某所で某作品を連載していた某氏 こと杜若氏(仮)が、
例のあの作品をリニューアルさせて再登場!(分かる人だけ分かって下さい)




第2話 シンジと特務機関


「しかし、シンジ君って本当に変じゃない?」

「そうかしら・・・?」

「って、リツコは変だとは思わないの?」

「初戦であっさり使徒を倒したわ。そしてあの奇妙な動き・・・一番の疑問は肩に乗
っているあの物体よ!」

「う・・・た、確かにそうだけど・・・ちょっちね・・・」

 リツコの問いかけにもっともだと思い、出会いの瞬間から現在までのシンジの様子
を、走馬燈のように思い出すミサト。露骨に困った表情をしている。

「私は科学者としてシンジ君に興味があるわ。あと、肩の物体も」

「ま・・・まぁ、黙っていれば結構可愛いんだけど・・・」

「・・・シンジ君が戻ったわ」

 リツコはケイジの様子をモニターしながらミサトに言う。回収されたエヴァンゲリ
オン初号機から、エントリープラグがイジェクトされ、シンジがあらわれる。

「私たちが悶絶している間ずっと歌い続けていたのかしら?」

「さぁ? 本人に直接聞いてみれば?」

 ミサトは発令所を後に、ケイジへと向かった。

「シンジ君よくやったわ!」

 ケイジに到着したミサトはシンジを確認し、元気そうなのを見ると開口一番に激励
の言葉を贈る。

「そうかなぁー。僕はまだいまいちだと思うんですが・・・?」

「そんなこと無いわ! 初戦であれだけ戦えれ・・・」

「サビの盛り上がりに欠けるような気が・・・」

(がび〜ん! 人の話聞いてねー! その上テーマソングの話してるしー!!)

 軽く焦燥感と立ちくらみに襲われるミサト。そんなミサトを無視するかのごとく、
飄々とシンジは歩きより、ミサトに声をかける。

「そう言えば、父さんはどこですか?」

「あ、司令は付属病院にレイの様子を見に行ってるわ」

「レイ・・・ってだれ?」

「シンジ君が来たとき、エヴァに乗って戦ってた子よ。シンジ君と同い年の女の子。
怪我したまま戦闘にでたから」

 きゅぴーん!

 シンジの目が光る。

(う、今シンジ君の目が光ったような気が・・・!?)

「それは、お見舞いに行かなければですねー。父さんにも話があるし・・・ましてこ
こにきてから30過ぎのオバ・・・あ、いや・・・げふ、ごふん!」

 ミサトは「30過ぎ」「オバ・・」の言葉に鋭く反応する。
当然この様子をモニターしていたリツコも同様だ。

「あにぃ? もう一度言ってみなさい、シンジ君?」

「いや、何でもありません!! つまり父さんの濃さをじっくり見ないことには、こ
こにきた意味がないと言うことです!!」

 劇画のような効果線をバックに背負い、ミサトに指を指し言い放つシンジ。

「そ・・・。そう? なんか誤魔化された気もするけど・・・ま、いいか。じゃあ連
れていってあげる」

「よし。案内してもらおうか葛城ミサト!」

 もう何を言っても無駄と悟ったのか、無言で闇を背負って歩き出すミサトの後を、
シンジは歩いていった。

 途中いくつかのセキュリティーゲートを越え、一般病棟を越えると特別病棟に着く。
特別病棟と言っても、見た目は一般病棟とは変わらずに、警護の人員が多く配置され
ている程度にしか見えない。一般病棟は先ほどのシンジの大激震の一件で、かなり賑
わっていたのだが、一般職員以外の管轄である特別病棟はさして賑わっておらず、落
ち着いた状況であった。

「シンジ君、ここよ」

 特別病棟に入り、数分歩いたとき、ミサトが病室の入り口を指さす。

「ブツブツブツ・・・ブツブツ・・・やっぱり歌いながら・・・・・・ブツブツ」

「シ・・・シンジ君?」

「あ、いやなんでもないんです・・・とりあえず普通に行くか・・・」

 シンジは意を決したようにドアのノブに手を伸ばす。

「あ、一応ノックし・・・」

 ミサトがノックしようと途中まで言いかけたが、お構いなしにシンジは一気にドア
を開ける。

「ウォンチュー!!」

 ドアを開けると一気に走り込み、くの字に曲げた手を肩からゲンドウにぶつけ叫ぶ
シンジ。

「む・・・。ここになにをしに来た!?」

「あ、司令! シンジく・・・エヴァンゲリオン初号機パイロットが司令に会いたい
とのことで、さらにはファーストチルドレンにも面会をしたいということでお連れし
ました」

 ミサトは敬礼をすると、ゲンドウに報告する。

「そうか」

 ゲンドウはすでに興味をなくしたように、シンジとミサトから視線をレイに移すと
そのまま無言で、猛烈なプレッシャーを放つ。

「シンジ君、彼女がファーストチルドレン。零号機専属パイロットの綾波レイよ」

 居たたまれなくなったミサトが、シンジにレイを紹介する。ゲンドウは無言のまま
だ。

 紹介された少女は、穏やかな瞳でシンジを見つめている。その双眸は赤く美しく、
髪の毛は緩やかなカーブを描くショートカットだ。そしてなによりも目を引くのは、
その透き通るような透明感のある白い肌であろう。シンジの髪型がトチ狂った芸術家
の作品であるならば、この少女は紛れもなく天才の芸術家が作った作品のような容姿
をしているのであった。

