B−910の写真
KYOCERA B−910
POWER AMPLIFIER ¥300,000
京セラが1984年に発売したパワーアンプ。京セラがサイバネット工業を吸収し,突如オーディオ界に参入したことに
大変驚いた記憶があります。持ち前のセラミック技術を生かしたマニア向けの高級機ばかりを発売し,世のオーディ
オファンをあっと言わせました。このパワーアンプB−910もその1台で,30万円ではとても採算がとれないのでは
ないかという凝った設計のパワーアンプでした。                                       

B−910は,純A級35W/chのパワーアンプでした。純A級増幅方式は,トランジスターの非直線性を抑えるため
に流しておくアイドリング電流を常に流しておく方式で,電力消費に対して出力は大きくとれませんが,トランジスタ
の動作が電気的にも熱的にも安定して極めて良質の増幅ができるといわれています。クロスオーバーや歪スイッチ
ング歪みは原理上起こらないので,発熱の問題や出力の問題を除けば,最も理想的な増幅方式だといわれます。
B−910は,コアボリューム600VAもの大容量カットレストランスを搭載し,AB級に換算すると250W/chに匹敵
する強力な電源部に支えられ,8Ω時に35W/ch,6Ω時45W/ch,4Ω時60W/chの出力を純A級で実現して
いました。純A級増幅による発熱の方もすさまじいため,ハニカム状の強大なヒートシンクを備え,それがデザイン上
の大きな特徴にもなっていました。このハニカム状のヒートシンクは,抜群の耐振動特性を誇り,不要振動を徹底排
除するB−910の設計思想の一端を表していました。                                    

B−910の外観上でも分かる大きな特徴の一つがCCR(Ceramic Compound Resin)というセラミックと樹脂を
複合した新素材によるベースシャーシでした。京セラのセラミック技術を生かしたこのベースは,優れた振動減衰特
性と高い強度を持ち,このベースに回路基板を直づけしてアンプ本体から発生する有害な振動や外部からの振動を
遮断する徹底した無共振設計になっていました。電源平滑用電解コンデンサも33000μFのものを2本搭載してい
ましたが,CCRベースシャーシに一体化構造となるように,埋め込み構造で取り付けられ振動の影響を抑えていま
した。このベースシャーシは,取り付け部品に合わせて作られた専用の型を使った一体成形で,使い回しのきかな
い専用品として作られており,相当コストがかかっているように思われます。また,ベースシャーシには,高さ調整
のできる脚がついていて,接地面にリジッドに固定できるようになっていました。                    

CCRベースシャーシ

ドライバー段にはSSP(シングル・ステージ・差動プッシュプル)回路を採用していました。これは,多量のNFBをか
けるために必要とされたアンプのゲインのため従来2段階以上の増幅をしていたものを1段にシンプル化したもので
裸特性を向上させ,少な目のNFBで素顔の美しさを出そうとした設計でした。このSSP回路を京セラならではのファ
インセラミックで作ったFCL(Fine Cermic Linear)モジュールでユニット化して,振動や熱の影響を防いでいました。
このドライバー段には,ハイインプットインピーダンスのMOS-FETが搭載されていました。パワー段は,PC720W
(PC120Wのトランジスターが6個)ものパワートランジスターがヒートシンクに直づけされ,熱や振動に対処した設
計になっていました。                                                        

B−910の各ステージは無酸素銅によるアースバスをはさんで完全左右対称構成になっており,そこに投入された
パーツも選び抜かれたものでした。信号系の配線にはOFC線材を採用,金メッキ削り出しのピンジャック,大型のSP
端子,大容量15Aの電源コードが採用されていました。かくして,27kgもの大型で35W出力の高級パワーアンプと
なっていました。実際のところ,構造からパーツまで採算を度外視して設計されていたため,このB−910はコスト割
れで赤字だったといわれています。                                                

京セラというブランドイメージが災いしたのか,ヒット作にはなりませんでしたが,その価格からは考えられないほどの
凝りに凝った高級なパワーアンプでした。その外観や中身を見ると採算割れも当然かなと思えたものでした。音の方
も,とても35Wとは思えない密度の濃いもので,大型スピーカーも不足なく駆動するドライブ力と,微少レベルがとて
も繊細で透明な一種清潔感のある音は印象的でした。                                    


 
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。

 




 
 

無共振思想をベースに,       
贅沢なほど基本を見つめた,  
低インピーダンススピーカーにも
対応する純A級アンプ。      

 
 
◎最も美しい音を求めた低負荷対応     
  純A級DCアンプ構成            
◎コアボリューム600VAの大容量カットレス
  電源トランスを採用した強力電源部   
◎音質追求から生まれた            
  大型ブロックコンデンサ          
◎回路に対応した独立4電源方式       
◎抜群の放熱効果をもたらす          
  超弩級ハニカムヒートシンク       
◎”無共振”へ。CCRベースシャーシと    
  FCLモジュール             
◎アンプ,スピーカーの損傷を防ぐ       
  自動復帰型プロテクション回路     
◎信号劣化を防止するOFC線材と      
  選び抜かれたパーツ群         

 
 
 

●B−910の仕様                                         


増幅方式 低負荷対応純A級
定格出力 35W+35W(8Ω,20Hz〜20kHz,THD0.01%) 
45W+45W(6Ω,20Hz〜20kHz,THD0.015%) 
60W+60W(4Ω,20Hz〜20kHz,THD0.02%)
入力感度/インピーダンス 1.5V/30kΩ
入力レベル調整 なし
スピーカー切替 なし
全高調波歪率 0.005%(8Ω,20Hz〜20kHz,定格出力−3dB) 
0.01%  (4Ω,20Hz〜20kHz,定格出力−3dB)
混変調歪率 0.005%(8Ω,20Hz〜20kHz,定格出力−3dB) 
0.01%  (4Ω,20Hz〜20kHz,定格出力−3dB)
周波数特性 DC〜200kHz+0,−3dB
SN比 120dB(IHF-A,入力ショート,定格出力時)
ダンピングファクター 100以上(8Ω,50Hz)
フィルタ− SUBSONIC(C-COUPLED)端子 
6Hz,−6dB/oct
消費電力 450W
電源 AC100V,50/60Hz
外形寸法 430W×210H×400Dmm
重量 27kg
※ 本ページに掲載したB−910の写真,仕様表等は1984年12月のKYOCERA
のカタログより抜粋したもので,京セラ株式会社に著作権があります。したがって,こ
れらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意く
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