![]()
Victor AX-900
INTEGRATED AMPLIFIER ¥380,0001993年にビクターが発売したプリメインアンプ。ビクター伝統のスーパーA技術を受け継ぎつ つ,1991年に同社
が発売した超弩級パワーアンプME-1000で開発された技術も投入された,セパレートアンプ並の内容 を持つ高
級プリメインアンプでした。AX-900の最大の特徴は,徹底的に信号の流れとレベルに応じた相互干渉のない理想的なコンストラクションを
実現していたことでした。まず入力端子に最も近いリアパネル際に電圧増幅段のプリアンプ部を置き,そのすぐわ
きに電流増幅段のパワーアンプ部が配されていました。さらに,その先に電源部,フロントパネルに最も近い位置
にコントロール部が置かれるという構成になっていました。
こうした構成により,シャーシ内の信号伝送系の長さが従来の同社のプリメインアンプに比べて1/3になっていま
した。さらに,パワーアンプの電圧利得が0dBのため,信号伝達レベルは25dBほど高くなっており,妨害を受けにく
い設計となっていました。
また,フロントパネルのツマミやスイッチ類が,リモートコントロールによって,背面に近いプリアンプ部内に設けられ
たボリュームやファンクションを動かす構造を採用し,無干渉設計が徹底されていました。
AX-900のもう一つの大きな特徴は頑丈なシャーシにありました。AX-900では,重いトランスやコンデンサーを持
つ電源部をより重いシャーシベースが支えるという考えで設計され,超弩級パワーアンプと同一素材,同一構造の
重さ12kgの鋳鉄製シャーシベースが採用されていました。シャーシが音質に与える悪影響を排除するため,鋳鉄
の中でも特に音質にすぐれたハイカーボン鋳鉄を採用し,理想に近い振動減衰特性を実現していました。また,電源
トランスやヒートシンクなどの振動源となる部品は通しボルトによってシャーシにガッチリ固定され,振動を抑えるよう
になっていました。さらに,重量級シャーシからそのまま伸びたフットは,安定度の高い3点式を採用し,接地面から
の影響も抑えるようになっていました。AX-900には,ビクター自慢の「ニューGmボリューム」が搭載されていました。これは,ビクターがセパレートアンプ
P-L10以来改良を続けてきた 「Gmサーキット」を生かしたものでした。「Gmサーキット」は,トランジスター本来の特
性である電流増幅機能をそのまま使うために開発された電流増幅回路で,信号電圧を電流に変換して増幅し,再度
電圧化して送り出すもので,電流から電圧への変換効率を決める抵抗値によりゲインが決まるため,アンプ自体がボ
リュームの働きをするものでした。一般のアンプでは,電圧増幅によるゲインをプリアンプとメインアンプの双方に配分
し,それぞれ別々に設けた可変抵抗で減衰することでボリュームコントロールしていますが,AX-900の「ニューGm
ボリューム」では,プリアンプ自体がボリュームの働きをするため,ボリュームを絞るほど残留ノイズが低下し,実使用
時のSN比がすぐれていました。「ニューGmボリューム」では従来の「Gmボリューム」をさらに改良してSN比が改善
され,小音量時の実効SN比は高級プリアンプと同等以上のものとなっていました。AX-900では,この「Gmサーキット」により必要なだけの電圧増幅をプリアンプ部ですべて行い,パワーアンプ部の電
圧増幅度は0dBに設定していました。このゲイン配分により,パワーアンプ部では電圧増幅を全く行うことなく,電流増
幅に徹する設計にとなっていました。しかも,「Gmフィードバックドライバー」と称して,入力信号と出力信号の差によっ
て生じる電流をプリドライバー段にフィードバックすることによって極めて安定したパワーアンプ部を構成し,すぐれたス
ピーカードライブ能力を実現していました。しかも電流のフィードバック量を決定するインピーダンス回路に低域のフィード
バック量とゲイン特性を独立して制御し,ダンピングファクタを変えて低域の豊かさを加えるプレゼンススイッチを搭載し,
小型スピーカーでの低域再生能力を向上させていました。
パワー段は,オーソドックスなバイポーラトランジスタの3パラレルプッシュプル構成で,A-X9以 来のスイッチング歪み
を抑えた「スーパーA」を受け継ぎ,電源電流の2次歪みの影響を大きく低減さ せた「アドバンスト・スーパーA」方式を
採用していました。定格出力を75W+75W(8Ω)と低めに抑えながらも,200W+200W(3Ω)に達する強力なス
ピーカー駆動能力を持ち,ローレベルのクオリティも高めた,出力段全体にゆとりを持たせた設計になっていました。
電源部は,重量8.5kgの大型のEI型電源トランスを中央に置き,大型のコンデンサーを搭載した強力なもので,その
