裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 08B

第8話【幼姫】Bパート

「いやぁ、スキヤキなんて、何年ぶりだろう」父さんは感慨深そうに、鍋の中を覗いていた。

「はい、お父さん」アヤさんが父さんに、ハシと、生卵の入った小皿を手渡した。

「それじゃ、いただきます!」父さんは早速肉を取り、小皿に漬けて口に入れた。

「うん!おいしい!」父さんは思わず微笑んでいた。

「良かったわね、お父さん!スキヤキの事、シンイチ君が教えてくれたのよ」

「そうだったのかぁ 良く知ってたなぁ シンイチ」父さんが僕に嬉しそうに声をかけた。

「いえ、ムサシに聞いたんで・・」


「鈴原の奥さんが作り方知ってたから、なんとか形になったけど、味おかしくない?」
アヤさんは少し不安そうに、父さんと母さんを見た。

「美味しいわよ!アヤ・・・さすが私の娘よねぇ・・」母さんは嬉しそうに肉を頬張った。

「ほら、ミライ!お野菜も食べなきゃ」

「はーい」

「ミドリ君は明日戻るんだったかな?アスカ」

「ええ、お昼すぎぐらいに、帰るって言ってたわよ」

ミドリさんは、今日の昼から長野の、ミドリさんのおばあさんの家に遊びに行っているのだ。

「ホントに美味しいです・・アヤさん」僕もスキヤキの美味しさに驚いていた。

「うーん・・こんな美味しい物食べるとビールが恋しくなるなぁ」父さんが呟いた。

「取って来ます」僕は箸を置いて立ち上がった。

「二本以上飲ませちゃ駄目よ!シンちゃん」

「ええ、解ってます、母さん」僕はキッチンに歩いて行った。

父さんは、あまりアルコールが強く無いのか、ビール1缶が適量なのだ・・
だが、1缶飲むと、2缶目を欲しがるのだが、与えても三分の一も飲まずに寝てしまうのだった。

アスカさん・・いや、母さんは、きょとんとした顔で僕を見ていた。


ビールとグラスを持って食卓に戻ると、母さんが目尻をハンカチで押えているのが見てとれた。

「はい、どうぞ」僕は父さんに冷やしたグラスと缶ビールを手渡した。

「を、ありがとう」父さんは嬉しそうにプルを開け、コップにビールを注いでいた。


食事も終わり、くつろいでいる時、母さんが何かを思い出したのか、口を開いた。

「あ、シンちゃん・・聞いたわよ・・アヤとお風呂に入ったんだって?」

「え・・あ・・はい」僕は突然の事に驚いて口篭もってしまった。


「シンイチ・・それ本当?」ミライが詰問して来た。

「いや・・お風呂に入ったと言っても、アヤさんが足をマッサージする為だったんだけど・・」

「アネキ・・・抜け駆けは駄目って言ったでしょ・・」

「誤解よ・・ミライ・・」だが、アヤもやましい事でもあるのか、ミライの顔を見ようとはしなかった。

どうやら、いつの間にか紳士同盟が結ばれていたようだ。
知らぬは本人ばかりなり・・か

「あらあら、いつからそんなに素直になったの?ミライ」
アスカさんもちゃちゃを入れて、混乱に輪をかけた。

「僕には、他に選択肢が無い・・のかな・・はは」僕は思わず口に出してしまった。

「ある訳無いでしょ! それとも、他に女がいるの?シンイチ」

「そ、そんな事無いよ・・冗談だよ・・」

「怪しいわね・・・もしかして、あの下級生の神社の子と仲良くなってるんじゃ・・」

「大丈夫よ!ミライ!シズカちゃんは、遠くから眺めてれば気が済むタイプだから」

”じゃぁ、アヤさんは遠くから眺めるだけじゃ気がすまないタイプなのか?”
 と、何故か前世紀のアニメのナレーションのようなセリフが僕の頭の中に浮かんだ。

僕は父さんの救いの手を求めて、父さんの方を見たが、
父さんはいつものように耳まで真っ赤に染めて、僕達を見ながら微笑んでいた。

放っておけば、あと数分で寝入る事だろう・・


母さんも、何故か嬉しそうに僕達のやりとりを見ていた。



15分後・・僕は首まで湯に漬かっていた。


あの後、風呂に入るように言われ、ミライが入り、アヤさんが入り、そして僕が今入っていると言う訳だ・・


「アヤさん・・何でちゃんと説明しなかったんだろう・・」
僕はアヤさんがミライの追求を受けても、事実をあまり話さなかったので、
ミライの誤解を招いたのに、何故釈明しなかったのか、不思議だった。

