「さ!ここよ!」ミサトが指を指した。

そこには[ジャストビル]と書かれた、ビルの正面玄関だった。
一行が中にはいると広大なフロアが広がっている。
ミサトは早速案内掲示板に向かい、目的の場所を探し始める。

「えーと・・・あ!あった、あった!みんな!こっちよ!」

ミサトが見ていた掲示板には・・・

[ B1F 居酒屋「裏庭亭」 ]


と、書かれていた。
そして、一行はミサトの後についてぞろぞろと下りの階段に、消えていった。
この「裏庭亭」は、第3新東京市でかなりの人気を誇る居酒屋で、いつも大勢の客で混雑していて、たまに入れない客が出るほどである、ということだ。
しかし最近、別館がオープンしたらしく相変わらず混雑はするものの、入れない客が出ると云うことがかなり減ったという。
一行がその「裏庭亭」の入り口で待っていると、それに気が付いた店員が、一行に近ずいてきて言った。

「いらっしゃいませ!何名様でしょうか?」
「予約していたNervの者ですが・・・」と、訪ねてきた店員にミサトが言った。

すると、ほんの一瞬だが店員の顔に戦慄が走った・・・が、すぐに元の表情に戻し、ミサトに答えた。

「はい!承っております!どうぞ!こちらへ。」 一行は、店員に案内されるままに店の中に入ってゆく。

その案内された場所は店の一番奥の壁際で、何故か周りの席とは3m以上離されていて、更に周りにはいくつものついたてが、まるでバリケードのように取り囲んでいた。

要するに、隔離である・・・

しかし一行は、このような扱いは慣れており、誰一人として不服を漏らす者は居なかった。
そして、各々がそれぞれの席に着きグラスにビールを注ぐ。
ミサトは全員のグラスにビールが注がれたことを確認すると、音頭をとる。

「それじゃ用意は良いわね!?じゃ、カンパーイ!!」

「「「カンパーイ!!」」」

そして・・・戦い、もとい酒宴の火蓋が切って落とされた・・・



第?次居酒屋会戦(←?)[改訂版]




・・・会戦開始から、約二時間が経過していた・・・そして場は、すっかり狂乱の修羅場と化していた・・・

シンジ、アスカ、レイの3人も20才を過ぎた、と言うことでこの酒宴に参加させられていた。
だが始めてである、とは誰も言わないが、もとい、言えないが・・・
そんな中、すっかり出来上がったアスカがシンジにビールを勧める、その顔はすでに真っ赤だ。

「さ!シンジ!!飲んで飲んで!」
「あ、ああ・・・ありがとう、アスカ・・・」

シンジはそう言ってグラスの中のビールを少し飲んでから、グラスを出した。

「何よこれ!?グラスが空じゃないじゃないのぉ!?全部飲んでから出すのが礼儀ってもんじゃないのぉ!?それともこのアタシの酌が受けられないって言うんじゃないでしょうねぇ?」
「う・・・わ、わかったよぉ・・・(ゴクゴク)」

アスカに言われて仕方なくグラスの中を一気にあけるシンジ、それを見てアスカは満足げにする。

「よーし!さっすがシンちゃん!いい飲みっぷりね!」

それを見てすっかり機嫌の良くなったアスカは、そう言いながらグラスにビールを注ぐ。

「・・・好きで飲んでるわけじゃないのに・・・・」と、シンジは少しだけ不満を漏らす・・・

「何か言った?」

「え?ううん・・・何でもないよ・・アスカ・・・」

手を目の前でぶんぶんと振りながらそう言ったシンジのこめかみには、大きな汗がへばりついていた・・・
すっかり酔っぱらっているアスカを見てシンジは危険を感じたのか、
(ここに居ちゃダメだ)そう思い、辺りを見回す。
その狂乱の修羅場の中で、加持とマヤの所だけは一見安全地帯のように見えた・・・が、しかし。
頬杖をつき、完全に呆れ返っている加持の隣にはすでにパワー全開、スパークしまくりのミサトが居た。
それだけで、加持の隣が一番危険な場所に見えた・・・

(加持さんの所はやめよう・・・てことは、やっぱりマヤさんの所かな?)

