土庄町・豊島に不法投棄された約50万トンの有害産業廃棄物をめぐる国の公害調停が始まって2年が過ぎた。一貫して、産廃の島外撤去を求めてきた住民の声を受け、公害等調整委員会(公調委)は過去最高の二憶三千六百万円を投じて現地調査、深刻な汚染の実態を明らかにし、「放置できない状況」と指摘。「主体的に撤去する法的責任はない」という姿勢を変えない県の意見も聞き、解決策を模索する構えだ。住民が理想とする処理費用は百九十一億円と莫大。地方権力である県はそれにどうこたえようとしているのか、これまでの調停の過程をたどり、今後の展望を探る。豊島生まれの土庄町議山本彰治(六二)は、岡山・字野港から高松港へ向かう宇高国道フェリーのトイレにこもった。約一時間。住民の思いをどう伝えるか、ひたすら神経を集中した。様子をうかがいに行った島民、石井亨(三六)の耳には、そのつぶやきが伝わってきた。
1994年3月23日、産業廃棄物をめぐる初めての国の公害調停が高松市西宝町のラポール・イン・タカマツで始まる。本来の会場は総理府。これに対し、住民らは一月、「少しでも費用を減らすため、地元で開催を」との要望を公調委に提出、認められていた。
山本は、住民団休「廃棄物対策豊島住民会議」顧問。549人いる調停申請人の代表五人の筆頭。大阪での事前打ち合わせで、弁護団長の元日本弁護士連合会〈日弁連)会長中坊公平から「住民の代表として、何でもええから、10分ほど適当にしゃべっておくんなはれ」と言われていた。
山本はその言葉通り、簡単に考えていた。ところが、調停前日、文案を同じ代表の石井や安岐正三(45)に見せると「諸先生方におかれましてはとか、身内の弁護士のお礼の言葉なんかいらん」と何箇所も却下せれた。自宅に帰って練り直したが、皆の思いを凝縮できないまま、夜明けを迎えた。
トイレで文案
豊島から高松へ直行の船便は殆どなく、調停当日は宇野港経由。午前9時半、20人の住民と共に豊島・家浦港から小豆島フェリーで出発した。船中は騒がしく、話しかけてくる人もいる。焦りは募った。だから、乗り継いだあとは「頭を整理したい」と昼食の弁当も食べずにトイレに篭城したのだが、あれこれ考えるうち、高松港に着いてしまった。
「山本さん、できましたか」。弁護団との待ち合わせ場所の高松駅。中坊が右腕と信頼する日弁連刑事弁護センター副委員長の弁護士大川真郎(55)(大阪)がいきなり寄ってきてカッと肩を抱き、小声でつぶやいた。第1回に賭ける思いが伝わってきた。
山本の顔から血の気が引いた。頭のなかは真っ白。調停会場では中坊に口述で文案を伝えたが、「まだ時間はある、考え直しなはれ」とはねられた。が、安岐は翌日の調停委員の現地視察で、悲惨な状況を訴えるため、現場に穴を掘る段取りをするよう、中坊の指示を受けていた。考えてもいなかったことに慌て、山本の相手をする余裕はなかった。
調停開始は午後二時。会場は裁判所の法廷と似た形で設営される、最前列に3人の調停委員。中央は委員長の海老原義彦(67)(元総理府次長、現自民党参院議員)、両わきに長谷川彗重(62)(元厚生省健康政策局長)、南博方(66)(成城大教授、現学長)が座り、公調委の事務局職員が控える。
三人に向かって右が、申請人・住民側の長机とイス4列。左は被申請人側で、前列に県の環境保健部長山下賢一(58)(現環境保全公社副理事長)、代理人の弁護士田代健(50)(香川)ら、その後ろに処理業者「豊島総合観光開発」取締役松浦庄助(60)、排出業者が着席した。総勢約50人。ピンと張り詰めた厳粛な雰囲気が山本の全身を包んだ。
調停は公害紛争処理法の規定で非公開。マスコミの冒頭撮影のあと、住民、松浦、排出業者、県の順で意見陳述と決まった。住民以外は退席した。
百点満点
「後は自分しか頼る者はいない。感じたことをしゃべってみよう」そう思った時、山本は次第に気が楽になってきた。『県と豊島住民は親子の関係。親が子を裏切るはずはないと信じ、県には何回も処理業者の違法性を訴えてきたが、撤去は遅々として進まなかった。ところが、解決策を見い出したいと藁にもすがる思いで取り寄せた豊島事件の刑事公判記録には、県が不法投棄を知りながら、さも正当な事業を行っているように見せかけることに加坦していた供述が含まれていた。ことの発端から20年目で、親である県に裏切られ、騙されていることを知った。』
『豊島は農業と漁業、社会的弱者のための福祉施設が点在する「安らぎの島」私たちの暮しは自然との共存の上で、成り立ってきた。産廃の撤去なしに、将来はない。撤去は高くつくだろうが、悪いことをすればあたり前。こんな思いをするのは、自分達だけで沢山だ。二度とこんな事件を起こさないためにも、県や業者に撤去を求めたい。』
多島美、白砂青松の海岸、穏やかな気候。頭のなかを自分を育ててくれたやさしい昔のままの豊島の風景が駆け巡り、自然と言葉が出た。後ろに控えた住民らのすすり泣きが漏れる。山本の頬にも涙が伝っていた。
安岐は「余計な形容詞を削ぎ落としていったら、住民の本質としての部分が出た。『やすらぎの島』なんて、始めて聞いた」と振り返る。
「山本さん、100点あげる。ようやった」中坊は調停終了後、山本に声を掛けた。だがその一方で調停が予想以上にセレモニーで終わったことに、撤去に向けた壁の高さを痛感していた。 (敬称略)
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2002.7.22