「ふぅ」僕は湯から上がり、椅子に腰掛けた。

「あれ、石鹸が無い」僕は石鹸箱を覗いたが、小さくなってて、使えない程の大きさの石鹸しか無かった。

「仕方無いな・・確か、洗面所の引き出しだったかな」

僕は立ち上がり、タオルを腰に巻いて、浴室の扉を開けた。


「きゃっ」目の前にアヤさんが立っていた。

「びっくりしたなぁ・・」

「ご、ごめんなさい・・石鹸が無くなったから持って来たの・・」

「あ、そうですか、丁度取りに行こうと思った所なんですよ」

「はい、これ」僕はアヤさんに石鹸を渡された。

だが、その時、アヤさんの薬指に僕の親指が触ってしまい、アヤさんの思いが流れこんで来た

「アヤさん・・・」

「ご・・ごめんなさい・・」アヤさんは頬を染めて浴室の扉を閉めた。
そして、駆けて行く足音が聞こえた。

どうやら、石鹸を持ってずっと立っていたようだ・・・

確かに遠くでは無い・・・扉一枚向こうなんだから・・
僕はこめかみを押えてしまった。



僕はベッドで横になり、天井を見ながら、いろいろな事を考えていた。

「何で・・アヤさんは、僕の事が気になるのかな・・それにミライも・・」
網戸からの風が少し寒くなったので、半身を起して、窓を閉めた。

「ミライにしたって・・単に一番近くにいるから・・長くいるから・・だけじゃ無いのかな」

僕はいつしか眠りに落ちていた。



そして、翌日


「シンイチ!起きろ!」

僕はミライの声で目を覚ました。

「ん〜今日は日曜なんだから、もう少し寝かせてよ・・」

「駄目よ!起きなさい」

「今、起きるよ」とミライに返答したが、布団からはまだ出ない。

「なら、起きなさいよ・・それとも、お目覚めのキスが必要なのかな?このお姫様は」
ミライは笑みを浮かべて言った。

「今、起きるよ」僕はしぶしぶ起き上がった。

すると、ミライの顔が、みるみる間に赤くなっていった。

「どしたの?」

「なんでも無い・・アネキが用事があるって言ってたから」そう言って、ミライは部屋を走り出していった。

「なんだろ・・まぁいいか」僕はTシャツを着てズボンを履いた。

「このTシャツ、初めて見るなぁ」僕は何気なくたんすから手に取って身に付けたTシャツの図柄を見ていた。

真っ赤な太陽のマークと、背後に富士山の絵があり、黒く太い文字で”平常心”と書かれていた。

「アスカさん・・いや、母さんがアメリカで買って来たのかな・・まぁいいや」

僕は部屋を出て、階段を降りていった。

「あ、おはよう!シンイチ君」アヤさんがボウルで何かをかき混ぜながら声をかけて来た。

「おはようございます」

「あ、コーヒー牛乳買って来てくれないかなぁ」

「いいですよ 門屋にしますか? MAKIにします?」

「そうねぇ 門屋のでいいわ」

「じゃ、そこにお金置いてるから」

「そうか・・門屋はカード使えないんだ・・」僕は机の上の紙幣を手に取って、部屋を出た。

僕は家を出て、門屋に向かった。

門屋は歩いて5分ぐらいの所にある、雑貨屋である。
今となっては珍しい、乳業組合の紙パックに入った、コーヒー牛乳を売っているのである。

「すみませーん 500mlのコーヒー牛乳下さい」

「はいはい、ちょっと待ってなシンイチ君」70歳は超すであろう、老婆が腰をかがめて、
巨大な鉄製の冷蔵庫の蓋を開けた。


「をを、そうだ、今日は、ヨーグルトもあるよ」

「ほんと?」

「ほれ、そこの冷蔵庫に入っとるわ」

僕はケース型の冷蔵庫の蓋を開けた。

「ほんとだ!久しぶりだなぁ・・」

僕は握りこぶし大の、丸っぽい容器に入ったヨーグルトを手に取った。

「5つあるのか・・じゃ、これも下さい」



僕は、コーヒー牛乳のパックと、ヨーグルトの瓶の入ったビニール袋を下げて、
家路についていた。

そして、公園の前を通った時・・


「こいつ、髪が金色だぜ」
「おまえ、外人かよ」

5歳くらいの、金髪の小女を小学下級年ぐらいの男の子ふたりが、苛めていた。

「やめて!」

「日本語しゃべりやがったぜ」

「生意気なんだよ」一人が、少女の金髪を手で引っ張った。

「痛い・・やめなさい!」気丈にも少女は涙を流さず、抗議を続けていた。

「こら!やめないか!」僕は黙って通り過ぎる事など出来なかった。

「何だよ!おまえ」
「あ、こいつ知ってる!三丁目のシンイチだ」
「鈴原さんとこの、ケイタ君じゃ無いか!止めないとお父さんに言いつけるぞ」

「わかったよ・・行こうぜ」苛めていた二人は、渋々公園を出ていった。

「大丈夫かい?」僕は、髪を大事そうにさすっている、小女に声をかけた。

「余計な事をしないで!」だが、少女は顔も上げずに叫んだ。

「余計・・だったのかい?」

「ローレンツ家の次代の当主が、他人の手を借りて身を守るだなんて・・」

少女は毅然とした表情で、顔を上げた。

金髪に真っ赤な瞳と白い肌・・その本来ならミスマッチとも言える取り合わせでありながらも、
何故か、ぎりぎりの線で調和が取れており、神秘的な顔立ちであった。




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どうもありがとうございました!


第8話Bパート 終わり

第8話Cパート に続く!



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