KENWOOD L−03T
NONSPECTRUM IF-SYSTEM
FM STEREO TUNER ¥120,000
1983年に,ケンウッドが発売した高級チューナー。同社がすでに発売していた最高級チューナL−02T
の技術を受け継ぎ,より一般的な形にしたものでした。時代はシンセサイザーチューナーが主流となり,
バリコンを作る技術者も姿を消しつつありました。結果として,このL−03Tは最後のバリコン使用のアナ
ログ式チューナーとなったのです。ケンウッドがバリコン式のチューナーに最後までこだわったのは,シンセサイザー式のチューナーが実使
用時のSN比においてバリコン式チューナーに劣る面があったためだといわれています。シンセサイザー
式チューナーでは,局部発振回路においてバリキャップに対するチューニング電圧の揺れが受信周波数
の揺れとなって表れ,特に低い受信周波数(80MHz以下)では顕著になり,SN比を大きく低下させる
ということで,1983年当時でも,音質の面でアナログ式チューナーが優位だったといわれています。L−03Tは,上級のL−02Tとよく似た設計がされていました。(もちろん価格が2倍以上も違いますから
投入された物量は全く同じではないでしょうが・・。)その第1は「ノンスペクトラムIFシステム」でした。チュ
ーナーはつまりラジオ受信機ですから,高選択度と音質の両立が重要になります。周波数変調であるFM
信号は,オーディオ信号の強弱や周波数成分により,つねに帯域幅の変化するスペクトルとして情報を伝
えていますが,このスペクトルがIFバンドパスフィルターを通過するときに音楽情報が大きく損なわれてい
ました。IFフィルターを緩やかな特性にしてスペクトルを通過させれば情報は損なわれませんが,今度は
妨害波を排除する能力が低下して音質が損なわれてしまいます。この「ノンスペクトラムIFシステム」は,
IFに入る信号からスペクトルを取り除きIFを通過させ,その後でもとの信号にスペクトルを戻して検波する
ことで低歪みと妨害排除能力を両立させた方式でした。L−03Tでは,KT−9900以来伝統の「サンプリングホールドMPX」が搭載されていました。これは,左
右のオーディオ信号に分離するMPX段において,従来の方形波に代わって立ち上がりの鋭いパルス波を
使用し,パルスのピークを取り出し(サンプリングし)L・R分離のためのスイッチング信号とするもので,ピー
クだけをサンプリングするために低下しがちな信号の平均レベルを上げるため,次のサンプリング信号がくる
までピーク信号をホールドしSN比を上げるというものでした。ピークだけを取り出すために,左右信号のもれ
が少なく,次段のローパスフィルターへの負担が少なく,高いセパレーションを誇りました。また,ローパスフィ
ルターには,磁気飽和歪みを追放したオペアンプによるアクティブローパスフィルターを搭載していました。そのほか,「ダイレクトコンバージョンシステム」ということで,大入力時には信号がRF部を通らずに直接ミキサ
ー部に入力されるように切り換えることができ,強電界地域や近接して大出力の局があるときなどにも対応した
設計でした。また,弱電界に対しては高感度を重視するポジションにも切り換えられました。また,IF部のバン
ドパスフィルターをアクティブフィルターで構成し,高選択度を実現していました。L−02Tと同様に「可変型FM
ミューティング」を搭載し,ミューティングレベルを変えられるようになっていました。当時ケンウッドがアンプを中心に広く展開していた「Σドライブ」を出力部に搭載し,ケーブルの影響を排除し,
プリアンプの入力端子までクオリティを落とさずに伝送しようとするものでした。また,L−02T同様に1点アー
ス設計として,各部のアースポイントの明確化を図り,音の濁りを抑えていました。また,L−02Tの全ステー
ジ独立電源ほどではありませんでしたが,電源による各部の干渉を防ぐ独立3電源としていました。このように,最後の高級アナログチューナーとして登場したL−03Tは各部にケンウッドのそれまでのノウハウ
が凝縮された設計で好評を呼びました,しかし,バリコンを作るメーカーも技術者も姿を消してゆき,さらに1年
後の1984年に,高級シンセサイザーチューナーKT−3030が登場し,L−03Tは後進に道を譲っていったの