「・・・あなた誰?」

 静寂の病室に、澄んだ柔らかい初夏の風のごときレイの声が響く。

「ああ、すまない。自己紹介がまだだったね。僕は碇シンジ(仮)」

 おもむろに自分の髪の毛を指さすシンジ。

「見ての通りのジェントルメンさっ。その髭の男の息子をしている」

 シンジがそう言うとレイは「髭」の瞬間ぴくっと反応する。

「碇? ・・・司令と同じ。髭の息子? ・・・髭?」

 どうやらレイは「髭」というキーワードに興味があったようだ。

「そうさっ! 髭だよ」

 自信満々に意味不明の受け答えをするシンジ。

「碇君・・・髭・・・司令の髭ってどう思う?」

 ミサトは驚愕した。あまりの驚きに、司令の前だというのを忘れ、声を上げそうに
なる。それもそのはず、綾波レイという少女は、ほとんどあらゆる事に無関心で、日
頃声をかけても返ってくる言葉は「問題ありません」「はい」等のごくごく短い返事
のみなのだ。そのレイが自分から進んで質問をするなどということは、未だかつて見
たことがない。

「うーん、なかなかの髭度だと思うが・・・父さんの濃さを見に来いといった割には、
正直少しがっかりだったね。そう言う綾波さん・・・もしや! 君は髭が好きかい?」

 シンジの目がきゅぴ〜んと光る。

「・・・そうかもしれない」

 肯定するレイ。

「うふ・・・うふふふふふふふ・・・」

 不気味に笑うシンジ。

「髭は良いねぇー。父さんもそうは思わないかい?」

 無言でシンジを睨むゲンドウ。その迫力にミサトは数歩後ずさる。

「髭は良いねぇー。父さんもそうは思わないかい?」

 さらに無言でシンジを睨むゲンドウ。

「髭は良いねぇー。父さんもそうは思わないかい?」

 シンジはお構いなしに、睨み付けるゲンドウに言い続ける。ミサトは今すぐこの病
室から逃げ出したい衝動に駆られるものの、ぎりぎりの理性でそれを踏みとどまって
いた。

「ああ」

 ゲンドウが重く応える。

 シンジがその返事に満足したのを見ると、さらに言葉を続けた。

「チャームポイントだ」

 ミサトは自分の耳を疑った。あの濃い総司令が自らの髭をチャームポイントと言い
放ったのだ。

「そうか。やはりな。僕もそうじゃないかと思っていたんだよ」

 そう言いながらシンジは、そばにあったパイプ椅子を引っ張り、おもむろに腰を下
ろす。

「ふぅ。なるほどね。しかし、やっと落ち着いたって感じだな。ここ1ヶ月はいろい
ろあって大変だったからな・・・」

 シンジはそう言ってレイ、ミサト、ゲンドウの顔を見渡す。

「本当に大変だったなぁー、この1ヶ月・・・」

 にこやかな表情で、3人の顔を見渡しながら言い続ける。

「1ヶ月って言うのは長いから、ほんとに苦労したよ! はぁ、大変だったぁ1ヶ月!」

(・・・碇君・・・なんだか聞いて欲しそう)

(さすがにそう言われると、聞きたくなるな・・・ふむ。問題ない。もしかするとシ
ンジの変貌ぶりの秘密か?)

(見るからに何があったのか聞いて欲しそうねぇー。でも、聞くのが怖いわ・・・)

 レイ、ゲンドウ、ミサトは心の中でどうしようかを考えている。

「1ヶ月だよ、1ヶ月!? 大変な1ヶ月!」

 さらにあおるシンジ。

「・・・1ヶ月・・・なに?」

 と、レイ。

「1ヶ月間、何があったシンジ」

 と、ゲンドウ。

「な・・・何が1ヶ月大変だったの、シンジ君?」

 と、ミサト。

 シンジは3人の顔をゆっくりと見回すと言い放つ。

「え!? なんだい? いきなり1ヶ月かい?」

 そして、パイプ椅子に座ったまま、ベッドの保護パイプにひじをつき、鼻の下で手
を組んでにやりとする。

「それは言えないな」

(・・・・・・)

(問題だな。)

(ちくしょう・・・!)

 3者3様の思いである。

 そんな中レイだけがじっとシンジの目を見つめる。少し怒っているのだろうか?

 その視線を受けて、あからさまに動揺するシンジ。

「う・・・仕方がない、そんなに聞きたければ教えてあげるよ」

 照れ笑いを受け張るシンジ。

「・・・アレはちょうど1ヶ月前。僕は落ち込んでいたんだ。父さんに捨てられて3
年たとうとしていたからね」

 無言で聞く3人。

「僕はこのままじゃいけないと思って、体を鍛えることにして山に修行にいったのさ」

「・・・どうして山なの?」

「修行といえば山だからね・・・」

 レイの質問に答える。

「来る日も来る日も修行をした。夜も寝ないで昼寝して体を鍛え続けた」

 3人をゆっくりと見回すシンジ。

 瞬間、猛烈な勢いで立ち上がる。そしておもむろに右手を突き上げ、親指で自分の
髪の毛を指さす。

「そこで出来たのが、この髪型だぁぁぁぁぁぁ!」

「はぁぁぁぁ!? 言ってる意味が分からないぃぃぃ!?」

 ミサトは盛大にこける。背中にはクエスチョンマークを大量に背負っているようだ。

「・・・そう言うことなのね」

 何故か納得しているレイ。

「そうか」

 ゲンドウも納得している。

(がび〜ん! わけ分からないのはわたしだけー?)

