「この男が、ファーターを殺した渚シンイチよ!」

「えっ?」少女は、信じられないものを見るかのように、僕の顔を見た。

「今日の所は見逃してやるわ、渚シンイチ!」そういって、その女性は、少女を連れて駆け出していった。

「何だったんだ・・仇?僕が?」

僕は玄関の前で立ち尽くしていた。


裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 08D

第8話【幼姫】Dパート




「シンイチ!」ミライも異変を感じて飛び出して来たが、すでに少女も、その母親は姿を消していた。

「大丈夫だよ……大丈夫だけど」僕は頭が混乱していた。

「シンイチ君!私に着いて来て」アヤさんが血相を変えて、手に鍵を持って飛び出して来た。

「アヤさん……」

「お父さんから取りあえず、身を隠すように、電話で命令されたの!」

「アネキ!どうしてよ!どうしてシンイチが逃げなきゃいけないの?」

「説明している暇は無いのよ、ミライ……家の事をお願いね」

「早くしないと追手が来るかも知れないの、シンイチ君!」アヤさんは僕の手を引っ張って急かした。

「僕は逃げません……」

「何故!」

「僕が逃げたら……皆に迷惑をかける事になるから……」

その時、黒塗りの大型エレカが家の前に滑り込んできて、父さんがエレカから飛び出して来た。


僕達は父さんのエレカに乗るように言われて乗り込んだ。

エレカは、見た事も無い、NERVの職員だと思われる男が運転していた。

「お父さん……一体何があったの?」アヤさんが、助手席にいる父さんに質問した。

「そうよ!教えてよパパ」ミライも間髪入れず問い掛けた。

後部座席の左にミライ、右にアヤさん僕はその間に座っていたが、あの女性の言った言葉が頭を渦巻いて離れなかった。

「詳しい事は着いてから話すが、概要を説明しよう……NERVは日本国内の旧支配者を崇める者達を、
監視し、彼等が召喚や破壊工作を行なおうとすれば超法規的処置を行なう事が出来る……」

「と言う事は外国にもNERVみたいな組織があるの?」ミライが問い掛けた。

「ああそうだ……ヨーロッパでは一国だけでなく、数国が共同で設立したりしているし、アメリカにも当然組織はある……
只、中東や 南アの方面においては、国が設立していないので、他国の組織の者が監視をしている状況だ……」

「今、問題とされているのは、風谷君の一族に、ヨーロッパの組織の者が入り込んでいたそうなのだが……」

「それで?」

「エージェントである事が発覚して、洗脳されていたようだ……ヨーロッパの組織”SEELE”は救出作戦を立てていたそうなんだが……」

「もしかして、あの人かな……」僕に向かって杖を振り下ろして来た、金髪の男の顔を僕は思い出した。

「そこに、シンイチが、ミツコ君救出の為に飛び込み、水面下で彼等が動いている事を知らなかった私は、
軍事衛星からのレーザーを打ち込んでしまったのだ……シンイチとミツコ君は無事脱出出来たのだが、
その後の調査で、そのエージェントが死亡した事が発覚したのだ……」

「けど、それは発覚したそのエージェントが悪いんじゃないの?パパ」

「それはそうなんだが、そのエージェントと言うのが、SEELEの構成メンバーである、キール家の当主の息子だったのだよ……
現在の当主、キール・ローレンツはすでに85歳……近い内に当主の座が禅譲されると言われていたんだ……
その当主の息子も、実績を上げる為に、エージェントとして潜り込んでいたそうなんだが」

「じゃ、普通のエージェントだったら、それほど問題にならなかったって事かしら」

「まぁ、そういう事だな……その国に組織がある場合は、手を出さないのが不文律だし、
彼等は言わば、まずその不文律を破り、しかも事が起こってもNERVに報告もせず、
エージェントが自らのミスで発覚し、洗脳されている事すらも秘密にしていた……
はっきり言って、向こうに非があるのだ……」

「それなのに、こっちが悪いって言ってるの?お父さん」

「そこが問題なのだが、そう言わずに……シンイチの存在が危険だからの一点張りなのだ……
言わば、本来筋違いなのに、無理矢理別の方法で報復しようとしていると言う事なのだ……」

「何よそれ!」ミライが激昂した。

「取りあえず、監視員が付く事になった訳だが、シンイチの存在が危険と言う結論を出せば、
その場で射殺しても構わないと言う権限を監視員に付与したのだ……」父さんが額に手を当てて言った。

「その監視員がさっきの女の人なの?パパ」

「ああ……だが本来監視員は中立を尊ばなければいけないのに、その監視員は
キール家の当主の息子の妻なのだ……夫の仇と思い込んでいる彼女に冷静な判断が出来る訳が無い……
監視では無くて、シンイチを殺しに来たようなものだ……その通知書を下げて今朝NERVに来たのだよ」

「何故そんな横暴を許すの?お父さん」アヤさんが立ち上がらんばかりに叫んだ。

「形式上では……問題が無いのだ……それに断れば、NERVはおろか日本に何をして来るのか、見当もつかんのだ。
何せ、キール・ロレンツはSEELEの議長だからな……」

