KT-3030の写真
KENWOOD KT−3030
DIRECT LINEAR LOOP DETECTOR
SUPER SYNTHESIZER FM STEREO TUNER ¥120,000
ケンウッドが1984年10月に発売した高級チューナー。それまで,KT−1010などの中級クラスの
チューナーにはシンセサイザー方式を採用していたものの,L−03T,KT−2200など上級機には
アナログ式のチューナーを展開していたケンウッドが発売した初の上級機クラスのシンセサイザーチ
ューナーでした。このころには,各社ともシンセサイザーチューナーの時代を迎え,中級機がほとん
どだった中に登場した本格的FM専用の高級チューナーでした。

FMチューナーで高い評価を得ていたケンウッドは,最後まで高級チューナーはバリコンを搭載した
アナログチューナーにこだわりを見せていました。それは,実使用時における音質で,シンセサイザ
ー方式チューナーがアナログ式チューナーに及ばない点があったからだといわれています。シンセサ
イザー式チューナーは,水晶精度を利用して,局部発振周波数と基準信号を位相比較して周波数を
保つため,チューニングずれは少なくなりましたが,バリコンの代わりに使われるようになったバリキ
ャップのチューニング電圧の揺れが,低い受信周波数になるほど受信周波数の揺れとして大きく表
れてSN比を劣化させることになり,結果として音質でアナログ式に及ばないということが起こってい
ました。

KT−3030では,12個のバリキャップを使ったパラレルツイン回路やMOS FETを用いた新型の
発振回路などで構成される「ダイレクト・リニアレセプション・サーキット」を搭載し,チューニング電圧
の揺れの影響を全受信周波数帯域にわたってリニアにし,どの周波数帯域でも高SN比が得られる
ようにしていました。この結果,シンセサイザーチューナーがアナログチューナーを超えるとケンウッド
は宣言していました。

MPX部は,新開発のDPD(ダイレクト・ピュア・デコーダー)MPX方式を採用していました。これは,
従来の38kHzの方形波を使ってスイッチングするステレオ復調と異なり,38kHz以外の成分を全く
持たない正弦波で検波出力と掛算する方式でした。38kHzの方形波を用いる方式では,どうしても
高調波成分が含まれているため,これを除くクリーンレセプション・フィルターなどのフィルターを用い
ていましたが,フィルターを通すことにより,どうしても位相まわりなどにより,高域のセパレーションを
劣化させることになります。DPD MPXでは,ローパスフィルターを必要としないため,この点が改善
されていたといわれています。

IF段には,先行した中級機KT−1010で完成されたDLLD(ダイレクト・リニアループ・ディテクター)
とDCC(ディストーション・コレクティング・サーキット)が搭載され,低歪み率を実現していました。
DLLDは,10.7MHzのIF信号をダイレクトにリニア化して閉ループ検波器で検波,さらに,閉ルー
プ内に,IFフィルターで発生する高調波歪みを低減する歪み補正回路を設けて高SN比の検波を行
おうというものでした。DCCは,このIF歪み補正回路のことを指します。IF段では,妨害波を除去す
るためには帯域の狭い急峻なIFフィルターを通す必要があります。しかし,それはオーディオ的には
歪みの原因となります。そこで,高選択度と音質の両立を図るために,急峻な特性のIFフィルターで
まず妨害波を取り除き,通過した信号から高調波歪み成分だけを抽出してキャンセルしようとする方
式がDCCでした。

KT-3030の内部

その他,強電界と弱電界に対応したRF段の切換,受信中の放送のモジュレーションレベルを表示し
てエアチェック(死語?)の際のレベル合わせの基準とする機能,遠距離受信時に対応したオートク
ワイティング・コントロール(オートブレンド)などの機能が搭載されていました。

