「そのビルの屋上にでも降ろしてくれ 時間が無いんだろ?」
ムサシは初号機の左手の上に戻って叫んだ。

「すまない」 シンイチはビルの屋上にムサシを降ろし、
今 まさに時空の門をこじ開けようとしているヨグ・ソトースに立ち向かった。

「私たちも支援するから」
指揮車から通信が入り、ミドリの声が初号機のコクピットに響いた。

{{兄さん……行くよ}} シンイチは銀の鍵を握り締めて呟いた。
{ああ……} シンイチの兄は多くを語らなかった。

「シンイチ 何をする気だ シンイチっ」
ようやくシンイチの目的に気づいたシンジがマイクを掴んで叫んだ。



裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 22Z

最終話【魂(こころ)の帰る場所】Zパート




「シンイチ君! 何をする気なの? お願い教えて」
アヤはシンジが動揺したのを見て慌てて回線を開いた。

「…………」 だが、シンイチは何も答えようとはしなかった。



「シンイチぃぃぃぃ」
その時、アタッカーの隊員を引き連れた葦田の運転する特殊車両の助手席から
ミライが顔を出して叫んだ。 車内でシンイチとシンジの通信を聞いたのだろうか……

「葦田さんっ僕の援護をしてくれる 三人の術者の警護をお願いしますっ」
シンイチは外部スピーカーをONにして叫んだ。

すでに、ミドリとシズカとヨシコはヨグ・ソトースを中心とする三方向に別れる為に
走っていた。

「わかった 三班に別れて警護するんだ いいなっ」
葦田は回線を開き、全隊員に命令を伝えた。

特殊車両から隊員が降りる為車を停止させた途端、
ミライが助手席のドアを開けて外に走り出そうとしたが、葦田に腕を掴まれてしまった。
「お願い 行かせてよ」
今にもヨグ・ソトースと相対しようとしている初号機を横目で見てミライは叫んだ。

「危険だ それに下からじゃ声も届きはしない……話したい事があるなら
回線を開いておくからここでするんだ 外には絶対出るな」
それだけ言って葦田は銃を手に外に駆けだして言った。

「シンイチ 聞こえる? 私……シンイチに言わなくちゃいけない事が沢山あるのに……
私たちが兄妹だって事は聞いたわ……だけど私の心は変わらないの……
絶対死んだりしないでね シンイチ 私たちの家に無事帰って来てね」
ミライは涙を流しながらマイクを手に話し続けた。

すぐに返事は帰っては来なかったが、小さい声でシンイチがわかったよと
答えたようにミライには聞こえた。
ミライは震える手でマイクを置き、助手席から初号機を仰ぎ見た。

ミドリとシズカとヨシコは三方向からヨグ・ソトースの動きを封じる為、
アタッカーの隊員に護られながらそれぞれ呪文を詠唱しはじめていた。

「シンイチ! どうするつもりなんだ 銀の鍵を使ってヨグ・ソトースを外宇宙に
放り出すとは言っても 初号機が時空の移動に耐えられるとは限らんし、
外宇宙に出たとしても、酸素は1時間分しか無いんだぞ 無論食料も水も無い……
死にに行くようなものだぞ!」
シンジは必死になってシンイチを翻意させるべくマイクに向かって話し続けていた。

「父さん……もう僕みたいな事は二度と起こっちゃ駄目なんだ……」
少しして、ぼそりとシンイチが呟いた言葉を初号機のマイクが拾った。

「シンイチ!何もおまえが死ぬ事は無い!」

綾波レイの子として預り、育てて来たシンイチが自分の子だと知り
ようやく本当の家族として過ごせると思っていたシンジにとって、
シンイチのやろうとしている行為を認める事など到底出来なかった。