でした。しかし,その高級感のある外観と,どっしりした音は今でも印象に残っている1台です。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
ひずみ率0.005%,SN比96dB。
多局化時代の高音質受信に
「FMのトリオ」の真価を発揮する,
L−03T。
◎0.005%の無ひずみ伝送を実現した
ノンスペクトラムIFシステム |
◎IMや大入力特性にすぐれた
ダイレクトコンバージョンシステム |
◎サンプリングホールドMPX |
◎Σドライブサーキット |
◎ステレオ受信時の選択度を向上する
クリーンレセプション・フィルター |
◎可変型FMミューティング |
◎L−02Tのノウハウによる
1点アース設計 |
●L−03Tの定格●
●FM部●
受信周波数範囲 | 76MHz〜90MHz |
アンテナインピーダンス | 75Ω不平衡 |
感度 DISTANCE(75Ω)
DIRECT(75Ω) |
10.3dBf(新IHF) 0.90μV(IHF)
23.3dBf(新IHF) 4.0μV(IHF) |
SN比50dB感度 DISTANCE(MONO)
DISTANCE(STEREO) DIRECT(MONO) DIRECT(STEREO) |
15.9dBf(新IHF) 1.7μV(IHF)
37.3dBf(新IHF) 20μV(IHF) 25.2dBf(新IHF) 5.0μV(IHF) 46.8dBf(新IHF) 60μV(IHF) |
高調波ひずみ率
(ANT・IN→Σ・OUT アンテナ入力85dBf) |
WIDE 100Hz 0.005%(MONO)0.02%(STEREO)
1kHz 0.005%(MONO)0.015%(STEREO) 15kHz 0.02%(MONO) 0.2%(STEREO) 50Hz〜10kHz 0.04%(MONO)0.09%(STEREO) NARROW 100Hz 0.007%(MONO)0.1%(STEREO) 1kHz 0.05%(MONO) 0.1%(STEREO) 15kHz 0.05%(MONO) 2.0%(STEREO) 50Hz〜10kHz 1.3%(MONO) 0.7%(STEREO) |
SN比
(ANT・IN→Σ・OUT 100%変調85dBf入力) |
96dB(MONO) 86dB(STEREO) |
キャプチャーレシオ | 0.8dB(WIDE) 2.0dB(NARROW) |
実効選択度(IHF) | NARROW 55dB(±300kHz)
WIDE 40dB |
ステレオセパレーション
(ANT・IN→Σ・OUT) |
WIDE 1kHz 60dB
50Hz〜10kHz 47dB 15kHz 40dB NARROW 1kHz 47dB 50Hz〜10kHz 35dB |
周波数特性(ANT・IN→Σ・OUT) | 15Hz〜15kHz ±0.5dB |
イメージ妨害比 84MHz NORMAL | 90dB |
IF妨害比 84MHz NORMAL | 120dB |
スプリアス妨害比 84MHz NORMAL | 110dB |
AM抑圧比 | 75dB |
サブキャリア抑圧比 | 75dB |
レックキャリブレーション | 440Hz 50%変調 |
出力レベルおよび出力インピーダンス | FM 1kHz 100%変調 固定出力 0.6V/2kΩ
Σ出力(可変) 1.2V/1Ω |
マルチパス出力 | 垂直出力 0.1V 10kΩ
水平出力 0.7V 10kΩ |
●電源部その他●
電源電圧・電源周波数 | 100V 50Hz/60Hz |
定格消費電力(電気用品取締法に基づく表示) | 11W |
最大外形寸法 | 440(W)×111(H)×337(D)mm |
重量 | 5.4kg |
※本ページに掲載したL−03Tの写真,仕様表等は1983年1月のTRIO-KENWOOD
のカタログより抜粋したもので,ケンウッド株式会社に著作権があります。したがって,こ
れらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意くだ
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