強力さは,低インピーダンス時のリニアに伸びる出力特性にも表れていました。AX-900には,デジタル時代となっていたこの時期のアンプとしては珍しく,MCカートリッジにも対応した本格的なフォ
ノアンプが搭載されていました。多様なカートリッジに対応するために,60dB(1kHz)のゲインをもつハイゲインイコライ
ザーを搭載し,電源電圧を従来の約3倍にアップして高出力を実現していました。このため,0.2mV感度のMCカート
リッジから5mV感度のMMカートリッジまでダイレクトに接続できるイコライザーとなっていました。MM/MCイコライザー
を切り換えない仕様にしたことにより,帰還量が一定となるために音質が安定するというメリットもあるということでした。
さらに信号経路の最短化をめざして,1枚の基板上にアンプ回路とともに入力端子,アッテネーターまでも集結させた
構造となっていました。そのため,ゲインコントロールはリアパネルに設けられるという徹底ぶりでした。また,フォノ入
力以外をセレクトしているときは,フォノ回路の電源がカットされるようになっておりライン系の音質への影響を抑えてい
ました。
以上のように,AX-900は,これまでのビクターのプリメインアンプで育て上げられてきた「スーパーA方式」をはじめ
セパレートアンプで開発された防振技術,そしてプリメインアンプならではの理想的なコンストラクションなど一つの
集大成ともいえる高級アンプでした。ビクターらしい自然に音楽を楽しく聴かせる音ながら特性の良さをも実感させる
意欲作でした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
インテグレーテッドアンプは,
どこまでセパレートアンプに迫れるか。
昇華する。
テクノロジーがエネルギーに変わるとき,
音楽の感動が香り立つ。
震撼する。
◎無干渉エネルギー増幅の理念を
具現化する,インディペンデント
3ブロックコンストラクション。
◎超重量,高剛性で
振動歪をことごとく追放する,
鋳鉄製シャーシベース。
◎小音量時の実効S/Nを
大幅に改善する,
ニューGmボリューム。
◎優れたスピーカードライブ能力を実現する,
Gmフィードバック・ドライバー。
◎高効率Aクラスの新次元,
アドバンスドスーパーA。
◎アナログレコードを愛する
リスナーのために,
高音質イコライザーアンプ。
回路方式 | イコライザーアンプ部:ICL初段EL・FET,MM/MCハイアウトプットイコライザーアンプ
プリアンプ部(電圧増幅段):ニューGmボリュームサーキット(−∞〜+41dB) パワーアンプ部:(電流増幅段):Gmフィードバック・ドライバー,アドバンスドスーパーA(P.P.方式) |
定格出力 | 75W+75W(8Ω,20Hz〜20kHz,0.02%)
200W+200W(3Ω,1kHz,0.1%) |
全高調波歪率 | 0.02%(定格出力時,20Hz〜20kHz,8Ω) |
混変調歪率 | 0.02% |
周波数特性 | 0.5Hz〜150kHz(+0,−3dB) |
負荷インピーダンス | 3〜16Ω |
ダンピングファクター | 150(1kHz,8Ω) |
入力感度/インピーダンス(1kHz) | PHONO MM:1.0〜2.0mV(連続可変)/47kΩ
PHONO MC:0.2〜1.0mV(連続可変)/100Ω CD,LINE1・2,TAPE1・2:200mV/47kΩ CD-BALANCED:200mV/47kΩ |
S/N(EIAJ/IHFショートサーキット) | PHONO MM:82dB/86dB
PHONO MC:76dB/70dB CD,LINE1・2,TAPE1・2:103dB/100dB CD-BALANCED:103dB/100dB |
PHONO最大許容入力(MM/MC共) | 35mV(1kHz,歪率0.007%) |
PHONO RIAA偏差(MM/MC共) | ±0.2dB(20Hz〜20kHz) |
電源 | AC100V(50Hz/60Hz) |
消費電力 | 295W(電気用品取締法基準),0.9W(STANDBY時) |
寸法/重量 | 435W×172H×492Dmm/33kg |
※本ページに掲載したAX-900の写真,仕様表等は,1993年
12月のVictorのカタログより抜粋したもので,日本ビクター株
式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断
で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意く
ださい。
★メニューにもどる
★プリメインアンプPART4のページにもどる
現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象の
ある方そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。