 ミサトの魂の叫びだ。

 そのときレイが「うっ」と右肩を押さえ苦しそうな顔をする。

「レイ、大丈夫!?」

 ミサトが心配そうにレイの顔をのぞき込む。

「・・・問題ありません」

 そう言うレイの苦痛にゆがむ表情が痛々しい。ふと、考え込む表情をした後、何事
かを思いついたように瞳を開くと、レイに向かって優しく言うシンジ。

「よし。僕が秘伝の薬を調合してあげよう!」

 シンジはこれまたどこから取り出したのか、カーキ色のかなり大きめのリュックサ
ックを取り出し、紐を解き中をあさり始める。

 次々に取り出される、道具の数々を無言で見つめる一同。

 ガスコンロ、鍋、ロープ、縦笛・・・エトセトラエトセトラ。

「山で修行しているときに開発した薬だから、効果はばっちりだ」

 かなり心配そうな顔で、その様子を見ていたミサトにシンジは言う。

「まず、コンロに火を付けて・・・・・・水を入れた鍋をかける・・・と」

 手際よく始めるシンジ。

 それを見守る3人。

「沸騰したところで、まずは辛子明太子をいれる・・・」

(がび〜ん! いきなり怪しい! しかも山で開発したのに何故辛子明太子ぉぉぉ?)

 声にならない叫びをミサトはあげる。

 レイとゲンドウは表情を変えることなくシンジの作業を見ている。

「次にチョコレート・・・。よくかき混ぜて、野村よっちゃんの生写真・・・と」

 ミサトはもうどうでも良くなった。

「次に甲子園の砂を大さじ1杯に味醂少々・・・」

 シンジはごそごそとリュックをあさり、怪しげな植物を取り出す。

「最後にもけ、あ・・・えっと、げふごふっ!! ・・・・・草・・・と」

「がび〜ん! なんの草だぁぁぁぁ!! 今確かに「もけ」って言ったぁぁぁぁ!!」

 ついにミサトが叫ぶ。

 ミサトの叫びを気にすることもなく、さらにリュックサックをあさるシンジ。中か
らコスプレ用の猫の耳を取り出した。

 そしておもむろに、レイに近づくと優しくレイの頭にそれをつけ、じっと見つめた
後2,3度頷く。

「うん。よく似合うぞ!! 萌え萌えだぁぁぁ!」

「な、なにを言うのよ」

 レイは猫耳をつけられ、頬を赤く染めてシンジの言葉に、言葉を返す。

 そんなレイを見つめながら、シンジは縦笛をくわえると、いきなり前振りもなく
演奏を始めた。

 ぴろ〜、ぴるるるるる〜。

 病室に縦笛の音が響く。しかもアルトリコーダーのようだ。演奏しているのは「気
球に乗ってどこまでも」

 さらに何故か下の低音部のパートだ。

「あの・・・シンジ君? レイの猫耳と、その縦笛の演奏って・・・いったい何の意
味が・・・?」

 かまわず演奏を続けるシンジ。一心不乱だ。部屋の中を歩き回り、時折笛の演奏の
はずが「しゃばだぁ」等の怪しい音を織り交ぜ、淡々と曲は進んでいく。1番が終わ
ったと思えば、2番にまで突入する始末だ。

 一同が見守るなか、最後まで演奏を続けるシンジ。やっと演奏が終わると、ご丁寧
にリュックに縦笛をしまい、レイから猫耳を回収するとこれもリュックにしまった。

「よし! 遊びはここまでだ!」

「がびがびがび〜ん!!! 遊びだったのかいーーーー!!!!」

 壮絶なミサトのつっこみである。

 鍋の様子を眺め、軽く鍋を振ってみるシンジ。

「よし! 出来たぞ!」

 そんなミサトを無視して怪しげな薬が完成した。

 木製のスプーンで、その怪しげな薬?をすくうと、シンジは自らの口に流し込み味
見してみる。

 ぶしゅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!

 その瞬間、シンジの髪の毛と肩の物体から大量の水蒸気が発生した。

「くはぁぁぁぁぁ・・・な、なかなかいい味だ。こ、これならばっちりだな・・・う
ぐぇ」

 一撃で憔悴しきったシンジが、つぶやく。

 心なしレイの顔が引きつっている。

「さぁ! この薬で怪我など瞬時に治るぞ!?」

 鍋を持ってレイに近づくシンジ。

 その目がきゅぴ〜ん!と光る。

「・・・私多分3人目になるかも」

 レイはゲンドウに向かってそう言う。

「それでは! 行きましょう!」

 シンジはそう言うとおもむろにレイの包帯をはずす。はずされた包帯はレイの血が
こびりついており、痛々しい。

 傷口が現れると、いきなりその怪しげな薬を塗るシンジ。

「ちょ・・・ちょっと、シンジ君? それって飲み薬じゃないの?」

 ミサトが疑問をぶつける。

「嫌だなぁー。そんなわけ無いじゃないですか、ミサト」

(がび〜ん!! じゃあ何故味見したぁー!)

