そして、学園祭の朝
「シンジ! 起きてよ ほらぁ」
誰かが僕の肩を揺すっている。
「んん〜おはようアスカ・・」僕はようやく目を覚ました。
「今日は学園祭だから、もうあまり時間が無いから早く起きて!」
アスカが僕の毛布を剥いで、僕を急かした。
「わかったよ・・」僕はあくびを噛み殺して、立ち上がった。
「もう朝御飯食べられるから、早くしてね!」
アスカはそういって、僕の部屋から出ていった。
「学園祭かぁ・・」僕は呟きながら、寝間着を脱ぎ、制服を着た。
「おはよ〜」僕はそう言って食卓に歩いていった。
「あ、碇君おはよう! もう出来るから、座ってて!」
綾波が料理の手を止めて言った。
「うん」僕は食卓の椅子に座った。
「いい匂いだなぁ」僕は鼻をひくつかせた。
「ほら シンジ!あんた顔洗った?」アスカが僕の顔を指差した。
「あ、そうだった・・」僕は洗面所に向かった。
バシャバシャ
僕は顔を洗い、髪に手櫛を入れて、再び食卓に戻った。
僕が席に着くと、プレーンオムレツと、コップに入ったコンソメスープと
ロールパンを僕の机の前に、アスカが置いた。
「さ、時間無いから急ぎましょ!」アスカが僕を急かした。
「わかったよ・・ いただきます!」
僕はそう言ってからコンソメスープを啜った。
「おいしい! これ、アスカが作ったんだろ」
僕はアスカに言った。
「そうよ」
「さて!」僕はフォークでオムレツを一口食べた。
そして、ロールパンを一口大にちぎって、マーガリンを付けて食べた。
数分後
ピンポーン ピンポーン
ドアホンの音が鳴り響いた。
「誰だろ」僕はリモコンを押してドアのロックを外した。
ガーガシャン
「おまえら まだ飯食うとんのかい?」トウジが中に入って来て笑った。
「鈴原は朝食べて来なかったんでしょ!身体に悪いわよ!」
トウジの横に立っている洞木さんがトウジに言った。
「一人で朝飯作るのは面倒なんじゃ」トウジが頬を手で掻いた。
「そうなの・・」洞木さんが俯いた。
「委員長が気にせんでもええって」トウジが洞木さんの肩に手を置いた。
「何か いや〜ん な感じだなぁ」ケンスケが独り言を言った。
「ちょっと待ってて! すぐ終わるから」僕はトウジ達に声を掛けて食事を再開した。
僕たちは食事を再開した。
数分後
「さ、学校に行きましょうか!」アスカが立ち上がった。
「うん! 待たせてごめんね!」僕は三人の方を向いた。
「あ・・・シンジ!マーガリンが付いてるわよ!」
アスカがティッシュで、僕の口元のマーガリンを拭いてくれた。
「あ、ありがとう」
「ほら 遅れるわよ! シンジ!」アスカが僕の背中を押した。
数分後
僕達は走りながら学校へ向かっていた。
「今日午前中のうちのクラスの公演が終わったら、後は遊びほうだいなのよね!」
アスカが走りながら洞木さんに言った。
「そうよ! だから白雪姫を成功させましょうね!」洞木さんが答えた。
「おいトウジお前何の役だったっけ?」ケンスケがトウジに聞いた。
「木だよ」トウジが答えた。
「え?何だって?」ケンスケが聞き返した。
「木の役なんだよ! だから立ってるだけでいいんだよ!
そういうお前は小人だったな!」トウジがケンスケに言った。
「そうなんだよなぁ 制作費が足らないのと、時間が無いせいで、
まるで前衛映画のように、人が木になったり、山になったり・・」
僕は思い出しながら呟いた。
「碇・・お前はいいよな!王子様役だからな」ケンスケが呟いた。
「恥ずかしいだけだよ」僕は呟いた。
「わしなんか、おじいが研究所休んで見に来るんやで!
