NEC A-10
INTEGRATED AMPLIFIER ¥99,8001983年にNECが発売したプリメインアンプ。根強いファンを持つA-10シリーズの初代機で す。CD-803で
突如オーディオ界への本格参入を果たしたNECが採算を度外視して作り上げたまさに野心的作品ともいえ る
アンプで,その価格からは想像できないものすごい中身とユニークな設計は今も多くのファンを持つことと なり
ました。今回,初代A-10の資料が幸いにも入手できましたので取り上げました。A-10の最大の特徴は,その強力な電源部にありました。A-10の電源部は,通常のコンデンサ インプット型
電源では,AC電源が不連続な脈流であるために電流が流れていない時間が生じ,コンデンサの放電時に大
出力を得ようとしても電源電圧が下がってしまうという欠点を持つことの注目し,コンデンサインプット型 整流回
路の充電電流が流れない時間を補うもう一つの電源部である「リザーブ電源」を搭載したものでした。
「リザーブ電源」は,まずトランスレス整流して直流を取り出し,これをスイッチングして50Hzまたは 60Hzの
パルスにして,さらに位相を90度ずらしたうえでもう一台の終段用の電源トランスに加え,通常の電源部 の波
の隙間を埋めるというもので,一種のパルス電源ともいえますが,その目的はかなり異なるものでした。ま た,
A-10U以降では,この「リザーブ電源」はタイ プUとなり,トランスの後で補充するかたちになったので,この
タイプの「リザーブ電源」は初代A-10だけでした。この第2の電源「リザーブ電源」が充電電流がとぎ れたとき
に働くため,充電電流を連続した均一の流れに近づけることができ,充電電流のピーク値の低下,電源のイ ン
ピーダンスの低下,電源供給能力の増大という効果があり,電源リップルも約8dB改善されていました。この新しい方式の電源を搭載した電源部は,各ステージ独立の5電源構成で,このクラスのプリメインアン
プでは前代未聞の強力な構成がとられていました。終段用として108mm径×70mmの電力容量180VA
のトロイダルトランスが,通常電源用とリザーブ電源用にそれぞれ1台の計2台,プリ用に85mm径×62mm
の容量88VAのトロイダルトランスが1台,さらに操作系用に小型のEIコアトランスが1台と,何と4台のトラ
ンスを搭載するという前代未聞のものでした。フィルターコンデンサーも35mm径×100mmのものが,56V
8,200μF×4,160V3,300μF×2と計6本,前段用に25mm径×50mmのものが6本搭載されてい
ました。このような大がかりな電源部になったのは,無信号時にも大量の電流を流しておいて信号が入って
きたときの電圧低下を抑えるという贅沢な「シャントレギュレーター型電源回路」が全増幅段にそれぞれ独立
して搭載されていたためでした。この初代A-10とA-11は内部構造がよく似ていて,電源トランスがサイドに
寝かして配置されていました。試作機では縦に配置されていましたが,本番機では,スイッチング回路を含め
他への影響を与えそうなものは全て側板に配置されたためでした。
プリメインアンプとしては前代未聞の強力な電源部により,8Ω時,60W+60Wの出力が,4Ω時には,理
論値どおり,120W+120Wに増大するという強力な実パワーを実現していました。
回路構成としては,全増幅段にプッシュプル型増幅回路を搭載していました。また,CD時代のアンプとして
登場したA-10でしたが,フォノ入力も充実した構成になっていました。特にMCカートリッジには本格的なヘ
ッドアンプを搭載して対応していました。このMCヘッドアンプは,ローノイズ・ハイゲインFETを3パラレルプッ
シュプル接続したもので入力感度80μV/10Ω,入力換算雑音−154dBVというクラスを超えた高性能な
ヘッドアンプでした。さらに,MCカートリッジに対してローポジション(80μV/10Ω)とハイポジション(250
μV/100Ω)の2ポジションが装備されていました。フロントパネルのデザインはシンプルな左右対称型で,全てアルミ無垢の丸形のつまみが並んでいるという
当時,アマチュアライクと称された精悍でユニークなものでした。センターにあるボリュームの周りに描かれた
放射状の目盛りは,タービンをイメージしているといわれ,A-10という名前自体も,アメリカ空軍の攻撃機
A-10サンダーボルトから取ったともいわれていました。
操作系もプリメインアンプとしては個性的で,強力なパワー段をパワーアンプとして使う場合が考慮されたも
のでした。オペレーションスイッチをSEPARATEにすることで,パワーアンプ部とプリアンプ部を切り離して