 3人ともさすがにショックなようだ。

「・・・あ、急に楽になった」

 レイがそう呟く。

 先ほどまであった傷口が何故かふさがり、腫れも引いている。

 全治2週間といわれた怪我が一瞬で治癒してしまった。

「す・・・すごい! シンジ君すごいわ!」

 ミサトが感激する。

「任せてください。こう見えても僕は世界生薬配合お料理同盟の総司令ですから。マ
ッドぶりはリツコさんにも負けないですよ!」

「はい・・・? そ、そうなの・・・? ま、まぁいいけど・・・治ったなら」

「一応国連からの特務機関のお墨付きですから」

 シンジの言葉に固まるミサト。そんな特務機関があるかーーー! とのつっこみを
いれたいのだが、あまりにも疲労しているため、つっこむ余裕すらないようだ。

 レイの怪我が治ったことを確認すると、残りの薬を洗面所に流し捨てるシンジ。モ
ニターカメラで見ていた、ネルフ所属の某マッドな科学者は「あああ! もったいな
い!! 解析させてぇぇ!」と悲鳴を上げていたとかいないとか。手際よくすべての
荷物をリュックに戻すと、ゲンドウに向かって少し恥ずかしそうに言う。

「今日は僕の歓迎会と綾波さんの完治祝いを開こうと思う。父さんは他の人にも『命
令だ』といって連れてきてくれ」

 他人の都合はお構いなしのシンジである。

「僕を問答無用で呼びだしたんだし、綾波さんも完治したんだから、父さんはそれ位
する義務はあると思うんだ」

「必要ない」

 シンジの言葉に、冷たく言い放つゲンドウ。

「そう。じゃあ僕は歓迎してもらえないんだ。なら元の場所に帰るよ、父さん」

「碇司令!」

 あわててミサトがゲンドウに言う。暗にシンジに帰られたら今後の使徒殲滅の、作
戦の実行は不可能になると、ミサトなりにプレッシャーをかけている。

「わかった」

 ゲンドウも了解する。

「場所はミサトの家な?」

「ちょ、ちょっとぉぉ!! なんでぇぇぇ!!」

「問題ない」

 ゲンドウの了解を得てしまったがために、ミサトもなにも言えなくなる。

「どうしてなのぉぉぉぉぉ!!」

 病室にはミサトのムンクのごとき叫びがこだましていた。

 そして1時間30分後、ミサトのマンションの前に集まる人々の姿があった。

「ちょっち、散らかってるけど・・・」

 ドアを開けつつ、ミサトはそう言いながら振り向く。表情は暗めで、動作もぎこち
ない。

 後ろには碇シンジ、パイロットであるファーストチルドレンの綾波レイ、技術部の
赤木リツコ、オペレータである伊吹マヤ、日向マコト、青葉シゲル、そしてネルフ総
司令の碇ゲンドウ、副司令の冬月コウゾウがその様子を見ていた。

(しかし・・・主要メンバーみんな来ちゃって・・・使徒が来たらいったいどうする
のかしら・・・)

 内心つっこみをいれるが、このメンバーに対して声に出して言う勇気はないミサト
であった。

 開かれた扉から中をのぞき込み、大声で叫ぶシンジ。

「おお! これはすごいっ! 源さんの家にそっくりだぁ!」

「げ・・・源さんって誰かしら、シンジ君?」

「僕の知り合いで橋の下に住んでいるんだ。彼の仲間内からは【豪邸だ!】と言われ
ている」

(がび〜ん! それってホームレスのお方ぁ!? 一緒にするなぁぁぁぁ!!)

「至極もっともな感想ね・・・。女の家としては無様ね・・・」

 リツコの容赦ない一言がミサトにとどめを刺した。

 その中でただ一人、この部屋の有様を見ても表情一つ変えない者がいた。

 綾波レイである。

「・・・どうすればこうなるの?」

 しかし表情は変わってはいないが、内心は驚いているらしい。

「ま・・・まぁ、気にしないで・・・。引っ越ししたばかりだから未だ片づいていな
いだけだから・・・」

「そうなんですかぁ・・・。それにしてはゴミだらけのような気がしなくも・・・」

「シンジ君! あなた男でしょう! 男ならそんな細かいとこを気にしないの!!」

 ミサトはシンジのつっこみにかなり動揺しているようだ。

 そう言われたシンジは、両手で頭を押さえ、絶叫に近い声で言う。

「うぉぉぉぉん! 済みませんミサトさん!! 僕が間違っていました!!」

「そ・・・そう。判ればいいのよ・・・」

「今の僕の気持ちを表現するのにぴったりな言葉があります・・・。『武士道とは死
ぬことと見つけたり!』です」

 そこにいる全員の脳裏にクエスチョンマークが浮かんだ。

「ま・・・まぁ・・・いっか。とにかく、ちゃっちゃと片づけちゃうからちょっち待
ってて」

 そう言うとミサトは皆をそこに待たせたまま、ばたばたと片づけを始めた。扉を閉
められてしまったので中の様子を伺い知ることは出来ないが、「どすどす」「がらが
ら」等の効果音によってだいたいの想像がつく。

