A-10Xの写真
NEC A-10X
INTEGRATED AMPLIFIER ¥175,000

1983年発売のNECの意欲作A-10シリーズは,A-10,A-10U,A−10V,A-10Wとマイナーチェンジを重
ねながら音が練り上げられていきました。価格を超えた実力を持った強力アンプとしてその価値の分かる人の間
では高い人気を得ていましたが,音やデザイン面での飾り気のなさ,NECというオーディオにおけるブランド力の
弱さから広く人気を得るまでには至っていませんでした。1989年,そのA-10シリーズが大きくモデルチェンジを
受け,CD時代の本格化にあわせ,より中身を強化して登場したのがこのA-10Xでした。また,NECブランドとし
てのA-10シリーズとしては最後のモデルとなり,これ以降,NECの社内ベンチャーAUTHENTIC(オーセンティ
ック)ブランドへと受け継がれていくことになりました。

A-10Xでは,A-10シリーズの設計思想を受け継ぎ,「ストレートワイヤ・ウィズ・ゲイン」の思想のもとの信号経路
のシンプル化,L・Rセパレーション向上のための左右独立構造,電源の強化によるスピーカードライブ力の強化,
高剛性・耐振構造など,よりその設計思想を追求した中身を持っていました。

電源部は,A-10伝統の「リザーブ電源」を搭載していました。通常の電源部(コンベンショナル電源)の他にもう1
系統の電源部(リザーブ電源)を持ち,交流を整流して直流化した際にできる電流波形の谷間を埋める働きをさせ
ることで,電流供給能力を飛躍的に高め,理想的なバッテリー電源に近づけようとするものでした。平滑コンデンサ
ーとして,コンベンショナル電源用に15,000μF×4,リザーブ電源用に同じく15,000μF×4の合計8個の
ローインピーダンス・ハイスピードのカスタムコンデンサーを搭載し,総容量120,000μFというプリメインアンプの
枠を越えるような大容量の電源部となっていました。電源トランスも,大容量重量級のものを左右独立で2基搭載し
銅メッキケースに封入することで,非磁性体化と振動の抑制を図っていました。整流ダイオードも大容量のファース
ト・リカバリータイプを採用し,トランスケース内に封入して整流ノイズを抑えていました。さらに,超極太OFC電源コ
ードは,トランスから底板外へダイレクトに引き出されシャーシ内を通らず,ACアウトレットも搭載しないというこだわ
りのシンプル化と電源コードによる悪影響の排除がなされていました。このような強化された「リザーブ電源」により
リップル(谷間)のきわめて少ない電流の整流波形と大出力後の優れたリカバリー能力を持ち,きわめて強力なス
ピーカー駆動能力を備えていました。

A-10Xの内部

A-10Xでは,伝統のL・R独立構造をより追求し,電気的にも機械的にも左右対称に近い,ほぼ完全なツイン・モ
ノラル・コンストラクションとしていました。トランス,フィルターコンデンサーをはじめ,電圧増幅段の基板まで完全に
独立させた左右対称構成となっていました。

信号経路のシンプル化も徹底され,よりンプル&ストレートに徹した設計になっていました。入力セレクターとして,
金メッキツイン・クロスバー接点リレーをリアパネルの入力端子近くに設置し,ボリュームも高精度2連ボリュームを
同じ位置でシャフト駆動とするなど,各パーツの相互干渉やセット内のライン引き回しによる悪影響を排除していま
した。さらに,バイアスショート型保護回路を新開発して搭載し,信号経路からスピーカー出力に直列に入るプロテ
クションリレーの接点をも排除したダイレクト・スピーカー出力を実現していました。
シンプル化とCD時代に特化した設計により,入力はライン5系統のみに整理され,うちライン2系統はREC OUT
も備えたTAPE端子を兼ねた形になっており,REC OUTもON・OFFのみを備えたシンプルな設計になっていまし
た。また,バランス入力により320W(6Ω)のモノラルパワーアンプとしても使用できるように,バランス入力端子
も1系統備えられていました。