シンジはそう思い、マヤの隣に移動しようと立ち上がる・・・と、その時、後ろの方から声がした。

「シンジ・・・」振り向くと、そこにはゲンドウの姿が・・・
「とうさん・・・どうし・・うっ!(引き)」
「飲め・・・シンジ・・・」

そう言ったゲンドウが手にしているのは、焼酎がなみなみと注がれている大ジョッキだった。

「の、飲めるわけないよ・・・こんなに・・・」シンジは顔をひきつらせながらゲンドウに言った。
「問題ない・・・そのためのNervだ・・・」

などと、訳の分からないことを言うゲンドウは、すでに顔が真っ赤で目も座っていた

「・・・・・・」シンジの目は点になっている。
「どうしたシンジ・・・飲むなら早くしろ!でなければ帰れ!」

尚もしつこくシンジに絡む、こうなってはもはや、酔っぱらって絡むただのオッサンだった・・・
完全に暴走状態のゲンドウ・・・だが無理もない、今回は冬月が欠席していたのだ。(と言うより逃げられた、と言うべきか・・・)
シンジがジョッキを見ながら凝固していると、いつの間にかゲンドウの後ろにいたレイが脇からそのジョッキをかっさらい一気に飲み干した。

「あ、綾波!・・・そんなに飲んで・・・・・」呆気にとられているシンジ。

それを見たゲンドウは、レイの肩に手を置いて言った。

「レイ・・・良くやった・・・それに引き替えシンジ!・・・お前には失望した・・・」

相変わらず訳の分からないことを言うゲンドウの手を払いのけ、レイが一言・・・

「触らないで・・・ジーサン・・・」一瞬にして固まるゲンドウ・・・しかも白くなって・・・

いつものように、しれっとした口調でレイは話していたが、その目も確かに座っていた

「あ、綾波・・・」シンジも呆気にとられる。

固まってしまったゲンドウを余所にレイはシンジの横にちょこんと座った、そして新たな酒をジョッキに注ぐと再び一気に飲み干す。

「綾波・・・もう止した方が・・・」シンジは座り直し、心配そうにレイに話しかける。
「碇君・・・あたしの事・・・心配してくれるの?」

レイは目を伏せ、シンジに寄り添ってポツリと呟く・・・

「・・・ありがとう・・・」
「うっ・・・(かわいい)・・・」

レイに寄り添われ、すっかり舞い上がっているシンジ・・・その二人の背後でアスカがゆらりと立ち上がる。

「・・・シ〜ン〜ジ〜・・・!」
「えっ?・・・ア、アスカ!」
「良かったわね〜シンジィ・・すっかりファーストと、らぶらぶみたいじゃな〜い(怒)」

アスカは笑いながらシンジにそう言ったが、その目は全然笑っていなかった。

「あ・・・い、いや・・・アスカ、これには・・・」しどろもどろになりながら、アスカに弁解するシンジ。
「(ピクピク)こんの〜・・・バカシンジ!!!」アスカが爆発した。
「うっ!・・・・って、あれ?・・・アスカ?」

シンジは次のアスカの行動を予測して、身を硬くしていた・・・が、しかし・・・
恐る恐る目を開けると、そこには目に涙をいっぱいに溜めたアスカが居た。

「なによ(ポロポロ)・・・あんたなんか・・・あんたなんか・・・だいっキライ!!(ダダダッ!)」
「アスカ!!」立ち上がり、追いかけようとするシンジ、そこにレイが話しかける。

「?・・・どうしたの?碇君・・・」
「え?ああ・・・アスカが・・・」
「そ・・・よかったわね・・・」
「う、うん・・って、よくない!なに言ってんだよ、綾波!」
「いいの・・・あたしには何もないから・・・」
「あ、綾波・・・もしかして・・・泥酔?」

