ヒカリの気迫に一同は大人しくなった。

 「今回の第壱目的は前回に引き続き、お城の裏庭に潜む昆虫型
 モンスターの退治、いいわね。」

 リーダー=ヒカリはボードに用意してきた紙を張り付けながら説明を
 している。

 「モンスターの名前はぼて虫よ。」

 「「「ぼて虫?」」」

 「そうよ!これは”ぼてちゅう”と読むのよ!!
 ”ひろむし”と”虫”の字が一緒だからって間違って”ぼてむし”
 って読んじゃだめよ!」

 ヒカリ以外の一同はぽかんとしてヒカリを見ている。

 「何言ってんの?ヒカリ?誰に説明しているの?」

 アスカがヒカリをつついた。

 「決まってるでしょ!読者よ!!


 へ?


 「だって、字を見ただけじゃ判らないでしょう?」

 ・・・。

 ごもっとも・・・。

 「で?どうしてそのぼて虫を退治する事になったの?」

 シンジが話題を変えようと、ヒカリに尋ねた。

 「べ、別に理由は無いわよ・・・。

 みんなが冷たい視線をヒカリに送る・・・。

 「な、なによぉ!罪もないモンスターを倒して経験値を稼いだり、
 人の家に土足で上がって戸棚を漁るなんて”ロールプレイングの基本”
 でしょお!?」

 ヒカリはうろたえてみんなを説得にかかった。

 「え?じゃあ、そのボードも?」

 シンジはおそるおそる、ヒカリがぷすぷすと色々な紙を貼ったボードを
 指さした。

 「はぁい!ヒカリさんに頼まれて私がお城からとってきましたぁ!」

 マナがにこにこ笑いながら得意気に手を上げた。
 シンジはおそるおそる後ろを振り向いた。
 お城の警備兵がじろじろこっちを見ているような気がする。

 「大丈夫さ、シンジ君。マナ君はお城の王様のお気に入りだから
 少々の事では捕まらないさ。」

 カヲルがシンジに耳打ちをした。
 だ、だからって・・・。

 「さ、説明を続けるわよ。」

 何事も無かったように話を続けようとするヒカリが、ちょっと恐い・・・。

 「ぼて虫は丸っこい体型のピンクのボールよ(嘘)。」

 曰く・・・。

 黄色の状態では電撃。
 青い状態で吹雪。
 緑は毒攻撃。
 赤だったら危険。暴走している可能性がある。
 水色の時は無敵モード。

 ヒカリの説明が続いている間に、レイがよちよちと歩いてきた。

 「遅れてごめんなさぁい。」

 ぺこ。

 「遅い!・・・ってレイ?それ何?」

 ヒカリはレイが抱えているものに目を奪われた。

 「判らないけど・・・なついちゃったの・・・。」

 レイは優しく”それ”を撫でた。

 「それ、”ぼて虫”よ!」

 ヒカリはレイの持っているぼて虫を攻撃しようとした。

 「やぁん!だめぇ!!」

 レイはひし、とぼて虫を抱きしめた。

 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!・・・ぼて。」

 アスカはヒカリとレイの間に入ろうとしたが、二人の攻防は激しくて
 間に入れなかった。 

 ん?
 なんかいつもと違うような・・・。

 「あれ?なんか変ぼて?」

 マナが異常に気がついた。

 「あ、ほんとぼて・・・。」

 シンジも違和感を感じた・・・ってはやく気付けよ・・・。

 「なんか最後に必ず”ぼて”がつくぼて・・・。」

 ケンスケも異常に気がついた・・・ってだからもういいって・・・ぼて。

 「ほらぼてぇ!ぼて虫が来ると言葉の最後に助詞”ぼて”がついちゃう
 ぼてぇ!」

 ヒカリが混乱しながらぼて虫の特徴を説明した・・・ぼて。(もういいかなぁ?)