来んでもえいって言うてんのに・・」トウジが呟いた。
「俺の所もさ、おやじが来るんだよ・・」
「はぁ〜 ×2」
「早くしないと遅れるわよ!」アスカが僕達に発破をかけた。
僕達は階段を走りあがって教室に走り込んだ。
「ぎりぎりセーフ!」僕は安堵した。
だが、教室には男子しかいなかった。
「遅くなっちゃったぁ」洞木さんも入って来た。
「あ、もう着替えに行ったのね・・」
洞木さんは、綾波とアスカを連れて、空き教室に向かった。
「着替えるとするか・・」僕は机の上に置いてある、王子様の服を着た。
一部の着替えを要する者以外は、制服のままだった。
「おい! 碇が準備出来たってよ!」クラスの男子が、空き教室に声をかけた。
「ハイハイ」アスカが化粧箱を持って現われた。
「ほら座りなさい!」胸元が開いた薄紫色のドレスを着たアスカが、
僕を椅子に座らせた。
キョウコおばさんのドレスを借りて来たって言ってたけど・・
「え〜と まず白粉ね」パタパタ
アスカが僕の顔に白粉を薄く塗った。
「それから、眉毛を黒く塗ってと・・ あ、この色にしようかな」
アスカは僕の化粧に没頭していた。
「ア、アスカ・・その、谷間が見えてるよ・・」僕は震える声でアスカに言った。
「え?どうしたの?」アスカが化粧の手を休めずに答えた。
「いや・・その」僕は思っていることが口に出せずに、どもってしまった。
「おかしなシンジ!」アスカが笑った。
アスカは結局気づかずに、化粧を続けた。
「おかしいわね・・まだピンクのファンデーションを
付けて無いつもりだったのに、顔が赤いわね・・」アスカが僕の顔を触った。
「ま、これでいいか! 」アスカが化粧箱をたたんだ。
「あ、襟が折れてるわよ」アスカが僕の襟を直してくれた。
「・・・・・・」
ガラガラッ 教室の扉が開いて、ミサト先生が顔を出した。
「あと10分で公演開始だからね!」ミサト先生はそれだけ言って出て行った。
5分後
着替えの終わった女子達が教室に入って来た。
「さあ、白雪姫の到着ですよぉ」洞木さんが白雪姫の格好をした綾波を連れて来た。
「さぁ 時間ですよ!みなさん!」ミサト先生が教室に入って来た。
「さぁて 木になって来るかな・・」トウジが呟いた。
「ま、そう言わずに・・公演が終わったら、自由行動なんだから!」
ケンスケがトウジをなぐさめていた。
「自由行動ねぇ・・」だがトウジは元気が出なかった。
「ねぇトウジ! 高等部の2年A組の人達がタコ焼きするって言ってたよ」
僕はトウジに言ってあげた。
なにせ、クラスの数が少ないので、出し物も少ないのだ。
ま、新設校で生徒がまだ少ないから仕方無いんだけど・・
だから、一段上の区画にある 第三東京市立第一高校も
同時期に学園祭をして、自由に行き来出来るようにしているのである。
後、文科系の各クラスの出し物とかだけがこの校舎であるだけなのだ。
僕達は長い校名を言うのが面倒なので、高等部と呼んでいた。
僕達は体育館の狭い控え場所で、出番を待っていた。
わーーー パチパチパチ
僕達の前に公演した、1年B組の生徒達が、もう一方の出口から出て行った。
「それいけっ!」ミサト先生に先導された僕達は所定の場所に行った。
まず、木の役のトウジ達は、首から、”木”と書かれた札を下げて所定の場所についた。さらに奥には、数人がピラミッドを作り、山を形どっていた。
−−scene1−−
7人の小人達が舞い踊る森の中に、綾波扮する白雪姫が登場した。
「わぁ!白雪姫だ!」
「美しいなぁ」
「僕らと踊ろうよ!」
ナレーション
「とある国の東にある森に住んでいる、少女は、その白い肌と美貌で、
白雪姫と呼ばれていたのです」
「ええ」
白雪姫と7人の小人はまるでミュージカルのように、歌って踊った。
「もう限界だぜ・・」
「俺もだよ 死ぬな!」
奥の方でピラミッドを作って山を表現している数人の顔は蒼かった。
−−scene2−−
アスカが扮する魔法使いは、鏡に向かっていた。