シンジはレイの目を見た、レイの目は・・・もはやイッてしまっている。
レイはシンジの方にゆっくりと振り向いてニコリと微笑む、そしてそのままテーブルに倒れ込んだ。

「綾波!」シンジは慌てて様子を見たが、レイは安らかな寝息を立てていた。
「はぁ・・・もう・・・しょうがないな・・・」

シンジは羽織っていた上着をレイに掛けると、アスカの後を追って店を出た。
しかし、アスカはすでにどこかへ走り去ってしまった後だった。

「アスカ・・・」シンジはそう呟いて走り出した・・・







「ハァ・・・ハァ・・・どこへいっちゃったんだ・・・アスカ・・・」

シンジは繁華街を一周していた、しかしアスカは見当たらない。
更に辺りを見回す、そしてふと脇に目をやると、ビルとビルの間に小さな神社があるのを見つけた。

「あれ?こんな所に神社なんかあったかな?」吸い込まれるように中に入るシンジ。

と、そこには小さなベンチに膝を抱えて座っているアスカの姿が・・・シンジはホッとして優しくアスカに声を掛ける。

「!・・・アスカ・・・こんな所にいたのか・・・さ・・・帰ろう・・・」

シンジの声を聞いたアスカはビクッと身を震わす。

「・・・・・・」アスカは背中を向けたまま黙っている。
「アスカ・・・」

背中を向けたまま、アスカが口を開く。

「何しに来たのよ!・・・アタシのことなんか構わないで、ファーストとよろしくやってれば良いでしょ!・・・」
「アスカ・・・その・・さっきは・・・ゴメン・・・」
「何で謝るの?シンジ・・・それに・・・何でアタシを追いかけてきたの?」
「え?・・・あ・・いや・・・それは・・その・・・」
「・・・やっぱり答えられないのね・・・シンジらしいわ・・・」アスカは背中を向けたまま、寂しそうに言った。
「ゴメン・・・」シンジは本当にすまなそうにアスカに言う。
「プッ・・・・もう!20才になっても全然変わんないのね!シンジって!」

すまなそうにしているシンジを見て、少しだけ笑いながらアスカが振り向く。
そんなアスカを見てホッとしたのか、少しだけ怒ったようにシンジは言った。

「しょうがないじゃないか・・・」
「アハハハハハハハッ!」アスカはそんなシンジを見て、たまらず笑い出してしまう。
「そんなに笑わなくたって良いじゃないか・・・」

シンジは拗ねたように横を向いて言う、しかし内心ホッとしていた。
(良かった・・・アスカ、機嫌直ったみたいだ・・・)←それは甘いぞ!シンジ!

「じゃ、みんなの所へ帰ろう・・・アスカ・・・」
「イ・ヤ・よ!」しかし、アスカはプイと横を向いてしまった。
「え?・・・どうして?・・・」
「だって、シンジまだ答えてない・・・」横を向きながらアスカが言った。
「答えるって・・・もしかして・・・さっきの?」シンジは恐る恐るアスカに聞く。
「そうよ!シンジはどうしてアタシに謝るの?どうしてアタシを追いかけてきたの?聞かせて!」

アスカは真剣な目でシンジに聞いた。

「そ、それは・・・あの・・その・・・」アスカの質問に再びしどろもどろになったしまうシンジ。
「あのままファーストと一緒に居たって良かったのに・・・ね、どうしてなの?シンジ・・・」
「・・・・・・」シンジは答えられない。
「・・・・・・」アスカはシンジの答えを待っている。

シンジは暫く手を握ったり開いたりしながら黙っていたが、やがて意を決したように真剣な眼差しでアスカに言った。

「それは・・アスカの事が、心配だったから・・・アスカに・・誤解されたく無かったから。」

そう言ってからシンジは顔を真っ赤にしてしまった。

「!・・・シンジ・・・」アスカは目を見開いてシンジを見た。
「さ・・・帰ろう、アスカ・・・」シンジは真っ赤になりながらもアスカに手を差し出した。
「・・・・うん・・・・」おずおずとシンジの手を取る。

手をつなぎ、二人は振り返る・・・そして、そこには・・・

「「あ!!・・・」」

みんなが並んで二人のやりとりを見ていた・・・つぶれてしまった何人かをおぶさってる者もいる。
当然の事ながら、レイを背負っている者も・・・

「二人ともぉ〜・・イキナリ居なくなったと思ったら、こぉ〜んな所でらぶらぶしてたなんてぇ〜」

ミサトがニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら、二人を冷やかす、その様子は殆ど宴会のセクハラ親父である。

「「ち、ちがうよ!!・・こ、これは・・・!」」
「照れない照れない!さっ!帰るわよ!」
「「ミサト(さん)!!」」二人は顔を真っ赤にして声を上げた。

そんな二人を余所にミサトの号令でみんなはぞろぞろと引き上げ始める。

「「はあぁぁ・・・」」二人は顔を見合わせ、ため息を一つ。

そして手をつないだままなのに気付く。

「あ・・・」
「・・・・・・」

二人はしばし見つめ合い、そしてシンジが再び顔を真っ赤にしながら口を開いた。

「あの・・か、帰ろうか・・アスカ。」
「・・・うん。」

二人はそのまま手をつないで、歩き出す・・・
頭上の月はそんな二人を静かに見守っていた・・・



第?次居酒屋会戦(←?) End



おまけ・・・

その頃「裏庭亭」では、ゲンドウが白くなったまま未だ固まっていた・・・
そして今回の払いの全てがゲンドウに押しつけられていたのは、言うまでもない・・・



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