「父さん……僕は死に行く訳じゃ無いよ 僕は僕の愛する人たちを守りたいだけなんだ」

「シンイチ・・すまない・・私が血の宿命を断ち切る事が出来ていたら・・・」
シンジは自分達の世代で解決出来なかった事をこれほどまでに悔やんだ事は無かっただろう

「父さん……母さん……アヤ……ミライ…………ありがとう」
シンジは右手に銀の鍵を握り締めながら最後のメッセージを伝えた。


その頃 NERV地下施設では……

ようやく医務室を見つけたコウジは綾波レイをベッドに寝かせていた。

「ふぅ……今 医者を探して来るから……」
コウジは汗を吹きながら 寝ている綾波レイに話しかけた

レイはこんこんと深い眠りについていた。
まるで目覚める事を忘れてしまったかのように……

だが、シンイチが銀の鍵を握り締めたその時、
綾波レイはその目を開いた。

そして、ベッドから起き上がり医務室を出てどこかに歩いて行った……




地上ではシンイチがヨグ・ソトースを押さえつける為、
ヨグソトースに何度もしがみつく為、体当たりをしようとしていた。
だが、ヨグ・ソトースは姿を消しては別の場所に現れ、初号機を翻弄していた。

永遠に続くかと思った戦闘ではあったが、
イリーネが加わり術者が四人になった事で呪文が効を奏したのか、
10何度目かの初号機の突撃の際、ヨグ・ソトースは転移する事が出来なかった。

「二度と逃がさないぞ!」 シンイチはヨグ・ソトースを完全に押さえつけた。


「兄さん!異次元への扉を開いてくれ!」

「いいのか……シンイチ……」

「うん……兄さん ありがとう……最後まで付き合わせちゃったね」

「これでナイアルラトホテップの血脈も、その元凶たる旧支配者も消える……
そうすれば、もう二度とこのような事は起こらないさ……シンイチ……
俺は後悔なんて一つもしてやいないぜ シンイチ」

「兄さん………」

「扉を開くぞ!


初号機は、おさえつけている、ヨグ・ソトースと共に、虹色の光に包まれはじめた。


虹色の光が強まるごとにヨグ・ソトースと初号機の姿は段々と掻き消されるように
姿を消していった。
そして完全に姿を消した時、七色に光る虹がまるでオーロラのように
第三新東京市上空を覆っていた。

遠くから第三新東京市を窺っていた者や至近距離にいた僅かな目撃者だけが
その光を目にし、多くの者は涙を流しながら七色の光を見つめていた。

その後、ジオフロント内に意識を失って倒れている綾波レイは回収されたが、
彼女は目覚める事無く、NERVの医療班によって保護された。


旧支配者の一柱は消え、
他の旧支配者は封印されたまま永久(とこしえ)の眠りについていた。

だが、倦属はその活動を増して行き、夜の暗闇は彼等の活動する時間となった。
をいをい TGはメン・アットワークかい

後に初号機とそのパイロット シンイチは伝説となり、
倦属の脅威に脅える人々の一筋の希望となっていた。


すでに公的機関になったNERVとロンギヌスを率いるローラ・ローレンツが
日本の治安を守るべく暗躍し始めた。 だがそれはここで語るべき物語では無い。

シンイチがヨグ・ソトースと共に消えた翌日
キール・ローレンツは渚カヲルによって暗殺され、
その直後にゼーレの特殊部隊によってカヲルはその長き生命に幕を降ろした。


2041年

世界はようやく落ち着きを取り戻し始めた。

シンイチとアヤとの子供は産れては来なかった。
受胎は確認されていたものの、医者は死産と断定した


2042年

アヤが、飛び降り自殺をしようとしていた所を、アヤを追って追いかけて来た
木村リョウイチに止められる。


2043年

ミライはシンイチの事を吹っ切る為か、大学へは行かずNERVに就職した。

作戦本部に所属する戦術指揮官として、
主に実行部隊であるアタッカーの後方支援や指揮を行っていた。
アタッカーの隊長である葦田とはいつも口論をしていたが、
その後二人は結ばれる事となった。

