1_問題の所在とその発端


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本訴松の原告である「(有)ちろりん村」は高松市栗林町3−10−24、にて自然食品販売業を営む有限会社であり、被告である「(株)瀬戸内海放送」(略称KSB)は高松市西宝町l丁目5番20号、にて郵政大臣の認可を得て放送事業をいとなむ放送局である。また、「(株)KSBウオーク」は(株)瀬戸内海放送敷地内にて常業をする広告会社で、その名称だけではなく、営業形態や株式保有形態から実質的に(株)瀬戸内海放送と一体となった子会社であるとみなされる。

l990年12月11日に高松地方裁判所に提出された原吉側の訴状によれぱ、この(有)ちろりん村は広告会社(株)KSBウオークとのあいだで88(平成元)年6月末頃、被吉(株)瀬戸内海放送が原告提供のコマーシャル放映をする契約(以下第一契約)をむすんだ。

その契約内容は「第一、原告が作成した内容のスポットコマーシャル(一本、15秒)を(株)瀬戸内海放送が毎月六本放映するかわりに、(有)ちろりん村は(株)KSBウオークに毎月金五万円を支払う。第二、スポットコマーシャルの内容を変更するときは、原告から(株)KSBウオークに申し入れ、(株)KSBウオークが(株)瀬戸内海放送に申し人れる」ということを骨子としている。

この(有)ちろりん村との契約にしたがって、(株)KSBウオークは(株)瀬戸内海放送とのあいだで同時期につぎのような契約(以下第二契約)をむすんでいる。

その内容は「第一、原告が作成した内容のスポットコマーシャル(一本、一五秒)を(株)瀬戸内海放送が毎月六本放映するかわりに、(株)KSBウオークは(株)瀬戸内海放送にたいし毎月金五万円を支払う。第二、被告はこの広告料金の中から(株)KSBウオークにたいし手数科を支払う。第三、スポットコマーシャルの内容を変更するときは、(株)KSBウオークは(株)瀬戸内海放送に申し人れる」ということを骨子としている。

つまり、この「原発パイバイ」CMの放映については提供者である(有)ちろりん村が広告会社である(株)KSBウオークと契約をし、それにしたがって(株)KSBウオークが(株)瀬戸内海放送とのあいだでコマーシャル放映の契約をしているということで、(有)ちろりん村と(株)瀬戸内海放送との間係は間接的であるということである。しかし、現在の日本の民間放送の広告営業では広告主と放送局とのあいだに広告会社がはいるのがふつうで、それをもって(有)ちろりん村と(株)瀬戸内海放送との契約関係はないということにはならない。しかも本件の場合、前述のように(株)瀬戸内海放送と(株)KSBウオークは商法上の別会社であっても、事実上おなじ会社なのである。

さて、この第二契約にしたがって、(株)瀬戸内海放送は88年7月から(有)ちろりん村の作成したスポットコマーシャル(実作は(株)KSBウオークによる)を月6本放映してきた。

 この間、このスポットコマーシャルは計四回の変更を経ながら90年6月まで何の問題もなく放映されてきた。それは以下のようなテロップ(上掲テロップ@)と吉声による同時アナウンスメントによって構成されている。

このテロップには上部に「今日もいい風が吹きますか」とあり、真ん中に「キューリ、カポチャ、キャベッなどの野菜」の商品宣伝、下方に「いのち心くらし」と商いの姿勢とCM提供者である(有)ちろりん村の名前と連絡先が記載されている。

音声によるアナウンスメントはそれぞれ契約に基づく申し出によってつぎのように変更されている。
「ちろりん村の無農薬野菜を食ぺたらスポーツ万能になる!なんてジョーダンですが、健康な体づくりは無農楽野莱で。10月10日はちろりん村の五周年記念日、ぜひおこし下さい。」(88年9月19日から10月6日まで)
「ニンジン大キライ!そんなうさぎだっているかもしれない。無農薬野菜をお届けして5年になりました。うさぎをみつけたら、ちろりん村を思いだしてください。」(88年10月12日から90年2月22日まで)
「チロリン村は、地球の友達、物を大切に使います。お買物袋をお持ちの方には、五円のおまけ、牛乳パック、たまごパックも、回収中!使える物は使っちゃおう。」(90年2月23日から4月27日まで)
「お侍たせ!5月5日朝10時、ちろりん村かぼちや店がオープン、無農薬野菜はもちろん、産地直送のにがり豆腐がおすすめ、栗林ジャスコ東へ30メートル、みんなで来てね」(90年5月4日から6月15日まで)
以上、最初のものを合わせ五種のスポットコマーシャルは原告の要請による内容の変更をしたうえで契約にしたがい遅滞なく放映された。が、本稿で取りあげる(株)瀬戸内海放送がいったん二回の放映をしながら(90年6月21日と同22日)中途でその放映を打ち切ったCM(上掲テロップA)はつぎのようなものであった。

