LS-990Aの写真
KENWOOD LS-990A
LINEAR RESPONSE SPEAKER SYSTEM 
            ¥59,800(1本)左右対称型
ケンウッドが1984年に発売した中クラスのブックシェルフ形スピーカーシステム。1980年代に入って
各社が¥59,800クラスに強力なスピーカシステムを次々と投入し,ハイCP機が続々登場しました。
このいわゆる「598戦争」の中の中心的機種の1台だったのが,このLS-990Aでした。その強力なユ
ニットから見て10万円近くしてもおかしくないといった感じの強力なモデルでした。

LS-990Aの最大の特徴は,ウーファーユニットに投入された「クラスAサスペンション」でした。ウーファー
のような大口径のユニットでは,音楽信号の入力に応じてコーンの振幅がかなり大きくなります。そのた
め,コーンのボイスコイルを支持して磁気回路のギャップの中で円滑な往復運動をさせることと,磁気回
路により送り出された振動眼を元の位置に引き戻すバネの役目をするサスペンションが設けられていま
す。しかし,バネの働きの性質上,小さな力では伸びにくく,ある程度の力がかかると急に伸びやすくなり,
更に大きな力になると,また伸びにくくなります。そのため,中出力時に比べて,小出力時,大出力時のリ
ニアリティが得にくく,歪みが発生するという現象がありました。「クラスAサスペンション」は,2枚のサス
ペンションを使用し,適度な機械バイアスをかけて一方が縮むともう一方が伸びるというプッシュプル動作
が行われるようにしたもので,互いに逆特性のリニアリティカーブを描く2つのサスペンションが互いの非
直線特性を打ち消して振動板のリニアな動きを得るという巧妙な方式でした。

クラスAサスペンション      LS-990Aの内部

この「クラスAサスペンション」に支えられるウーファーユニットは33cm口径の「HRカーボン・ウーファー」
が搭載されていました。それまでもケンウッドは,LS-1000等でトゥイーターやミッドレンジにカーボンを
使用したユニットを搭載していましたが,ウーファーでは初採用でした。この「HRカーボンユニット」は,エ
ポキシ樹脂バインドのHRカーボンとリブで強化したパルプ層で,適度な内部ロスを持つ高発泡樹脂層を
サンドイッチした3層構造をとり,高剛性化と同時に素材固有の鳴きを抑えるというものでした。駆動系に
は,総磁束88000マクスウェルの大型マグネットと4層ボイスコイルという強力なものが採用されていま
した。

トゥイーターには,2.5cm口径のイオンプレーティングチタン・ドームトゥイーターが搭載されていました。
「イオン・プレーティング」は,物質をイオン化し,プラズマ状態で加速して表面に蒸着させるという技術で,
スピーカーユニットには世界で初めて採用された技術でした。LS-990Aのトゥイーターでは,基材のチ
タンの表面に,窒化チタンを蒸着させた層を作り,高剛性で知られるチタンの6倍の硬度を持つ振動板
を作り上げていました。ボイスコイルには,軽量のアルミ線を用い,磁気回路にはストロンチウム系のフェ
ライトマグネットを使って,総磁束24000マクスウェルを実現していました。

ミッドレンジには,セミドーム型ユニットが搭載されていました。ボイスコイルボビンに直結したイオンプレー
ティングチタンドームのドーム部と,特殊処理を施した軽量コーンを使用したコーン部からなるセミドーム
型ユニットでした。磁気回路は,総磁束61000マクスウェルの高磁束密度設計で,ボイスコイルには,熱
硬化型癒着製アルミ線を使用していました。フレームには補強リブ付アルミダイキャストが使われていま
した。

エンクロージャーは20mm厚の針葉樹系高密度パーチクルボードを側板と裏板に使用していました。前
面バッフルは,18mm厚と12mm厚のパーチクルボードを貼り合わせた構造とし,30mm厚の1枚板を
用いるよりも高い強度を実現する特殊な構造となっていました。バスレフダクトも折り曲げて直接キャビ
ネット内の音を前に出さないようにし,ポートの長さも短くするなど工夫を凝らした設計で歯切れのいい
低音が得られるように設計されていました。ネットワークは,ウーファー,ミッドレンジ,トゥイーターそれ
ぞれに専用の基板を使い,3つの回路を分離して設置してクロストークを抑えた分離型ネットワークとし
ていました。そして,内部の線材やコイル巻線はすべて無酸素銅線が使われていました。

