「シンイチ……私の声が届いていますか……」
ぼんやりとした意識の底に淡い蒼色の光がたなびいた。

「誰……母さん?」
蒼い色の光のイメージしか無いのに、僕は何故か母を感じていた。

「あなたと、あなたを愛する人に危機が迫り寄っているの……」
「誰が危ないの? 教えてよ 母さん!」
「それを教える事も救う事も今の私では出来ないの……そのかわり…………」


裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 19A

第19話【蒼き髪の少女】Aパート

「ん……夢か 前にも似たような夢を見たような……」
僕はソファーでほんの数分程うたたねをしていたようだ。
何故か夕方にうたたねをすると妙な夢を見るようだ。


「起きたの? シンイチさん」
ミドリさんがポットからお湯をきゅうすに注ぎながら振り向いた。

「どれぐらい眠ってたんだろ……ここは落ち着くから つい……」
「私は嬉しいけど……家に帰らなくていいの?」
お茶の入った湯のみを僕の前に置きながらミドリさんは僕の顔を見上げた。

試験休みに入って三日……僕はミドリさんの部屋に入り浸っていた……
僕もミドリさんもバイトをしているので、いつも会える訳では無いのだが、
僅かな時間でも一緒にいられるのなら、特に何をすると言う訳でも無かったのだが、
つい足が向いてしまうのだ。
僕が帰る度に少し哀しそうな顔をするミドリさんが気になるのだろうか……

僕たちの関係は一体何なんだろう…… 自分の秘められた能力を開花させると言う理由
や寂しさだけで僕に身を任せるようなミドリさんでは無い……

恋人的な感情は僕もあまり無いが、側にいて欲しい……そういう感情は強い。
僕はお茶をすすりなら二人の関係について考えていた。


「私は……シンイチさんを守りたいだけだから……そしてその事をシンイチさんが知って
いてくれる……それだけで充分なの」
僕が悩んでいる事を見抜いたのか、ミドリさんが僕の横に座って呟いた。

「ミドリさん……」 僕は思わずミドリさんの肩に手を回そうとした。

TRRRR その時端末から取り外していた携帯フォンの呼び出し音が鳴り響いた。

「……はい シンイチです」
僕は上着から携帯フォンを取り出して震える手でボタンを押した。


「あ、シンイチ君? バイト何時ぐらいに終わりそう?」

「あ 6時半ぐらいには……」
「駅の近くだよね じゃ6時40分ぐらいに駅前のロータリーに迎えに行くから」
「どうかしたんですか?」
「今日は外で焼肉を食べようって事になったの お父さん達はお酒飲みたいから歩いて行く
らしいから、私が迎えに行く事になったの」

「解りました 6時40分ですね ええ はい」
「お仕事中に電話してごめんね じゃ」
何故焼肉かって? 今晩食べに行くから(爆)


「もう6時20分か……それじゃ今日は帰るよ 明日は一日中バイトだから……じゃ」
試験休みだけのバイトだからもっと長時間働くつもりだったのだが、
ミドリさんとの事があるので、これまであまり長時間の勤務は入れて無かったのだ。
だが目標額を稼ぐ為には遅れを取り戻さねばいけない。
パワーの戻った今の僕ならさして辛い仕事では無かった。

「……おやすみなさい」 無理して笑顔を作ろうとしているミドリさんが痛々しかった。

僕はミドリさんの部屋を出て、出来るだけ足音を立てないように階段を降りた。

「ここから駅まで歩いて15分って所かな……」
僕は小走りで駅まで向かう事にした。

軽快に走っていると、心のもやもやが少し晴れて来た……
どこまでも走ってみたい気分に駆られたが信号が代わり僕は足を止めざるを得なかった。
西の空に紅く輝く夕日が少し眩しかった。

信号が青に代わりすぐ側の車道のエレカが数台走りはじめたので僕も走りはじめた。
走りはじめたエレカの中にショッキングピンクのエレカがあったような気が一瞬したが、
嘘をついた事の心苦しさが見せた幻だと僕は判断して先を急いだ。


「ちょっと早く着きすぎたかな……」
僕は駅前のロータリーの歩道を歩きながらアヤさんのエレカを探した。

「シンイチ君 ここよ」 その時クラクションの音が鳴り響き、
後ろからアヤさんの声が聞こえた。

「もうみんなは家を出たんです?」
僕は助手席に乗り込みながら言った。

「ええ ミライは図書館に出かけてたから、図書館から直行するそうよ」
「7時から予約入れてるから、待たずに食べられると思うけど」
「予約が必要な焼肉屋?もしかして京城?」
行ったら焼肉屋閉まってた(爆) 許すまじ京○(をい)
<高知県人しか解らんネタ振るな
「合成ものや養殖ものじゃ無い本当の牛肉が出る焼肉屋は京城しか無いじゃない」
「セカンドインパクトとサードインパクトの影響が大きいよね」

「飼料の穀物が不足してるから最初から成体の牛をクローニングするのはいいアイディア
だとは思うけど、やっぱりいい感じしないと思わない?」
アヤさんはだいぶ運転が慣れて来たのか、軽快にハンドルをさばきながら言った。

「ヒトゲノムの解析が出来るんだから、牛なんて簡単なもんだろうけど……
やっぱり人であれ動物であれ、命を弄ぶのは好きじゃ無いなぁ……」
すみません 火の鳥の9巻の影響っす 書いてて気づいた(笑)

「けど、実際問題として深刻な食料不足を補ったのはクローン技術のおかげでしょ」
「それはそうだけど……ってなんか学校の歴史と科学の授業受けてるみたいだなぁ」

「けど、未来の人が私たちの時代について調べた時、不思議に思うでしょうね……
世界の穀物の年間生産量と牛や豚の消費量が妙な計算になるし、クローン技術が無
かったら、食料事情で内戦が起きてても不思議じゃ無いのにおかしいってね」

