「父さん……アヤさんが攫われてしまったんだ……来た時にはすでに眠らされてて、人質にされてたから……」

僕は父さんに事情を説明し終えた。
「奴等は仕事の邪魔だからと言ったんだな……だとすると……」
その時、父さんの携帯フォンの着信音が鳴り響いた
普段の時の着信音とは明らかに違う音……非常用コールの無機質な音が、教室で響いていた。




裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 11C

第11話【別離】Cパート




「んっ 折角寝入ってたのに……」機体がかすかにバンクした時に、彼女は目覚め、アイマスクを取った。

「まだ二時間もあるのね……もう一寝入りしようかな……ローラは元気でいるかしら……」
彼女は鞄一杯につめこんでいる、愛娘へのおみやげの事を思い出しながら再び眠りについた。

その頃、コクピットはすでに人ならざる者達によって占拠されていた。




「私だ……何? で、要求は……そうか 今すぐそちらに向かう」父さんは携帯フォンを切って胸ポケットに戻した。

「何があったの?父さん」

「ローラちゃんの母親を乗せた、νルフトハンザ航空SR24便がハイジャックされたそうだ……」

「ハイジャック!?」

「ああ……管制局に電話があり、証拠として、飛行機の進路を5度程、ずらして、ハイジャックしている事を証明したそうだ。」

「何が目的なんですか!アヤさんが攫われた事と関係があるんですか?」

「要求は、ゼーレが実験用に拘束している、ハストゥールに仕える眷族の開放だ……」

「じゃ、その眷族を開放すれば、アヤさんが戻って来るんですか?」

「日本で事を起こしたが為、NERVが関らないようにする為の人質としてアヤが攫われた以上、そういう事になるが……」

「アヤさんを助けられるのなら、何でもやります」
「早まった真似をするんじゃ無い」

僕は駆け出そうとしたが、父さんに阻まれた。


「アヤさんやミライを、守る事だけが、碇家にいる事が出来る唯一の存在理由なんです……行かせて下さい」

「シンイチ……娘たちの事を頼みはしたが、そんなつもりじゃ無いんだ……」父さんは僕を抱きしめながら言った。

「父さん……」

「済まなかった……あの一言がおまえをそこまで縛ってただなんて……」


「アヤを助け出し、ハイジャックされた飛行機に乗ったローラちゃんのお母さんを助け出すんだ……
要求を聞いても、アヤが無事に帰って来るとは思えん……我々の手で助けだすしか無いんだ」

「さぁ、NERVに行こう 今の私たちに必要なのは情報だ!」

「はい!」

僕は父さんとエレカまで走った。

だが、あんな事があった直後だというのに、グラウンドでは、部活で汗を流している人々がいた……
彼らにとっては、ほんの日常の一コマにすぎないのだろう。
僕はアヤさんを救う為なら、自分が、極普通の日常生活を送れなくなったとしても後悔しないだろう。