以上のように,LS-990Aは,強力なユニットを搭載した高性能な中型のブックシェルフ形スピーカーで
した。ユニットが大口径で強力なわりにエンクロージャーがやや小さめであるため,低音をしっかり出す
には少し使いこなしの工夫が必要でしたが,アンプの性能にもしっかり反応する実力機でした。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



Dレンジの広さを
小音量再生に生かすと,
デジタルソースに説得力が
加わった。

デジタルサウンドの
本音を引き出すには,
新しい技術が必要だ。
ケンウッドは
クラスAサスペンション。

 ◎力強い低域を実現する
  HRカーボン・ウーファー

 ◎エネルギー感に満ちた高音域を実現。
  世界初の軽量・高硬度振動板
  イオンプレーティング
  チタン・ドームツイーター

 ◎高能率・広指向特性の
  イオンプレーティング
  チタン・セミドームスコーカー

 ◎パワーリニアリティとダイナミック
  ディストーションで
音を磨いた
  リニアレスポンススピーカー

 ◎高剛性キャビネット
 ◎ネットワーククロストークを改善した
  分離型ネットワーク
 
 

●SPECIFICATIONS●


型式 33cm3ウェイスピーカーシステム
エンクロージャー バスリフレックス
使用スピーカー 33cmHRカーボン型ウーファー
10cmセミドーム型スコーカー
2.5cmハードドーム型ツイーター
再生帯域 28Hz〜45,000Hz
最大入力 190W
インピーダンス 6Ω
出力音圧レベル 92dB/W/m
クロスオーバー周波数 600Hz,5000Hz
最大外形寸法 355W×671H×321Dmm
重量 22kg(1本)



LS-990ADの写真
LS-990AD
LINEAR RESPONSE SPEAKER SYSTEM 
            ¥59,800(1本)左右対称型
LS-990A発売の翌年,LS-990ADにモデルチェンジされました。この時代の「598戦争」の激しさ
を物語っていたのかもしれません。ユーザにとってはメリットがあることだったわけですが・・。価格は
変わらず,各部に改良が加えられていました。

最大の改良点は,トゥイーターとミッドレンジのハードドームユニットでした。チタンの基材にダイヤモ
ンドの薄膜をイオンプレーティングした「プラズマダイヤモンド振動板」を完成し,新搭載していました。
また,クラスAサスペンションを,ウーファーのみならず,ミッドレンジ,トゥイーターユニットにも採用し,
リニアリティを改善していました。特に,トゥイーターには「ダイレクトインナー・クラスAサスペンション」
という,ダイヤトーンのDUDにも似たドーム振動板からエッジまでを一体成形し,ボイスコイルまでも
一体化した構造を採用していました。さらに,ウーファーも「ニューHRカーボンウーファー」となり,カー
ボン部のバインダーを3次元架橋構造としていっそう剛性を高めていました。ネットワークにおいては,
新たにネットワーク回路のアースとスピーカーユニットへのアースを独立させ相互干渉を抑えた「クリ
ーンアースライン」を採用した「ニュー分離型ネットワーク」へと改良されていました。
 

CDを聴く。ダイヤモンドで聴く。

正確なピストン運動が音楽の情を
ビビッドに伝えます。

プラズマダイヤモンド振動板。

デジタルソースの広いダイナミックレンジを
静寂の深さに生かします。
クラスAサスペンション。

●SPECIFICATIONS●


型式 33cm3ウェイスピーカーシステム
エンクロージャー バスリフレックス
使用スピーカー 33cmニューHRカーボン型ウーファー
10cmプラズマダイヤモンド・セミドーム型スコーカー
2.5cmプラズマダイヤモンド・ハードドーム型ツイーター
再生周波数特性 28Hz〜47,000Hz
最大入力 200W(EIAJ)
インピーダンス 6Ω
出力音圧レベル 92dB/W/m
クロスオーバー周波数 600Hz,5000Hz
最大外形寸法 355W×671H×321Dmm
重量 22kg(1本)


 
LS-990Dの写真
KENWOOD LS-990D
PLASMA DIAMOND SPEAKER SYSTEM
            ¥59,800(1本)左右対称型
LS-990AD発売の翌年の1986年には,さらにモデルチェンジが行われ,LS-990Dとなりました。
「598戦争」の中,さらに細かな練り上げや改良が行われていました。

最大の改良点は,ミッドレンジユニットでした。ミッドレンジユニットにもトゥイーター同様,ボイスコイ
ルボビンとドーム部を一体化した構造を採用し,これを「DSD(ダイレクト・スーパー・ドーム)スコー
カー」と名付けていました。また,フロントバッフルを新たにラウンドバッフルとして音の回折効果を改
善していました。さらに,ネットワークをスプリングを介してキャビネットに取り付けてネットワークの
振動による悪影響を排除した「フローティング・ネットワーク」を新たに採用していました。
 