使うことができるようになっていました。バランスコントロールはなく,パワーアンプの出力ボリュームとして
使用できる左右独立のパワーアウトプットレベルコントロールがついていて,これで左右チャンネルのバラン
スコントロールをするようになっていました。また,微妙なボリュームコントロールを要するときのために,3段
階(−10,−20,−30dB)のアッテネーターが装備されていました。そして,トーンコントロールは搭載され
ていませんでした。実際,トーンコントロールやラウドネススイッチなどが不要なくらい,A-10の音は力にあふ
れたものでした。以上のように,NECが採算を度外視して作り上げた初代A-10は,歴代のA-10の中でも力強さでは図抜
けた存在でした。力強い低域と独得のギラギラ感を持つクリアな中高域を持つ音は,繊細さでは他のアンプ
や2代目以降のA-10に劣る部分もありますが,とにかく力強いものでした。あまりに凝りすぎ,採算を度外
視ししていたために,初代A-10は作れば作るほど赤字となり,200台あまりで生産がうち切られたという,
幻のアンプでもありました。記憶に残る名機であることは間違いないと思います。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
これまでのアンプは,持てる力量のすべてを,スピーカーに
注ぎ込んでいただろうか。充電電流のギャップ時を補充する
NEC独創”リザーブ電源”搭載。
◎実効出力60W+60W(8Ω),120W+ 120W(4Ω)をデジタル・ソースへの対応,アナログ再生への更なる改善。
余裕をもってクリアします。
◎ステージ独立の強力な5電源部に加え,
新開発”リザーブ電源”を搭載しました。
◎新しい音楽ソース,デジタルサウンドの魅力を
十分に引き出します。
◎2ポジションで使い分けできる,”ハイゲインMCヘッドアンプ”搭 載。
◎マルチアンプ・システムとして使える,
”オペレーション・スイッチ”。
●主な仕様●
(パワーアンプ部)
回路方式 | 全段ダイレクトDCサーボ回路 |
実効出力
(両ch駆動正弦波出力,20Hz〜20kHz) |
60W+60W(8Ω)
120W+120W(4Ω) |
全高調波歪率 | 0.003%以下(実効出力時) |
混変調歪率 | 0.003%以下(実効出力時) |
周波数特性 | 5Hz〜300kHz |
入力感度/インピーダンス | 1.23V/20kΩ |
(プリアンプ部)
回路方式 | 全段ダイレクトDCサーボ回路 |
入力端子(レベル/インピーダンス) | PHONO(MM) 2.5mV/47kΩ
PHONO(MC-Low) 80μV/10Ω PHONO(MC-Hihg) 250μV/100Ω TUNER 150mV/20kΩ TAPE(1,2) 150mV/20kΩ CD 150mV/20kΩ AUX 150mV/20kΩ |
出力端子(レベル/インピーダンス) | REC出力 150mV /100Ω
プリアンプ出力 1.23V/600Ω |
SN比 | PHONO(MM) 90dB(−142dBV)
PHONO(MC-Low) 72dB/80μV(−154dBV) PHONO(MC-Hihg) 82dB/250μV(−154dBV) TUNER 110dB(−126dBV) TAPE(1,2) 110dB(−126dBV) CD 110dB(−126dBV) AUX 110dB(−126dBV) |
RIAA偏差 | ±0.2dB以内(10Hz〜100kHz) |
PHONO最大許容入力 | 300mV(MM) |
アッテネーター | 0,−10,−20,−30dB |
サアブソニックフィルター | 15Hz(−3dB,6dB/Oct) |
入出力位相 | 同相 |
(電源部その他)
回路方式 | ステージ独立シャントレギュレータ方式+リザーブ電源 |
消費電力 | 230W |
外形寸法 | 430W×150H×430Dmm |
重量 | 20kg |
※本ページに掲載したA-10の写真,仕様表等は1983年5月のNECのカタ
ログより抜粋したもので,新日本電気株式会社に著作権があります。したがって
これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますので
ご注意ください。※本ページを作成するにあたり,卓様より資料のご協力をいただきました。
ありがとうございました。
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