NEC CD− 830DS
COMPACT DISC PLAYER ¥92,300
NECが1988年に発売したCDプレーヤー。優れたデジタル技術を持つNECは,当時CDプレーヤーを中心に
オーディオ分野での活躍が目立っていました。このCD−830DSは,デザインは至って平凡ですが,画期的な
技術を搭載していた隠れた名機といった存在で,その音も非凡なものがありました。CD−830DSの最大の特徴は,16fsT.F.C(Transversal Filtering Circuit)と称する世界初の16倍オー
バーサンプリング方式のデジタルフィルターを採用していたことです。この16fsT.F.Cは,8倍オーバーサンプ
リングのデジタルフィルターをチャンネル当たり2個搭載し,8倍オーバーサンプリングの信号を半波長ずらせて
重ね,2つの8倍オーバーサンプリングの信号の中間データを平均値補間によって作りだし,等価的に16倍オ
ーバーサンプリングの信号を得るという方式でした。これによって,16倍オーバーサンプリングに相当する精度
を確保し,サンプリング周波数を一気に16倍の705.6kHzにまでシフトアップすることでローバスフィルターの
負担を軽くすることができ,後段のアナログフィルターは,シンプルな2次のパッシブ型となり,通過帯域の拡大
と,素子歪位相歪の大幅な改善を実現していました。DAコンバーターは,4DAC B.S.S(Balanced Summing System)と称する方式を採用していました。これは
直線性の良さで選ばれたDACの中から,さらに小レベル時の精度で特別に選んだD/AコンバーターをLch,Rch
それぞれ2個使用したバランス型変換回路で,高精度なD/A変換を実現していました。また,ユニポーラ型DAC
をバランス動作させることで,カップリングコンデンサーを不要とし,アナログ部の信号経路のシンプル化も図られて
いました。トラッキングサーボには,光ピックアップからの信号をA/D変換し,デジタル処理でフィルタリングやコントロールを
行い,再びD/A変換して光ピックアップを動作させる「デジタルサーボ」を世界で初めて搭載していました。この「デ
ジタルサーボ」は,ディスクごとにサーボ回路の最適設定ができ,コントロールが安定し,ディスクのキズやほこりな
どによるエラーが大幅に低減されていました。デジタル化により,低消費電力も実現し,電源部の負担やアナログ
回路への影響も低減されました。光ピックアップには,I/V(電流/電流)アンプが内蔵され,出力信号を高めて出
力され,外乱雑音に強いピックアップ系を形成していました。「高剛性耐振構造シャーシ」と称して,耐振動特性を高めるために,メカニズムベースは高剛性化され,底板も,通常
の1mm厚の底板に,1.6mm厚の鉄板をプラスした二重構造にされていました。設置する脚も,高剛性で耐振動特
性に優れた焼結合金脚を装備していました。この焼結合金脚は,面接地と3点接地の選択が可能な構造になってい
ました。また,電源部は,アナログ,デジタル独立して,相互干渉を避けるため,それぞれに専用のトランスを搭載し
た2トランス構成で,極太OFC電源コードとともに,強力な電源部を形成していました。デジタル回路とアナログ回路
の間の信号伝送は,フォトカプラーにより行われ,電気的な干渉が遮断された「光伝送」を採用していました。
機能的には,「アブソリュートフェーズ(信号極性)切換スイッチ」を装備して,CDの位相管理ができるようになっていま
した。デジタル出力は,光と同軸の2系統を装備していました。このように,CD−830DSは,デジタル技術のNECならではの先進的な技術を満載した高性能なCDプレーヤーでし
た。オーディオにおけるNECというブランド力のためか,あまり大きな話題を呼ぶことはありませんでしたが,その音は
平凡な外観とは違った鮮度の高いものでした。私は,まさに隠れた名機のひとつだと思っています。そして,ここで開発
された技術が,CD−10へとつながっていきました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
デジタルテクノロジーを極めた
先進のCDプレーヤーCD-830DS。
もっと深く,もっと濃く,音楽とつきあいたい。
◎16fs Transversal Filtering Circuit |
◎4DAC Balanced Summing System |
◎I/V(電流/電流)アンプ内蔵,光ピックアップ |
◎デジタルサーボ回路 |
◎高剛性耐振構造シャーシ・焼結合金脚 |
◎A/D完全独立トランス電源 |
◎アブソリュートフェーズ(信号極性)切換スイッチ |
◎デジタルアウト(光/同軸)装備 |
◎無干渉思想を追求した光伝送 |
◎極太OFC電源コード |
●CD−830DSの仕様●
周波数特性 | 5Hz〜20kHz(±0.5dB) |
全高調波歪率 | 0.0018%以下 |
ダイナミックレンジ | 98dB以上 |
S/N比 | 105dB以上 |
チャンネルセパレーション | 103dB以上(1kHz) |
ワウ・フラッター | 測定限界値以下(水晶発振精度) |
出力レベル | アナログ:2.5Vrms デジタル:0.5Vp-p/75Ω(COAXIAL) |
電源 | AC100V 50/60Hz |
消費電力 | 25W |
外形寸法 | 430(W)×112(H)×328(D)mm |
重量 | 11.5kg |
※本ページに掲載したCD−830DSの写真・仕様表等は1989年4月の
NECのカタログより抜粋したもので,NECホームエレクトロニクス株式会
社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載,引
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