 数分経過したが、その音は収まることがない。いい加減、待っているのにも飽きて
きた頃、シンジがドアを開け言い放った。

「ミサト! 僕がかたずけましょう。僕なら5分かからずに、綺麗にすることが出来
ますから!」

「うそ・・・。この部屋の惨状を5分で!?」

 リツコが驚愕の表情でつぶやいた。シンジとミサトの部屋を交互に眺める。

「副司令、このマンションのミサトの下の部屋は空き部屋ですか?」

 突然振られて、一瞬躊躇するが、さすがはネルフの副司令であるコウゾウは冷静に
答えを返した。

「ああ。そのはずだが」

「そうですか。わかりました」

 シンジは靴のまま、ミサトの部屋に入っていく。

「ちょ、ちょっとシンジ君! いくら何でも土足はひどくない!?」

「いいんです。こんな新たに生命が発生しそうな部屋、靴も履かずに入れますか!」

 ずかずかと土足で部屋に入ってきたシンジに、抗議するが全く持って取り合っても
らうことが出来ない。

 リビングらしき場所にシンジが到着すると、大きめのテーブルをサイドにずらし、
精神統一を始める。腕を胸の前でクロスさせ、深く深呼吸をするシンジ。その様子を
一同は、固唾をのんで見守っている。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 目をきゅぴーん!と輝かせ、シンジが気合いを入れた。

 そして唐突にしゃがみ込むと、右腕を大きく振りかぶる。振りかぶった右手の拳が
発光しているように見える。

「必殺!! ブリーフコンチェルト!!」

 謎の叫びとともに、拳をテーブルのあった床に、振り下ろした。

 どごごごごごぉぉぉぉぉん!!

 強烈なサウンドと、激烈な振動とともに、シンジが拳を振り下ろした場所に、数十
センチの穴が伺われた。

「よし!」

 開いた口がふさがらない一同を後目に、先ほど動かしたテーブルを持ち上げ、ブル
ドーザのごとき勢いで、部屋の中のゴミをテーブルで押し、穴に落としていく。

 次々とゴミは穴に捨てられていき、ほとんど一瞬という速度で、ミサトの部屋の床
が見えるまでになっていった。シンジの宣言通り、わずか5分−−−正確には4分27
秒で、ミサトの部屋は何もない、綺麗な部屋になった。

 そう、何もなくなったのだ。

「シ、シンジ君! それゴミじゃないのよぉ!! ゴミじゃないのぉ!!」

 途中ミサトが、家電製品や、家具などを穴に落としたときに言った台詞だ。もちろ
ん無視されたが。

「ふぅいい汗かいたぁ。これで綺麗になりました! じゃあ、皆さんどうぞ」

 晴れやかなシンジの表情とは逆に、顔面に縦線を張り付けた一同は、コクンと首を
縦に振ると無言でリビングへと向かった。

 ぞろぞろと、リビングに入っていく。レイ、マヤ、シゲル、マコト、リツコ、コウ
ゾウ、ゲンドウと続いた。

 皆それぞれ適当な場所を陣取る。穴の上にテーブルをずらしたため、掘り炬燵状態
になっている。ただし普通の掘り炬燵と違うのは、赤外線温熱機はもちろんないが、
下に床もない。落ちたら下の階の、それもゴミの部屋へと真っ逆さまという、非常に
スリリングな状態だ。

 テーブルの上を見回すが、まだ何もない。当たり前のことだがシンジが突然言い出
し、その1時間半後にはゲンドウの「命令だ!」が飛び出してそのままここへ直行だ
ったので、準備する時間などあるわけがない。

「じゃあ、ちょっち買い出しに行って来るわね・・・。2,3人一緒に来てくれる?」

 ミサトはそう言いながら、シゲルとマコトに視線を移す。

「・・・はい」

 シゲルとマコトは諦めたように、ユニゾンで返事を返す。

「あ・・・じゃあ、私も行きます」

 マヤもその一行に加わる。

「うむ。急いで行って来てくれ」

 シンジの言葉に買い出し4人組は苦笑を浮かべて席を立った。

 4人が買い出しに言った後の部屋は、なんだか空気が非常に重い。

 それもそのはず、残されたメンバーはかなりディープだ。

「突然ですが副司令! 父さんっていつもあんな感じなんですか?」

「そう・・・いつもあのような感じだね。全く何を考えているのか判らん」

「どうして? シンジ君」

 コウゾウに続きリツコがシンジの質問の糸を探る。レイは無言だ。

「僕の記憶の中にある父さんと変わらないなぁ・・・。でも、母さんには頭が上がら
なかったみたいですけどね」

「・・・シンジ!」

 シンジの一言にそれまで無言だったゲンドウが反応する。サングラスの中でゲンド
ウの目がシンジを睨んでいるようだ。

「母さんかぁ・・・。目を瞑ると思い出すなぁ・・・。優しかった母さん。今でもす
ぐ側にいるような気がする・・・。僕には・・・未だに・・・信じられないよ・・・」

 俯いたまま肩をふるわせるシンジ。そんなシンジを見て、皆無言になる。

「シンジ君・・・」

 リツコが静かに声をかける。

 ゲンドウの眉がぴくっと動いた。

「・・・本当に信じられないや・・・。あのいつも穏やかで優しかった母さんが・・・
どうして・・・」

 振り絞るように言葉を続けるシンジ。

「母さん、僕が何かしでかしても・・・にっこり笑って絶対怒らなかったんだ。いつ
も・・・優しく諭してくれた・・・本当に信じられないよ・・・あんな事になるなん
て・・・」

