バラバラバラバラ
ザッ 只今から、救出作業開始します
ザッ 了解!
バラバラバラバラ
「ん?」シンジは、ヘリの音に気付いて顔を上げた。
ヘリから、縄梯子が降り、シンジの目の前に命綱で固定された、救出隊員が手を伸ばした。
「・・・・僕だけ・・助かっても・・」シンジは、呟いた。
「碇! 早く手を伸ばせ!」救出に来た隊員が声をかけた。
「加持さん・・」聞き覚えのある声に、シンジは顔を上げた。
「さぁ早く!」
シンジは片手を離し、加持の方に身を乗り出した。
「よし!縄梯子に足をかけろ」
ガチャ
シンジのズボンのベルトに、命綱が付けられた。
「よし!上昇してくれ」加持がヘッドセットのマイクに向かって叫んだ。
バラバラバラバラ ヒュンヒュンヒュンヒュン
ブレードが谷間の激しい風を切って、上昇していった。
シンジの視線の向こうには、転倒したモノレールが、風に揺れていた。
「アスカ・・」
雪山に消ゆる面影を求めて
外伝4 【復讐と言う名の自傷行為】
「それじゃ、上に向かうモノレールの所で降ろしてくれ」加持がパイロットに言った。
「それと研究所から、医療班を待機するように、伝えてくれ」加持が、コ・パイロットに伝えた。
加持とシンジはヘリの後部座席に座り込んでいた。
「アスカは・・・」
「発見されていないよ・・」加持が沈痛な顔で伝えた。
「・・そうですか・・」
シンジの手は固く握りしめられ、血が滲んでいた。
「何故・・僕じゃ無く・・アスカが・・・」
「碇君・・まだ、死んだと決まった訳じゃ無いんだ・・気を落とすな・・」
とても、そう思っているとは思えない表情だったが、シンジは自分の心を偽って、ひとときの安息を得た。
ヘリは中継地点から谷を越えた丘に向かっていた。
その丘から、頂上へのモノレールがあるのだ。
「さぁ・・着いたぞ・・」
「・・はい」
シンジは、加持に肩を借りて、ヘリを降りた。
「担架に乗せろ」加持が、医療班に向かって言った。
「ハイ!」
三人がかりで、シンジは担架に乗せられ、モノレールに乗り込んだ。
ビュゥーー
ビュゥウーーー
風が、モノレールのワイヤーに当たって、大きい音が断続的にしていた。
「5分遅れてたら・・救出出来なかったかもな」医療班の一人が、同僚と話していた。
「・・・・」シンジは目を閉じた。
閉じた目から、涙が後から後から、湧きあふれて、頬を濡らしていった。
シンジは3週間の間、研究所内の、医療課のベッドで寝ていた。
「まだ・・退院出来ないんですか・・こうしている間にも・・
モノレールのワイヤーを切った奴が、逃げ出しているかも・・」
シンジは、回診に来た、医師に吐露した。
「気持ちは分かるがね・・退院は・・一週間は待って貰わないといけないな・・」
「そう・・ですか」シンジは唇を噛んだ。
ある日 高校時代の同級生であり、研究所に栄養士として勤めている洞木ヒカリが見舞いに来ていた。
「どう・・碇君・・」
「あと4日で退院出来るそうだけど・・・」
「その後・・アスカの捜索はどうなってる?」
「雪渓の中に落ちたみたいで・・まだ発見されて無いのよ・・」
「・・・・」
「僕が・・僕がついていながら・・」
「碇君・・あなたは、出来るだけの事はしたんでしょう?