「どうしたの?二人とも息を切らしちゃって」エレカの中でうとうとしていたミライは目を覚まして、僕たちを見ていた。

「アヤが攫われたんだ……事情は移動しながら話す!」父さんはそう言って運転席に座った

父さんは運転に集中していた為、僕がミライに揺れる車内の中で、説明していた。

坂を降りおえて、父さんはエレカを止めて、ミライに話しかけた。

「今、NERVの職員に応援を要請した。 ミライはここで降りて、待っていて、その職員と一緒に空港に向かってくれ」

「空港に行ってどうしたらいいの?」

「アスカと合流してくれ アスカの方にはすでに連絡がしてある……
アスカが今度はその乗った車でNERVまで戻る事になるから ローラちゃんの保護をしてくれ」

「護身の為に、お守りだと思ってこれを持っておけ」父さんは小振りな拳銃をエレカの隠し引き出しから取り出して渡した。

「け、拳銃? どうして、そんなものが必要なの?」

「ローラちゃんのお母さんが人質になってるんだ 事態によっては、ローラちゃんの身にも及ぶかもしれん。」

「でも……」

「心配するな、引き金のガードの所に小さい切り替えボタンが付いているだろう。
 青い方にスライドさせれば、麻痺銃になる。赤い方だとレーザー銃だ……」
 
「わかったわ」ミライは鞄の中に拳銃をしまいこんだ。

「それじゃ、頼んだぞ!」

「うん……父さんもシンイチも無理しないでね」

父さんはエレカを走らせ、中学校の方に向かっていた。

「え、どこに行くの?父さん」

「NERV本部に行くのに一番近い道を選んでいるだけだ」

そうこうしている内に、エレカは中学校の職員用駐車場の父さんのスペースに到着していた。

エレカの発信信号をキャッチして、ガレージのシャッターはせりあがっていった。

完全に開ききったのを確認して、父さんはエレカを駐車場の中に進ませた。

「降りなくていいの? 父さん」僕はエレカのドアに手をかけて言った。」

「ああ……」父さんはエレカのコンソールパネルを幾つか押していた。

すると、ガレージのシャッターが急速に閉まって行った。

閉まりきったかと思うと、浮遊感を感じた。

窓からガレージの中を見ていると、車が下に床ごと沈んでいっているのが解った。

1分程降下すると、エレカは停止し、前方にエレカ一台が通るのにギリギリな狭い通路がライトアップされていった。

「オートパイロットモードにしたから、NERVに着くまで話そう」父さんは僕に話しかけて来た。

「アヤを連れていった男たちの特徴を詳しく教えてくれ」父さんは目頭を押さえながら言った。

「二人とも、黒い服を着ていて、一人は長身で、もう一人は160センチぐらいかな……
 なんか、妙な関西弁をしゃべってたんだけど……」
 
「妙な関西弁? 鈴原の叔父さんみたいな感じか?」

「鈴原の叔父さんとは、微妙に違うんだ……あ、広島弁って言うのかな、あれ」

「そうか……」

「その広島弁の男の方がリーダーみたいだけど……若い人だったよ……もしかしたら、高校生ぐらいの年齢かも」


父さんと話している内に、エレカは停止した。


僕は父さんの後を付いて、通路を歩いて行った。

カードスロットに父さんがカードを通すと、NERVの指揮所らしきフロアーのドアが開いた。

「司令!向こうが指定した期限は、飛行機が着陸の為にアプローチに入るまでです!約1時間30分後です」
前に一度会った事がある、日向副司令が父さんに声をかけた。

「ゼーレの方の反応はどうなっている?」

「依然沈黙を守っています。」

「マスコミへの報道はどうなっている?」

「A-1レベルの箝口令が引かれております」


「現在、機内の乗客に死傷者等は出ていないか」

「スチュワーデスの一人が所持していた衛星通信機による情報では、出ていないとの事です」

「コクピットの占拠だけと言う訳か……着陸が完了するまでは、墜落させる方法はいくらでもあるな……」

「訳のわからない悲鳴ばかりが、コクピットとの通信で傍受出来ませんでした。」

「奴等、眷族を使ったのか……」

「敵は一体なのか?」

「どうやら、そのようです」

「一体いれば、飛行機を墜落させるのは容易いな……」父さんは背広を脱ぎながら言った。

{{兄さん……テレポートで、飛行機のコクピットに転移して、その眷族を倒す事は……可能だと思う?}}
{……動いている相手へのテレポートだけでも、おまえの体力の殆ど……あるいは全てを使う事になるだろう……
そんな状態では死に行くようなものだろう……}

{{それじゃどうすればいいんだ……アヤさんも助けないといけないのに……}}

{焦るな……きっと好機が訪れる}

{{解ったよ 兄さん}}


TRRRR 父さんの携帯フォンが鳴り響いた。

「碇ですが……アスカか……何? 解った」父さんは電話を畳んだ。

「どうかしたの?父さん」

「その飛行機には、樹島ミドリさんの両親も乗っているそうだ……」

「ミドリさんに教えてあげた方がいいんじゃないかな……知らなかったら後で後悔するかも知れないし」

「空港から30分ぐらいの所のビジネスホテルに泊まってるのをアスカが知ってるんだが……
 それを聞いたミライとローラが迎えに行ったそうだ。」
 
「父さん……ミドリさんも、特殊な力を持っているんだよね……」

「ああ。資料で見た程度だから、詳しい事は分からないが……」

「まず、アヤさんを救出して、それから、ミドリさんと合流して、ミドリさんを説得して、
 僕がミドリさんも連れて飛行機の中にテレポートするけど、多分僕の力は消耗してるから、
 ミドリさんの力で、その眷族を倒すしか無いと思うんだ」
 
{おい!シンイチ!他人を連れてテレポートなんかしたら、おまえの命を保証出来んぞ……}

{{ここで、何も出来ずに立っているのよりかはいいよ!}}

「取り敢えず、アヤの救出が先決だな……ミライの方に、エージェントを向かわせて、

ミドリさんとローラも連れてここまで連れて来らせるから、向こうの予告時間までに、アヤを救出して、ここに来る事が出来れば、

その作戦を実行する事にしよう」


{{アヤさんに思念を飛ばすから、兄さんも手伝ってよ!}}
{ああ……解った}

僕は椅子を借りて座り込み、アヤさんに呼びかけた。

{俺が後押ししてるから、第三新東京市周辺地区にアヤがいれば、思念を飛ばせる筈だ……}

{{アヤさん……アヤさん……どこにいるんですか?無事ですか?}}

気が遠くなる程、アヤさんを呼びつづけたが、アヤさんの思念は帰って来なかった。






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どうもありがとうございました!


第11話Cパート 終わり

第11話Dパート に続く!



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