高剛性・耐振構造設計においてもA-10シリーズらしい設計が見られました。アンプ内で最も大きな振動源である
トランスを,直接重量級脚で支持して,振動と重量を筐体外へ落とし込み,トランスとつながるシャーシは,特殊防
振材を介することで振動の影響を受けないようになっており,電源部は,トランスとコンデンサー部の2ピース構造
となっていました。コンデンサー部自体もアルミ製のタイイングバンドで巻かれ,振動を抑え込んでいました。さらに
シャーシを支える底板には3.2mm厚の銅メッキ鋼板を採用して,振動と磁気歪みを抑えていました。筐体全体を
支える脚部は焼結合金製で,直径63.5mm,重量600gと,さらに大型重量級になっていました。この大型重量
級脚が,前2個,後1個の3点設置による重量バランスがとられ,31kgの重量級の筐体をしっかり接地する構造
になっていました。

A-10X下部A-10Xのパーツ

パーツにおいても,上記の焼結合金製の脚部,3.2mm厚の銅メッキ鋼板による底板をはじめ,削りだし高剛性金メッ
キRCAピンジャック,カスタムメイドのテフロンを採用した入力ブロックの絶縁体,焼結合金をアルミでカバーしたツマミ
類,アルミ製4.5mm厚のフロントパネルなど,高剛性かつ高品質な贅沢な作りになっていました。シルバーパネルに
なったデザインは評価が分かれるところでしたが,その中身は相変わらず贅沢で強力なものでした。

以上のように,クラスやプリメインアンプの枠を越えた設計が行われていたA-10Xは,A-10シリーズ伝統の強力なス
ピーカードライブ能力を誇りました。最終増幅段はトリプルプッシュプル構成で,強力な電源部のバックアップにより,8Ω
で80W+80W,4Ωで160W+160W,2Ωで320W+320Wのダイナミックパワーをクリアし,連続定格出力でも
3Ωまでを保証していました。A10シリーズ伝統の,その飾り気のないストレートで力強い音は今でも根強いファンを獲
得しているようです。
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。




Straight Wire with Gain−A-10X。
アンプの理想像へと歩み寄る,
限りなく正統の造形がここにある。
◎理想的にレイアウトされた
 ツイン・モノラル・コンストラクション。
◎シンプル&ストレート
 A-10のアイデンティティ。
◎ダイレクト・スピーカー出力により
 究極のストレートアンプを実現。
◎巨大なバッテリーのごとく。
 さらに巨大化された,伝統のリザーブ電源。
◎独創のダイレクト・メカニカル
 グラウンド・コンストラクション
◎世界の名だたるスピーカーを
 悠然とドライブ。
◎BTL駆動で320Wのモノラルアンプへ。
 バランス入力も装備。
◎ゲイン切換え付きのライン入力を
 5系統装備。
◎REC OUT ON/OFFスイッチ。
◎正統の造形を象徴する
 ハイブリッド・メタルカラー。
●A-10Xの主な仕様●


回路方式 全段ダイレクトDCサーボ回路
定格出力
(両ch駆動正弦波出力・20Hz〜20kHz)
60W+60W(8Ω)
80W+80W(6Ω)
120W+120W(4Ω)
160W+160W(3Ω)
全高調波歪率 0.01%以下(3Ω定格出力時・20Hz〜20kHz)
混変調歪率 0.01%以下(3Ω定格出力時・20Hz〜20kHz)
周波数特性 5Hz〜300kHz(+0,−3dB)
入力端子
(入力感度/インピーダンス)
LINE1・2・3=1.0V/18kΩ(300mV/18kΩ切換付)
LINE4・5=300mV/20kΩ
Balance=0.5V/18kΩ
SN比 LINE1・2・3=110dB(1.0V入力時)
LINE4・5=100dB(300mV入力時)
Balance=110dB(0.5V入力時)
電源部回路方式 リザーブ電源
消費電力 290W
外形寸法 430W×177H×480Dmm
重量 31kg
※本ページに掲載したA-10Xの写真,仕様表等は,1989年11月の
NECのカタログより抜粋したもので,日本電気ホームエレクトロニクス株
式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・
引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。                                         
 

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