2044年
碇ユイ死去


2045年

アヤの自殺を止めた木村リョウイチとアヤは結婚し、
碇家の婿として、迎え入れた。

2046年
2047年
2048年
2049年

二年前に開発完了していた、アメリカの超大型望遠鏡によって、

56億9千光年の彼方に、超新星の爆発より、2000倍大きい爆発が確認された。

研究者達は、何らかの理由で発生したブラックホールがホワイトホールに接触し、
対消滅したのでは無いかとの、仮定を下した」


そして、西暦2050年

日曜日の昼下がり・・碇邸にて・・

「アヤ!洗濯物ぐらい僕が干すから、休んでくれよ」

「ありがとう・・あなた・・」

「もう少しで、僕達の子供が産れて来るんだね」リョウイチはアヤの腹を撫でた。

「さぁ、休んでいてくれよ、アヤ」

「ええ」アヤは椅子に座って空を眺めた。

アヤの目尻に涙が光った。


数日後

TRRRRR TRRRRR

「はい、碇ですが」

「アヤが陣痛を起したので、浅利産婦人科に運んだから、すぐに来るんだ」
シンジが、少し慌てた声で伝えた

「あなたも落ち着きなさいよ・・出産なら私を含めたら・・三度めじゃないの」

「そんな事言ってもなぁ・・」白髪の混じった頭をさすりながらシンジは呟いた。

「まぁ、私達の初孫ですから、無理も無いけどね・・」

「うん・・・」


2時間後

アヤは無事男の子を出産した。


アヤの病室のベッドの横に、シンジとアスカと、アヤの夫 リョウイチがつめかけて、
新生児がチェックを終えて、アヤの手に抱かれるのを待っていた。

「碇さん おめでとうございます」手に新生児を抱えた、看護婦が現れた。

アヤは身体を起そうとしたが、アヤの夫が止め、ベッドの角度を変えてくれた。

そして、アヤは看護婦から、新生児を受け取った。

赤ん坊は目を閉じたまま、寝息を立てていた。

「アヤ 良かったな……男の子だ」
「アヤ 頑張ったわね」
「アヤ お疲れさま」

三人はアヤにいたわりの声をかけた。

「あれ、この子こんな所にホクロがあるわ」アスカが赤ん坊の首筋を見た。

その瞬間、アヤの身体に戦慄が走った。

お互いを求め合った時に、シンイチにも同じ所にホクロがあるのを見ていたからだ。

(そんな訳無いわよね……私……まだシンイチ君の事が忘れられないのかしら)

アヤが涙を堪えて、哀しそうな顔をした、その時

赤ん坊は目を閉じたまま、その小さい手を伸ばしアヤの頬に触れた。

そして、赤ん坊は目を開いた

赤ん坊の眼は紅かった。 

アヤは声も出せずに驚愕していた。

(この子……シンイチ君そっくり でも……まさか)

アヤは頬をさすられながら、想いを凝らした。

だぁ だぁ 

赤ん坊は嬉しそうに、アヤの頬を撫でていた。

(この子はもしかしたら、シンイチ君の生まれ変わりなのかも知れない・・
今度はあなたが欲していた、母のぬくもりを与えてあげられるのね・・・)

アヤは涙を流しながら、赤ん坊を抱きしめていた。

「ど、どうかしたのかい?アヤ」

「なんでも無いわ……」アヤは涙を手で拭いて言った。

「そうだ、名前は君が決めたらいいよ」
アヤの夫に名前は一任されていたものの、いい名前が浮かばなかったようだ。

「いいの? じゃ、この子の名前は、碇……碇シンイチよ」
アヤはシンイチにほお擦りをしながら言った。



      −−−−−−−THE END−−−−−−−


to be continued by 裏庭 Third Generation




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長年の御愛顧 どうもありがとうございました!

 
TGの連載開始時期は未定です。 ”窓に映るは明日の影”
そして、裏庭エヴァンゲリオンとSGの間のミッシングリンクを埋める短編集(予定)
の後に裏庭サードジェネレーションの連載を開始する予定です。

04/12/31 追記
ゲームのシナリオの仕事を始めて計画遅れっぱなしですが、必ずやります。



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