「未来から見た考古学?なんだか面白そうだね……」
「あっそうそう ヒトゲノムの解析技術がロシアとかチェコに流出してるそうよ……
これまでは厳重な管理してたけど、その内にクローン人間が街にあふれるかもね」

「これ以上人を増やしてどうするんだろうね……クローン人間を養う為にはクローン
の牛や豚を量産しないといけなくなるし……クローンばかりになりそうで」
次の年から宇宙世紀0001になったりして

「シンイチ君のクローンを作って貰って おもちゃにしようかしら」
「ちょっとアヤさん……洒落になって無いですよ」
「そんなご時世になったら髪の毛とか落とさないようにね あっ着いたわよ」


「ご予約の碇様は奥の座敷になっております」

「あっ来た来た ここよ」 ミライが身体を乗り出して手を振った。
「アヤ すまなかったな シンイチ 立ってないで座りなさい」
父さんはもうアルコールが入っているようで、顔に赤みがさしていた。
「あなた お母さまに声をかけたんですが、早めに晩ご飯食べてたそうで」
思い出したかのように母さんが父さんのグラスにビールを注ぎながら言った。

「注文はもうしてるの? お父さん」 アヤさんがおしぼりで手を拭きながら問いかけた。
「ああ 取り敢えず、カルビ5人前 ロース5人前とあとこまごましたものをな」
「私知らないんだけど、どうして今日 焼肉って事になったの?」
ミライがドリンクメニューから顔を上げて言った。

「んーそれは まぁ……いいじゃ無いか」 父さんは少し語尾を濁した。
「シンイチがバイトで肉体労働やってるって知ったからだそうよ」
母さんが父さんを優しい目で見ながら言った。

「もう三日もバイトしてて、疲れただろうと思ってな……」
父さんはぐいっとグラスの中身を飲み干して、
空になったグラスの底を目を細めて見ながら呟いた。

「ほんとパパはシンイチに甘いんだから……いつもの事だけど」
ミライはそう言いながらも、昔のように卑屈な態度を現していなかったので安心した。

「ほら、肉 来たわよ」
「はーい」 ミライはメニューを元の場所に返しながら言った。

「アヤは車だし、何飲むんだ? まだ頼んで無いんだが シンイチはいつもの烏龍茶だろ」
父さんはこうして僕たちと食事するのがよほど嬉しいのか、上機嫌だった。

「私も烏龍茶にするわ」 アヤさんは口紅を落としながら言った。

「ロースとウインナーです」 
「あっ烏龍茶二つお願いします」
店員が皿を持って来たので、僕は注文を告げた。

「そこのカルビもう焼けてるぞ ほい」 父さんは嬉しそうに僕の小皿に肉を載せた。
「ミライはダイエット中だからウインナーにするか?」
「アヤの好物のロースも焼けてるぞ」
食事の前にビールを一本開けてたせいもあり、父さんは早々にリタイアしたが
嬉しそうに僕たちの為に肉を焼き、そして運んでまでくれた。

10分後……
「ちょっと眠くなった……少し寝るから」 父さんは壁に背をもたせかけて目を閉じた。
「いつまで経っても昔と変わらないわね……大学のコンパでもいつも飲んでは寝てたもの」
母さんは昔を懐かしんでいるのか、優しい目で父さんを見ていた。

「シンイチもミライも目の届かない所に行ったから寂しいのよ きっと……」
「中等部と高等部……目と鼻の間ぐらいなのにね……」
「アヤが中等部を卒業した時もこんな感じだったわね……けどあの時は入れ代わりに
あなた達が中等部に入学したから……」

「タクシーを呼んで置かなくちゃね……」 母さんは携帯フォンを取り出して言った。
               ・
               ・
               ・
「どうもありがとうございました!」
僕は父さんに肩を貸して店員の声を背に店を出た。

「あなた タクシー来たわよ」
母さんは先にタクシーに乗り、中から父さんに手を差し伸べた。
「そんなに飲んだつもり無かったのにな……普段は寝てたら回復するのに……」
「私たちもいつまでも若くは無いって事よ……」

無事父さんが乗り込んだのを確認して、運転手は扉を閉めた。

「それじゃ、先に帰るわね アヤ 二人をお願いね」
母さんが窓を開けて僕たちに声をかけて来た。

父さんと母さんを乗せたエレカは少しして発車して、
タクシーのテールランプが闇に溶け込んで行くまで僕たちは見送りつづけた。

「さ、帰りましょうか」 アヤさんはエレカのキーを取り出して言った。
「あっ帰りに本屋寄りたいんだけど、いい?」
「そういえばノートがもう無いんだった……あの大きい本屋には文房具もあったよね」
「そうと決まれば乗った乗った」
「アネキ 安全運転でお願いね」

僕たちを乗せたアヤさんのエレカは軽快に夜の街を走っていった。

そして二日後……
昨日は一日中バイトでミドリさんの所に行けなかったが、
今日は試験休みの最後の日なので、昼でバイトを終えてミドリさんの家に向かっていた。

{おい シンイチ……後ろからアヤの車がついて来ているぞ}
{{ええっ?}}
{こら 振り向くな……何も無かったかのように歩くんだ……}
{{どうしてアヤさんが……もしかして……}}
{どうやらズボンの入れ換えをしたのはアヤだったのかもな……
それに一昨日のショッキングピンクのエレカ……怪しまれたんだな……}
{{……一体どうすれば……どうすればいいんだ}}




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どうもありがとうございました!


第19話Aパート 終わり

第19話Bパート に続く!



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