A-900の写真
PIONEER A-900
STEREO AMPLIFIER ¥135,000

1979年にパイオニアが発売したプリメインアンプ。アメリカのスレッショルド社の「ダイナミックバイアス・クラスA」
に端を発する可変バイアス方式による疑似A級動作のノンスイッチングアンプのパイオニア第1号機として発売さ
れたのがこのA-900でした。同社のノンスイッチングアンプのシリーズの中でも最上級機にあたるだけにしっかり
と物量が投入され,朗々とした音を持った実力派のアンプでした。

A-900の最大の特徴は,上記の「ノンスイッチングアンプ」方式の採用にありました。パイオニアの疑似A級動作
アンプである「ノンスイッチングアンプ」は,ハイスピード・バイアスサーボ回路により入力信号の強弱に応じて,終
段トランジスターのバイアス電流をコントロールし,トランジスターを常に動作領域で動作させるもので,プッシュプ
ル動作のアンプにつきもののトランジスターのスイッチング動作をしないというものでした。プッシュプル回路の+
側,−側の両トランジスターが常にONの状態にあり,A級動作と同じく原理的にスイッチング動作が行われず,
また,入力信号に応じてバイアス電流が変化するため,十A級動作のアンプに比べて電力効率が良く,比較的
容易に大出力が得られるという特徴がありました。このような動作を行うアンプ回路を純A級方式と比して疑似A
級アンプとか可変バイアス方式,ノンスイッチングアンプなどと称し,各社がそれぞれ工夫を凝らしながら採用し,
大流行となりました。

A-900のパワー部基板A-900のノンスイッチングサーボモジュール

A-900に搭載されたノンスイッチングアンプでは,トランジスターの入出力特性の非直線性によって発生する
クロスオーバー歪も大きく低減していました。パワートランジスターに特性の揃ったペアトランジスターを使用し
さらに動作点をクロスオーバー歪が最小でしかも入出力のリニアリティが最も良くなる点に設定していました。
これらの結果,従来からのアイドル電流に可変バイアス電流が付加されても,入力波形によって最適にコント
ロールされているため,出力電流と同様のなめらかなサイン波形になり,+側と−側の波形が組み合わされ
てもサイン波どうしの合成となり,スムーズな合成波形となるためにクロスオーバー歪みも低減されるという
ものでした。
回路全体としては,MCヘッドアンプ,イコライザーアンプ,パワーアンプの全増幅段にカットオフ周波数0.2
〜1HzのDCサーボ回路が設けられ,信号系にある全てのカップリングコンデンサーを排除した完全なDCア
ンプとなっていました。

MCヘッドアンプは,入力にスーパーローノイズFETをパラレルプッシュプルで使用し,73dB(100μV)の高
SN比を実現していました。このため,特に微弱な電流を扱うMCヘッドアンプには,新開発のDCサーボ回路
が搭載されていました。このDCサーボ回路は,MCヘッドアンプの出力を検出して動作点のズレをキャッチし
て,サーボ回路そのものが雑音源とならないように2段目のバイアス電源部にフィードバックするシステムに
なっていました。カートリッジロード切換は,10,33,100,220,550Ωの5ポイント切換となっていました。

イコライザーアンプは,初段FETとパイオニア独自のカレントミラー差動増幅を採用していました。この結果安
定した差動増幅の動作が得られ,偶数次歪みを効果的に打ち消し,90dB(2.5mV)の高SN比を実現して
いました。トーンアンプ回路,パワーアンプ回路にもこの新しいカレントミラー回路が採用され低歪みを実現し
ていました。カートリッジロード切換は10k,25k,50k,100kΩの4段階の負荷抵抗と,100,200,300
400pFの4段階の負荷容量をそれぞれ独立して設定できるようになっていました。

新しい機能として,「ラインストレートスイッチ」が搭載されていました。これは,従来のトーンコントロールのON
OFFスイッチと異なり,トーン回路をパスするだけでなく,バランスボリューム,MODEスイッチもパスするもの
で,PHONO入力の場合には,イコライザーアンプとパワーアンプが直結され,TUNER,AUX,TAPEの場合
には,入力がストレートにパワーアンプに直結されることになり,信号経路の大幅なシンプル化が図られるもの
でした。このような方式はこれ以降,多くのプリメインアンプに採用されることとなり,CD時代になって広がって
いきました。また,A-900のトーンコントロールは,BASS,TREBLEの0のポイントでトーンディフィート状態
になるようになっていました。

A-900の内部

電源部は,小信号回路基板(MCヘッドアンプ,イコライザーアンプ)にLch・Rchそれぞれが独立した定電圧
電源を組み込み,大信号回路基板(パワーアンプ)にも専用の定電圧電源を組み込んだ,ダイレクトパワーサ
プライ方式を採用して,低インピーダンス化を実現していました。電源トランスは3個のトランスを搭載し,合計
6つの2次巻線を各回路用に使い分けて相互干渉を抑える設計になっていました。また,DCサーボ用の電
源は,MCヘッドアンプ,イコライザアンプ基板ではそれぞれ独立した定電圧電源を使用し,この基板に供給
される電源はすでに別の定電圧電源を通っているというダブルロック電源となっていて,電圧変動を極小に
抑えていました。パワーアンプ基板でもDCサーボ用の電源は別となっており,合計6ペア12個の定電圧電
源を持つという強力かつ安定した電源部となっていました。また,パワー部の整流ダイオードには応答の速い
ファーストリカバリーダイオードを使用していました。