リアルデジタルに向けて,
新しい鼓動。

高度なデジタルソースを
高純度で再生,

際立つ音楽表現力。
デジタルソースの神髄を伝える,
プラズマダイヤモンドの音。
 
 


●SPECIFICATIONS●


型式 33cm3ウェイスピーカーシステム
エンクロージャー バスリフレックス
使用スピーカー 33cmニューHRカーボン型ウーファー
10cmプラズマダイヤモンド・セミドーム型スコーカー
2.5cmプラズマダイヤモンド・ハードドーム型ツイーター
再生周波数特性 28Hz〜47,000Hz
最大入力 200W(EIAJ)
インピーダンス 6Ω
出力音圧レベル 92dB/W/m
クロスオーバー周波数 600Hz,5000Hz
最大外形寸法 382W×671H×345Dmm
重量 23.5kg(1本)


 
LS-990HGの写真
KENWOOD LS-990HG
PLASMA DIAMOND SPEAKER SYSTEM
              ¥59,800(1本)左右対称型
LS-990Dの翌年の1987年に発売されたのがLS-990HGでした。ユニット,エンクロージャーな
ど各部が改良され,LS-990の歴代の中で最強のモデルとなりました。そして,このLS-990HGが
LS-990系列の最終モデルとなりました。

最大の改良点は,ウーファーユニットとミッドレンジユニットの振動板でした。従来からカーボンが使
われていましたが,LS-990HGでは,「3000フィラカーボンセラミクス」が採用されていました。こ
れは,従来の1000フィラカーボンが1000本のカーボン繊維の糸を織っていたのに対し,3000本
のカーボン繊維を1本の糸に束ねて平織りして従来の3倍の強度を持たせたもので,さらに,この繊
維にセラミクス強化粉体をからませてカーボン独特の鳴きを抑えたものでした。この強力な振動板を
得て,ミッドレンジは,コーン型とドーム型を複合したセミドーム型からコーン型に変更になっていまし
た。トゥイーターユニットは,従来のプラズマダイヤモンド振動板を更に改良した「クリスタルプラズマ
ダイヤモンド振動板」となっていました。これは,ダイヤモンド被膜をイオンプレーティングする技術を
改良し,より常温でプラズマダイヤモンドの被膜ができ,基材に対する密着力が高まり安定度の高い
振動板となっているということでした。

強化されたユニットに対応して,エンクロージャーも強化され,フロントバッフルは40mm厚に強化さ
れ,エンクロージャー自体も大型化され,スピーカー全体の重量も31kgと大幅に増加していました。
ネットワークのパーツや配線材も見直され,極太無酸素銅線,大型ケイ素鋼材を使用した大型コイ
ル,大型電解コンデンサーなどが新たに搭載されていました。スピーカー端子も極太ケーブルが使
用可能な大型のものが搭載されていました。

以上のように,LS-990Aから始まったこのシリーズは,年を追うごとに各部が強化,改良され,価
格はそのままで最後は10万円クラスといってもおかしくないほどの中身へと進化していました。セッ
ティングやアンプを詰めていけばそれに応えてくれる性能を持つ,使いこなしがいのある598スピー
カーだったと思います。今ではとうていこの価格でこれほどのスピーカーは作れないことでしょう。
 

進化を秘めたフォルムから,
かつてない音が聴こえてきた。

デジタルソースの実在感が
さらに高まった。
クリスタルプラズマダイヤモンド,
高密度の音。
 

●SPECIFICATIONS●


型式 33cm3ウェイスピーカーシステム
エンクロージャー バスリフリックス
使用スピーカー 33cm3000フィラカーボンセラミクスコーン型ウーファー
12cm300フィラカーボンセラミクスコーン型スコーカー
2.5cmプラズマダイヤモンド・ハードドーム型ツイーター
再生周波数特性 28Hz〜47,000Hz
最大入力 200W(EIAJ)
インピーダンス 6Ω
出力音圧レベル 92dB/W/m
クロスオーバー周波数 500Hz,5000Hz
最大外形寸法 400W×700H×359Dmm
重量 31kg(1本)



 
※本ページに掲載したLS-990A,LS-990AD,LS-990D,
LS-990HG
の写真・仕様表等は1984年6月,1985年9月,
1986年10月,1988年
1月のKENWODのカタログより抜粋
したもので,ケンウッド株式会社に著作
権があります。したがっ
て,これらの写真等を無断で転載,引用等をすること
は法律で
禁じられていますので,ご注意ください。
 

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