「鏡よ鏡よ鏡さん 世界で一番美しいのは誰?」
「アスカ様ぁ〜」その時、観客の中の、アスカのファンクラブ”プア・アスカ”の
メンバーが叫んだ。
そのファンクラブの会長は、アスカに関する個人誌まで出してるそうで、
その個人誌には、アスカの隠し撮り写真が4枚も載ってるそうだ。
そして鏡から、綾波扮する白雪姫の顔が浮かびだした。
「ををおぉ〜」ギャラリーは少し驚いているようだ。
実は、これは鏡では無く、鏡の枠にラップを張って、スポットの調整で
鏡に見せかけていたのだった。
そのラップに後ろに隠れていた綾波が顔を突っ込んだ、という訳なのだった。
「こやつは何者じゃ!」アスカ扮する魔法使いが叫んだ
すると従者が出てきて
「これは、東の森に7人の小人と共に住んでいる”白雪姫”です!」
と言って去って行った。
「クク 白雪姫だとぉ・・」アスカ扮する魔法使いは顔を真っ赤にして怒った。
−−scene3−−
「え〜リンゴぉ〜 リンゴぉ!」アスカ扮する魔法使いは、
リンゴの入った駕籠を手に、白雪姫の住む、森の街にいた。
そして、小人役の生徒が前を横切った。
「ちょいとお待ちよ小人さん!」アスカ扮する魔法使いが声をかけた。
「なんだい? オイラに用かい?」小人が立ち止まった。
「私はリンゴを売ってるんだけど、誰も買ってくれないんだよ・・
だから まけとくから、買ってくれないかい?」アスカ扮する魔法使いが言った。
「いくらだい?」小人役のケンスケが答えた。
「全部で銀貨一枚でいいんだよ・・売れないと、薬が買えないもんでねぇ ゴホゴホ」
アスカ扮する魔法使いが言った。
「わかったよ 買ってあげるよ! ほら!」ケンスケ扮する小人が銀貨を渡して、
リンゴの入った駕籠を手にして白雪姫のいる森に向かって行った。
「しめしめ・・これで、白雪姫は・・」アスカ扮する魔法使いはそういって退場した。
−−scene4−−
「白雪姫ぇ」ケンスケ扮する小人が綾波扮する白雪姫のいる森に着いた。
「あら、小人さん なあに?」綾波扮する白雪姫が声を返した。
「ほら おいしそうでしょ! リンゴ貰ったんだ! 白雪姫にあげるよ!」
「まぁ、ありがとう!」綾波扮する白雪姫は駕籠の中からリンゴを一つ取ってかじった。
「うっ!・・・・」綾波扮する白雪姫は倒れてしまった。
「ああっ 白雪姫! 白雪姫!」7人の小人が集まり、倒れた白雪姫の周りを回った。
「眠っているだけです!」小人の一人が、白雪姫の胸に耳を当てて言った。
ナレーション
だが、呼べど叫べど白雪姫は目を覚まさなかった。
それはともかく!踊っていないでなんとかしろ!と皆さんお思いでしょう。
ワハハハハ
ギャラリーは笑ってしまった。
−−scene5−−
途方に暮れる小人達の横に、馬に乗った(生徒3人で騎馬を作っている)
王子様役の僕が進んで行った。
「どうかなされたんですか?」僕は小人に声をかけた。
「白雪姫が、白雪姫が目を覚まさないのです!」
小人の一人が王子様役の僕の足元にひざまずいた。
(よいしょっと・・)僕は馬から降りた。
「をを これは美しい!」僕は棒読みながら、覚えさせられた台詞を言った。
そして、顔を綾波扮する白雪姫の顔に近づけて行った。
(ドキドキ 本当に綾波にははまり役だなぁ・・毎日見てる綾波とは違うみたいだ)
その時、僕の視野の隅に、僕たちを凝視しているアスカの姿が目に入った。
僕は少しびくびくしながら、綾波にキスをするふりをした。
ナレーション
王子様のキスで何と、白雪姫は目覚めたのです。
僕は綾波に手を貸して立ち上がらせた。
「あ、あなたは?」綾波扮する白雪姫が台詞を言った。
「やぁ目覚めたようだね 僕はこの国の王子なんだ!」
「王子様?」
「君・・僕と一緒にお城に来ないかい?」
「本当ですか? 」
僕はこの台詞のやり取りが苦手で、練習で何度も失敗したんだが、
なんとか無事間違える事無く言えた。
そして、出場者全員で ミュージカル風のダンスを踊って 幕が降りた。
アンコール! アンコール!
