KYOCERA A-710
INTEGRATED STEREO AMPLIFIER ¥189,000

1985年に京セラが発売したプリメインアンプ。910シリーズでそのグレードの高い良質なコンポーネントを
送り出してオーディオ界に乗り出していた京セラが持ち前のセラミック技術も生かしながら,910シリーズで
のノウハウもつぎ込んで作り上げたプリメインアンプで,910シリーズの流れを受け継ぐ京セラらしい個性的
なデザインの中に充実した中身を持った高性能アンプでした。

A-710は,色づけのない音をめざして,信号経路の徹底したシンプル化が図られていたことが大きな特徴
でした。通常の入力端子でもフラットアンプが省かれたシンプルな回路構成がとられており,音質劣化要因
を極力減らすようになっていました。さらに,DIRECT端子が設けられ,ここにつながれたCDなどのハイレベ
ル入力に対しては,LC-OFCのシールド線を通っていきなりボリュームにインプットされ,パワーアンプに送り
込まれるという信号経路になっており,ボリューム以前の回路基板や接点類を一切通過しない”純粋”なダイ
レクト入力システムになっていました。
さらに,A-710では,スピーカー切り換えスイッチやそれにまつわる線材の引き回しを排したDIRECT OUT
端子が設けられ,DIRECT INとDIRECT OUTを活用することによりシンプルきわまりない信号経路になる
ようになっていました。京セラはこれをDirect In & Out Systemの略で「DIOS(ダイオス)」と称していまし
た。
また,A-710のスピーカー出力は,DIRECT OUTではないノーマル出力端子でも,音質劣化の原因となる
保護リレーや出力ミューティングリレーを搭載せず,回路テクニックで異常動作時の出力をカットする独自のプ
ロテクション回路が搭載されていました。これは,オーバーロード時にはリミッターが作動し,DCリークに対し
てはパワーアンプ部の電源をカット,さらにヒューズと合わせ3重のプロテクションとなっているものでした。
さらに,電源ONの時には,タイミングをずらした4ポイントのスイッチが次々にONされて指定の音量までフェー
ドインし,さらに,入力側では,PHONO LINEなどの通常の入力端子に対しては,電源投入時7秒間入力ミ
ューティングリレーが働き,異常動作や音量を防止するようになっていました。DIRECT IN入力では,入力
ミューティングリレーを通らないため,オートフェードイン・フェードアウト回路が自動的に働き,アンプとスピーカ
ーを保護するようになっていました。

A-710の内部

A-710の2つ目の大きな特徴は,910シリーズの大きな特徴であった,CCR(Ceramic Compound Resin)
というセラミックと樹脂を複合した新素材によるベースシャーシの採用でした。京セラのセラミック技術を生かした
このベースは,優れた振動減衰特性と高い強度を持ち,このベースに回路基板を直づけしてアンプ本体から発生
する有害な振動や外部からの振動を遮断する徹底した無共振設計になっていました。このベースシャーシは,取
り付け部品に合わせて作られた専用の型を使った一体成形で,使い回しのきかない専用品として作られており,
相当コストがかかっているように思われます。また,ベースシャーシには,高さ調整のできる脚がついていて,接
地面にリジッドに固定できるようになっていました。

全体の回路レイアウト等は,信号の流れ,振動,熱の影響も考慮された,L・R対称の設計となっていて,メイン
アンプ部は,完全なツインモノ構成となっていました。
MCカートリッジに対しては,本格的なMCトランスが搭載され,MC入力もHigh/Low2ポジションのロード切り
替えを備え,CD時代に登場したアンプながらアナログ入力にも配慮がなされていました。
トーンコントロールはTREBLE/BASS各±10dBの完全ジャンプ型の0dB正相トーンコントロールアンプが搭
載され,音質への影響を最小限に抑え,未使用時には全く影響を与えないようになっていました。

高級プリメインアンプらしく,使用するパーツは吟味されて使用されていました。イコライザーアンプにはローノイズ
FET,プリドライブ段にはMOS FET,各ラインには,高級銅箔スチロールコンデンサーとセラミックを使用したケ
ミカルコンデンサー,ディップドマイカコンデンサーなどが投入されていました。また,内部配線にはタフピッチ銅,
OFC,LC-OFCといったハイクオリティなワイヤ類が使用され,聴感テストにより使い分けられていました。入力
コネクターは全て削り出しタイプで金メッキが施されていました。電源コードも大容量のものが搭載されていました。
 

電源部も強力な構成となっていました。100W+100Wの出力に対して充分以上の余裕を持った大型のトロイ
ダル電源トランス,および22,000μFコンデンサーを搭載し,瞬間的な動作なら1Ω負荷でもスピーカーを駆動
できるほどの電源の余裕度がもたされていました。また,イコライザーアンプには専用の電源回路が搭載され,
パワーアンプ部からの干渉を排除していました。

以上のように,A-710は,当時オーディオでは新進メーカーとして頑張りを見せていた京セラらしい,ユニークか
つ贅沢な内容を持った野心的な作品でした。そのデザインから受けるイメージ通りの繊細でクリーンかつ力強さ
を持った音はすばらしいものでした。京セラのオーディオにおけるブランド力等もありメジャーになれなかった悲運
の名機だったと思います。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
 


DIRECT IMPACT
フレッシュ・デジタル
 無添加の音楽
◎デジタルサウンドのダイナミズムを
 ストレートに引き出す(DIOS)。
◎重大な音質劣化をまねく有害振動を
 シャットアウトするCCRベースシャーシ。
◎100W+100Wの出力を余裕をもって
 サポートする強力電源部。
◎物理特性と聴感の両面からセレクトした
 ハイクオリティ・パーツ。
◎音を大切にするポリシーを
 保護回路にまで徹底。
●主な規格●


実効出力 (20Hz〜20kHz・両ch駆動)
 100W+100W(8Ω,THD0.03%)
 120W+120W(6Ω,THD0.04%)
 140W+140W(4Ω,THD0.06%)
(1kHz・両ch駆動)
 160W+160W(4Ω,THD0.07%)
全高調波歪率 0.005%(1kHz・8Ω)
混変調歪率 0.03%(50Hz:7kHz=4:1,8Ω)
周波数特性 10Hz〜100kHz(+0,−1dB)
入力感度/入力インピーダンス (DIRECT IN)200mV/24kΩ
(PHONO MM)2.5mV/47kΩ
(PHONO MC-H)0.22mV/40Ω
(PHONO MC-L)0.15mV/10Ω
(LINE)200mV/24kΩ 
ダンピングファクター 180(8Ω,50Hz)
RIAA偏差 20Hz〜20kHz±0.25dB
PHONO最大許容入力 (MM)150mV
(MC-H)13mV
(MC-L)11mV
SN比
(IHF-Aショートサーキット)
(PHONO MM)83dB
(PHONO MC-H)74dB
(PHONO MC-L)74dB
(LINE)105dB
トーンコントロール (BASS)100Hz±10dB(600Hz)
      20Hz±10dB(150Hz)
(TREBLE)10kHz±10dB(1.5kHz)
             20kHz±10dB(6kHz)
サブソニックフィルター 15Hz(6dB/oct)
ミューティング −20dB
電源 AC100V 50Hz/60Hz
消費電力 270W(電気用品取締法)
外形寸法 430W×155H×423Dmm(リアパネル突起物を含む)
重量 18.5kg
※本ページに掲載したA-710の写真,仕様表等は,1985年7月の
京セラのカタログより抜粋したもので,京セラ株式会社に著作権が
あります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等すること
は法律で禁じられていますのでご注意ください。                                         
 

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