「シンジ君のお母さんは、シンジ君の記憶の中で・・・」

 リツコがそう言いかけたとき「がばっ」っと顔を上げシンジは叫んだ。

「『てめー、ゲンドウ!! いい加減にしやがれ! 私はもう出ていく!!』って言
って実家へ帰っていったんだぁぁぁぁぁ!!」

 ゲンドウは明後日の方を向いている。

(がび〜ん!! そうなのぉ!? 母さんのレポートだと、初号機に取り込まれたっ
て!!)

 リツコ、心の叫びである。

「あのときの実験で、取り込まれたんじゃないのか? 私がトイレに行ってる隙に何
があった!?」

「・・・問題ない」

「・・・そうなんだな。何も嘘をついてまで・・・エヴァ初号機に取り込まれたなど
と言う報告書まで作りおって・・・そこまでして隠すこともあるまい!?」

「・・・シ・・・シナリオ通りだ」

「おまえ、かなり動揺しているな?」

 コウゾウの問いに無言のゲンドウ。心なしサングラスの下の目が泳いでいるようだ。

 リツコとコウゾウの冷ややかな視線を浴びつつゲンドウは無言でいる。そのまま時
間だけが過ぎていった。

 この状況を作り出した張本人のシンジは、鼻歌を歌いながら新聞を読んでいるよう
だ。

「シ、シンジ、変わったな・・・。以前は新聞など全く読まなかったが・・・。今は
毎日、新聞を読んでいるのか?」

「おまえの目は節穴かぁ!!!」

 ゲンドウの問いに、一気に立ち上がり右手をつきだし指を指すシンジ。激しい反応
だ。

「僕が今読んでいるのは読売新聞だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 さすがのゲンドウもこのシンジの思考にはぶっ飛ぶ。

「い・・・いや、私が言いたいのはそう言うことでなく、最近は毎日、新聞を読んで
いるのか? と、聞いたのだ」

「しつこいぞコンチクショウ! 何度でも言う!! 今僕が読んでいるのは読売新聞
だぁぁぁっ!」

「・・・新聞社の話でなく、おまえは毎日、新聞を読んでいるのかということを聞い
たのだ!」

 だんだん感情的になるゲンドウ。

「ふふふふふふふ・・・。いい大人が自分の勘違いを棚に上げて、僕の間違いにしよ
うとするとは・・・。父さん、あなたには失望した」

「何故そうなる! 最初からおまえの勘違いだ!」

「そうか、まだ言うか。売られた喧嘩、たとえ父さんでも買うぞ・・・」

「ふっ・・・。私も伊達にネルフ総司令などはやっておらんぞ。ネルフの全勢力を使
っておまえを倒す!」

 ゲンドウはテーブルに両腕をつき、鼻の前で手を交差させたポーズのまま淡々と切
り出す。

(がび〜ん!!親子喧嘩にかり出されるネルフって一体!?)

 リツコとコウゾウ、そしていつの間にか買い物から戻って様子を見ていた買い出し
4人組は声にならない叫びをあげた。

「ほあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 シンジはかけ声とともに両腕を大きく円を描くように回す。

 その手が一回転して丁度股間の辺りに来たとき、おもむろにズボンのチャックに手
をかけ、ジッパーを一気におろす。

「な・・・何を!?」

 ゲンドウはいきなりのシンジの行動にどう反応して良いのか分からない様子だ。

「必殺! 母は父よりも強し!!」

 シンジはそう叫ぶと、ファスナーの間から携帯電話を取り出し、おもむろに番号を
プッシュする。

「・・・0・・・7・・・5の6・・・9・・・2の・・・」

「075−692? 京都・・・!? シ、シンジ・・・まさかその番号は・・・」

 かなり動揺しているゲンドウ。

「そうだ! その通りだよ、父さん! 母さんの実家だ!」

 シンジの目が勝利を確信した輝き「きゅぴーん!」を見せる。

 ゲンドウはマッハの早さで立ち上がると、シンジから携帯電話を奪い取り切断した。

「はぁはぁ・・・。私が間違っていた、シンジ。済まなかった」

 唖然とする一同。

「ふ・・・。相変わらずユイ君には頭が上がらないのか。ユイ君が生きていることも
判ったし、これからはいろいろと相談することにしよう。シンジ君、後で番号を教え
てもらえるかな?」