ギャラリーは熱狂して叫んでいた。
「あと1分あるから、並びなさい!」
ミサト先生が僕達を横に並ばせて、幕を上げ、
僕達は観客に頭を下げた。
そして再び幕は降りて行った。
僕たちは、舞台の脇の階段を使って降りて行った。
その時、僕の前を歩いていたアスカが、履きなれないハイヒールと、
ワックスのかけられた床のせいか、後ろ向けに転んでしまった。
僕は咄嗟に、アスカを抱き留めて、助けようとしたが、
バランスを崩してしまい、僕はアスカを抱いたまま、後ろに倒れてしまった。
ゴン! 僕は床に頭を打ってしまい、気を失ってしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
僕は、重みを感じて目を覚ました。
目を開けると保健室の天井が見えた。
そして、少し身体を起こすと、椅子に座り、僕のベッドに倒れかかって寝ている、
ドレス姿のままのアスカの姿が目に入った。
「・・・・どれぐらいたったのかな」僕は誰に言うでも無く、呟いた。
僕の目の前には、あどけない顔で寝ているアスカの顔があった。
「・・・・」僕はその愛らしい寝顔に見入ってしまっていた。
僕は、ほぼ無意識のうちに、アスカの顔に自分の顔を近づけて行った。
その時!
「ん〜 シンジ・・」アスカが寝言を言った。
僕は、その寝言で正気に戻ったが、アスカが寝言で自分の名を呼んだ事に、
衝撃を受けていた。
「シンジ・・ごめん」アスカは再び寝言を言い始めた。
その目には、大粒の涙が、今にもこぼれ落ちそうになっていた。
僕はそっとその涙を人差し指ですくった。
僕は、アスカがこれ以上悪夢にうなされないように、アスカの肩をそっと叩いた。
だが、アスカは目を覚まさなかったので、僕はアスカの耳元でささやいた。
「アスカ・・もう大丈夫だよ・・アスカ」
もう回数を忘れる程、ささやき続けた頃、ようやくアスカが目を覚ました。
「シンジ・・大丈夫なの?」アスカは神妙な顔つきになって、僕を見た。
「うん 大丈夫だよ・・心配してくれたんだね」僕はアスカに微笑んだ。
「・・・・」アスカは、少し目をそらした。
「私のせいで、シンジが目を覚まさなくなってしまったら、どうしようかと
思ったの」アスカが再び目に涙を貯めた。
「もしそうなったら、きっとアスカが僕を口づけで起こしてくれると信じてるよ」
僕は普段なら歯の浮くような台詞をアスカに投げかけた。
「シンジ!」アスカが、キラキラと輝く涙を純白のシーツの上にこぼしながら、
抱きついて来て、僕にそっと口づけをした。
「もう、目が覚めたでしょ 」アスカが微笑んだ。
「うん・・アスカ 」
「シンジ・・・」
「アスカ・・・」
今度は僕がアスカに口づけをした。
「シンジ・・私を選んでくれるのね!」アスカが感極まったかのような顔をした。
「うん・・・」
アスカは強い力で僕を抱きしめた。
「・・・・アスカ」僕は目のやり場に困って顔を背けた。
「何?シンジ あっ!」アスカはようやく気づいた。
「そっか・・化粧している時・・・」アスカは少し顔を赤くした。
「ごめん・・」
「いいのよ・・・」
その時!
カツカツカツカツ 廊下の床に靴が当たる音が近づいて来た。
僕たちは慌てて離れた。
ドアが開いて、赤木先生の後任の、保健医が入って来た。
「あら、やっとお目覚め? 気を失ってただけだから、もう今日は帰りなさい」
保健医が、僕達に言った。
「ありがとうございましたぁ」僕たちは保健室を出た。
「ところで、綾波はどうしたの?」
「今日は、図書部の出し物に出るって言ってたわよ」
「おなか空いたね」僕はアスカに言った。
「そうね、もう夕方だもんね」
「さ、帰って晩御飯作らなきゃ」アスカが言った。
「そこの、スーパーで材料を買って行きましょ!」
「うん!」
シンジとアスカは、腕を組んだまま、スーパーの中に消えて行った。
裏庭エヴァンゲリオン第6話【学園祭】 終
第7話【初陣】に、つ・づ・き・ま・せ・ん!