図柄→左上に太陽、右中央に地球とその上に咲く花や動物や人間、など。左下に星、右下に三日月。

テロップ文字→上に「私たちにできること」「地球が元気になるように」中央下に「原発バイバイ」。左下に広告提供者名と住所・電話番号、支店名と電話番号。そしてスローガンとして「いのち・心・くらし」

アナウンスメント→「みなさん、お元気ですか?ここでちろりん村からちょっと変わったコマーシャルを!ちろりん村では地球が元気になるように牛乳パックを回収しています。くわしくはちろりん村まで」

このCM放映中止にいたる経過については、公平を期すために被告である(株)瀬戸内海放送側が高松地方裁判所に提出した準備書面より説明しておく。

第一、(株)瀬戸内海放送は契約(第二契約)にしたがって88年から問題になるまで(有)ちろりん村のスポットコマーシャルを放映してきた。

第二、このあいだの音声アナウンスメントの変更については、(株)瀬戸内海放送編成部は考査をしたうえで承諾してきた。

第三、件のCMのテロップおよびアナウンスメントは(株)KSBウオークから(株)瀬戸内海放送に90年6月12日、「格別の説明もなく」(被告の準備書面の用語法−筆者)提出された。

第四、「翌6月13日、被告((株)瀬戸内海放送)のコマーシャル受付担当者N嬢(準備書面では実名)は、スポンサーである原告がこれまで継続したスポンサーであることから、そのまま放映できるものと誤信し、他社の放送素材とともに、技術局運行技術課に回付したため、6月21日の二回、被告編成部における考査がなされないまま、誤って放映されたものである」(準備書面の文面のまま)

第五、その後「被告は、同月25日、右テロップおよびアナウンスメント搬入につき、これを契約内容変更申し入れと理解し、被告編成部において考査会議を開いた結果、前記6月12日申し入れにかかる放送素材のテロップについて、放送法第三条の二、同条の三に基づく日本民間放送連盟の放送基準に抵触するとの結論に達した」(準備書面の文面のまま)

第六、その考査会議の結論にしたがい、(株)瀬戸内海放送は(株)KSBウオークにたいし、テロップ上の「原発バイパイ」部分を「原発を考えよう」とでも変更するように要請したが、それを取りついだ(株)KSBウオークの修正要望に原告((有)ちろりん村)が応しないため、被告は以後のCM放映を打ち切った。

これにたいし、(有)ちろりん村は、テレビその他のマスノディアに原子力発電推進のコマーシャルがひんぱんに登場している現実があるとき、自社のこの程度のCMが中止されるのは納得できないとして、同年7月13日高松地方裁判所にそのCMを契約どおり流すことを求める仮処分申請をおこなった。この申請は同年8月10日「CMが放送基準に抵触するかどうかは、放送局の判断が尊重される」として却下された。

これを不服とした(有)ちろりん村は同年12月11日、高松地裁において本訴におよんだ。これもまた93年2月16日却下されたが、ただちに2月23日高松高竿裁判所に控訴した。

このいわゆる「原発バイバイ」CM放映継続請求訴訟の問題点は、四国高松市において10年前より自然食品販売業を営む(有)ちろりん村提供のテレビコマーシャルを(株)瀬戸内海放送が提供者との合意なくして打ち切ったことが是か否かという側面だけではなく、公平に見て、この提供者の側に非のない「打切り」がじつに現在の日本のジャーナリズムの危険な側面を象徴的に表していること、およびそのトータルで公正な解決が今、放送法の定める「公共の福祉」と「民主主義の発達に資する」ために日本のジャーナリズム全体にもとめられているということである。

以下にこのCMの放映中止措置がなぜ間違っているかについて当該広告コピーを関連各方面から分析しながら検討していくことにする。

(1)被吉は準備書面(91年1月30日)でつぎのようにいう。

「パイパイCF」の原発部分だけが意見広告であり、その他は原告の商品を宣伝する商業広告だとする。その立場から「原発パイバイ」部分の削除を(株)KSBウオークをとおして申し入れたが原告が応じないため、「原発を考えよう」との字句への改稿要請をし、更にそれまでのCF素材である「今日もいい風が吹きますか」編での放映提案をした。また、被告は電力会社側のコーマシャルも要求どおり放映しているわけではなく、たとえば四国電力および中国電力の意見広告を含んだ商業広告についても「安全を第一に取り組んでいる」との表現に止め、「原発は安全である」旨の意見広告は民放連放送基準に抵触すると判断し、その申し人れに応じていない。また、四国電力の「原子力は暮らしを支える安心エネルギー」というスポットコマーシャルについて、被告は広告代理店に対し、昭和63年10月、改稿要請をし「安心」の部分を削除させている。」

しかし、この両者を比較すると、(有)ちろりん村のほうは完全に意味の改変を要求されているのにたいし、電力事業者側のコマーシャルの意味内容はそのまま許されているというトリックが使われていることか分かるであろう。


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