「構いませんよ。母さんも喜ぶと思いますから」

 コウゾウはシンジの返事を聞いてニヤリとゲンドウを見る。

「無様ね・・・」

 リツコのとどめの台詞だ。

 レイだけは終始無言で事を見ていた。

 買い出し4人組の買ってきたつまみと酒でとりあえず盛り上がり始まる。マヤがキ
ッチンに入り追加の料理を作っていた。

 ミサトも作ると言ったのだが反対の意見多数のためと、ゲンドウの「作るな。命令
だ!」の一言でふてくされビールを片手にシゲルに絡んでいる。

 シンジはというと、レイに興味があるのかちらちらとレイを見ている。レイはそん
な視線に気づいているのかいないのか、黙々とつまみを食べていた。

「あ・・・あの、綾波さん?」

「・・・何?」

 シンジは何故かレイに声をかけてしまう。シンジも何故か先ほどまでのいつものシ
ンジではない。

「あの・・・僕の作った歌を君に送るよ!」

 シンジはどこからかアコースティックギターを取り出し歌い始めた。


 俺の強敵(とも)は、刑務所帰り

 だけど話すと良いやつなんだぜ

 心はいつもロンリネス

 真っ赤な夕日に叫ぶんだ

(セリフ)うぉぉぉぉぉん! 朝日と夕日どっちが赤いのぉ?

 ヨーロッパ島から戻った君は

 サバを締めたと笑って言うけど

 君は昆布で僕ワカメ

 黄昏気分で知恵の輪なげる


(がび〜ん!なんやそりゃー!!)

「これが僕の君に対する気持ちだ」

 シンジは歌い終えるとレイの目を見てそう言う。

「・・・ありがと。・・・私のこと好きって言ってくれるのね・・・。嬉しい」

(がび〜ん!何故そう解釈できる〜!!)

 そこにいた全員の魂の叫びである。いや、約一名を除いての、だ。

「シンジ君。あんさん、いい男やぁー。ほんまにラブリーな気持ちが伝わってきたで
んがな」

 シゲルも理解したようだ。しかし、何故怪しい関西弁・・・?

「じゃ・・・じゃぁ僕のために集まってくれたみなさんに、僕の料理をごちそうする
ことにしよう!」

 シンジは照れ隠しにそう言って、マヤのいるキッチンへ行く。

「マヤさん・・・どうですか?」

「あ、今丁度終わったところ」

「じゃあ、最後に僕が一品作らせていただきます」

 シンジはそう言うと冷蔵庫を開ける。中は95%がビールであった。

 その中から、ジャガイモと人参、豚肉、タマネギ等を取り出す。

「材料あまりないけど・・・何を作るの、シンジ君?」

 ミサトがリビングから声をかける。リビングからキッチンは丸見えなのである。

「これですと、カレーライスしかできないですね」

「いーんじゃなーい? カレーでも。あ、でも肉は入れないでねー」

 ぴくっと反応するシンジ。

「ミサト!! 好き嫌いは駄目です!! 昔の人は言いました。『働かざる者、食う
べからず』と」

「・・・ちょっち違うような気がするけど・・・私じゃなくて、レイが肉は駄目なの
よ」

 またまたぴくっと反応するシンジ。

「何を言うコンチクショウ! 肉など誰が入れるかぁ!!!」

(がび〜ん! レイの名前を出した瞬間に言ってることが変わってるしー!!)

「ははは・・・そ、そう」

 引きつるミサトと一同。レイは一瞬頬を「ぽっ」としたようだが、すぐにいつもの
表情に戻る。

「しっかしー、レイのことになるとシンジ君てからきしねー」

「・・・何を言うのよ」

 ミサトの言葉に反応したのはレイの方であった。更に頬を「ぽっ」っと赤く染めて
いる。

 シンジはミサトのセリフをわざと無視して料理を始めたようだ。

「まずは・・・素材を切って・・・と」

 なかなか鮮やかな包丁さばきで素材を刻んでいくシンジ。

 一同はそれを驚きの眼差しで見ている。

「シンジ君、すごい」

 マヤが感嘆の言葉を呟く。

「そりゃあ、3年間も一人暮らししてましたから」

 そう言いながら、次々と鍋に入れていくシンジ。

「先ず堅いものから入れて・・・よしよしいい感じだ」

 シンジはまたもやリュックから怪しげなモノを取り出し、それを見ながらニヤニヤ
する。

「・・・シンジ君、それは何?」

「リツコさん、よくぞ聞いてくれました。これは・・・」

 手に持った怪しげなカンを皆に見えるように突き出すシンジ。

「幻のスパイス『スパイスいらーず!』です!!」

「がび〜ん!!! いるのかいらないのかどっちなんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 顔に縦線を入れつつ叫ぶリツコ達。

「これは中国4000年の歴史を誇る、究極のスパイスなのです!」

(な、何故カレーなのに中国!?)