KT−3030は,ケンウッドとしては初のシンセサイザー式の高級チューナで,実際優れた性能を誇
りました。そして,D−3300Tへと発展していきましたが,すでにFM放送はメインソースの座から降
りてゆくこととなり,FMエアチェックもあまり行われなくなり,このような高級チューナーの出番もなく
なっていきました。そして,現在では,FMのトリオ,ケンウッドも高級チューナーは出していません。
わずかにアキュフェーズが出しているくらいになってしまいました。これを時代の流れというのでしょ
うか
 
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。

 




 
 

性能のよさで放送局と直結します。
全受信帯域SN比99dB,      
ダイレクト・リニアレセプション・サーキット

 
◎シンセサイザーチューナーの弱点が
  明らかになった。これからの問題点は 
  低い周波数でのSN比改善。       
◎76MHzから90MHzまで,       
  あらゆるFM局を高SN比で受信できる 
  ダイレクト・リニアレセプション・サーキット
◎高セパレーション71dB
  クリーンレセプションフィルターレスの  
  DPD MPX                 
◎ひずみ率
  0.004%(モノ1kHz)      
  0.007%(ステレオ1kHz)
  DLLD&DCCのIF段           
◎あらゆる電界強度で高音質受信を    
  可能にしたRFセレクター

 
●KT−3030 SPECIFICATION●


●FM部●

受信周波数範囲 76MHz〜90MHz
アンテナインピーダンス 75Ω不平衡
感度 DISTANCE(75Ω) 
    DIRECT(75Ω)
10.8dBf(新IHF) 0.95μV(IHF) 
25.2dBf(新IHF) 5.0μV(IHF)
SN比50dB感度 DISTANCE(MONO) 
           DISTANCE(STEREO) 
           DIRECT(MONO) 
           DIRECT(STEREO)
16.2dBf(新IHF) 1.77μV(IHF) 
38.1dBf(新IHF) 22μV(IHF) 
31.2dBf(新IHF) 10μV(IHF) 
51.2dBf(新IHF) 100μV(IHF)
高調波ひずみ率 
   (アンテナ入力85dBf) 
    
         
WIDE    100Hz      0.006%(MONO)0.009%(STEREO) 
        1kHz       0.004%(MONO)0.007%(STEREO)      
        50Hz〜10kHz 0.009%(MONO)0.03%(STEREO) 
NARROW 100Hz      0.02%(MONO) 0.03%(STEREO) 
        1kHz       0.01%(MONO) 0.02%(STEREO) 
        50Hz〜10kHz 0.02%(MONO)  0.1%(STEREO)
SN比 
  (100%変調85dBf入力)
99dB(MONO) 91dB(STEREO)
キャプチャーレシオ 2.0dB(NARROW)
実効選択度(IHF) NARROW 100dB 
WIDE    70dB
ステレオセパレーション 
  
WIDE     1kHz        71dB 
         50Hz〜10kHz   60dB 
         15kHz       50dB 
NARROW  1kHz        60dB 
         50Hz〜10kHz   50dB
         15kHz       45dB
周波数特性 20Hz〜15kHz  ±0.5dB
イメージ妨害比   84MHz  100dB
IF妨害比      84MHz  110dB
スプリアス妨害比 84MHz  110dB
AM抑圧比 70dB
サブキャリア抑圧比  75dB
レックキャリブレーション 440Hz 50%変調
出力レベルおよび出力インピーダンス FM 1kHz 100%変調 固定出力   0.6V/2.3kΩ 
                   可変   1.2V/1kΩ
マルチパス出力 垂直出力   0.05V  10kΩ 
水平出力    0.6V  10kΩ

 

●電源部その他●

電源電圧・電源周波数 100V  50Hz/60Hz
定格消費電力(電気用品取締法に基づく表示) 16W
最大外形寸法 440(W)×88(H)×326.5(D)mm
重量 4.6kg
※本ページに掲載したKT-3030の写真,仕様表等は1985年11月のTRIO-KENWOOD
 のカタログより抜粋したもので,ケンウッド株式会社に著作権があります。したがって,これらの
 写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。
 

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