「どうしたんです?撃たないんですか……」

マリコは顔を引きつらせながらも、引き金を引いた。

僕の顔に向けられた銃口を僕は見つめていた。
弾丸が僕の顔に飛んで来るのが、まるでスローモーションのように見えた。

だが、僕は……目を見開いたまま微動すらしなかった。

弾は僕の額へと飛んで来ていた……

「アヤさん……ミライ……ごめん」僕は静かに目を閉じた。


裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 09B

第9話【哀・戦士】Bパート




キィーン

目の前に虹色に光る、六角形の紋様が浮かび、弾は弾かれて明後日の方向に向かっていった。

僕は弾が弾かれた音に驚いて目を開けた。

「何っ?」マリコ・ローレンツは目を見開いた。

{シンイチ……おまえはもう休んでろ……}
{{兄さん……}}

次の瞬間、僕の身体は僕のコントロールを離れていった。

「なにっ?」マリコの目は恐怖の為か、見開かれていた。

「黙って聞いてれば、いい気になりやがって! 何が貴族だ!」僕の声帯は命令もなく、言葉を紡いだ。

「それに、シンイチとの約束を破りやがって! おまえは貴族以前に、人以下の存在だよ」

兄さんに操られた僕の身体は、マリコさんの方に歩き始めていた。

「ひっ来るな!」マリコは引き金を引いた。

だが、銃弾は再び、虹色の六角形の紋様に弾かれた。

「来るな!」マリコは引き金を引いたが、すでに弾は無くなっていた。
チャンバーにあった弾丸と、マガジンにあった5発の弾丸はすでに使い切ってしまったのだ。

「俺を本気で怒らせる前に、その女を離せ!」兄さんは怒気を込めて言った。

「約束を破ったからには、この痛みに付き合う必要も無いな」
兄さんがそう言った瞬間、弾が身体から飛び出して足元に落ちていった。

傷は見る間に塞がって行き、傷痕もなく、穴の開いた服と血痕だけが銃弾が打ち込まれた証拠であった。


「罪の無いシンイチが、おまえの為に銃弾を受けたんだぞ……」

「おまえは誰だ!」

「俺か?俺はシンイチの兄だ……名をつけてくれる親はいなかったので、名は無い。」

「その女を離してやれよ……」

兄さんはマリコさんににじり寄っていった。


「ママに近づくな!」少女が喉が張り裂けんばかりに、叫んだ。


次の瞬間、河原の石が空に浮かび上がり、兄さんの背中に向かって降り注いで来た。

だが、虹色の紋様に弾かれて、明後日の方向に飛んでいったが、少女はその攻撃を止めなかった。

「ローラ!」マリコはその隙に土手を這い上がっていった。

ローラと呼ばれた少女は、紅い瞳で兄さんを睨み続けていた。

「ふん」兄さんがそう呟いた瞬間、兄さんの身体は土手の上に瞬間移動していた。

「ぐっ」樹島さんの後ろにいた黒服の男は首筋への一撃で崩れ落ちた。

そして、マリコに向かって歩いていった。

「ここで、ポルターガイストを起こしたら、おまえのママも巻き込まれるぞ」兄さんはローラに声をかけた。

兄さんが樹島さんを一睨みすると樹島さんの縛めは解けていった。

「おい、にげるんだ!」兄さんは樹島さんに向かって言った。

「あなたね……シンイチさんとは違う波動を発していたのは……」

「俺の存在を気付いてたのか……」

「ええ……」

「おまえも、ただ者じゃ無いって事か……とにかく逃げろ! シンイチが心配してる事だし」

「わかったわ」樹島さんは橋に向かって走っていった。

「文句は無いだろ?シンイチは約束を守ったんだ」

「貴様……」マリコは兄さんを睨んでいた。

「ローラ!今なら大丈夫よ!」マリコはローラに指示した。

土手の脇にある廃屋から瓦が舞い上がっていき、兄さんに向かって飛んでいった。

だが、虹色の障壁に阻まれていたが、 虹色の紋様状の障壁は段々小さくなっていった。

{シンイチ……もうあまりもたんぞ……すまん}

{{兄さん……}}

「もう少しよ!ローラ!」障壁が小さくなったのを知ったマリコはローラの肩を抱いて言った。

「駄目……」だが、ローラは力尽きて目を閉じた。

{なんとか持ちこたえたか……もうこっちも限界だ……}

僕は身体のコントロールを取り戻した。

だが、ローラが力尽きる寸前に放たれた瓦が背中にぶつかって、僕は転倒した。


「痛っ」僕は起きあがろうとしたが、マリコ・ローレンツが僕に覆い被さって来て、僕の首を締めた。

「おまえさえいなければ おまえさえいなければ!」

マリコ・ローレンツの手から溢れんばかりの思いと記憶が僕に伝わって来た。

旅行でドイツの古城に立ち寄った旧姓山下マリコが、ローレンツ家の次期当主と偶然出会い、

お互いに惹かれあい、マリコは貴族の名門ローレンツ家に入った、

そしてローラが産れ二人の幸せはいつまでも続くかと思われた……

だが、当主交代には実績が必要だと感じた次期当主はエージェントとして、

ヨーロッパのハストゥールを崇める一派に潜入した……

だが、いつまで経っても、主人は帰らなかった……二年後、別の潜入調査員が、ようやく調査してた報告書が届けられた。

主人は洗脳され、現在は日本のハストゥール信者の一派に移されていた事……そして救助すべく飛行機に乗り込み日本に向かった……

だが、衛星から放たれたレーザーに焼かれた建物の下から、焼けこげた主人の指に光る指輪を見て、復讐を誓った……


それらの思いが僕に流れ込んで来ていた。

そう……兄さんに言われたように風谷さんを殺す事が出来ていたら……彼女の夫は死ななかったんだ……
僕が躊躇った事が、結果的にこの人を苦しめてしまったんだ……でも……でも……死にたく無い!

首を締められ初めてどれぐらい経つんだろう……このままじゃ死んでしまう……
けど、この手を跳ね除けたら……でも…

僕の脳裏には、走馬灯のように、僕と僕を取り巻く家族の思い出が頭に次から次へと浮かんでいった。

”シンイチ!早くしなさいよ……遅刻しちゃうじゃない”

そう言いながらも、いつも僕を待っていてくれたミライ……

”さぁシンイチ君が蝋燭の火を消すのよ”

まるで姉のように僕の世話をしてくれたアヤさん……

”例えおまえがどんな姿だとしても 私はおまえの事を息子だと思ってるよ”

父さん……僕の本当の父さんならいいのに……

”だけどね、私の事を母さんだなんて、呼ばないでね 外を歩く時は、年の離れた姉弟で通すのよ”

母さん……いつもそんな事言ってたね……けど僕を引き取ってくれたのは母さんだそうだね……

”シンイチ・・私はあなたの本当の姿を見たわ・・けどあなたの事嫌ったりしない・・
だって、シンイチの事・・好きなんだもん・・それは変わらないわ・・”

僕の全てを知って……初めて受け入れてくれたミライ……

”私は・・シンイチ君さえ無事でいてくれたら・・他に・・何も望まないわ・・”

アヤさん……ごめん……約束、守れそうにないよ

僕は薄れゆく意識の中で、皆の顔を思い浮かべていた。




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どうもありがとうございました!


第9話Bパート 終わり

第9話Cパート に続く!



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