同社のノンスイッチングアンプの最上級機としてパーツも厳選されていました。磁界による音の乱れを防ぐた
めに,音質に影響する箇所の抵抗,コンデンサーのリード線から一切磁性体を排除し,銅リード抵抗や黄銅
端子電解コンデンサーを採用していました。パワーステージ終段には高域特性に優れた集団トランジスター
(EBT)を搭載し,高調波歪率0.005%の低歪みで110W+110W(8Ω)の大出力を実現していました。

銅リードの抵抗A-900のEBT

信号経路の切換には,リレーを使い配線の最短距離化を図っていました。入出力端子も基板と一体となって
おり,信頼性と安定性を高めていました。リレーを使った純電子式の切換のため,主要機能は軽く操作できる
ICロジック回路を使ったフェザータッチ式になっていました。また,リレーを使った純電子切換方式により,各
回路基板のレイアウトや,基板と入出力端子の関係などアンプ全体のコンストラクションも,回路や部品の相
互干渉が最も少ない形になっていました。さらに,スピーカー端子を基板に直結してパワーアンプのNFBをス
ピーカー端子の近くからかけることで,安定した動作を実現していました。

A-900のリレーと入出力端子A-900のスピーカー端子

以上のように,A-900は,パイオニア初のノンスイッチングアンプとして,また,プリメインアンプの最上級機と
して,しっかりとした中身を持った実力派のアンプでした。パイオニアらしい中庸でバランスのとれた,歪み感の
少ない音を持った1台でした。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
 


スイッチング歪,ゼロ宣言。
◎スイッチング歪ゼロ。A級のクオリティと高い
 効率を両立させたノンスイッチングアンプ。
◎信号経路をシンプル化し,より純度の高い
 音質を求めたラインストレートスイッチ。
◎MC,EQ,POWERの全増幅段にDCサー
 ボ回路を設け,ノンカップリングコンデンサーを
 実現。しかも,MCは新サーボ回路(PAT.P.)
 により,高SN比73dB。
◎各回路基板に電源部を直結し,動特性を高めた
 6ペア12電源のダイレクトパワーサプライ。
◎MCカートリッジ専用のカートリッジロード切換を
 備えたMCヘッドアンプを内蔵。SN比73dB。
◎イコライザーアンプもDCサーボのカップリング
 コンデンサーレス。C・R独立カートリッジロード
 切換を装備。
◎音質に関係あるパーツは徹底して非磁性化。
 磁界による音のみだれを追放しています。
◎音の純度のためにリレーを使って信号経路の
 最短距離化を追求。主機能操作部はフィーリン
 グの良いフェザータッチ。
●A-900の仕様●


実効出力 110W+110W(10Hz〜20kHz,両ch駆動,歪率0.005%,8Ω)
高調波歪率
(10Hz〜20kHz)
0.005%(実効出力時)
0.005%(55W出力時,8Ω)
混変調歪率
(50Hz:7kHz=4:1)
0.005%(実効出力時)
0.003%(55W出力時,8Ω)
出力帯域幅 5Hz〜100kHz(IHF,両ch駆動,歪率0.02%)
出力端子 TAPE REC:150mV
PRE LEVEL OUT:2V
SPEAKER:A,B,A+B
ダンピングファクター 60(10Hz〜20kHz,8Ω)
入力端子
(感度/入力インピーダンス)
PHONO(MM):2.5mV,負荷容量100,200,300,400pF
PHONO(MC):0.1mV/10,33,100,220,550Ω
                 負荷抵抗10,25,50,100kΩ
TUNER,AUX1・2,TAPE PLAY1・2:150mV/50kΩ
PHONO最大許容入力
(高調波歪率,1kHz)
PHONO1・2 MM:300mV
PHONO1   MC:12mV
周波数特性 PHONO:20Hz〜20kHz±0.2dB
TUNER・AUX・TAPE PLAY:5Hz〜200kHz +0,−3dB
SN比
(IHF,Aネットワーク,ショートサーキット)
PHONO(MM):90dB
PHONO(MC):73dB
TUNER・AUX・TAPE PLAY:110dB
トーンコントロール BASS:±10dB(100Hz)
TREBLE:±10dB(10kHz)
フィルター LOW:15Hz(12dB/oct)
アッテネーター −20dB
使用半導体 IC16,FET21,トランジスター110,ダイオード他158
電源電圧 AC100V,50/60Hz
消費電力 350W(電気用品取締法)
外形寸法・重量 460W×150H×455Dmm・22.5kg
※本ページに掲載したA-900の写真,仕様表等は,1979年
 11月のPIONEERのカタログより抜粋したもので,パイオニア
 株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を
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