 「せやけど、別に実害はなさそうやな・・・ぼて・・・。」

 離れたところで観察していたトウジも、やはりぼて虫の影響から
 逃れる事は出来なかった。

 「でも、でも、ぼてちゅは私の召喚獣になるんだもん!」

 レイはヒカリからぼて虫を守りながら必死でそう叫んだ。さすがに
 召喚した本人は召喚獣の影響を受けないようだ。そんなものいちいち
 受けていたらアスカが浮気性になってしまう・・・。

 「あんた馬鹿ぁ・・・ぼて・・・?召喚師が召喚獣を守って
 どうすんのよ・・・ぼて。」

 アスカはレイをからかおうとしたがぼてぼてついていては今一つ迫力に
 欠ける。

 「いいもん!ぼてちゅは私のペットなんだもん!」

 レイは一層強くぼて虫を抱きしめた。

 べべべっべっべべべべべべ・・・。

 その言葉が合図になったかのように、ぼて虫はたまっていた電流を
 一気に放出した。

 「ひゃあああああああああぁぁぁぁ・・・ぼて・・・。」

 ぼて虫を掴んで離さなかったヒカリは電撃の直撃を受けて気絶して
 しまった。

 「あは。良い子。今度は私に当てなかったわね・・・。」

 レイはコントロールの良くなったぼて虫にすりすりと頬ずりをした。
 黒こげのヒカリには目もくれない。

 うーーん。
 ”ファーストって怖い子ね。目的のためには・・・(以下省略)”。

 「レイ、それの威力は判ったからもうしまいなさい・・・ぼて・・・。」

 アスカはじりじりと遠くに離れながらレイに指示を出した。

 「はぁい・・・。・・・でも、しまいかた判らないです・・・。」

 やっぱり・・・。

 アスカは鈍くさいレイがひろ虫を呼び出したり引っ込めたりするように
 要領よくぼて虫を使いこなしていないことを予想していた。
 このまま放っておいて何かの勢いで赤くなったり緑になられては
 こちらの身が保たない。

 「あんたが手を離せばどっか行くのよっ!・・・ぼて」

 アスカに言われてレイは嫌々ながらぼて虫を手放した。

 「?」

 が、ぼて虫は帰らない。それどころか、レイの背中におぶさって
 ○カ○ュ○のように微笑んでいる。
 こんな格好で渋○の○ン○ー街を歩いていたらとてもえらいことである。

 「こ、こうなったら・・・ひろ虫・・・ぼて。」

 アスカはひろ虫を召喚した。

 こばんぼてぇ・・・。

 ひろ虫が召喚されるとぼて虫は○×○イ○×◇ズのグッズを求めて
 いづこへかと飛んでいった。
 (なにか?いやいや、私の口からはとてもとても・・・。)

 「いやぁ・・・。助かったぁ・・・。」

 シンジはふぅ、とため息をつきながらそう言った。

 「リーダー、大丈夫かいな?」

 トウジがヒカリを揺すぶっている。

 「あ、あれじゃあヒカリ起きてこないわ・・・。」

 アスカは意味深な微笑みを浮かべた。

 「?どうしてですの?」

 マナはぱっちりとした、何の疑いもない目でアスカを見つめた。

 「ど、どうしてもよっ!気がついていても起きられない事ってあるのよ。」

 アスカはぶきらっぽうにそう言うと、ぷいっと向こうを向いてしまった。

 「でも、どうしてぼて虫が外に出ていたんだろうねぇ?」

 カヲルが首を傾げる。

 「あぁ、それはほら・・・。」

 ケンスケが眼鏡をいじくる。

 「○×ベ△○×ー×の調子がいいからさ。おおかた
 ○×ス○△ア◇にでも向かっていたんだろう。」

 ケンスケは確信したように説明した。

 「その証拠に○×○△ス×◇×が勝った日はぼて虫の裏庭への
 出現率が高いんだ。」

 一同は久しぶりに感心したようにケンスケを見た。

 「だから、裏庭でぼて虫に会いたければ○×○△○タ◇×が勝った
 日に来るべきだね。」

 大きく胸を張っているケンスケの足を、何かが掴んだ。

 「ん?」

 「だぁかぁらぁ!!毎回毎回事が終わってから
 蘊蓄たれてるんじゃないわよぉっ!!」

 いまや○さく・・・もとい、”鬼”と化したヒカリがものすごい形相で
 ケンスケを追いかけていった。

 「あははは。さって・・・。じゃあ、僕たちはどうしよう?」

 そう言うシンジの耳元に、トウジが囁く。

 「またあそこいかへんか?センセ。」
 「あ、いいねぇ・・・。」

 こそこそ、と男二人はSGの間に向かう。

 「あぁん!アスカちゃん、何とかしてぇ・・・。」
 「むぅ!ひろ虫っっ!」

 こうして裏庭以外でも喧噪は続くのであった。

 ちゃんちゃん。


 おしまい



 [もどる]