「形式上では問題無くても、私情に塗れた判定を下す事が分かってる監視員だなんて……」ミライが右手で目を覆った。

「……じゃ、その監視員を説得する事が出来れば、問題は解決するんですか」僕は父さんに話しかけた。

「それはそうだが、難しいだろう……こうしておまえたちを移動させているのも……
彼女が報告書にサインさえすれば、シンイチ君を攻撃出来るのだから……
取りあえずNERV内の防衛システムの働いている場所に逃げる為なのだし……」

その時、電話の音が鳴り響いた。

「はい……何だと? わかった……捜索を開始してくれ……ああ」そういって父さんは携帯フォンを切った。

「どうかしたの?」ミライが心配そうに父さんを見つめた。

「こちらのエージェントを、ミドリ君を保護する為に駅に向かわせたのだが、すでに奴等のエージェントに攫われたそうだ」

「そっそんな権限があるんですか?」僕は、自分だけに累が及ぶ訳では無い事を嫌が応でも再認識させられた。

「シンイチの事を調査する為の任意同行……それで押し通すだろう……
 一日ぐらいの記憶操作なら簡単に出来る……ミドリ君の記憶を、
 任意同行に応じたと、操作すれば彼等の行為は問題にはならない……」
 
「けど、実際は人質ですか……」僕は右腕を震わせながら言った。

「……そういう事だ」

「車を止めて下さい!」僕は運転手に叫んだ。

「だめだ、おまえが来るのを待ち受けてるんだぞ」父さんが慌てて僕の方を向いた。

「じゃ、彼女をいけにえの羊にするとでも言うんですか?」僕は助手席の背もたれを掴んで、父さんに詰め寄った。

「いや……任意同行なら、長期に渡ってミドリ君を閉じ込めておく事は出来ない……
今回は仕方なかった……すでに、他のおまえと関係のある者はすでに確保している……
碇ユイ……碇アスカ……山際シズカ……ムサシ・リー・ストラスバーグ……浅利ケイタ すべて監視対象だ。心配無い
取りあえず、彼女が釈放されたら、他の人を彼等に確保されないようにすれば大丈夫だ……」

「けど……」

「調査期間は一ヶ月だ……その間は息を潜めるしか無いんだ」

「けど……駄目ですよ……僕が姿を隠していたら、あの人はミドリさんを殺しかねない!」

「シンイチ!」父さんは必死に僕を思いとどめさそうと、目で訴えかけていた。

「兄さん!」僕が叫ぶのと同時に、運転席にある非常用サイドブレーキが、一瞬の間に上がっていった。

車は急制動し、エレカが傾き、その前縁は道路に当たって火花を上げていた。

「アヤ!ミライ!シンイチを止めるんだ」ガラスに手を当てて父さんが叫んだ。

だが、エレカは運転手がハンドルを操作して道の左に止まっていたので、右から出る為、アヤさんの前を通って出ようとしたが、
アヤさんに左手を掴まれた。

「アヤさん……行かせて下さい」僕はアヤさんの目を見つめて言った。


「嫌……あなたの手を離せば……もう二度と会えないかも知れない……けど、もしミドリさんに何かあったら、
シンイチ君が後悔すると思うの……行かせたく無いけど……」アヤさんは涙を流しながら、掴んでいた僕の左手を離した。

「アヤさん……」

「帰って来てね……」

僕は黙って肯いて、エレカのドアを開けた。

「電子ロックか!」僕はドアを一にらみすると、ロックは解除し、ドアが開いた。


「シンイチ!」
「シンイチ!」
父さんとミライの悲痛な叫び声を背中で受け止めて、僕は走り始めた。

{{兄さん……ミドリさんがいる場所……わからない?}}

すでに、向こうのエージェントのデジタル暗号通信機の交信をキャッチしている……
ミドリは、川向こうの廃屋に連れ込まれたようだ……そこもSEELEのアジトだな……



{{兄さん……これまでありがとう……僕と兄さんが双子の兄弟だと言うのは嘘なんだろう?
それなのに、僕や、皆を守り続けてくれてて……
}}

シンイチ……何故……

{{この間、ミライに触れていた時に……ミライと意識を共有したあの時……
兄さんとミライとの会話の記憶に偶然触れたんだ
}}

そうか……

{{もし……僕が死んだら……この身体を使ってもいい……その代り、皆を守って欲しいんだ……}}

……約束しよう……そんな事にはならないようにはするつもりだがな

{{兄さん……}}


次回予告はCM(メールフォーム)の後だよ(笑)


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どうもありがとうございました!


次回予告

シンイチは見る……を奪われた 女(ひと)

シンイチは聞く……を亡くした 魂の叫び を

シンイチは知る……を無くした 哀しみ  を

シンイチは、愛する者達を守り抜く事が出来るのか……

次回、裏庭セカンドジェネレーション第9話【哀・戦士



君は生き残る事が出来るか(古い)


第8話Dパート 終わり

第9話Aパート に続く!



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