アスカだって・・・」
「・・ありがとう・・」
「ひとつ・・調べて欲しい事があるんだ・・」
「何?」
「あの事故の後、ここを離れた所員がいないかどうか・・」
「わかったわ・・出来るだけ調べてみるわ・・だから、身体は大事にしてね」
「うん・・」
そして、シンジの退院の日
「お世話になりました」
「まだ、完全じゃ無いんだ・・無理するなよ」
「はい・・失礼します」
カツカツカツ
シンジは、一ヶ月ぶりに、自室に向かっていた。
「あ、碇君」
「洞木さん」
「調べて見たけど・・記録には、残って無いのよ」
「そう・・ですか・・ありがとうございます」
シンジは自室に戻った。
シンジの部屋には、アスカの私物がダンボール箱入れられていた。
「アスカの部屋・・もう片づけたのか・・まだ死んだと決まった訳じゃ無いのに・・」
「ん?これは・・」
シンジはダンボール箱の中から、一丁の小型拳銃を取り出した。
「デリンジャー2007年製か・・」
その小型拳銃は、シンジとアスカがオーストラリアの大学にいた時、
護身用に買ったものであった。
デリンジャーと名はついているが、旧世紀の同名の拳銃とは違い、
旧世紀末に発売された、小型拳銃化されたベレッタに似ていた。
薄身のボディで、弾は6発が込められていた。
「アスカ・・」
シンジはデリンジャーをポケットに忍ばせた。
「多分・・表の記録は抹消されているんだろうな・・」
シンジは立ち上がった。
その時、置き鏡に写った、自分の姿をシンジは見た。
「こ、これは・・」
シンジの毛髪は、7日間の間に、真っ白になっていた。
「・・・・」
シンジは足早に部屋を離れ、エレベータに向かった。
エレベータに乗り、カードを通し、蓋を開け、スイッチを押した。
待つ事数分
シンジは、地下深くの施設に降り立った。
広い指揮所のコンソールに、シンジは取り付いた。
スイッチを入れ、シンジは情報をあさっていた。
「ん? これか・・ 削除ファイルが残っている・・」
シンジは、ほぼスクラップになりかけていた、ファイルを復元し、
ビュアーで開いた。
「やはり・・」
あの事故のその日の日付で、浅間山頂研究所を離れた所員がいたのだ。
「名前は、時田サブロウ・・この人は・・父さんの秘書じゃ無いか・・
転勤先は、本社か・・・よし・・」
シンジは、マシンを操作して、何かデータを打ち込んでいた。
「これで・・」
シンジはマシンをスリープ状態に戻し、席を離れた。
エレベータで、上に戻った時、アナウンスが流れていた。
”碇研究員 碇研究員 所長室においで下さい”
「父さん・・」
シンジは、所長室に向かった。
コンコン
シンジは所長室のドアを叩いた。
「入れ」
「碇研究員・・出頭しました」
「君は、明日付けで、本社研究室勤務になった。 荷物を整理しておきたまえ」
「わかりました・・」シンジは背を向けた。
碇司令・・ゲンドウは何か口にしようとしたが、結局それ以外は何も言わなかった。
「・・・」シンジは自室で、荷物の整理をしていた。
「アスカ・・」シンジはアスカの荷物の中にあった、
シンジとアスカが並んで写っている写真の入った写真立てを手に取った。
「他のものは・・辛いから・・持っていかないよ・・アスカ」
シンジは自分の荷物と、写真だけをもって、翌日 山を降りた。
3日後
シンジは平地にある、本社研究所の門の前に立っていた。
「アスカ・・君の仇は・・僕が取るよ・・そしたら・・僕も君の所に・・」
シンジは胸のデリンジャーの感触を確認しながら、門をくぐった。
復讐・・それは甘美な響き・・だが、人を呪わば穴二つ・・
それすらも覚悟した、シンジには恐いものは無かった。
だが、自分以外に、呪いが帰って来る事になろうとは・・
しかも、僅かながらも、想いを注いだ相手に・・・・・・
数日後
バーン
「命だけは、助けてくれっ」
尻餅をついた、時田サブロウの手の横の床に、シンジの撃ったデリンジャーの弾が食い込んだ。
「命令したのは、碇司令だ!俺は只、命令どおりに・・」
「と、父さんが・・・・でも、アスカを殺したのは、おまえだ! 許さない」
シンジは照準を時田の額に合わせた。
「アスカ・・今君の仇を・・」
デリンジャーを手に、薄ら笑いをしている、白髪のシンジ・・
その姿を伝え聞いた人々は、シンジの事を”白髪の復讐鬼”と呼び、恐れた。
バーン
だが、上司の冬月部長が、後ろから、シンジの拳銃を持った手を掴んで、
弾は天井に空しく食い込んだ。
「冬月部長!止めないで下さい・・アスカの仇を取らないと・・いけないんだ」
シンジは、冬月に羽交い締めにされながらも、叫び続けた。
その後に突入した、警備員が、時田を縛り上げていた。
「ばかもん! 君がアスカ君の仇を取った所で、アスカ君は帰っては来んのだぞ・・」
シンジの横を縛られた時田が護送されていった。
「・・アスカが帰って来ない・・・そんな事はわかっているんだ・・
僕もアスカの元に・・・行きたかったんだ・・」
シンジは、床に崩れ落ちて、鳴咽を漏らした。
時に西暦2021年・・シンジの終わりの無い、苦悩は続いていた。
雪山に消ゆる面影を求めて
外伝4 【復讐と言う名の自傷行為】
完
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