 さすがに皆、がび〜んのしすぎで疲れてきたようだ。

 そんな事もつゆ知らず、その究極のスパイス「スパイスいらーず」を鍋に入れるシ
ンジ。

「よし、いい味になってきたな。後は味を調えるだけだ・・・」

 シンジは更にリュックをごそごそとやると、白いいかにも怪しそうな包みを取り出
し、包みをほどくとおもむろに鍋に入れる。

「そして味を整えるために、もば・・・あ、いや・・・げふっごふっ!・・・調味料
と・・・」

「がび〜ぃぃぃぃぃん!!! 何の調味料だ、それわぁぁぁぁぁ!!」

 最後の気力を振り絞り叫ぶ一同。レイは相変わらず冷静だ。

「よし! 完成だ。これは旨そうだ」

 そう言うとシンジはお玉にカレーを少々取り口に運ぶ。

「はがぁ!! ひぃぃぃぃぃぃぃ めちゃめちゃうまぃぃぃぃぃぃ」

 はがぁ! の後はぼそっと呟くシンジ。声のトーンが1オクターブ低い。更に旨い
と言う割には顔に縦線が入っているうえに、背中に暗黒を背負っている。

「・・・えっと、僕を除いて8人か・・・。お皿を8個用意して・・・と」

(がび〜ん! 自分の分は抜いてるぅぅぅぅぅ!?)

「・・・あ、やっぱり肉も入れよう!」

 シンジはそう言うのが早いか、肉を炒めて鍋にどんどん入れていく。

「ほんとは最初にいれるべきなんだけど、まぁこのカレーじゃ何しても一緒だね。く
すくす」

 微妙に怪しげな言動で、肉を鍋に入れまくる。おもむろにリビングの方に振り向い
て、わざとらしい声でつぶやくシンジ。

「あちゃぁ・・・しまった。綾波さんが肉嫌いなの忘れてたよ・・・。しょうがない、
綾波さんはまた今度食べて貰おう」

(がび〜ん!! わざとらしすぎる〜。犠牲者からレイを外したわねぇぇぇ!?)

 シンジは7皿にそのカレー?の様なモノを盛りつけると、有無を言わさずレイを除
いた全員の前に置いていく。

「ごめん、綾波さん。間違って肉を入れちゃったから、今日は遠慮しておいて。また
今度、危なくないのを・・・あ、いや、肉の入ってないのを作ってあげるから!」

「・・・ありがとう碇君。私の体を心配してくれて」

(がび〜ん!!危なくないのをって・・・これは危ないのぉぉぉ!? そして、レイ
の体を心配・・・ってやっぱり、危険なんだぁぁぁ、このカレー!?)

「と・・・ところでシンジ君は食べないの?」

「あ・・・いや、僕はさっきの一口で死にそうに・・・い、いや、味見でお腹いっぱ
いだから!!」

 ミサトの質問にしどろもどろな答えのシンジ。

「さぁ、遠慮しないでどんどん食べて下さい!! お代わりも未だありますから・・・
ニヤリ」

 シンジは全員の顔をゆっくりと見回す。

「さぁ! 勇気を出して!!」

 何故カレーを食べるのに勇気がいるんだ!!

 皆、生身で使徒につっこんでいく覚悟で、一口目を口に運ぶ。

 辺りは静まり返っている。

「あれ? このカレーおいしい」

「問題ない」

 凄まじいモノを想像していた一同だが、カレーは予想外に旨い。というよりも、今
まで食べたことがないくらい旨かった。

 一気に食べ尽くす一同。

 お代わりをする者までいる。

 あっという間に、シンジの作ったカレーは無くなってしまった。

「すごくおいしかったわ、シンジ君!」

「そうですか? そのおいしさが後で命取りに・・・」

「え!? 今何か言った?」

「いえ、別に!」

 ミサトの賞賛にぼそっと危険なことを言うシンジ。しかし、真横にいたレイ以外に
はその言葉は聞こえなかった。

「研究の成果ですから! だてに父さんと同じように特務機関の総司令はしてません
よ」

「特務機関?」

「ええ。さっきミサトには説明したんですけど、世界生薬配合お料理同盟の総司令な
どをやってます」

 のうのうと言い放つシンジに、一同はあきれ顔だ。

「そ、そう。それはすばらしいわね。ネルフともう一つの特務機関ね」

 どう反応していいのかわからないリツコ。

 そうこうしているうちに、夜もかなり更けてきた。時計は12時40分を指してい
る。

「そろそろおいとましようかしら。ありがとうシンジ君。おいしかったわ。あなたの
歓迎と、レイの完治祝いだったのに、こっちがもてなされちゃったわね」

 リツコが丁寧なお礼をいう。

「いいえ、気にしないでください」

 さわやかな笑顔でシンジがそれに応えた。

「僕としては集団に実験できたんで・・・くすくす」

「え? なんて言ったの?」

「喜んでもらえると僕も良心が痛み・・・あ、いえ、うれしいです」

 シンジの言葉に不吉な陰を見つけるリツコだが、つっこむ勇気も持ち合わせていな
かった。

「じゃ、じゃあまたね。ごちそうさま」

「ごちそうさまでした!」

 去りゆく一同を見ながら、シンジは目をきゅぴーんと輝かせていたことに誰も気が
つかない。

 そして、シンジはとりあえずネルフの宿舎に帰ることになった。

 ミサトは泊めた方がいいのかな・・・と思いつつも、口に出すことはできない。

 それもそうであろう。振り向けば床に大穴があいているのだ。

 シンジを見送ったミサトは、シンジの言った「実験」という言葉が妙に引っかかっ
ていた。

 ミサトを含む、カレーを食べた者がその実験結果を知るのはそう遠くない。それど
ころか、翌日には知ることとなる。


第3話に続く

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